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おまけ エリックの家庭教師



「その通りですわん、殿下。とても優秀でいらっしゃいますのね。将来が楽しみですわん」


 うきうきと自分を評価をするウィリスに、エリックは胡乱な目を向けた。


「お前、その喋り方、直さないのか?」


「はいん?」


 はいん?って何だよ。

 エリックは、はあと息を吐いた。


「奥方との復縁は無事に済みそうなんだろう?ならその不気味な口調はもう改めてもいいんじゃないか?」


「あたしのダリアちゃんはこのままでいいって、うふ」


 そう言ってくねるウィリスに、エリックは胸焼けしそうな胸を押さえた。


「それにあたしモテるしぃ。またダリアちゃんに勘違いされて出て行かれでもしたらぁ、立ち直れなくなっちゃうー」


「……そうか」


 白目を剥きそうな自分の意識を叱咤し、エリックは気を取り直した。


「幸せそうで何よりだ」


 その言葉にウィリスは片眉を上げた。


「殿下……」


 エリックが自分の弟子の一人に恋をした事は知っていた。

 残念ながらあの弟子は、人からの好意どころか自分の気持ちにも鈍感すぎて、全く気付いていなかったが。


「僕は失恋してばかりだ」


 ぼやくエリックにウィリスは吹き出した。


「な、何がおかしい!」


「いえ、失礼。殿下の恋はお可愛らしいと思いまして」


 そんな事は無い。自分だって多少の欲はある。

 ぶすりとむくれるエリックにウィリスは、すみませんと苦笑した。


「殿下は人からの好意に敏感過ぎるのですよ」


 それは弟子と真逆な感性。


「そしてそれを苦手とされている」


 諭す様に話すウィリスにエリックは困惑を宿した瞳を向けた。


「だから自分に好意を持たない女性に惹かれ、玉砕してしまう。それじゃあ失恋確定な恋しかできませんよ」


 ウィリスは苦笑して、目の前のブロックを一つ積み上げた。

 古文で書かれたそれを積み重ね、一つの魔術を完成させる遊戯を兼ねた勉強法だ。エリックはこういう遊びの方が集中出来た。子どもっぽいとは思うが、教えてくれたのがリヴィアなので恥ずかしいとは思わなかった。


「……でも、リヴィアが僕を好きになってくれたら、きっと嬉しかった……」


 エリックも一つ積み上げる。


「どうですかね。賢い殿下ならそれが茨の道だと分かっている筈ですよ。あの子は伯爵令嬢で、将来国母になる器ではありません。あなたより六つ年上です。きっと家臣たちは側室を求めたでしょう。

 どんなに好きでも貴方は次期皇帝。国と民を第一に考えなければなりません。妻の身分が低く、年配という理由から、子を成せるか知れないと揶揄される女性を望むなら、そんな覚悟も必要だとご存知でしょう」


 そう言ってウィリスが積んだブロックが静かに光り出した。陣を構成すべく光輪を放つ。


「私の勝ちですね。殿下」


 ウィリスがそう言って口角を上げるとエリックはポロポロと涙を零した。


「分かってるよ……」


 でも好きだったんだ。なのにこの気持ちは、自分で掛けた暗示が見せた、ただのまやかしだったのかなあ。

 袖で涙を拭い、歯を食いしばる。

 気を抜けば嗚咽が溢れそうになるからだ。


「そうですか、殿下はやはり優秀でいらっしゃいますねえ。つくづく将来が楽しみです」


 そう言って頭を撫でるウィリスの手は煩わしくも温かくて。


「きっと殿下にも素敵な人が現れますから大丈夫ですよ。その時、その人に恋をして貰えるように、良い男になりましょうね」


 エリックは素直に、こくりと頷いた。

 苦いこの想いが、いつか優しい気持ちに昇華されますように。



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