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89. 呼びかける人



 皇族が立ち並ぶ列から、皇帝が数歩進み出る。

 威厳に満ちたその様を会場が息を詰め、一心に見守った。


「皆、今宵は良く集まってくれた」


 落ち着いた心地よく響く声に会場の空気が和らぐ。


「まずは詫びを。我ら皇族の失態の数々、皆に多くの心配を掛けたこと、皇帝として心よりの謝罪をしたい」


 そう言い壇上より頭を下げる皇帝に会場内に動揺が走る。


 事が事だけに必要な事かもしれないが、この国のトップが頭を下げる姿に、やはり戸惑いを隠せない者が多い。

 そもそも現皇帝の即位前の話だったものだ。

 ただ全く知らなかったと言われれば、疑わざるを得ないところではある。


 少なくとも、今回断罪された弟との距離感や、前皇帝の譲位の時期を考えれば、彼がそのあらましを快く考えていなかったと思うところはあるのだが。


「しかし、我々はその膿を出し切ったと明言しよう。そしてこれより古き者が起こした不穏な風を断ち切り、新風をもってこの国を打ち立ててゆく事となる」


 皇帝のその言葉に会場がどよめいた。皇太子が皇帝の横へと並び立つ。


「老輩は去ろう。そしてここに我が息子アスランを次期皇帝とする事を宣言する!」


 おおおと、会場に地鳴りのように声がうねる。現皇帝の潔い決断と、新たな皇帝への期待が弾け、音となって会場に響き渡る。


「次期皇帝の(かたわら)には、今回自らの血脈に(やいば)を突き立て、正義を全うした実績を持つアーサーもおる。皆是非この若い二人を盛り立て、ミククラーネ皇国の未来に貢献していって欲しい」


 それぞれの皇族の名を呼ぶ声が轟き、会場は大いに沸いた。


 ◇ ◇ ◇


 舞踏会の開演にあたるファーストダンスは、皇太子が皇太子妃と踊った。

 妃殿下は第三子を懐妊中の為、曲はスローテンポで短めのものであったが、美しく洗練された動きに、会場中が憧れの視線を送った。


 二人のダンスが始まる頃、父は用事があると離れて行ってしまった為、リヴィアは壁の花よろしく端へと向かった。


 会場を見回せば皆一様に興奮に顔を輝かせ、社交を楽しんでいる。

 音楽に合わせて舞う大輪の花たちを眺めながら、今日のような日なら話が弾みやすく、婚約者を見つけやすいのだろうなとぼんやりと思った。


 アーサーに会ってみたいと出席した舞踏会だったが、あちらはそうでもないどころか迷惑なようだ。

 そしてどう贔屓目に見ても不機嫌で、取り囲む令嬢たちに敬意を払いたい位だ。


 あんな人だったかなとリヴィアは首を傾げる。

 従姉のサララに以前聞いた話では、皇族は皆隙の無い笑顔の素敵な方々だ。と言ってたような気がするのだが……


 サララの目が悪いのか、アーサーの機嫌が余程悪いのか……


 いずれにしてもあの人垣を乗り越え、アーサーと話をするなど不可能だろう。

 婚約者特権が使えるのかは分からないが、どうせ最後となるのなら、別の日にわがままを言い、時間を作って貰った方が良いのかもしれない。


 リヴィアはふっと息を吐いた。

 本当は少しだけ期待していたから。


「リヴィア嬢」


 顔を俯けていると、低い声が背後から掛けられた。

 振り向けば黒髪赤目の鋭利な美男子が歩いてくる。

 勝色(かちいろ)の軍服の上から紅玉の塔所属の証であるケープを纏っている。思わず似合うなあと顔が緩んだ。


「こんばんは、ヒューバード様」


「こんばんは、今宵は一段とお美しい」


 儀礼的に手の甲に唇を落とす美男子を見上げ、リヴィアはにこりと笑った。


「あなたもとても素敵だわ、ヒュー」


 リヴィアの言葉にヒューバードは優しげに目を細めた。



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