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84. 囚われる



 ライラ・フェルジェスが自分に熱を寄せている事が分かった時、自分はそろそろ死ぬのでは無いかと考えた。


 デヴィッドの噂の数々は、公爵家の力で表向き掻き消してきた。だが次期皇子妃候補ともなればそうもいくまい。公爵家に切り捨てられて社会的に抹消されるか、或いは物理的にそうされるのか。


 そんな事を考えながら擦り寄ってくるライラに、紳士の仮面を貼り付けて接し様子を見た。


 今までの女たちが喜ぶような話を適当に振れば、彼女も喜び益々デヴィッドにのめり込んだ。彼女もやはり他の女たちと同じだった。

 こうしてデヴィッドにのぼせあがっていても、頭の片隅には本命の男が別にいる。

 本人に自覚があるかまではわからなかったが、自分は遊びだと言われながら枝垂れかかられるのは、非常に不愉快だった。

 

 ◇ ◇ ◇


 ある日ライラも自分に全てを捧げたいと訴えてきた。女たちの常套句だ。だからデヴィッドの全て寄越せと。


 彼女たちはそう言って、デヴィッドから一方的に心を抉り取り、嬉しそうに掲げてみせる。

 そうして用済みになったら床に叩きつけ、足で踏みにじってゆく事も何度も味わってきた。


 何故こんな事をしているのか。続けるのか。やめたいと、もう嫌だと抵抗する心はきっと子どもの頃に失ってしまったのだろう。

 諦めたような顔であの頃の自分が嗤う。

 無駄な抵抗をするより、受け入れ自分が傷つく方が楽だ、と。


 けれどその時ライラが口にした何気ない一言がデヴィッドを捉えた。


『わたくしは死んでもいいわ』


 死


 命を賭けると言ったその言葉に、デヴィッドの溶けかけた意識がふと蘇る。


「一緒に死んでくれますか?」


 気づけばそんな言葉を口にしていた。

 ライラの弧を描く口元を見つめ、デヴィッドはライラに手を伸ばした。


 誰も口にしなかったその言葉を吐いたのはこの女。


 彼女にとってそれがこの場での口先だけのものだとしても、デヴィッドにとって貰った言葉も全て自分のものだ。

 女性にとってその身を捧げる事が、どれ程の事なのかは、貰った数が多すぎて既によくわからない。

 けれど命は一つしかない。そこには生まれも性別も関係ない。


 言った言葉に責任を取ってもらおう。

 初めて覚えた歓喜と欲望。

 それは愛情なんて可愛らしいものではきっとないけれど、それに似た児戯ならば真似てみよう。彼女が望むような戯れに興じるのも悪くない。


 きつく抱きすくめれば、彼女が腕の中で歓喜するのが伝わってきた。


 ◇ ◇ ◇


 ゼフラーダ辺境伯にライラを迎えに来てみれば、彼女は既に壊れかけていた。

 それを見て口角を上げるデヴィッドに、普段無表情のフェリクスも流石に引き攣っていた。


 ◇ ◇ ◇


 自分と結婚する事が決まった時、彼女は必死にアーサー殿下と()りを戻そうと立ち回っていた。

 今までの女性たちと同じように、バレれば元の男を優先し、デヴィッドには目もくれない。


 だが今回に関してはデヴィッドの方が相手を逃すつもりがない。

 けれどデヴィッドはライラの好きにさせておいた。最後に一緒にいれば別にいいのだ。


 現実に打ちのめされて呆然とするライラには、何も為す術は無さそうだった。

 そして特に問題なくこのまま領地に引き籠ろうとしていたデヴィッドに立ちはだかったのは母親。


 まだ自分に執着していたのかと呆れたが、ライラは良い意味で鈍感で、息子を取られる母親位にしか認識していなかったようだ。

 デヴィッドには、恋人を盗られた女の目にしか見えなかったが。


 母がライラを追い出そうとしていたのは知っていた。それもまあいいかとデヴィッドは見過ごしていた。

 ライラには他に帰る場所などないのだ。それでも彼女は飛び出して行くだろうが、行く当てなど無いと思い知るまで放っておいても良いかと判断する。

 いない間に母親を処分しよう。


 母からの怨嗟を捨て去り、自分はそれをライラに向けているのだから、血を分けた上に似た者親子だったのだと苦笑する。


 けれどあの女は、こんな辺境の領地に一人で乗り込んできて、何が出来るつもりでいたのだろう。


 母に若い使用人を与えたらあっさり籠絡されていた。こんな場所での不貞など誰も咎められないと、高を括ったのだろう。

 使用人にそのまま母を連れ出させ、もう戻らないよう手筈した。

 彼は商人だった。何とか売れると請け負ったので、デヴィッドが売った。それで終わりにした。


 ◇ ◇ ◇


「ライラ……」


 ライラはふわふわと焦点の定まらない眼差しで、フェリクスに支えられて立っていた。

 その手をゆっくりと引き、腕の中に囲うと、僅かに身体が反応した。口を耳に寄せてそっと囁く。


「帰ろうライラ。イスタヴェン子爵領には君の母親は入れないから、何も心配しなくて良い」


 ライラの身体が強張るのがわかる。フェリクスは眉を顰めた。


「デ、デヴィッド。わたくし、わたくし……」


 何かに囚われたままの眼差しがデヴィッドに向けられる。

 もう意味は無いかもしれないが、デヴィッドはふわりとライラに微笑みかけた。


「大丈夫だ。母上にも領地から出て行って貰ったし、これからは二人でゆっくり暮らそう。外の世界は繊細な君には辛い事ばかりだろう。私が守るから何も心配しなくていいんだ。私たちは夫婦だろう」


「あ、あ……デヴィッド、デヴィッドっ!」


 腕にしがみつくライラをしっかりと抱き留め、デヴィッドは嗤った。


 フェリクスが吐き気を堪えるような顔をしていたが気にならない。やっと欲しいものが手に入ったのだから。



映画 スリーピー・ホロウ

ヒロインを害していた人物が、呪い返しを受けて、自ら呼び出した悪魔の騎士に地獄に連れ去られてしまうシーン。

あっと言う間の出来事で、寒気がしたのは全てが終わった後だったって言う衝撃作。


この話書いてる時に何となく思い出しました (※うろ覚え)


ミステリーホラー作品だけど面白いです。

主演ジョニーデップ。イケメン( ´∀`)

彼にはまってた時に観まくっていた作品の一つ。


ちょっと早いけどお正月の一本にお勧めの一作。


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