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71. 訪問者



 屋敷の中は相変わらず慌しい。使用人や私兵の様子は時間が経つに連れて益々騒がしくなる一方で、ライラは辟易としていた。


 ゼフラーダの結界陣が壊れてしまったのだから仕方の無い事かもしれないけれど、自分には関係ない。それがどれ程自国にとって重要なものか理解しているが、アーサーが待機を命じたというのだから、大人しく待っていればいいだけの話だ。


 しかし与えられた客間でお茶を飲んでいても、気分はそわそわと落ち着かない。メイドに命じて本を持って来させたが集中できない。

 気晴らしに庭園を散策したところで、鬱陶しいものが目につくだけだろう。ライラは亀の歩みを進める置き時計を咎めるように睨みつけた。


 使用人の数が足りないらしく、部屋に張り付く者は誰もいない。本来ならライラは侍女を伴ってしかるべきだが、イスタヴェン子爵領を飛び出した時、無理矢理連れてきた従者は、アーサーと会うのに不都合だったので領に返した。


 従者の一人二人皇都でいくらでも都合がつくだろうと思っていたのもある。

 だがここに来て自分が使える従者がいない不自由を感じたのは予想外だけれど。


 ふと皇都での事を思い出す。

 父が会ってくれなくなったのだ。

 あれ程ライラを溺愛していた父は、どうやらデヴィッドが気に入らなかったらしい。


 婚約を決めてからなんとなく、よそよそしくなってしまったままだ。当時は父親にもマリッジブルーなんてあるのだろうかと首を傾げたが、嫌だったなら兄に言いくるめられていないで、何とかアーサーとの縁を繋ぎ止めてくれたら良かったのに。


 まあいいかと一息つく。

 先程のメイドも辺境伯夫人が厳しく躾けてきたようで、よく出来た所作だったが、ライラを歓迎していない空気は読み取れた。皇都でもよくあった事だ。特にこちらに覚えが無くても一方的に嫌われるという事は。


 メイドに嫌われたところで痛くも痒くも無いが、存外不便に思うのは確かか。結局客人に不快な思いをさせる辺境伯夫人の教育など、その程度のものだったのだ。


 アーサー、と口の中で呟く。

 リヴィアを婚約者にしたのは気に入らなかったが、それこそ彼が自分との復縁を願っている事を彷彿とさせた。


 きっと周りの人間から、婚約者を選ぶように強要されたに違いない。それであの異物のような令嬢ととち狂ったように婚約をし、ほとぼりが冷めたら婚約破棄と皇位返還を行い、ライラを迎えに来るつもりだったのだろう。


 何より辺境伯の落胤とリヴィアを結びつけようとしていると聞けば、この憶測は間違いない。昨夜の拒絶は何かの間違いで、アーサーはまだ自分を愛している。

 ライラは恥じらうようにはにかんだ。


 ◇ ◇ ◇


 テーブルに置かれた小さな小瓶を指先でつつく。

 可愛らしい形で、香水瓶の収集が趣味の令嬢ならば、興味を惹かれるような色形のそれ。


 ライラは口元に弧を描いた。

 アーサーはまだ経験が無いから知らないだけだ。

 そもそもライラがデヴィッドにのめり込んだのは、アーサーが構ってくれなくて寂しかったからなのに。だからお互い様なのだ。


 思いがけない快楽を知れば、行為に耽る楽しさをアーサーだって分かる筈だ。

 自分が教えてあげれば良い。そうすればアーサーと今度こそ分かり合える。頭の硬い夫をほぐしてあげるのも妻の役目だ。


 ドレスに隠して持って来ておいて良かったと、媚薬の入った小瓶を愛でるように撫でた。


 ◇ ◇ ◇


 将来的に結婚するとしても、既に自分は既婚なのだし、最初は愛妾でも構わない。一般的に正妻より愛妾の方が寵の深いものだ。今からライラを側に置けば、周囲もやはりと納得せざるを得ないだろう。


 何よりそれまでライラに触れられ無いのは、アーサーだって可哀想だ。


 良い考えに気分が浮上し、なんだか歩きたくなって来た。

 やはり少しだけ散策をしてこよう。もしかしたらアーサーも帰ってくるかもしれない。二人の今後を話さなくては。


 うきうきとした気分で、鏡を見ながら身だしなみをチェックしていると、かちゃりと音がして外側から扉が開いた。



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