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62. 不満



 アーサーは戻らなかった。リサベナへ行った。と、戻ってきたフェリクスから伝えられた。

 応接室での妙なひと騒動の後、リヴィアは一度与えられた客間に引っ込んだ。そこで爆発するシェリルを宥めすかしながら自分の考えをまとめていた。


 フェリクスが訪ねて来たのはそんな頃になる。


「何故皆揃っていないのですか。伝言が面倒でした」


 率直なフェリクスのぼやきにリヴィアは苦笑した。


「申し訳ありません。どうにも居心地が悪くて」


「それは分かりますが……」


 フェリクスは無表情ながらも静かに同意した。そんなフェリクスにリヴィアは口元を引き結び背筋を伸ばした。


「フェルジェス卿。わたくし教会に行きたいです」


「お断りします。あそこは遊び場ではありません」


 けんもほろろとはこの事か。


「分かっております!ですが、わたくしにも出来る事があるでしょう?魔術持ちはこの地には少ない筈で、わたくしはその為に来たのですから」


「いいえ。あなたが来たのは殿下の婚約者としてのみです。それ以上は何も。睨んでも駄目です。そもそもあなたはゼフラーダの結界陣の補強人員として数えられておりません」


 自分が結界陣について何の役割も担っていなかった事にリヴィアは瞠目した。


「自惚れないで下さい」


 ふっと嘲るように口元を歪めフェリクスはさっさとドアへと足を向けた。

 立ち去るフェリクスの影を睨みつけながらセドに頼んで教会に忍び込めないか思案する。


「セド院長はアーサー殿下に同行していて不在です」


 思わずぎょっと顔を上げると半開きのドアの前でフェリクスが顔をこちらに向けている。


「……大人しく待っているように」


「?」


「殿下からの伝言です。あなただけに言伝られたので。……これだけはこの状況の方が伝え易いですね」


「……そうですか。確かに受けとりましたわ」


「承って下さい。では」


 こちらがはぐらかした応答をしっかりと訂正してから、フェリクスはぱたりとドアを閉めて立ち去った。


 ヒューバードの事は聞けなかった。

 アーサーに話したのならこの侍従も聞いているかもしれないが、話したところで解決する事は無いだろう。忙しい中フェリクスを煩わせるだけだ。


 それにしても。

 リヴィアは口を尖らせる。

 アーサーが皇都からこちらに向かっていた時には結界陣は崩壊していなかった。あくまでも目的は補強だった筈だ。


 つまり当初と事情が違っているのだからお呼びがなかったリヴィアにも声が掛かってもおかしくないのでは。

 優秀で勤勉でもあると自負するリヴィアには理解出来ない。


 決して自分の興味を優先している訳ではない。多分決して……


 なのに何故自分はここに来て役立たずのように部屋に引き篭もるだけしか出来ないのか。

 ついでに言うと、ライラのような淑女なら分かるが、リヴィアは型破りに生きている、ただの女なら丁重な扱いは無用に思う。


 思わずイリスに言われた、都合の良い同行者という言葉が頭を過ぎる。アーサーにとっての自分の価値って何なのだろう。


 ふと窓の外に目を向けるとバタバタと兵士が慌ただしく行き交うのが見える。フェリクスが戻ってから辺境伯領の人員を動かしているらしく、周囲が騒がしくなってきた。


 動揺に激しく目を泳がせて、或いは項垂れるように頭を抱える辺境伯が頭を過ぎる。彼は今まで何もしていなかった。


 なのに最後に呟くように放った一言は思慮深いもののように思えて、リヴィアは何故か狐につままれたような心持ちになったのだった。



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