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49. つまずく



 12歳になり、ライラは父に侍女頭の教育を止めてもらうよう頼んだ。デビュタントが成功した為だ。

 アーサーの隣に並んだライラには、周りから感嘆の声が漏れた。そうしてアーサーと二人で初めての社交を終え、ライラは充実した達成感に満ちていた。


 容姿も中身も完璧な淑女として認められた。もう何も心配いらないだろう。


 侍女頭は教育係終了の通告に不満そうではあったが、そろそろ屋敷勤めが厳しい年齢となっていたと、そのまま屋敷を辞去し、息子夫婦と暮らすために領地へと帰って行った。


 ライラはやっと自由になったとせいせいしたが、義娘となる女性はこれから大変だろうと、どうでも良い事を思い浮かべ、つい笑ってしまった。


 代わりに自分の近くには従順な侍女たちを侍らせた。これからは自分が周りを導いていくのだ。ライラはアーサーと共に社交会の羨望を集める自分たちを思い浮かべ、うっとりと思いを馳せた。


 それなのにアーサーは今度は軍に入隊してしまった。


 そして後ろ盾(アーサー)のいない12歳の小娘に社交界は優しくなかった。

 その殆どが親世代では無く第二皇子妃を狙っている娘たちで、彼女達のそれは、侍女頭からの躾けによる厳しさとは違う、嫌らしいものだった。


 お茶を掛けられたりドレスを踏まれ、転ばされては笑い者にされた。


 婚約者で無いのに明らかに優遇されていたライラは、彼女たちから見れば目障りでしか無かったのだろう。

 父と一緒に参加している社交でも、見えない所で嫌がらせは続いた。


 どうして自分がこんな目にと、悔しい思いをしながら耐えていた時に、元侍女頭からライラの身を案じる手紙が届き、ライラは怒りに震えた。


 自分は皇子妃になるのだ。こんな卑しい者たちに見下されるなんて許される事ではない。これくらい一人で出来なくてどうする。


 ライラは年上の既婚女性なら寛容に接してくれるかもしれないと狙いを定め、少しずつ人脈を広げた。そしてその中で自分の容姿が男性から非常に受けが良い事を知った。(はした)ないと言われない程度に彼らも利用させて貰う事にする。

 

 どうやら女性は見目の良い男性から嫌われる事が怖いらしい。まだ未成熟ながらも愛らしい容姿を活かし、彼らから可愛がられる事でライラは敵対する令嬢たちを牽制していった。


 ◇ ◇ ◇


 そうして三年が経った頃、以前自分をいじめていた令嬢たちとライラはすっかり立場が逆転した。

 夜会の隅で縮こまっている位なら領地にでも引っ込めば良いのだ。ライラはふんと鼻を鳴らす。


 既に適齢期を迎えた彼女たちに未だに縁談話が来ないのも、次期皇子妃である自分への浅慮の報いだ。

 ライラはこうして社交を通し、自らの正義を打ち立てて行った。


 そんな中ある夜会で出会ったのがデヴィッドだった。

 ライラがマナーがなっていないと、ある侯爵令嬢に注意をしている最中だった。


 愛人との間に生まれた庶子のくせに一端(いっぱし)の令嬢気取りという輩だ。

 頭も悪いようで話が全く通じない。ユーリアとかいう名前でアスラン皇太子の侍従にあり得ないくらい付き纏っていた。


 彼は誰より見目麗しいと評判の男性だ。それ故にまともな令嬢であれば声が掛けられないものなのだが。平民の感覚だと違うのだろうか。


 当のアスランは社交が忙しいらしく侍従の面倒まで見れていない様子である。仕方ないというか当然だろう。

 ライラはため息を一つ吐きデヴィッドに目配せをした。この男も適当な理由をつけてさっさと立ち去ればいいのに。だが意に反してデヴィッドはライラにフワリと微笑んだ。


「美しいお嬢さん、僕と踊って頂けませんか?」


 ライラは一瞬目を丸くしたが、まあそういうやり方の方がこの令嬢には良いかもしれないと彼の手を取った。悔しそうに顔を歪めるユーリアに優雅に微笑んで通り過ぎる。


「あなたはいつもお一人ですね?」


 踊り始めるとデヴィッドは不思議そうに聞いてきた。

 首を傾げて聞いてくる(さま)は、綺麗な顔をあどけない印象に見せる。ライラはため息を吐いた。彼はライラがアーサーの婚約者候補だと知らないのだろうか。


「わたくしはアーサー殿下の婚約者候補ですから」


 ライラは淑女の微笑みで当たり前の事を答える。


「ああ、そういう事ではなく」


 デヴィッドは苦笑した。


「一人で殿下の分まで戦っている」


 ライラは目を見開いた。


「強く美しい女性だ」


「……」


「そして今日は私の為にもありがとう」


 淡麗な顔はそのままダンスに向けられてしまった。向かい合って手を取り合っているのに開いている二人の距離がもどかしくて、ライラはひたすらデヴィッドの横顔を見つめ続けた。


 ◇ ◇ ◇


 思えばたったそれだけだった。それだけなのに、いつの間にかデヴィッドしか目に入らなくなってしまった。


 彼は同志だ。誰よりも自分を分かってくれている。必死に自分を納得させようと、頭に浮かぶのが言い訳だとは認めなかった。


 けれど彼にはいつも沢山の令嬢の視線が注がれる。

 それが嫌で嫌でたまらないけれど、彼が自分と目が合うと笑いかけてくれるのが堪らなく嬉しかった。


 次第にデヴィッドに言い寄る令嬢たちとも目が合うようになる。それ程見つめていたと気づくより、デヴィッドに馴れ馴れしく擦り寄る女性たちがライラを見て勝ち誇ったように口角を上げるのが許せなかった。


 負けたく無い。


 彼の瞳に自分だけが映りたい。特別になりたい。自分の心が自分の手に負えなくなっていった。


「ライラ様、私はアーサー殿下の侍従になる事になりました」


 ある日デヴィッドから聞いて、ライラは思わず笑顔になった。


「まあ!それじゃあこれから沢山会えるわね」


 何故ならアーサーと自分はこの上なく仲が良いのだから。


 嬉しそうに笑うライラに、デヴィッドは困惑に瞳を揺らした。


「大丈夫よ。アーサーはわたくしの事を大事にしてくれているから」


 ライラの中で、デヴィッドに抱く恋心と、アーサーの婚約者候補という考えは隔てられていた。


 そしてアーサーに愛され、厳しい皇子妃教育を受けた自分の未来は皇子妃から揺るぎないと疑わなかった。



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