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44. 兄妹喧嘩



 何かしら、情緒不安定ではないかしら。


 リヴィアは久しぶりに見たアーサーにそんな印象を持った。ライラとは寄り添っていたように見えたが、彼女は足を挫いたらしく、馬車が来るまでアーサーが支えていたそうだ。


 どうしてフェリクスが助けなかったのかしら?と思ったら、妹が嫌いなので。と凄い返答が返ってきて閉口してしまった。

 

 婚約者役は一旦保留で良いのかとソワソワするものの、何故か二人が立ち並ぶ姿を見てると悲しくなってくるのだ。


 同じ馬車でどうやってやり過ごそうかと悩ましく思う。それともリヴィアが邪魔だと、途中から違う馬車を用意される事になるのだろうか。


 ……どんどん沈みそうになる思いを断ち切るように首を振る。

 長い行程の視察だ。今からこれでは先が思いやられる。気合を入れれば、馬車の支度が出来たと侍従から知らせが来た。よしと振り向けば、ライラがアーサーの手を借りて乗り込もうとしており、リヴィアは先行きが不安になった。


 ◇ ◇ ◇


 既に不安はあったものの、アーサーとライラが並んで座る様を見て、この視察での自分の立ち位置は概ね理解できたような気がした。最後に入ってきたフェリクスは些か顔を顰めたが、何も言わずリヴィアの横に腰を下ろした。寄り添う二人に対し、こちらは侍従と侍女と言ったところか。


 だが向かいに座るアーサーは不機嫌そうで、リヴィアは困惑した。まさか二人きりになりたいのだろうか……

 それ程ライラが大切なのかと落ち込んだが、自分の気持ちに、はたと首を傾げる。何故……?


 どうしたものかとリヴィアはアーサーを見るが、アーサーはまだ様子が変だ。怒っているのかと思えば笑っているようにも見えたし、赤くなったり眉間に皺を刻んだりと、感情の起伏が激しすぎてよく分からない。


 以前シェリルに言われた顔面福笑いとはこういうものの事だろうか。だとしたらなかなか的を射た表現かもしれない。

 

 リヴィアがしみじみ感心しているとライラからアーサーに紹介を促す言葉が聞こえて来て面食らってしまう。個人的には知っている筈だが。


「失礼致しました、イスタヴェン子爵夫人。リヴィア・エルトナですわ。どうぞお見知りおきを」


 リヴィアの挨拶にフェリクスが、知っているだろうにと鼻を鳴らした。


「あらそうだったかしら。こんにちはリヴィア様。わたくしはフェルジェス侯爵家のライラよ」


「ええ……存じております。イスタヴェン子爵夫人……」


 結婚したのに旧姓を名乗るとは……何とも変わった挨拶の仕方だ。


「夫人て呼び方好きじゃ無いのよね。老けてしまった気がして。だからわたくしの事はライラでいいわ」


 可愛らしく頬を膨らませた姿は確かに既婚者には見えまい。でも何だかそれは……


「分かりましたライラ様」


 多少釈然としないものを抱えながらリヴィアが肯くとフェリクスが声を張る。


「ライラ、リヴィア嬢ならまだ許されるかも知れないが、誰彼構わず自分を名前で呼ばせているわけでは無かろうな。あといい加減アーサー殿下から離れろ」


 フェリクスの言葉にライラはむうっと剥れている。


「ちゃんと選んでいるわよ。それに馬車は揺れるもの。一人座りは危ないでしょう」


「ならドアに貼り付け」


「嫌よ。固くて冷たいもの」


 兄妹ゲンカが始まった。


 ポカンとしていると、アーサーが面倒臭そうに折衷案を出してきた。


「フェリクス。馬車の中だ。私の護衛は考えなくていいから、ライラを支えてやれ。リヴィアは私の隣に来い」


 三人の視線がアーサーに集まり、場が一旦沈黙する。


「嫌よ。お兄様の隣に座る位なら御者席に行くわ」


 横目で見るとフェリクスはじゃあそうしろと妹を馬車から放り出しそうな険悪さでライラを睨んでいる。


「分かりましたわアーサー殿下」


 リヴィアは慌てて首肯しライラに同意を求めようと視線を送ったが、睨みつけられて終わった。────が、がたんと馬車が大きく跳ねた瞬間アーサーに手を引かれ、隣の席に収まる。


 思いの外近くに腰を下ろしており、どうしたら良いものかと固まってしまう、目の前に顔を向けると、同じタイミングでライラも席を移動したようだ。フェリクスの隣で恨めしそうにこちらを見ている。


 はっとリヴィアは身を竦めた。手に重なる温かな感触にじわじわと熱がたまる。


「リヴィア……私たちは婚約者だ。だから一緒に彼の地へ行くのだし、そうなったばかりとはいえ、周りに気取られないよう振る舞いたい。分かって貰えるだろうか……」


 恐る恐る視線を向けると切実なアーサーの瞳とぶつかった。綺麗な海色の瞳。リヴィアがこくりと頷くと、アーサーの手にぎゅっと力が込められた。



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