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38. 見つけたもの



 気分を変えたい(てい)で外に出たらやはりついてくる者がいる。ヒールの高い靴では忍べないのに分かっているのだろうか。内心ため息をつくも、とは言え来てくれないと話が進まない。いつもの紳士の仮面を貼り付けユーリア嬢に向き直った。


 他の誰かを好きになれそうにない。


 そう言えばユーリアは激しく動揺していた。

 予想はついていたが、ライラの事を引きずっていると勘違いしてくれている。


 まあ確かに引きずっているが……思い出せば胸に苦いものが込み上げてくる。

 ただ長年女性というとライラの事しか頭に無かったもので、他の誰かと言われても上手く頭が切り替えられないのだ。


 ライラが結婚した途端見合い話が降るように来たものだが、何故時期を改めないのかと不思議なものだった。

 女性じゃあるまいし婚期を焦ってもいない。別にそれほど悲観的でもない。失恋したからと言ってすぐ他の恋を見つけなければいけないわけでは無いだろう。むしろ少し放っておいて欲しい位だ。


 ユーリアはよほど自分が愛されていると自信でもあったようだ。社交用の微笑みを、恋しいものに贈るそれと勝手に勘違いしてくれていた。御し易い相手である事は確かだが、だからといってそれがアーサーに利をもたらす事はない。


「……一途でいる事を責めてなどおりません。せめて、殿下の最初の恋の終わりに、私を思い出していただけませんでしょうか」


 ユーリアははらはらと涙ながらに訴えてくる。美しい泣き顔だ。こういう姿に心を奪われる男もいるだろうに。勿体無い。もっときちんと淑女教育を受けていればこんな浅ましい真似もせずとも良いのに。


「申し訳ありません。お約束できません」


 いつもと変わらぬ笑顔で告げる。


 この微笑みは特別な意味を持って向けてきたものではないのだと。きっちりと分からせる為に。

 ユーリアの顔が歪んだ。

 やっと自分が発する拒否が届いたようだ。


「未練がましい男……」


 さっと顔を背けて呟いた声が聞こえた。

 本来なら不敬罪ものだろうが、顔を背けて小声で言っている。

 しらばっくれて、問い詰めてきたこちらを嘲笑し落とし入れる算段だろうか。貴族らしい一面もあるじゃないか。


 10歳の子供を褒める気持ちで感心していると、ユーリアが一瞬身を竦め、その後勢いよく走り去って行った。あんな細いヒールで転ばないのだろうか……。いらぬ心配をしながらその様を見送っていると、か細い声が耳に届いた。


 振り返ればもう一人令嬢がいるのが見える。自分の後を追いかけてきたのはユーリアだけではなかったらしい。舌打ちしたい気持ちで、どう片付けるものかと頭を巡らす。


「そこで何をしている」


 自分でも思わず出た低い声に驚いていると、暗闇の中で瞳が静かに瞬いた。この目は見覚えがある……アーサーは息を飲んだ。


 レストルの従妹────



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