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27. 困惑



 やがて馬車が皇城へ着き、遅くなった言い訳をリヴィアが考えていると、ライラが見えた。

 たった今話に登った人物の登場に、思わず二度見してしまう。馬車を降りた先からライラ・イスタヴェンが駆け寄って来ているのだ。


 慌てて寝ているアーサーを揺さぶり起こすも、どうやら寝起きが悪いらしく散々絡まれた。最後には苛立ったエリックにリヴィアは馬車から引っ張り出された。


 おかげでアーサーの侍従の視線が相変わらず刺さる刺さる。いや、自分は悪く無いと思うのだが。そちらは気づかぬふりでやり過ごせたものの、流石にライラをやり過ごせる傑物にはなれなかった。


 だが近づいて来たライラは(ひる)んだように立ちすくんだ。


「あ……お兄様」


 その声に目を丸くして辺りを見回す。

 答えるように赤毛の青年────アーサーの侍従が口を開いた。


「ライラ」


 リヴィアは思わず息が止まりそうになる。


 ライラの結婚相手は元公爵家ご子息イスタヴェン子爵で、彼は元アーサーの侍従だ。

 けれどライラの兄もそうだったとは……凄い人事だ。アーサーは気にならないのだろうか。


 だが、アーサーは確かライラと乳兄妹だったのだから、必然的にこの赤毛の侍従とも乳兄弟という話になる。ならこれは然るべき役割という事なのだろうか?

 

 見ているこちらは心臓に悪いが……


 ふと指先に触れる感触があり、手を見下ろすとエリックがリヴィアの手を握りしめていた。その口元はきつく引き結ばれている。


「あらエリック殿下?ご機嫌よう……そちらは────」


 エリックに気づいたライラがふわりと微笑み振り返る。


「ライラ?」


 けれどライラがエリックに向き直ると同時に、アーサーが馬車から顔を出した。それを見てライラの顔は花が咲くように綻んだ。

 アーサーは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに取り繕う。

 先程までの雰囲気とはどこか違うものを感じ、何故かリヴィアは固まった。


 不思議に思う。何故ライラはイスタヴェン子爵と結婚したのかと。

 そしてこれは……なんだろう?

 そっと胸に手を当てる。何だか心臓が変な音を立てている。

 今日一日動き回ったので疲れたのだろうか?

 首を傾げていると、エリックがリヴィアの手を引き歩きだした。


「エリック殿下?」


「エリック?どこに行くんだ!」


 急に明後日の方へと歩き出すエリックにアーサーが叫んだ。その声にどきりと胸が跳ねるが、やはり何故か歩みを止められない。


「遅くなったので、リヴィアを送ります」


 アーサーに向かって声だけを張り上げ、エリックはすたすた進んでいく。リヴィアは振り返り、海色の瞳を揺らすアーサーを見た。けれどその腕にライラの手が添えられているのを見つけ、すぐに目を逸らした。


 やっぱり変だ。リヴィアは困惑する。

 自分が変だ。

 それにアーサーの……


 その目が置いていかれた子どものように見えたのは、きっと気のせいだろう。


 見てはいけないものを見てしまったような罪悪感。それに何故か、唐突に母の事が頭に浮かんだ。


 何故か分からないのに得心するような、そんな不思議な感覚にリヴィアは首を傾げた。



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