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23. 孤児院の院長



「余計な事は言わないで下さい!」


 リヴィアはアルウィズ孤児院院長────セドに向かって眦をきりりと吊り上げた。


 アーサーたちを追い立てて先に孤児院の中に押しやり、セドを院長室に引っ張りこんだ。そしてただいま絶賛仁王立ち中である。


「あと余計な事しない!挨拶も不用ですので!とりあえず顔を出さないでいいです!」


「何もする事ないじゃん」


 半眼で応じるセドにリヴィアは満足気に頷いた。


「その通りです」


「じゃあ俺出かけてくるわ」


「今帰ってきたところでしょう?!」


 先程抱えていた紙袋の中を漁りながらセドはつまらなそうに言う。ちなみに反対側の腕に張り付いていた女性は、孤児院に入れずにセドが追い払っていた。


 それをしなかったらリヴィアが二人共門前払いにしていたが。

 女性は怒っていたものの、どう考えても場違いな皇族用の馬車に関わる事を良しとしなかったのか、素直に立ち去っていった。


「ガキ共に会いに帰って来たのに」


「客人が帰ったらお好きなだけ」


「リヴィアにも会いたかったのに?」


「今会って話してますので、それはもう済み扱いでいいでしょう」


 意味深な視線をわざとらしく送ってくるセドに、リヴィアは胡乱な視線を返した。


 セドが貴族だったと噂される理由のひとつが、顔の良さだ。

 なんと、ボサ髪・分厚い眼鏡の下には端正な顔が隠れてるのだ。


 よく見ると────と言うやつである。

 数日外をほっつき歩いてるのも、ヒモをやってるからではなかろうかという噂である。


「そういえばお前婚約破棄されたんだって?」


「!?」


 自分の婚約事情はこんなところにまで伝わっているものなのか?リヴィアは、内心動揺する。


「それでさっき見たあれが代案か?俺はどうかと思うけどなあ。どんだけ癖モノ好きなんだよ」


 そんな訳あるか────!!


「そんな訳ありませんわ」


 内心の絶叫はおくびにも出さず、口調だけは淡々と答える。自分の周りにいる癖モノなんて腹黒レストルくらいしか心当たりがないが、それだって断じて好きでは無い。


 そもそも癖モノって誰だ?

 あれ?セドが言っていたのってアーサーの事かと思ったけれど違うのか?

 悩み出すリヴィアにセドは声を殺して笑っている。


「リヴィア、どうしかました?」


 ノックと共にアーサーが入ってきた為、リヴィアはぎょっとしてドアを振り返った。

 ノックをしたら応答を待って欲しいと思うのだが、何故自分の周囲はこうノックを軽んじるのか……何というかとりあえず今は平静を装うので精一杯だ。


「ああ、大丈夫ですよ────ええと……」


 片手を上げて応じたのはセドだ。だがその目には悪戯心が揺らめいている。


「アーサーといいます。急な来訪失礼いたします。はじめましてセド院長」


「……はじめましてアーサー様。私たちの活動にも地域の皆様のご理解が必要ですから。ご来訪に心から感謝し、歓迎致しますよ」


 アーサーの笑顔にセドも胡散臭い笑顔を向ける。どうやら外面の仮面を被ってくれたらしい。如才の無い事だ。


 視線を滑らせると赤毛の従者が目を眇めてセドを見ていた。

 ……まあ先程のアレを見ていれば警戒もするだろう。リヴィアはそっと視線を戻す。


「リヴィア嬢が戻らないので、子どもたちにここを案内してもらい迎えに来たのですよ。もしかしてお邪魔でしたか?」


 にっこりと笑うアーサーからは何故か威圧感を感じる。


「いいえ。リヴィア様には今日のご訪問についてご説明頂いていただけですから。何でも甥御殿の家庭教師をリヴィア様にと?」


「ええ。兄が決めた事なのですが、甥は女性の家庭教師に抵抗があるようで。……それで今日は彼女の他の教え子に会いに来たのですよ」


 セドは目を細めて頷いた。


「成る程……まあ、深くは追求しませんが貴方がたは高貴な方のようですし、男子の家庭教師に女性をつけるのはあまり聞きませんものね。けれどそれもリヴィア様には当てはまらないでしょうが」


「……どういう意味です?」


 なんだそれはとリヴィアが問う前にアーサーから険のある声が出た。


「優秀と言っているのですよ。まさか既婚には見えないでしょう」


 セドは楽しそうに返した。


「……」


 婚約破棄の事を言ってるんだろうか。

 こいつの昼食にはタバスコ三倍投入してやる。

 リヴィアは人知れず決意した。



 

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