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21. 不安と疑問



 またしても馬車に押し込められ、リヴィアはぽくぽくと目的地への道のりを揺られていた。

 ただ今度は普段乗り慣れている魔術院用の馬車では無く、皇族専用のそれ……


 エルトナ家の馬車は父が仕事で使う。予備もあるが、社交禁止のリヴィアには使えないので、普段通勤の際は魔術院から迎えに来て貰っている。


 それでも先日のような社交の際には家のものを使うが……比較にならない。どこに触っていいのか分からない。そもそも座っていいのだろうかと訳の分からない不安に行き着く。エルトナ家の馬車が貧相なのだろうか。リヴィアは一瞬空を仰ぐ。


 あちこち触れて傷でも付けたら怖いわ……


 申し訳ない程度に腰を掛け、口元を引きつらせる。一目で高価と分かる装飾。天使を象った繊細なそれは思わずため息が漏れる程緻密、かつ、うっかりすると簡単に壊れてしまいそうに見える。窓枠ひとつとってもそんな作りで、更にはソファの生地の上等さに腰を浮かせそうになる。


 それに────


 駄目だ、降りたい。降りて走ってついて行きたい。


「なんだ怖気付いたのか?」


 平然と肘を窓枠に突くエリックに、強張る笑顔で何とか、いいえと答える。

 馬車に気後れしているとは思われ無かったらしい。正直余裕の笑みを浮かべるエリックと話している方がまだ緊張しない。

 

 そこまで思い首を捻る。逆だ。皇族より馬車に気を遣ってどうする。


「ふふ、緊張しているんでしょう」


 エリックと並んで座ったアーサーが首を傾けてリヴィアを見ていた。ぴくりと反応するも、何とか取り繕い笑顔で首肯した。


「……ええ。皇族の馬車なんて初めて乗りましたから、緊張しておりますわ」


 そう言ってリヴィアは改めてエリックとアーサーを見比べた。それにしてもよく似た二人だ。顔立ちといい、雰囲気といい。歳の離れた兄弟のようだ。髪や目の色は違うが、血縁とはこう映るのかと改めて感心した。


 馬車の中には三人だけだ。ウィリスは来てくれなかった。侍従たちは馬で左右を走っている。


 自分も馬に乗る馬がいいと頼んだが、アーサーに荷物よろしく馬車の中に放り込まれた。皇族は皆こうして人を物扱いするのだろうか……


 現実から意識を飛ばしていたら、しきりに窓の外を睨んでいるエリックが目に入った。


 ……それにしても、こうしてエリックを間近で見ると今更ながらに思うのだが……子どもだ。

 六つも年下の子どもに少しムキになり過ぎただろうか。ウィリスや皇太子の依頼という圧はあったが、何だか申し訳無くなってきた。


「……殿下は何故、女性の家庭教師がお嫌なのです?」


 先程は聞けなかった問いを口にする。

 もしエリックの家庭教師を務めるのなら知っているべきだろう。エリックはチラリとこちらに視線を向けて、顔を(しか)めて固く目を閉じてしまった。


 無神経だったろうか……

 どうしたものかとアーサーを見てみると、海色の瞳はじっとリヴィアを見つめている。態度はなんとも対称的な二人である。


 ……自分は果たしてエリックの家庭教師を引き受ける事になるのだろうか。今日中には分かるだろう結末に、リヴィアは窓の外の景色を眺めて思いを馳せた。



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