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18. 再会



 貴族の意識改革は微々たる者で、先程アスランが話していた貴族女性の社会進出も始まったばかりである。


 根っから思考が平民に移行しつつあるリヴィアはその動向に期待するばかりだ。働く貴族女性改革万歳。


 そして魔術院でその存在が認められる────あのライラ・イスタヴェンが希少なのだ。

 彼女は高い魔術の素養を持っているらしく、何より淑女然として愛らしくも美しい。つくづくよく比べられる存在だと思うのだが、本人と直接話す事はほぼ無くて。とはいえ良い感情を持てないのも事実で、交流も何もない相手にこんな感情を抱く自分も嫌悪してしまう。


 だから……嫌なのだ。


 リヴィアは身の内をざわめく思いを和らげるように息を吐いた。


「貴族社会に嫌気が差すっていうのは、リヴィアちゃんだけじゃないわ。でもその道が険しい事をアタシは知ってる。ましてや女の子じゃあまだまだ風当たりは相当だと思うもの。あなたは優秀だけどオリビアのような天才肌とは違うもの」


 思わず聞いた母の名にリヴィアはゆっくりと頷いた。

 リヴィアの母は高名な魔道士で、天才の名を欲しいままにしていた。それ故に貴族の中にその血を残すべく、前陛下の命により父と婚姻を結んだのだ。


 母とウィリスは親しく、彼女は明るく闊達(かったつ)な人柄だったらしい。

 けれど当時の魔術院では今よりもっと女性に対する偏見も強く、前師長とも合わず、腫れ物扱いだったようだ。……血は争えない。

 ただ容姿は可愛らしかったようで、そこだけは母に似たかったとは思う。女の子は父親似の方が可愛くなるなんて嘘だ。


「そうですね……母のような才能は持っていませんから……その心遣いは分かりましたが、本当にこの格好でいいんでしょうか?」


 リヴィアは深緑のローブをひらりと持ち上げて自信なさげに首を傾げた。暗に失敗したら困るのはウィリスだという意味を込めて。


「あらん、素敵よん。リヴィアちゃん以上にうちの研究着を着こなしてる子はいないわん」


「それはどうも……」


 それと、と続けるウィリスにリヴィアは目を向ける。


「まあ、アタシの弟子ですもの、ありえないとは思うけど、勿論交渉決裂なんてえ、許さないからねん」


 え、嘘でしょう。地味に目が笑っていない……。


 確かにウィリスは働き過ぎだ。これ以上の仕事は明らかに容量オーバーだろう。


 先程のウィリスの言葉を思い出す。……後ろ盾か。

 リヴィアは間近に迫る皇城を見上げ、この先の自分に思いを馳せた。


 ◇ ◇ ◇


 皇族であるアスランの乗る馬車が先導し先を走り、リヴィアはあっさりと皇城入りを果たした。


 基本この国はデビュタントという形で皇帝陛下に謁見を経てから、皇城への出入が可能になるのだが。

 自分の今の状況が信じられないものの、それ以上に初めて見る皇城の様子に目を奪われて仕方がない。

 外から眺めてはその大きさに口を開け、中に入っては天井の高さに足を(もつ)れさせ、謁見の間に続く回廊の入り口では、ここは天国への入場門だろうかと胸を高鳴らせた。


 いい歳をして恥ずかしいが、それ以上に好奇心が上回る。ウィリスは何も言わず、苦笑しつつも完璧なエスコートをしてくれた。

 アスランは先に城内に入り、陛下に謁見の先触れをしに行ってくれたのだが、皇太子にそんな事をさせて良かったのだろうかと思う。ただ自分のこの舞い上がり振りを見られなかった事はありがたかったが。


 それにしても……である。


 謁見の間を目前にして、今更ながらに怖気づく自分はどうかしている。珍しい皇城に目を奪われるという現実逃避もここまで来ると通用しない。


 皇帝陛下への謁見なんて滅多に出来ないわ。楽しみ!……なんて思える程楽観的でも無い。


 リヴィアはウィリスの腕にしがみつくように立って、目の前の扉が開くのを固唾を呑んで待っていた。


「リヴィア?」


 不意に自分を呼ぶ声が聞こえ、導かれるようにそちらに顔を向ける。

 そこにはどこか呆然としたアーサーが立っており、その後ろにはあの夜見た赤毛の侍従が控えていた。


「おやアーサー殿下?ご機嫌よう」


 ウィリスが朗らかに答えるも、リヴィアは内心動揺する。

 こんな時にこんな場所で会うなんて。ようやく頭を占めるアーサー騒動が減って来たと思ったら、これではまた再発しそうではないか。そもそも今はそれどころでは無い。リヴィアは何とかぎこちなく微笑んだ。


 アーサーははっと身を竦め、そのまま口元に手を当て、気難しい顔をして視線を明後日に向けてしまった。


 ……相変わらず失礼な男だ。

 リヴィアがそのまま顔の向きを戻そうとすると、ウィリスがす、とリヴィアの肩を抱いてきた。


「アーサー殿下。我々はこれから皇帝陛下へ大事な謁見なのです。ご挨拶も出来ずに申し訳ありませんが、何卒ご容赦くださいませ」


 城内ではごく普通の紳士なウィリスは、見た目の破壊力も掛け合わせてただただ眩しい。

 見慣れぬ姿についマジマジと師の姿を眺めていると、中から呼び声が掛かり、ドアがゆっくり内側に開き始める。


 リヴィアは急いで息を整え、顔面に気合いを入れて淑女の笑みを貼り付ける。そしてウィリスのエスコートに合わせ、さあ、と気合いを入れて謁見の間へと足を踏み入れた。



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