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16. 家庭教師



 リヴィアは益々頓狂(とんきょう)な声を出した。エリック皇子はアスラン殿下の第一子で次期皇太子だ。

 通常女性の家庭教師は女子につくものだし……そもそも、そんな重要な役割の一旦を自分などに担わせてよいのだろうか。


「どうしてまた……?」


 リヴィアの言葉にウィリスは悩ましげに頬に手を当て身をくねらせた。


「それはあ……」


「少し柔軟な頭を持って欲しくてね」


 穏やかな声に目を向ければアスランが困ったような笑顔で紅茶のカップをソーサーに戻している。


「それに女性の労働推進は皇室の施策の一環でもある。優秀な君が皇室と契約を結ぶ事は、一部の保守派の態度緩和の一助となるだろうからね」


 にこりと笑うアスラン殿下は眩しい。流石皇族。


「はあ……」


 皇室の推進事業なんて魔術に関わる事しか頭に入っていなかった。それがこんな形で自分に降りかかってくるとは。


「アタシが頼まれているのは魔術に関する事だけよん。リヴィアちゃん魔術史もよく勉強しているし、問題ないと思うわん」


「頼まれてくれるね?リヴィア」


 皇太子直々に頼まれて断れる人なんているのだろうか。しかも皇族の家庭教師なんて、色々特典がついていたりして。授業に(かこつ)けて機密扱いの古文書や陣の閲覧なんて可能かもしれない……一魔術院の勤め人として、興味はある。お互いに利点もある。……でもなんだろうこの有無を言わさない感は……。


「で、でもデビュタントも済ませていない、わたくしが皇城に上がるなんて……っ」


「ああ。だから今から行こう」


 腕をぎゅっと掴まれ素敵な笑顔で返された。


「勿論失敗したりしないわよねん。リヴィアちゃん」


 ウィリスの期待を裏切ったらクビだろうか……。

 リヴィアはもう、白目を剥くしか無かった。


 ◇ ◇ ◇


 何でもするなんて何の根拠もないのに言ってはいけない。

 そしてウィリスは優しくない。

 リヴィアの今日の反省点である。

 それに馬車に押し込まれてしまっては、もう諦めるしかない。


 冷静に考えればおかしい話では無いのだ。ウィリスは確かに忙しい。昨今では管轄外の研究や魔術陣の修復に至るまで塔を飛び越え携わっていて、スケジュール調整をしているシェリルが発狂していた。

 確かに子どもの家庭教師くらいならリヴィアにお鉢が回ってきてもおかしくない。問題は相手が皇族という事で、それが一番の難点でもあるという事だが。


 リヴィアはウィリスの弟子で唯一の貴族だ。社交は苦手だが貴族の子女に必要な一通りの教育も受けている。


 実は家庭教師はリヴィアが結婚を回避すべく考えた職業の一つでもある。だが条件を考えて難しいと諦めた。

 家庭教師はその家に入るものの、家族でもなく使用人と違い、少し複雑な立場なのだ。

 

 入った家に左右される事から、事前の情報は必須になるが、リヴィアにはそれを手に入れる社交がない。

 勿論全く無い訳では無いが、いずれにしても父が知るところになるだろう。

 相手から頼まれるのではなく、こちらから頼み込んで仕事をもらうなどありえない。娘が家庭教師をしなければならない程家計が逼迫(ひっぱく)しているのかと、物笑いの種にされ伯爵家の名に傷をつける事になるだろう。問答無用で家に連れ戻されるに違いない。


 例え父に頼らずに家庭教師の仕事を見つけたとしても、可能なのは父が物申せない伯爵より上の高位貴族となる。


 つまり条件は、家庭教師が必要な女児がいる家で、高位貴族、一応何かの間違いや誤解が起きてはいけない為、年頃の子息がいない家。


 ……残念ながら見つからなかった。

 例えあっても、生徒も数年後には大人になる。

 同じところで勤められない限り、渡り歩くしかないのだ。

 それをずっと続けていくとなると、流石にリヴィアにも不安があった。まあ当時14歳のリヴィアなど、どれ程やる気があっても雇う家などなかったとは思うが。


 結婚しない貴族女性の選択肢と聞いたもので、候補として挙げていたのである。


 とはいえ、流石に皇族の家庭教師なんて考えた事もなかったので、正直心の準備が欲しかった。いや、心の準備が欲しかったのはこれから行く皇城での陛下への謁見だ。


 リヴィアは機嫌良さそうに窓枠に肘を乗せるウィリスに胡乱な目を向けた。



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