終わった拳と終わらん試験
「すぅー………」
狐目のような細い目に金髪。ラフな容姿に反して、清潔感ある道着という格好の女性は、壁の前で精神統一をしながら気を練っていた。
彼女の名前は、山本灯。
最近、大学生へとなった彼女であるが。彼女は”超人”である。
山本灯
スタイル:超人
スタイル名:拳女王
「はぁっ!!」
”超人”としての能力は凄くシンプル。
拳の能力を強化したというものである。実際のところ、能力と呼べるものではない。それが”超人”という魅力である。
通常ならば木の板などが、正拳突き1つで割れるのであるが。彼女の場合、
ズパアァァッ
壁を単純にぶっ壊すだけでなく、精密的にヒビなく、殴ったという衝撃ではなく突き通したという衝撃に変えられるほどの力と技術が研磨されたもの。
「んー……まだまだ、理想の形にならないわね。殴った箇所だけしかできない」
「学校の壁を壊してそれを言いますか?」
「まぁいいじゃない、姫子」
追い求めるものが高い。
そんな彼女の最も脅威と感じさせる、”拳女王”の切り札がある。
技の名は、”終わった拳”。
「!」
キュウゥッ
先ほど声をかけた親友、柳葉姫子は確かに見ていた。
目で捉えられるほど灯の動きは遅いものであったが、時計の秒針は止まり、自身の脳裏がピッタリと張り付いた静止画の中で、灯だけが動いている状態だった。この構えを見た瞬間。
相手はすでに灯の拳を受けているのである。
それでも理解と結果が到達していないのは、脳が受けている情報と連絡しあう信号よりも、灯の一撃は迅いことを証明している。
つまり、”終わった拳”。その名に相応しき一撃。
パアァァァンッ
「どー?寸止めもできるようになったのよ。殴られたって思ったでしょ?」
「危ないです。ビックリしました」
「この技をいつでも、どんな体勢からでも。繰り出せるようにならないとね。藤砂にはまだまだ追いつけないし」
灯、最大の武器。すでに完成と言える状態を、凡人達は抱こうが灯は満足できない。
超えたい男がいるからだ。
しかし、だ。この凄さを持ってしてもだ。
「……ところでさ、姫子」
「なんです?」
「今度の試験、手伝ってくれない?」
「普通に頼んでください。断ったら、殴るとかダメですよ。暴力は良くないです」
「しないしない。いやさぁ。この技を身につけてから思うのよ。嫌な事もさっさと終われって!」
「そーいうところは鍛錬しないんですね」
「うがーっ!嫌な事言われたーー!だって、勉強なんて嫌じゃない!試験50分とか長いのよ!相手が死ぬか、降参するかの単純な殺し合いが良いのよ!あたし!!」
そーいうシンプルなところを突き進む。いずれはダメだって気付けて折れること。なおも続けて現れる結果が”超人”なんだろうか。
少々、羨ましい。
「構わないですよ。付き合い長いじゃないですか」
「ホント!?」
「こちらで……」
そーいう姫子は跳んだ。灯も跳んだ。その高さは一跳躍の単位としてはあっていて、間違っている。
2階、3階、4階と……。辿り着くは屋上。
姫子も”超人”じゃねぇーか!!レベルの差があるだけで!!
「なんかの縁ですし、清金や村木にも声をかけます。気は乗らないですけど、阿波野にも……」
「あいつ等、あたしを教える事ができるの?」
「それは無理です。残念ながら」
「悲しい事、言うわね~……」
「レポート提出とかは誰かのパクレば良いですし、試験に関しては過去問を見るより、試験に出てくる当日の問題を知っとけばなんとかなるでしょう」
「あ、屋上で話したかったのはそーいう事?」
「2人で脅すには数が足りませんので、要員って事で清金達に連絡しますね」
「姫子ー。あんたさっきさ、暴力は良くないってあたしに言わなかったっけ?」
「恐喝です。セーフです」
「まぁいいか。あたしの得意分野だしね。ノッた!!」
人に凶悪な暴力を持たすとロクでもない。
そんな連中であった。