表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/182

エルデ・ザ・ナイフ

 自分の心武器はとても掌に馴染んだ。まるで、勇者のように剣に自らが選ばれたのだと錯覚しそうになるほどに。


 そんな風に胸を張れる理由など、自分にはないのだが。


 破壊を乗せた鋭い刺突が迫る落雷を破壊し、台風を切り裂き、全てを飲み込む津波にすら穴を開ける。そのまま、ヒートへ向けて踏み込む。


 当然ながら、剣には間合いがある。最適な位置に、最速で辿り着き、最大限に機会を活かすには、腕だけでなく足、即ち肉体全てを扱うことが要求される。


 かつてナイフ捌きを教えてくれた教官からは無心でも触れるようにとそれらを徹底的に叩き込まれた。人殺しの技術に感謝するにはちょっと難しいが。


 速さを維持し、肉薄するエルデの足元をヒートは崩すように地面に足をつけて地割れを発生させる。崩壊していく城に舌打ちをしながら、すぐさま創造で修繕する。


「随分と余裕だな。壊れ行く権力の象徴を守る意味などあるまい」


 ヒートの忍者刀が上下に揺られるも、本命は右だとヒート自身の殺意が教えてくれる。射線に割り込むナイフが剣の刃に触れると、信じ難いほどあっさりと力を逸らせた。


 ヒート自身は驚愕に目を見開いているがエルデからすれば当たり前のことでしかないので彼の首を斬ろうとナイフを振るう。


 斬撃が維持される空間からヒートは逃れるために後ろへ跳躍するもののエルデは創造で作った人形を突貫させる。


 しかし、人形達の攻撃を忍者刀で受け止め、異常とも言える温度操作によって人形達を焼却、冷凍して破壊。


 けれど既にエルデは作り上げていたナイフを投げ、ヒートに余計な一手を取らせた後、その隙に接近。


 災害の力を使わせないためにも接近戦で攻め立てた方が都合がいいと合理的に判断したからだ。


 ヒートもそれは分かっているから、遠ざけるための突風を生み出して、エルデを吹き飛ばそうとするものの速さを維持したエルデに効くわけもなく、剣戟がヒートの指と太腿をとらえた。


「くっ! まぐれだ。王子の娯楽剣術が某の暗殺剣に勝るわけもない」


 エルデは何も答えない。違うと言ってもいいが所詮、死ぬ相手だ。何を言っても無駄だろう。


 僅かな舌打ちを奏で、光のごとく四肢を穿つ。ヒートもその攻撃に反応するものの破壊された傷口によるせいでいささか対処が遅い。


 四肢を全て破壊され、治らない傷口を抑えながらもヒートは反撃のための刃を振るう。


 異常な温度操作による火と氷が斜め上から迫り、真下からの切り上げがエルデから逃げ道をなくす。


 しかし、エルデは単純に足を差し出し、斬らせ、火を左手で受け止めて氷をナイフで破壊し、距離を置いた。


「これで対等だ!」


 ヒートはそんな事を言うがエルデは特に気にもせず、使い物にならない足を破壊して、新たに創造した手足を取り付ける。


 エルデは調子を確かめるようにヒートへ一瞬で距離を詰め、こちらを見て呆然とするヒートの首をとる。


「させるかぁ!」


 しかし、そこに鏡の精霊騎士が割り込み、エルデのナイフは鎧を破壊するだけに留まった。


「おい、ジュエ! 抑えるならしっかり抑えてろよ!」


「ごめ〜ん! ふきとばしたらそのいきおいでそっちにとんじゃったからさ〜」


 申し訳無さげにジュエがこちらへ近づいてくる。ガルディやガルムはヒート達を牽制しているようだ。


「大丈夫ですか? 油断したのか?」


「油断はしていない。単純にこいつは強いのだ」


 油断など殺し屋JBから程遠い言葉だ。


 JBは油断や慢心などはしない。持ちうる限りの力を使って相手を殺す。淡々と積み重ねてきたもので相手に死を与える。


 それを半生も繰り返していればもはや作業だ。そこに感情など存在しない。


「お前は何のために剣を振るうんだ?」


 殺しの際に余計な口を挟まないのが彼のモットーだがここまで凌がれるとちょっとだけ興味が湧く。それだけの強さを持ちながら、なぜ世界を滅ぼそうとするのか。


「恩返し」


「なるほどたいそうご立派だ」


 ガルディから彼が国を出走した理由は聞いている。簡潔に言えば知りすぎたから、グラマソーサリーが隠していた事実を。


 その事実は間違い無く、他の国と結託して魔王を殺すためにまだ学生だったドラゴーラをけしかけた事だろう。


 その追ってから救ったのがジンなら、その恩は返すに決まっているだろう。


「世界を滅ぼす理由はジンの為か?」


「否、腐った国を浄化する為」


「なんか理由がご立派すぎて俺、負けた方がいいんじゃねえかなぁ」


 そうぼやけば後ろからゲシゲシと2人の龍と獣から足蹴にされる。一方でジュエはムード作りか、演奏をしている。


 空気を読んでほしい。


「……貴様は何故戦う? 本来なら貴殿はこちら側のはずだ」


「無論、友情の為ってのはあるが、一番は単に止められなかった戦争の被害を最小限に抑える為だ」


 JBは前世で行なっていた事はただの悪だと自負している。

 だが同時に悪の少数を悪で制した事で善なるものが堕ちなかったことも知っている。


 もちろん、ダークヒーローなどと誇るつもりはないが。


「俺は悪党だからな。悪党にはそれなりの美学があるってもんよ」


「清濁飲んだ王族か………貴殿のような悪党につくのも悪くはなかったかもな。因みに手足の様子はいかがだ?」


「見抜いていたか。そっちは傷口は治ったか?」


「ふっ、バレていたか」


 長々と話していた理由は互いに利点があった為。それさえなくなれば再び、殺し合いの始まりだ。


「ガルディ、ガルム、ジュエ。今からぶつかって、それで終いだ。邪魔すんなよ」


「騎士のように正々堂々か?」


「馬鹿か、元殺し屋と諜報官。影に身を潜めて生きるもの同士、惨めにやりあうだけだろ?」


「なるほど、貴殿もアザゼルと同じだったのか。ならば油断は禁物だったな」


 雑談の合間に女の悲鳴のような金属音が連鎖する。エルデのナイフをヒートが受け止めた音だ。


 ヒートは自身の身体能力にかまけた上下左右からの災害も含めた攻撃でエルデの命をもらい受ける。


 エルデは迫る、落雷を作り上げた避雷針にぶち当てて燃え盛るマグマを破壊して、唸る大気を維持の力でやり過ごし、凍てつく吹雪を気合い創造の体で耐え抜く。


 足踏みした地点から跳ね上がる土壁がヒートの視界を遮り、瓦礫の中から大気を消しとばす突きが心臓部を狙い撃つ。


 しかし、そこに至るまでの軌跡に空から降ってきた何かがエルデの腕を吹き飛ばし、粉々に変える。落とした心武器を足で拾い、返しの拳でヒートを撃つ。


 だが突き刺さったヒートからは何の感触も感じず、僅かな隙をついて受けたカウンターの拳がエルデの体内を侵食する。


(人の体内を破壊する災害………電磁波………いや、太陽嵐か。となればもうひとつは雹? ちげぇ、隕石だな)


 体制を立て直し、破壊された腕を付け替え、体の内部を埋めなおして、落ちてきた天井を見てそう判断。


「さて、災害に人が勝てるかな?」


 したり顔の男にちょっとイラっと来たがすぐに深呼吸をして痛みと淀んだ空気を吐き出す。


 おそらく星の災害ということは切り札を切ったのだろう。ならばこちらも切り札を切るしかあるまい。


 エルデはナイフを逆手に構えなおし、軽くジャンプし始めた。


 単に今まで使う必要がなかったから、使わなかったがこっから先はそういう訳にはいかない。


「Oh, the shark, babe, has such teeth, dear

 And it shows them pearly white」


 突如、エルデの口から流れ出たのはある歌。英語で謳われたそれはJBをある意味象徴するような曲だ。


「Just a jackknife has old , Eldebaran , babe

 And he keeps it, ah, out of sight」


 その歌は殺し屋の歌と呼ばれ、ナイフを持った殺人鬼でありながら、誰にも悟られることなく、犯行を重ねた軌跡の歌だ。


「Ya know when that shark bites with his teeth, babe

 Scarlet billows start to spread」


 そして皆、お忘れかもしれないがエルデは精霊族である。という事はこの歌は精霊たちを喜ばせることにつながり


「Fancy gloves, oh, wears old , Eldebaran , babe

 So there's never, never a trace of red」


 精霊たちがエルデへ力を貸す!


 精霊たちによって唱えられた光の魔法は多角的に放たれ、作られた光の廊からエルデが迫る。


 ヒートもエルデの進行を妨害するように空から流星を落としていく。光の尾を引いた流星を精霊たちの光魔法により、防ぎ、ヒートへ迫る。


「太陽嵐!」


 流星を降らしつつも、忍者刀に太陽のエネルギーを装填。エルデへ向けて振りかざす。


 莫大なエネルギーを前にしてエルデはナイフを突き出し、破壊しようとするが今の今までとは桁が違う。


 だからといって、退く理由もない。

 エルデはその身を維持して、膨大な太陽の力に負けないようにと一点集中して貫く。


「Now on the sidewalk, huh, huh, whoo sunny morning, un huh」


 そしてそこへ歌われた精霊たちの力が加わり、光の弾丸と化したエルデは太陽を乗り越えた。


「Lies a body just oozin' life, eek」


「だが既に射程内だ!」


 ヒートが忍者刀を順手に握り、腰を落とした。


 初めて、ヒートが構えた瞬間だ。


 直後、忍者刀が唸りを上げ、絶対的な剣撃が放たれ、衝撃波に揉まれながら、周りのものが吹き飛ぶ。


 光が収まり、残されたのは呆気にとられる王家のもの達。そこにエルデの姿はなく、勝敗は決した。


「なるほど………してやられたな」


「And someone's sneakin' 'round the corner

 Could that someone be Elde the Knife?」


 ヒートの背中から小さなナイフが胸辺りを貫通していた。


「あんだけの範囲攻撃は本人の視界すら遮る。影から支える者としては不合格だ」


「なるほど………為になった。しかし、某とお前にそれほどの差はないと………思ったのだがな」


 ナイフを抜き、今にも途切れそうな意識の果て、ヒートの言葉にエルデは悲壮感に満ちた声で


「テメェとの差は重ねて来た罪と背負うべき罰の差だ」


「ふん………難儀な道を歩いているな」


 そしてヒートは眠りについた。


「貴様ぁぁ!!」


「とりゃ!」


 激昂したエレナがこちらから迫って来ていたがそれをジュエが阻止し、倒れたところへ背中から馬乗りになる。


「元気いいな、発情期か?」


「よくも! よくもぉぉ!」


「安心しろ、こいつは生きてるよ」


 エルデの発言にエレナはヒートを見れば血は既に止血されており、疲れたような顔で眠っているだけだった。


「急所を外して創造の力で作った睡眠薬をナイフから出して眠らせただけだ。お前らは戦争後の会議に色々必要だからな」


「だが、私はジュエを許す訳にはいかない! こいつのせいで、忌子がいたせいで私の家族は呪われて死んだんだぞ!」


「それはいつの話だ?」


「1年前だ! モルテ様から教えてもらった! そこの女のせいで死んだとな!」


 エルデは冷めた目でエレナを見るが彼女はこちらから目を逸らさない。


「ったく、気のつええ女。一応、弁明しとくがジュエはつい最近まで昏睡状態だったんだが?」


「そ、そんな訳がない! 現にモルテ様は!」


「五月蝿え、戦争が終わった後で幾らでも聞いてくれ。色々証拠はあるからな」


 エルデは窓から外を見れば連合国があの要塞を前にして乗り込もうとしていた。これ以上、時間をかければ乗り込まれてしまうと判断して、エルデは走り出す。


「ガルディ! ガルム! ジュエ! 城内の兵士を一箇所に纏めとけ! 俺は戦争が終わるまで防衛してくる!」


「お任せを!」


 ガルディの元気な声に腕を振って、返事し、殺し屋は次の任務先へと移動するのだった。





 *





「もうやめないっすか? アンタが勝てる方法なんてないっすよ?」


 場面は移り、空間内には横たわる美少女と拳に血を滲ませた修道女。


「アンタじゃアタシには届かないっす」


 先程からずっとこの調子だ。ジゼルは溜め込んでいた精霊たちを全力で行使するが本来の彼女は後方支援型。


 前線でバフを自身にかけながら、己の肉体を光に変えて闘うモルテには遠く及ばない。


 故に血濡れたぬた袋のようになるのは仕方のない事でもはや意識が消え、痛みでまた舞い戻るということをジゼルは繰り返している。


「………? あ、ああ、また気を失っていたか」


「もう殴るのも疲れて来たから、殺すっすよ」


 何とか、立ち上がったジゼルではあるが体の治療をする前に何とか距離を取ろうと覚束ない足取りで移動するのでモルテはそれを防ぐように拳を撃ち込んだ。


 胃から逆流する内容物を飲み込み、転がった彼女は目から生気の光が消えていた。それでも倒れない理由があるのか、彼女はまた立ち上がった。


「………そのしぶとさに免じてアタシの最大の技で終わりにしてやるっす。食らうといい」


 一切の慈悲を消し、ジゼルの支配下にある精霊の一部を奪い取り放つ、一線の光。


「慈悲なき光拳!!」


『時間経ったよ!』


 その間に可愛い声が聞こえたのは自身がつけた時計。


「そうか………なら、私の役目は終わりだな」


 ジゼルは自分の魔力だけを最大解放し、目の前を覆う閃光を防御する。練られた魔力は僅かにモルテの体を押し留め、その隙に空間の出入り口を操作した。


「私の負けだ」


 ジゼルはモルテの拳を受けつつも、自分の体ごと足元に空いた異空間への入り口にモルテを抑え込む。


「な、何をする気っすか!」


 気絶したジゼルを振り解く合間にモルテは背中から雪へと落とされる。肺から息を吐き、痛む背中を押さえながらもひとまずジゼルにとどめを刺そうと拳を振り上げた。


「時間ぴったり、良くやったわ」


 刹那、横合いから雷鳴が轟き、側頭部へ足刀が突き刺さり、流れ出る血とともに雪を剥ぎながら地面を滑っていく。


「モルテ!」


「メロっすか!? じゃあ、ここは!?」


 声をかけてきたメロを見てモルテはようやく状況を把握する。


 辺りを見回せばベルゼ率いる魔族達が連合国を押し留め、目の前を見れば精霊達から力を譲り受けた龍がそこにいた。


「あの女、はなっからこれを狙っていたっすか!」


 つまり、あの空間で蓄えていた精霊だけでは自分を倒せないからジゼルはそれを有効利用できる相手に譲り渡したのだ。


 そして、マコトのパートナー達は自在に空間内の入り口を決められることが出来るため、その中でも最も信頼できるものに繋いだ。


 時計型アーティファクトはここの戦況が落ち着くまでの時間を知らせていたということ。


「さて、本腰入れてやりましょうか? 2人とも」


 雪に横たわったジゼルをダイアナに任せ、その女、クレアは2人を相手に挑戦的に指を動かす。


「貴方達に龍闘流法の奥義を見せてあげるわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ