平穏な学園生活①
「よお!ヒヤヒヤさせんじゃねえよ!」
「全くですわ。」
決闘が終わって治癒魔法陣が俺たちの体を癒したのを見て安心からか膝が砕け、座り込んでしまった。
それを見てエルデとガルディは笑っている。
「良かったぁ〜」
決闘後の状態は以前とは違い、泣き叫ぶ人も焦燥に駆られる者もいない。誰も死にかけていない。
「お疲れ、能力の制御、上手かった。」
「あっ、ありがとうございます。結局右手と左手に能力を分けることしか出来ませんでしたが。」
「けど追い詰めたのは貴方自身の力。勝ったのだから誇っていい。」
リリムさんが人間椅子の氷を解き、こちらへ近づいて来る。
その顔は相変わらずの無表情ではあったが声には喜色が含まれていた。
「まーくん〜!よく頑張ったね〜!カッコ良かったよ〜!!」
「わぷっ!?」
ジャラジャラと音がなる袋を持って突進して来たクレアさんに抱きしめられた。
てかヤバイ。何がやばいって女性専用前面衝撃吸収素材すなわち胸に顔を埋めた状態なのだ。
甘くむせかえるような匂いに顔全体を包む柔らかさ、もう…どうなってもいい…
楽園はここにあったのだから。
「…マコト君。」
「……ロゼさん!?」
何だこの空気?
はっ!まさかクレアさんの胸に鼻を伸ばしていたことを怒られるのか!?真面目な会長ならやりかねない!
「……マコト君?貴方は何故今回決闘をしたの?」
だが会長の質問は違った。
俺は正座して話を適当にごまかす。
「……それには海よりも深く、山よりも高い事情が」
「簡潔に。」
手元から火柱が上がり、清々しい笑顔の裏に怒りの般若が顕現しているように見え、反射的に全部洗いざらい吐いた。
「なるほど喧嘩を売られたから買ったと……」
「だって…あいつらがあんまり会長を馬鹿にするもんですから……」
「馬鹿っ!そんなのは気にしなくていいの!貴方がまた問題を起こして学園から退学させられる方が問題よ!」
「会長……」
「貴方達、痴話喧嘩は部屋に帰ってからしなさいよ?こんな大衆の前じゃあ愛なんて囁けないでしょ?」
その言葉に周りを見渡すと他の生徒たちが砂糖菓子を口いっぱいに頬張ったような甘ったるい顔でちらほらと散っていく。
「〜〜〜〜!!マコト君!来て!」
「えっ!ちょっ!会長!?」
会長は俺の手を取ると走り出した。
「大丈夫ですか!会長!?」
「大丈夫じゃないから逃げてるんでしょ!あの空気に耐えられる訳ないじゃない!」
いやそうじゃなくて……そんな全力疾走で体力持つの?
結局、食堂の建物の陰に隠れた時点で会長は死にそうな程の荒い息を吐いた為に休憩を取るのだった。
*
「さあ……ハア……つ、着いたわ。」
「会長、生きてます?」
「死にかけてるわ。」
会長に手を繋がれたまま連れてこられたのは学校の中にある活動部として使われている部室の1つ、『卓上遊戯 トライアル活動部』の部室だ。
「はあっ……はあっ……ごめんなさいマコト君。そこに水の魔結晶が置いてあるから冷たい水を貰える?」
彼女は少し古びた机を挟んで向かい合うソファに体をだらしなく沈める。
彼女は近くの棚を指差し、コップのある位置も教えてくれた……が
「会長……手を離してくれなきゃ水を注げないんですが……」
「えっ……あっ!ご、ごめん!」
顔が首の付け根まで朱をを注いだように真っ赤なまま勢いよく手を離す。
「大丈夫ですよ、俺、女の子なんかと手を繋いだの初めてですから。」
「……馬鹿っ!」
俺は会長の言葉を笑って流し、水の魔力で固められた魔結晶に手を触れるとチョロチョロと水がコップに注がれていく。
露が浮かぶコップを会長に差し出すと両手で持ち、クピクピと小さく飲んでいく。
「会長……謝ってもらいました?」
水を飲み終わってから流れる静寂。
暖かな春の日差しが2人の間の机に差し込む。
そんな中、俺は沈黙に耐えかねて口を開いた。
「ええ……貴方がリリム達と離している間にね。」
「そうですか……」
沈黙が痛い!静寂が苦しい!
くっ、何かないか!楽しくなれる話題は!
「私ね、アルフレッドにより戻さないかって言われたの。」
「んなっ!?」
まさかの展開!?
これは元鞘に戻るから契約切るということか!?
けど会長を捨てたあんな女たらしに……たらしに…
女の子2人と同時契約してる俺には強く言えないやつだ……これ。
「で、何て返したんですか?」
「お断りしますと。そしたらやけにしつこかったので強めにあしらったら、壁に追いやられて危うくキスされるところだったわ。」
「……それ訴えたほうが良くないっすか?」
「一応先生方には話を通すけど間違い無く、もみ消されるわね。先生たちも公爵家には逆らいたくないでしょうから。」
「何て世の中だ……」
権力によるもみ消しなんて前世でもあったにはあったがそれが身近に行われると憤るな。
「けど会長……」
「俺よりも何て言葉は言わないで。」
先読みしていたのだろうか?会長は真面目な顔つきで言葉を続ける。
「権力でパートナーを決めるみたいな真似、私はしたくない。私はパートナーの全てと向き合ってそれで決めたいの。その結果、貴方が選ばれたんだから、もっと自信を持って!」
「会長……」
「ロゼ。」
「え?」
「だから私のことはロゼって呼んで。だってマコト君はいつも私のこと会長って呼んでるじゃない。リリムは名前呼びなのに。」
もしかして会長拗ねてる?
いやいやまさか……そんなことあるわけない。
「えっと……じゃあ、ロゼ…さん。」
「な、何かな?マコト君。」
会長の耳が真っ赤だ。
多分俺の顔も真っ赤だ。
なにこれ超恥ずかしい!!
「マ、マコト君?」
「な、何でしょうか?」
何でこんなお見合いみたいな雰囲気なの!?
心臓バクバク言ってんだけど!
「も、もしよかったら色々とお礼をしたいんだけど……いい?明後日の夜とか空いてる?」
「えっ!ええ、もちろん!空いてますとも!」
これって自惚れていいならデートのお誘いだよな!
まじか!マジだ!夢じゃないのか!
「じゃあ……夜ご飯は食堂じゃなくて外の……城下町の方にあるお店で食べようか。外出許可を取っておくから。」
「は、はい!」
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
白髪生徒会長とご飯デート!
あ、やべえもう緊張してる!
「そ、それと……」
「そ、それと?」
何だ!?まだ何か俺にあるのか!
この密室で、2人きりで、行われることに期待しちゃって良いんですか!?
ロゼさんの桃色の形の良い唇に目がいく。
いかん!邪な気持ちは抱くな!紳士だ!紳士であれ!
「この活動部に入ってくれない!?」
「ロゼさん!俺たちまだそんな……なんて?」
あっれー?なんか桃色空間が一気に消し飛んだぞう?
おっかしいなあ。
「え?だから卓上遊戯活動部に入ってくれない?私、夢だったの!パートナーと一緒にトライアルをやるの!」
ふふ……そうですよね、知ってた。
うん、真面目な会長がそんなことするわけないもんね。
「……ええ」
「本当!やった!じゃあ後で部屋に入部届け置いておくから書いたら生徒会室に出してね!そうだ!こうしちゃいられない、早く準備しなきゃ!」
もうキラキラと輝く笑顔で部屋内を歩き回る彼女を見て、下心塗れの俺が恥ずかしくなる。
「ねえ、マコト君。」
気づけば会長は俺の後ろに回っていたらしい。
俺は会長の方に振り向こうとした時に頬に柔らかな感触を感じた。
「ありがとう。私を助けてくれて、私の為に戦ってくれて。」
会長の顔が俺からはなれる。
僅かなリップ音から自分が何をされたか理解した時には会長はすでに部屋から出て行っていた。
「……マジか。」
彼女の唇が触れた部分から流れる熱が身体中を覆い、焼けに死にそうなくらいの感覚に暫く苛まれるのだった。
「ロゼ、どうした?俺の部屋の前で蹲って……」
「喧嘩でもしたんですの?」
「エルデ君……クレアさんの言う通りにやったんだけど顔から火が出そう……どうしたらいい?」
「……とりあえずクレアシオンは殺しますわ。」
*
翌朝!
結局一睡もできなかったよ!やったね!
だからテンションが高いよ!やったね!
あの後、ロゼさんが部屋には帰ってこなかったよ!
入部届けを持ってきたキュレイさん曰くエルデの部屋に泊まるとか。
うん!俺もある意味良かったかな!
だってあんなことされて意識しないわけないからな!
しかも朝起きたらクレアさんが俺に抱きついてたよ!柔らかな胸に肉つきのいい足に挟まれて動けなかったよ!
おかげで迎えに来たリリムさんにゴミを見るような目で見られたよ!
さてそろそろこのテンション維持するのも疲れたので普通に行こう。普通って大事。
朝はクレアさんとリリムさんに連れられて食堂へ。
昨日の惨事が学校中に伝わっているらしく、俺が食堂に足を踏み入れた瞬間、周りの生徒のお喋りが消え、席が空いた。1人は吐いた。
「おいーっす。」
「おう、おはよう。」
エルデが大欠伸をしながら俺の向かいの席に座る。そういえばパートナーを連れていないがどうしたのだろうか。
「エルデ、どうしたんだガルディに愛想を尽かされたのか?」
「ちげえよ、急性ガルディ面病っていうタチの悪い病気にかかっちまったんだよ。あまりの不細工面に俺は魔物と間違えちまったよ。」
「あら旦那様?」
「………冗談です。話し合いをしましょう。」
「知ってますか?言語の9割は肉体言語で表すことができますわよ?」
その言葉を言った直ぐにガルディがやって来て顔面に多数の腫れが残るほどのラッシュをかましていく。
「私がガルディ面なのは当たり前でしょうが!クレアシオンみたいな美形じゃないにしてもですわ!静かにクレアシオンも笑わないでくださいまし!」
「ごめんって姫様、悪気は大半を占めてるだけだから。」
「それは馬鹿にしてるんですの!」
サンドバック状態のエルデが地面に沈んだ所でガルディさんも椅子に座る。
「にしてもガルディさんとクレアシオンさんって知り合いなの?」
「あらどうして?」
「え、だって少なくとも知らない奴を姫なんて呼ばないでしょ?」
「違う、2人は知り合いどころかもっと深い関係」
リリムさんはレポート用紙に何かを描き殴りながらそう呟いた。
「もう話したらどうですの?大方貴方の事ですから話してないんですよね?」
「私も同意見」
「え〜リリムちゃんまでお姉さんに味方してくれないの?まーくんはお姉さんの恥ずかしい秘密を聞きたい?お姉さんに味方してくれたらぁ、後でご褒美あげるわぁ。」
ちらっとワイシャツのボタンを開けて胸元を指で下に広げるクレアさんの誘惑に理性で押し勝ち、真っ直ぐ見つめる。
するとクレアさんも折れたようで心底だるい感じで話し始めた。
「私はクレアシオン。かつて魔王を倒した竜種の英雄の隠し子。そして魔王が降臨した時代に国の騎士団長を務めて100年間国を守りつづけただけよ?」
「英雄の隠し子……それって」
俺と一緒じゃないか。
「クレアシオン、経歴を誤魔化さないでください?騎士時代の魔族数百人に対し、小さな村を守るために1人で立ち向かい迎撃した『孤高の丘戦』に騎士をやめて傭兵稼業をしていた時代に人質に取られた私を助けるために活躍した『龍姫事件』などの数々の戦争や事件を解決に導いた我が国の英雄より英雄らしい『黄金の雷撃龍』」
「すごい……」
それだけの事件を解決したってことはそれ相応の実力を持つという事だ。そんなクレアさんが俺のパートナーだったのかよ。
釣り合わねえ……俺のパートナーたちって全員がかなりの実力者なのか?
この調子だとリリムさんもめちゃくちゃ強そうだ。
「まーくん、そんな羨望の眼差しで私を見ないで貰える?お姉さんはただ自分の欲に正直なだけよ?村を守ったのだって村特産のお酒を無くすのが惜しかったからだし、姫様を助けたのだってお金が欲しかったからよ?」
決まりの悪そうな顔でそう付け加えるがそんな理由でも彼女が歩いた軌跡でそれだけの人を救って来たことに変わりはない。
「欲が無くて人を救うような奴の方が信じられないですよ。その点ならクレアさんは信用出来ます。それにそんなクレアさんがパートナーで俺は良かったです!」
欲なしで世界を救うなど絵本の中のヒーローだけで充分だ。
現実の英雄だって俺たちと同じなのだから欲があって当然だ。
「まーくん……ああもう!この話はお終い!お姉さんを悶え死にさせたくないでしょ!?」
(照れてる)
(照れてますわね)
(けどマコトの奴は気づいてねえだろ。)
(復活が早いですわね。もうちょっと強めに殴るべきでしたわ。)
(これ以上殴る場所ねえよ!?)
なんか復活したエルデも含めて目で会話してんな?なんだろう、まぁいいや。
「わかった話を変えよう。今日が初めての授業なんだけどなんか気を付けることある?」
そう今日から魔法の授業なのだ!
異世界に来たらやっぱり魔法は使ってみたいと考えるのが普通だと思うんだ。
「まあ基本魔法の授業ってのは下級、中級、上級って分けられててな。最初は下級、在学2年になったら中級、最後の年は上級みたいな感じだ。」
「まずは下級が理解できれば中級へと上がれますわ。たまに魔法の適性が高いやつは新入生の頃から上級に上がる人もいます。会長とかがいい例ですわ。」
「あいつは魔法の腕だったら学園内でも五本の指に入る。テメエが組んだのはそれだけの魔道に愛された女だ。」
話している間に出された料理に目を取られていた俺にナイフを突きつけるエルデ。
「だが弱い部分もある、その部分はお前が支えてやれ。俺から言うのはこれだけだ。」
「お、おう。」
やっぱり身内が心配なのだろう。
意外と身内に甘いタイプなのかもしれない。
「あ、そうだ生徒手帳貰っただろ?ちょっと見せてみろよ!」
生徒手帳?あぁそういや入学式の前日に手渡されて制服に入れっぱなしだったわ。
「これがなんかあるのか?」
「この学園の生徒手帳っていうのはいわば自己紹介も兼ねてんだよ、ほらみてみろここ。」
エルデに生徒手帳を奪われてパラパラと捲られた先には個人欄と書かれたページだった。
名前 マコト・カラスマ
武器 拳銃
ランク B
ステータス 魔法 ?甲斐性 B 体力 C 頭脳 C 特殊 S
パートナー ロゼ キュレイ
親愛度 ロゼ 62
クレアシオン 54
リリム 38
心武器 イグノアゲヴェーア
シャッフェンゲヴェーア
カウントゲヴェーア
「本当に3人と契約してますわね。これからたらしって呼びますわよ。」
「いいなぁ、羨ましいぜ、全くよ!1人は真面目な美人会長にもう1人は妖艶な魅力を持つお姉さんに神秘的な雰囲気を醸し出す知的美少女。ハーレムじゃねえか!!」
「ロゼの親愛度高い。」
「あれ?待ってステータスに甲斐性とかある事が普通なの?何で誰も疑問に思わないの?」
「特殊が高い……なんか潜在的な力……ああ、そういうことか。」
「無視かよ、ちくしょう。」
よし受け入れよう。
文字通り住む世界が違うのだ。文化も違うに決まってる。
しかし、今更ながらだがハーレムなんか築いていいのか?普通はパートナーは1人だろ?
「なあエルデ?この国って愛人を囲うのってやっぱ不味かったりするのか?」
「ん〜この国は別にそこまで厳しくねえよ。俺たち人間は寿命が短いし、弱いからな。沢山の血筋を残すために愛人を2、3人囲んでいるやつだっている。まぁ国それぞれってとこか。」
なら、大丈夫か……?
いや大丈夫じゃないんじゃないか?
俺のパートナーを振り返って見よう。
ロゼ・イノセンティア 元公爵令嬢。現子爵令嬢
クレアシオン 英雄の血を引く者かつ有名な騎士
リリム・ブラウ・ウィチェリー 魔族のお姫様。
あかん……これ誰を正妻にしても揉めるやつだ。
まぁ、きっと、多分、おそらくなんとかなるさ!
一種の諦めの境地に達した時、後ろから秋葉原でよく見る感じのメイド服を来た若草色のエルフ耳の女性が俺やリリムさんの前にお皿を置いて行く。
「わあ……もしかして、マコト様ですか?」
「え、ええ…」
「おい、あいつまた口説いてやがるぜ?俺じゃなきゃ見逃しちまうね。」
「これ以上顔を膨張させたくないなら少し黙ってなさい。」
「頼むから朝から喧嘩だけは本当にやめてよお?お姉さん朝から疲れちゃう。」
おいそこのヒソヒソ組、何故か急に話しかけられた俺にこの場を上手く乗り切る対処を教えてくれよ。
横から感じるリリムさんの絶対零度の視線に体が凍りそうだ。
「うわぁ!!握手してもらっていいかな〜私、彼に言い寄られてて困ってたの〜」
「あ、はい。」
差し出された両手に答えるように片手を差し出すとふっくらとした焼きたてのパンみたいな 柔らかな手でにぎにぎして来る。
「ふわぁ……」
ふわぁじゃないよ?やめて、横目にナイフを巧みに扱うクレアさんの姿が見えてるから、ここらで勘弁してください。
「ふふふ〜ありがとう〜私みたいな1ファンがこんな事できるなんて夢みたいだよ〜」
「1ファン……?」
俺が首を傾げると彼女はスカートのポッケから1枚のカードを取り出す。
「ジャジャーン!『マコトファンクラブ(仮)』会員番号2番!昨日の決闘以来出来たての小規模の集団なんだよ〜」
飲んでいたコーヒーを吹き出したエルデの側にいた同じようなメイドの女性がテキパキと黒いシミを消して行く。
「はっ!?何それ!?俺、聞いてねえよ!?」
俺は3人の方へ向く。
3人は俯いた。
俺が下から覗き込むと顔を横にそらした。
だから俺は笑って聞いた。
「お前ら……何か知ってんな…?今、白状すれば鉛玉食らわさずにすむが?」
「「エルデがやりました(わ)!!」」
「おい!お前らも乗り気だったじゃねえか!ファン倶楽部設立して関連商品売ればがっぽがっぽ……ま、待て、一旦落ち着け!ていうか落ち着いて下さい!話し合えば分かる!人類皆兄弟!そうだろ、マコト?俺たち親友じゃないか?だからっ!銃を下ろして!お前の心武器じゃあ間違いなく死ぬ!」
身に迫る身近な殺意に絶賛滝のような汗を流しながらも必死に弁解するが、マコトの顔から笑みは消えない。
当然、エルデは焦る。
笑みに隠された底なしの深淵の圧が消えないのだ。
これは非常に不味い。
「い、いやごめんっ!イワンもスティーブの件も含めてお前を尊敬する奴らがいっぱいいたから適当にファン倶楽部設立したら、思いのほか儲かって……わかった!謝る!謝ります!ごめんなさい!だからお願い!肩から手を離して!銃を閉まって!僕を許してっ!!」
「もう諦めなさい。どう足掻いたって貴方が悪いことに変わりはありませんわ。」
「あっまーくん、そこの紅茶もらえる?」
「助けて!自分達が無事だからって!!この薄情者!!」
「遺言はそれだけか?足りねえな。」
かちゃりと銃口が向けられた。
あまりの怒りに彼の瞳は魔眼と化す。
「最期に1つーーいい小遣い稼ぎになったぜ!!」
「そっか死ね。」
舌を出して嘲笑うかのようなエルデへゴム弾の一撃をかますのだった。
*
「畜生ぉ……何で俺だけ…」
とりあえずありったけの力を込めた拳銃での殴打とゴム弾1発の弾丸が綺麗に決まった彼は椅子から転げ落ちると体育座りでいじけはじめた。
自分だけが殴られて、ほかの2人が殴られない理不尽な世を嘆く。
とは言ってもノリノリで始めたエルデと違い、ガルディは監視役、クレアさんは俺が学園に受け入れられる一歩として行なっていたのだ。
だから殴られても2人は庇わない。
「マコト様、もしよかったら、今度私の作った料理食べて頂けませんか?」
無論、熱烈なファンに迫られている俺も助けない。
リリムさんはカリカリに焼かれたベーコンエッグをお代わりし、クレアさんはふんわりと黄金色に焼かれたフレンチトーストを綺麗に切り分けている。
つまり、干渉しないということだ。
おい、おいっ。
「あのさ、君は帰らなくていいの?ほかのメイドの人は帰っちゃったよ?」
仕方あるまい……適当に彼女をあしらうとしよう。今はまだリリムさんの氷の視線がある体を貫いているだけだ。まだ大丈夫
問題は今、ここにいないロゼさんだ。
真面目な彼女がクレアさんやリリムさん以外の女の子にベタベタされているのを見たらどうなる?
間違いなく、雰囲気は悪くなる。
「ふぇ?」
コテンと首を傾げて不思議そうな顔になる彼女、すると合点がいったのかポンと手のひらを叩くと改めて自己紹介をはじめた。
「初めまして、私はシエル・エアリスフィアです。この学園にある喫茶店『W・S』の支店長やってまーす。新入生なのでよろしくお願いします、マコト様?」
「えっ!W・Sってあの城下町にある幻の喫茶店の!?いつ開くかは不明ながらも一度開けばたちまち客が入って来るって言うあの!?」
「それだけじゃねえ、そこの店長はかなり優秀な料理人であり、作った新作料理を他のところにも下ろしてるって話だ。噂じゃあ王宮専属の料理人として雇ったんじゃなかったか!?」
「詳しいな、2人とも。」
「お姉さんは昔、男を連れてそれなりによく行ってたからね。」
「俺はお洒落な喫茶店は全部チェックしてる。だってほら、女の子と遊びに行く時にお洒落な店の方が好感度上がるだろ?」
この2人はあれか、割と遊び人なのか。
「そんなこともありました。けど、皆さん私が一緒に働くと作業効率が落ちるんですよね。何ででしょう?」
本当に不思議そうにうーんと言いながら悩むシエル。
「…そりゃあれだろ、そんな凶器を持ってるから。」
「凶器?そんなもの何処に持ってるんだよ。」
「馬鹿だな、マコト。男を落とすには最高の武器だろうが。」
おいそこの変態。
目線を上げろ、顔の下、腹の上らへんをガン見すんな。
確かに大きいが!何がとは言わないが大きいけど!
背が小さい割りに大きいけど!
「皆さん、私の体を見てどうかしましたか?」
「イヤ、なんでもない。さっさと帰った方がいいんじゃない?エルデも困ってるし、君のパートナーも待ってるだろ!」
「あっそうでした!でしたらここで失礼させていただきますね?」
彼女は頭を下げてそそくさと立ち去るが側にいた熱い紅茶のお代わりを持って来ていたメイドの人にぶつかってしまう。
「ふわっ!あっ!ちょっ!ああっ!」
咄嗟に熱々の紅茶が入ったティーポットをキャッチしようとするが手が滑り……ってまてこっちに来んな!
「わあぁぁぁぁぁぁ!!」
「あっつァァァァァァァあああああああ!!!!!」
華麗に彼女の手に弾かれたティーポットは弧を描き、芸術的な角度で俺の頭に降り注いだのだった。
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