自分の内に潜む者
どうもソラです。
幕間二話投稿してから1部最終章に入りたいと思います。
「開けろ」
夜の帳が下り、月すら見えない暗闇を頭までフードを被った男が裏路地をあるき、ひっそりと存在する扉へ声をかけた。
音もなく、扉は開き、男は中に入る。
中は古びた酒場かなにかの建物だったのだろう。カウンターの向こうに割れた木箱が置いてあり、蔵主か誰かがそこに腰掛けていたのだろうと推測できる。
「待っていたぞ!人間!儂を呼び寄せるとはいい度胸だな!」
「焦るな、獣。お前だけか?」
先についていたのか、カウンターに座って勝手に安酒をかっぱらって飲んでいる獣人にそう問いただせば獣は鼻で笑った。
「龍はだめだ。恩があるからやらねえだとよ。精霊もだ、国を救われた2つは参加しねえ」
「となれば私たちだけでやらなくてはいけないのか………些か不安だな」
「あ?何が不安か言ってみろ!アトミック!」
「本名で呼ぶな、どこから情報が漏れるか分からん。良いか?今回の件はあの方が先に情報を流してくれたおかげで早めに手が打てそうなんだ」
「まさか怖気づいたのか?また新たな魔王を殺すだけだろ?」
「少し黙れ。いいか、あの女が私たちの秘密に気付けば今の地位なんて消し飛ぶ!わかっているなら、協力しろ!」
「へいへい、魔王の愛娘リリムを殺すのに協力すればいいんだろ?」
「ああ、そうだ。だからこそ戦争のための口実も得た。部隊も整えた。情報が漏れる前に早めに叩く。わかったな?レグルス?」
「あいあい」
2人がフードを脱ぎ、出た顔を見れば平民なら腰を抜かすだろう。
なぜなら片方はコンジュレイの王レグルスであり、もう1人はディアブレリーの王アトミックだったのだから。
これはアトミックにレグルス、ディアブレリー王国とコンジュレイ王国の密会なのだ。本来ならば四大国でやるはずだったが、グラマソーサリーにヘクセレイは参加を拒否した。
理由は明確
「マコト・カラスマ………奴がここまで障害になるとはな」
殺す対象のリリムのパートナーであるマコトに恩があるからこそ、そのパートナーを殺すための戦争には参加できないとして二国は退いたのだ。
代替わりしたせいで秘密がないヘクセレイはともかく共通の秘密を抱えるグラマソーサリーには脅迫もしたのだが
『ならば我が国は貴様らを敵とみなす』
あまりの覇気に何も言えずにやむなく、コンジュレイだけと連合国を水面下で結んだ。
「準備が出来次第、すぐに殺してやろう………リリム!」
壁にかかっていたリリムの似顔絵へナイフを突き刺し、ズタズタに引き裂く。
ディアブレリーとコンジュレイの連合国ならばかつて最強を誇ったウィチェリー帝国を潰すことなど容易いだろう。
誰かが意図してリリムに情報を渡さない限り
*
「で………何で俺は砂漠のど真ん中にいるんでしょうね?」
やっほう、マコトだぜい。
エルデから得た情報からリリムさんは一度父と話し合うために領地に戻ったんだ。
そしたら、クレアさんロゼさん、霞も一度国へ帰りたいと言い出した。
『まーくん、お姉さんは出来たら2人の味方をしてあげたいけど………良くも悪くもお姉さんは影響が大きいから、ディアン様に話をつけてくるわぁ」
『先輩!私は必ず帰るからな!今回の件をちょっと問いただしてくる!』
『………ごめん、2人とも。私もちょっと情報を集めないとすぐに決断できない』
各々がこれから起こるであろう戦争に様々な準備をするために戻ったとみていいだろう。
てな訳で残された俺はルナールさんに連れられて何故か砂漠のど真ん中を歩いていました。
「意味がわからない!」
「意味がわからないだと…?花婿よ、そなたは本気で言っているのか?」
なぜか不機嫌なルナールさんに思い当たる節を探っては見るが特に思いつかない。
そんな俺をみてルナールさんは痺れを切らしたのか、半分涙目になった。
「だっておかしいだろう!今回は妾が主役ではなかったのか!?なのに美味しい所は全てリリムが持っていったでないか!何だ、最後のは!あれだと妾はただの騒がし屋であろう!」
「実質そうなんじゃないですかね」
どうやら今回のヒロインの座を最後の最後でリリムさんに取られたのがよほど悔しいらしく、2人っきりになろうと国を出てきたわけだ。
「今しかないのだ!そなたのパートナー達を出し抜く機会はここしかない!という訳で妾の仕事に付き合ってもらうぞ、花婿よ」
「ちなみに仕事とは?」
「そうか、ついて来いとしか言っておらぬかったな。今回の仕事は脱獄した死刑囚の確保だ」
内容は至って簡単、あの騒ぎの中でまんまと逃げた死刑囚を確保する、又は殺して無力化するのが今回の仕事のようだ。
「死刑囚の名はアストン、イリーナ。経歴は騎士団長殺しほか、死体集めなどをした凶悪な犯罪者だ。心武器は靴、『同調』『同化』の力を持つ。戦い方は周りの自然に同化し、手足のように操るなどだ。気をつけろ」
「それでその死刑囚達は今、どこにいるんですか?」
「それはだな………あそこだ。見えるであろう?」
「こ、これは!………でかい壁?」
それは壁、いや扉だった。
どう見ても罠にしか見えない扉を前にし、横を見ても抜けられそうな穴がないと分かり、肩を落とす。
「これは何ですか?」
「妾が生まれた時に出来た迷路だな。何人かが調査に入っては見たが中には危険な魔物がうようよしているらしく、帰ってきたのは妾しかおらぬ」
「だけど日ごとに迷宮は変化して決まった形がないとかなんとかですか?」
「おお!流石だな!花婿よ!その通り、この迷宮は変化し続ける迷宮だ。ひとたび迷い込めば脱出不可能だが、妾達には効かない。そうであろう?」
「はいはい、そういうことですね」
ここで新たに得た心武器について語ろう。
ロゼさんがマシンガン、クレアさんがショットガン、霞がスナイパーライフルと変化して来た。
そしてルナールさんによって変形した心武器は………グレネードランチャー。一気に危険度が増しました。
そして得た能力は『空間』、銃を撃ち込んだ場所に異空間をつくりだし、中へ入ることができる。
中は改造などによって空間を作り変え、一軒家になっている。
穴は複数設置が可能でマコトが許可を出せば誰でも入れるが出るにはたった一つの出口からしか出られない。
出口の場所も任意に決められるがそれもマコト、又はパートナー達だけしか使えない。
ちなみに空間内部を過ごしやすいように食べ物やら飲み物を用意しているので避難場所としても有効。
つまり今回はこの力を使って、出口を設定してから中に入り、探索に疲れたら空間内部で体を休め、戻りたかったら最初に弾を撃ち込んだ場所に戻るという作戦だ。
「よし繋がったな!ではいざ!たのもー!」
だいぶ重さがあるであろう扉を両手で押し広げていくルナールさん。いまだに九尾状態のために実力に不安はいらないが
「夜とか搾られそうで怖いな…」
嫌な予想を吹き飛ばすように頭をぶるぶると振って俺たちは中へ入る。
幅は10メートルほどだが壁が異様に高い。
おかげで日の光も届かず、昼間だというのに薄暗い。
軽く把握と俯瞰を使ってわかったのはこの迷路が1キロ以上もあることだ。完全にお遊びのつもりで来たら死んでいること間違いなしである。
「マッピングは不可、となれば把握で位置を確認しながら進むしかないですね」
「その為にそなたを連れてきたのだぞ?」
銃を片手に空から見下ろす神のような視点を持って迷路内の進むべき道を決める。
もちろん、迷路も先へと進ませないように次々に魔物を送り込むが
「くはははっ!完全体の妾に叶うものなどおるものか!」
蛇みたいな魔物に馬と人の合成みたいな奴や液体でありながら触手を合わせ持つ気持ち悪い見た目の魔物を片っ端から鏖殺するルナールさんがめちゃくちゃ頼りになる。
「意外と罠らしきものは見当たりませんね」
「まあ、その分外の世界より魔物は強いぞ。妾だから楽勝だが、普通だったら全滅もあり得るからな?」
会話中にも飛びかかってきた魔物を拒絶弾で消滅させ、迷宮の奥へと進んでいく。
「そのアストンは一体どんな悪党だったんですか?」
道を間違えることなく、順調に進んでいき、最初よりも魔物が強くなっていることから何かに近づいていることは確かだ。
しかし、あまりにも単調なので話題をルナールさんに振る。
「あまり聞いても面白くないが、暇つぶしにはなるか。さっきも言ったが奴は死体を集めて完璧な人間を作ろうとしていたのだ」
「完璧な人間?」
「要は魅力的な女性を作ろうとしたのだ。イリーナは根っからの殺人者でな、奴ら2人は利害が一致し、パートナーを組んでおったのだ」
「そんなのどうあがいても無理でしょ」
要は死体のパーツを繋ぎ合わせて最後の人間を作ろうとしたのだろう。だが元は他人の体同士、うまく繋ぎ合うわけもない。
「結局、その完璧な人間(笑)が完全する前に逮捕された。唯一、人形だけは見つからなかったがな」
「それホラーとかだったら、呪いの死体として動く奴ですよ」
「心配するな、結局人形は見つかったからな」
「へーどこにあったんですか?」
「この迷宮内」
「それあかん奴!え?何、倒したんですよね!?ルナールさんのことだから、きっと!」
ルナールさんはふいっと視線をずらした。
明後日の方向に向いたままの視線は一向に戻る気配がない。
「何やってんのぉぉぉぉ!夏だからってそんなリアルな怪談なんていらないよ!フラグビンビンじゃないですかぁぁぁ!」
「大丈夫、大丈夫、ちょっと強いだけだから。ガルディくらいだから大丈夫」
「全然大丈夫じゃない!ガルディさんって割と強いよ!?裏を返せば一般人は死にますよ!?」
「あまり騒ぐな、花婿よ。アストンに見つかってしまうぞ?」
何だその理不尽。そんな言葉を飲み込んで前を見れば
継ぎ接ぎだらけの女が立って………あかん
「よし殺そう、あれは絶対生きてちゃいけない奴だ」
「おお、運がいいな。噂をすればすぐにやってくるとはな」
とりあえずルナールさんは後で問い詰めるとして此の世のもの全ての怨みを煮詰めたような呪詛を吐きながら四次元使った変則的すぎる歩法でこちらへ喰らいこうとする。
しかし、捉えきれない速さではないし、魔眼を使えば奴の最終目標は分かってるからそこへ銃口を添えるように置き、引き金を引く。
弾丸は今にも俺の脳髄を喰い散らかそうとした人形の脳漿をぶちまけて更に拒絶で跡形もなく、消え去った。
「成仏してくれるといいんだけど」
「今まさに物理的に成仏させたがな」
仕方ないじゃん。魔眼で見てもあれは必ず人に害を及ぼすタイプだし、こんな辺鄙なところにあるとはいえ誰かが入ってこないとも限らない。
「そもそもこの迷路は奥に何があるんですか?ルナールさんは最後まで行ったんでしょう?」
そう聞くとルナールさんは何故か難しい顔をした。
「それが………妾にもよくわからんのだ。この迷路の奥にあるのは1枚の扉、だが開こうにも開かず、扉に書かれてる言語も読めないから、諦めて帰ったのだ」
ほうほう、なんか冒険活劇みたいになってきたじゃないですか。
「でも今回の目的はアストンを捕らえることですからね、扉の件はまた後にしましょう」
「………」
返答がない。何か気を悪くしてしまっただろうか?
「ルナールさん?」
「花婿よ、構えろ」
え?と俺が思った矢先、両側の壁が生き物のように動き出し、俺たち2人を圧殺しようとする。
すぐさまルナールさんを連れて空中に移動し、難を逃れたが今度は空から鳥型の魔物たちが飛来する。
「にゃろ!」
自由な右手で拒絶弾に変えて魔物たちの頭蓋を砕きつつ迷路を創り出す壁へと着地。
「違う!走れ、花婿よ!」
だが焦ったルナールさんの声の通りにすぐに走り出せば自分がいた場所が巨大な石牙によって噛み砕かれる姿だった。
更に俺たちを追いかけるように伸びてくる白亜の腕を俺はちらっと魔眼に捉えた。
名前 アストン
武器 牙→牙狼
所属 なし
ステータス 魔法 B 甲斐性 E 体力 B 頭脳 B 特殊
パートナー イリーナ
種族 猿の獣人
追記 迷宮の支配者
親愛度 イリーナ 65
「ルナールさん!こいつアストンです!迷宮に『同化』してるみたいですよ!」
「やはりそうか!ならば、てやっ!」
銀の鍵から弓と矢を取り出し、流星の光をまとって迷宮へ着弾する。
「ダメです!迷宮を攻撃しても本体に効いていない!叩くなら本体を叩かないと!」
「なら今、奴はどこにいる!」
走りながら把握に切り替え、迷宮内をサーチ、生体反応がある部分を見つけ出し、ルナールさんへ指示を飛ばす。
「曲がり角の右端!」
「任された!」
槍に変えたルナールさんが三歩で踏切、隕石のような威力を伴った槍が狙った場所へ当たる。
すると後ろから追いかけていた手が崩れていき、当たった部分から大柄な体躯をもつゴリラみたいな男が出てきた。
「貴様か狐………」
「そうだぞ、猿。殺しにきたぞ?」
陰鬱な口調でそう語る男にルナールさんは軽やかに話しかけるがアストンはそれを無視し、こちらに目を向けた。
「貴様がルナールのパートナーか………」
「おう、マコトって言うんだ。よろしく頼む。てな訳でおとなしく自首してほしい。あんまし、戦いたくはないんだ」
「ぬかせ、貴様………」
野獣のような眼光で睨まれるもついこの間味わった殺し屋の殺気に比べたら気にすることはない。
「さっさと諦めるんだな、そなたの考えは悪くはなかったぞ?迷宮に同化すれば破壊はほぼ不可能だからな。現に妾の槍の一撃もヒビを入れただけだ」
「悪いが諦める事は出来ない………どっちにしろ、迷宮内の材料は山程取れた………貴様らを殺して逃げるとしよう」
すると再び、壁に潜り込み、再び俺たちに迷宮が襲いかかる。
「ふん、妾達に勝てると思っているようだぞ、この男は」
「ならその期待を裏切ってあげましょうか」
俺がルナールさんの前に立ち、ルナールさんは後ろからの攻撃を防ぐために自然と背中合わせになると武器を構えた。
だからこそ、忘れていた。
敵は目の前のアストンだけではなく、イリーナという女がいたと言うことも。
トスっと軽い音といきなり現れた気配に後ろを向けばそこには背後から抱き締められるようにして胸から刃を突き出すルナールさんの姿だった。
「ルナールさん!!」
「ぬかった………!」
ナイフを持った女、おそらくイリーナは、瞳に狂気を宿しながら、ルナールさんを背後から抱き締めて首筋に顔を埋めている。片手は当然、背中から彼女の心臓を貫く剣を握っていた。
「パートナー同士で協力するのが戦いだ………これが年季の差だ………小僧………」
「ああああああ!!」
もはや反射的にぶっ放した弾丸が当たる前にイリーナは壁へと潜り込み、どこかへ消えた。
どうやらアストンが回収したみたいだが今はどうでもいい。
「大丈夫ですか!ルナールさん!今、治しますから!」
すぐに改造弾で傷口を塞ごうとするものそれより早く、アストンが迷宮の手を伸ばし、ルナールさんを壁へと取り込んだ。
「これでお前はパートナーを永遠に失う………何、心配するな、すぐに合わせてやる………あの世でな………」
ーーだがその言葉は最早届いていない。
マコトの中でせめぎ合うのは守れなかった自身の無力さとそれに対する激しい怒り。
頭から爪の先までどす黒い感情に覆われたマコトはただ一言
「ーー制約は我が血によって果たされる」
それと同時にマコトから血が噴き出した。
*
「んまぁ、妾は生きておるけどな」
マコトとは別のところに隔離されたが普通に準備していた回復薬を口の中で砕き、無事に回復。
「だがリリムも可笑しな依頼をしたな?なぜマコトを怒らせなきゃいけなかったのだ?」
実は今回、ルナールはマコトを連れてアストンを捕まえに行ったのはリリムからの言葉もあったからだ。
『私はシェンデーレと相談があるから国に帰る。その間に確かめたいことがある』
それを踏まえてあえてピンチに陥り、マコトの怒りを引き出してみたのだ。
「さてとリリムからの依頼は観察だったな、行くとするか」
迷宮の壁を震わせるほどの轟音を頼りに迷宮の壁を伝って目的地へと向かうのだった。
*
・
噴き出した血は純血のマントとなり、悪魔のような漆黒に身を包んだ。
目の色も変化し、片目が紅蓮の瞳になり、オッドアイとなっている。
「ようやくここまでの怒りを引き出したか!オレの体はなんて優しい奴なんだろうな!さて、はじめまして諸君」
アストンはその姿を見た瞬間、この世のものとは思えないおぞましい気配に体中を虫が這い回るような、体の中を直接かき混ぜられ心臓を鷲掴みにされているような感覚を味わった。
圧倒的な死の気配だ。血が凍りつくとはまさにこのこと。一瞬で体は温度を失い、濃密な殺意があらゆる死を幻視させる。
「ーー跪け」
瞬間、まるで真上から空気に押し潰されるように迷宮が大地にめり込んでいく。無論、同化しているアストンもただでは済まない。
「ガッ! グフ! 貴様、何者だ!」
圧倒的強者に跪くように無理やり押さえつけられている力を跳ね除けようとするもさらに力を増した。
そしてマコトの皮を被ったそいつはそれをみて愉快気に笑い、高らかに宣言した。
「何者か? 宜しい、ならば答えてやろう! オレこそ最強にして最恐にして最凶の魔眼の王ーー魔王 サタンだ!!」




