JB
これにて四章は終了します。
次話は主要人物紹介となりますのでそちらもみて下さい。
「いやぁ!娑婆の空気は美味いぜい!」
「いうて3日しかいなかったでしょう」
温かな日差しの降り注ぐ昼過ぎ。とある町の一角にある木製の玄関やテラスが可愛らしい喫茶店に俺とリリムさんは座っていた。
「おまた〜!」
「遅えよ!10分遅刻じゃねえか!」
「そうカッカすんな、ちょっとハッスルが激しかっただけさ」
「要は昨日はお楽しみでしたね?だろうが!道理で遅くなるわけだ!」
待っていたのは、エルデとガルディ。
要件は1つだけ、今回の事件の詳しい説明と一体どこまで噛んでいたか。
後、もうひとつ、エルデには聞かなきゃならない事がある。
「本題に入る前にちょっとした前提として聞きたいんだけどいい?」
「おう、今回は流石に悪いと思ってるからな、何でも聞いてくれ」
「じゃあ、聞くけど」
俺は今回のことを振り返って、何となく、だけど核心をついている言葉を口にした。
「お前は『編入生』なのか?」
ーー風が吹いた。
「いつから気づいてた?」
エルデは俺の言葉が理解できないという顔をするわけでもなく、笑って誤魔化そうとするわけでもなく、悪戯がバレたような顔で俺の言葉を受け止めた。
「最初からかな?いくら地球と近いからって言語まで似通ってるわけでもないのに、マジとかヤバイとかデメリット、ベタとか使ってたろ?具体的にはあの覗きの時だな、お前が少し怪しいなって思った。確信したのは今、魔眼でお前を見てからだ」
「疑ってはいた。確信したのは貴方の人形、JBって名乗る道化師に会ってから。貴方の人形の目から魔眼と同じ魔力がした。」
「あちゃー、やっぱか………気をぬくんじゃねえな。自分を元に作る人形ならバレないと思ったんだが。せっかくリリムの千里眼に捕まらないように目玉くり抜いて魔眼を移し替えて、ジャン人形に付け替えたのによ」
ドンっと音を立てて、机に置いたのは保存液に浸かった赤色の目玉。
「やるよ、魔眼なんざいらねえし、これが目当てなんだろ?」
「助かる」
彼女は瓶を開け、目玉を取り出し、魔眼の移行を開始、しばらくすると魔眼が移ったようで瓶の中にまた戻す。
「これで貴方に用はない、貴方を殺すとかしないから安心して」
「良かったですわ………それが1番不安でしたから、魔眼を汚すなとばかりに殺されるんじゃないかとビクビクしてましたわ」
どうやらガルディさんはずっと前からエルデが編入生だということを知っていたらしい。
「しかし、よく俺の人形だって分かったな?あ、まさか千里眼か?」
「ご名答」
つまり、だ。
今回の事件においてのラスボスはジェームズだったが裏で手を引き、俺を巻き込んだ黒幕はエルデだったのだ。
「ジャンさんも人形ならあの経歴はエルデのもので合ってるのか?」
「ん、まあ大体はな。前世じゃあ、ある国の政府の特殊部隊出身の殺し屋だったんだよ。コードネームはJBだ」
すっと俺とリリムさんが黙って距離をとる。
心なしか、ガルディさんの目も冷ややかだ。
「待て待て!俺は別に快楽殺人鬼じゃねえよ!?政府からの依頼に従って、反乱分子を潰してただけだ!」
「変わらねえよ、この人殺しめっ!」
「事実だから反論できねえ!だが少なくとも、この世界に来てからはジェームズくらいしかぶっ殺してねえよ!そもそも使命とかなかったら俺は王子としてダラダラ暮らしてえんだよ!」
「この悪魔!私にあのような快楽を仕込んだ癖に!」
「おいコラぁ!嘘ついてんじゃねえよ!テメェの方から来たんじゃねえか!しかもジュエも一緒によ!」
「精神年齢が低めなジュエさんまで食ってる時点で変わらねえよ、このロリコンめっ!」
「俺は幼女好きじゃねえ!クソがあっ!テメェ、また監獄にぶち込んでやろうか!つか、いい加減に話をさせろ!」
エルデは机に置かれていたコーヒーを口にしながらも穏やかな顔を浮かべて、詳しい話を語り出した。
「まず俺はベスティアの件に関してはあえて乗った。リリムも大事なお前の事だ、間違いなく喧嘩ふっかけて弱みを握られると思ったよ」
「でも準備はそれより前、少なくとも4月あたりで準備していたわよね?」
「ぶっちゃけ、可笑しいと思わなかったか?俺が逮捕されてから直ぐに真犯人がわかったにもかかわらず、俺の帰還が遅れたことに?」
今、思えばロゼさんの回復と同時に帰って来ていたな………あれから今回に至るまで準備してたのかよ。
「4月の段階じゃ、ジャンの配置、JBピエロの黒兜入りを目論んだ。後は多重契約可能な女を探してたら、たまたまガルムに会った訳だ。彼女なら前科で引っ張りやすいしな」
そういえばジャンも3ヶ月前に来たばかりと言ってたな。なんだこの伏線回収。
「んで、ガルムに事情を説明して、にゃんにゃんして彼女の秘密も教えてもらったのが大体5月か」
「そういえば、期末試験の頃にはお前はコンジュレイにいたよな?それもか?」
「Yes、俺が6月にしたのは黒兜のアジトの把握、ラクーンとのアポ取り、それとベオグラード達との作戦会議………後はルナールへの協力要請か」
「ルナールさんまで!?お前、いつの間に………」
「宝石店にルナールの分身体がいるからな、そこから本体に連絡を取った。ルナールがいれば大監獄の守護は完璧な上、看守達の協力も取りやすい。交換条件としては………もう、わかってんだろ?」
「あーはいはい、昨日、監獄内の部屋に閉じ込められたかと思ったら『合体しないと出られない部屋』に入れられて………やっぱテメェかぁ!!」
実は昨日、起きたら謎の部屋に閉じ込められており、隣には何故かセクシーポーズを決めるルナールさんとそれが書かれた看板が吊るされていたのだ。
詳しい事実は端折るがまあ、あれだ、心武器が覚醒したとだけは言っておこう。
「………いいな、ルナールって何言ってるの、私は」
「まあ2人とも落ち着け、もちつけ」
「ぺったん、ぺったんですわ」
「リリムさんの胸みたいに?」
「纏めて螺子殺すわよ」
さっきまで何か言ってる気がしたが、回転の魔眼で空間が捻じ曲がっているのを見て、話を戻す俺たち。
「黒兜の場所はわかったが、いくらなんでも俺1人じゃ死ぬから時期を待った。リリムを砂漠に来させるために俺は餌を巻いた訳だ」
「それがあの魔眼ってことね」
「そんで打ち合わせの通りに俺はマコトを大監獄に送った。理由は2つ。1つは俺がJBピエロに立てさせた作戦を台無しにするための戦力補充。既にマックスとベルゼには話をつけてたからな」
やはり2人は協力者だったようだ。
俺が来ることもどうやら知らされていたらしいがしらを切って乗り切っていたらしい。
「そんで2つめ、ベスティアに説得、および脅迫されないためだな。弱みはレグルス陛下の言葉でなくなったとはいえ、事実は消えない。そこを突かれないように俺はお前を隔離した訳だ」
「連れ出す際は簡単でしたわ。旦那様が睡眠剤を創造し、眠らせた後、目的地まで運んでジェーン人形を斬り殺して、犯行現場の完成ですわ」
「お前さぁ!アレ、マジでビビったんだからな!あんなにびびったの父親に説教された以来だわ!」
そして俺に冤罪を着せた後、エルデは待機していたベオグラードに俺を逮捕させ、俺は大監獄行きに。
その間にエルデはレグルス陛下と対談して、色々していたようだ。
「そしてリリムは知っていると思うがラクーンがガルディを襲った際、俺が殺したと言ったがありゃ嘘だ。俺の人形を見せてJBピエロの正体を明かし、アーティファクトを受け取って、取引をした。」
「派遣したのはJBピエロでしたから、気づかなかったのも無理はありませんね。その後、王宮に向かうと言って別れましたが、実は私達は王国の地下に蔓延るアジトを潰していましたわ」
「そして、ガルムは証拠をベスティアに突きつけて失落させる。ベスティアは権力をかさに黒兜に融通利かせてやがったからな。前回、半殺しにしか出来なかったのは途中でベスティア達が割り込んで来やがったからだ」
前回、ジェームズを怒りのままに殺そうとしたエルデだったがとどめをさす前に、ジュエさんの魂を人質として取られ、その隙にベスティアがエルデを拘束。
ジェームズには逃げられ、エルデは問題児の烙印を押されたのだった。
「だからこそ、ルナールの所有物である大監獄でやらなきゃいけなかった。あそこなら殺してもベスティアの手は届かない。場所として都合が良かった」
「JBピエロに私達を足止めさせたのもそれが理由?」
「アレは俺の復讐だ、テメェらに邪魔されるわけにはいかなかったんだよ」
静かなのに通るその声は俺たちに殺し屋としての体験を感じさせ、彼が笑い出すまで石化したように動けなかった。
「で、アジトを潰し終わった後、すぐに監獄に向かって、ジェームズをぶち殺しましたとさ、めでたしめでたし」
総じて纏めれば今回、俺たちが関わった人達ほとんどエルデが用意した舞台装置であり、俺が大監獄からすぐに出られたのもエルデと大監獄が手を組んでいたから。
エルデの目的はジュエを取り戻すための復讐、
「やられたな………まさか親友だと思ってた奴が俺たちの敵だったなんてな」
「よく言うぜ、敵のジゼルをパートナーにしてる時点で俺はお前がちゃんと判断してるってわかってたぜ?」
エルデがしたかったのは権力で好き勝手する事でもなければ、世界征服をする事でもなかった。
ただ復讐をする為に、ここまで来たんだ。
「ジュエにはまだ正体をバラしてない。あいつの前では頼りになるエルデバランでいたかったからな」
「これから………どうするんだ?」
「さあな、好きなように生きてみるさ。権力の強要、正義の傲慢、ヤンデレストーカーじゃない、常識の範囲内で、な」
「ジュエさんも連れてか?」
「もう2度と離さねえよ。約束は守らなきゃな」
「約束?」
「………まぁ、ただの昔話だ」
*
殺し、殺され、血みどろの生を歩んで来た俺は神様からの罰なのか、知らねえが不治の病にやられてしまった。
おかげで政府からは首を切られ、莫大な口止め料を持って故郷を離れて、平和とされる日本に来た。
日本はいい、道端で喧嘩は始まらないし、銃さえ持たない優しい国だ。
様々な観光地や漫画やアニメも発達しており、退屈させない。
その日は確か、新刊の漫画雑誌を買いに行くついでに秋葉へと行った日だった。
道端に座り込んで今にも泣きそうな少女を見つけたのだ。
ふわふわの髪の毛で日本人離れの容姿をした小柄な少女。髪色は栗色っぽく、何処かのお嬢様のようだ。
最初はスルーしようとしたが、何を血迷ったか声をかけちまった。
俺の名誉のために言っておくが、決してロリコンじゃねえ。何人もいい女を抱いて来た俺がこんな女に欲情するわけがない。
「おい、どうかしたのか?」
「ふえっ!?え、えっとEt vous ne fera rien !(何でもないわよ!)」
「Mais si ce n’est pas ?(そうは見えないが?)」
「………アンタ、日本人じゃないの?日系人?」
「まぁ、そんなとこだ」
流暢なフランス語を話したこのロリはじわじわと涙を浮かべながら、後ずさりしていく。
「ヤダ、あれ、ロリコンよ」
「うわぁ………警察に連絡しなきゃな」
「よし!お兄さんがアイスでも奢ってやろう!その代わり、僕のソーセージをペロペロ………あふん!」
周りの目と明らかに頭のおかしい変質者を殴り飛ばし、俺はロリの手を引いて近くの13の名がつくアイス店に入店し、万札を握らせる。
「好きなの買ってこい、釣りは返せ」
「ケチね、釣りもやるとかいいなさいよ」
奢られているくせに無駄に偉そうなロリを待っていれば3段重ねのアイスを2つ抱えて、備え付けの椅子に座っていた俺の前に片方を差し出す。
「俺は甘いものは嫌いなんだが?」
「アンタねぇ………まぁいいわ。アンタ、名前は」
「JB、呼びたかったらそう呼べ、ロリ」
「誰がロリよ!私には金糸雀って名前があるんだから!」
金糸雀ね、よくまあピーチクパーチク叫べるな、こいつは。
「で、金糸雀?お前は何してたんだよ、援交か?」
「アンタ、デリカシーないわね!みんなが迷子になったのよ!私がモデルガン見てたらみんな迷子になっちゃったの!」
それって、お前が迷子になったんじゃねえの?という素の状態での言葉を胸にしまえた事は褒めてやりたい。
しかも、こんなガキを1人にさせたら危ねえだろ。
「大体、何よ!正義も友哉も!ふりふりメイドなんかに惑わされて迷子とか、笑えないわ!私と同じ18歳なのに、そんなにおっぱいがいいの!ねえ!」
「お前、18かよ!?合法ロリじゃねえか!」
咄嗟に素が出たのは仕方ないだろう!?
小学生、百歩譲って中学生かと思ったわ!
「金返せ、コラ」
「アンタ、けち臭いわね、もっと心にゆとりを持ったら?私みたいに」
「お前は胸に脂肪を持ったらどうだ?まな板みたいだぞ」
またもやがなり声を上げる金糸雀を無視していれば彼女が机に置いた携帯が震えだす。
金糸雀はそれに気づき、出ようとするが何故か涙目になった。
「まさか、携帯が使えねえのか?」
「う、うっさい!これは最新の機種だから使い方が分からないだけよ!」
「電話に最新もクソもねえと思うが」
金糸雀から携帯を奪い取り、通話ボタンを押すと向こう側から切羽詰まった男の声が聞こえて来た。
『あ、金!テメェ、今どこにいるんだ!あれだけ逸れるなって言っただろうが!』
「すまないが金糸雀の事で間違いないか?彼女なら今、あーアイスを食べているが」
『………ハッ、ロリーー』
「それ以上、言ったら本当に金糸雀を犯してやろうか?あ?」
『申し訳ありませんが現在位置を教えて下さい。直ちに迎えのものをよこしますので」
割と本気で殺意を込めた声を出すとすぐに態度を変えたので現在位置を教えて、金糸雀へ返す。
彼女は泣いて、笑って、怒ったかと思えばまた笑った。
コロコロ変わる表情を見ていれば話が終わったのか、携帯を机に置いた。
「友達か?」
「幼馴染よ、今から未来が迎えに来るから大人しくしてなさいって言われたわ」
「大事な人なんだな、その幼馴染は」
「もう家族みたいな…とっても大事な存在よ。金では買えないくらいにね」
宝物を見せるようなキラキラした顔で語るところを見ればよほど大事にされているのだろう。
生まれた時から劣悪な環境で育った俺とは違う眩しさを感じて、なんだか泣きそうになった。
死期が近いからか、涙脆くていけねえな。
「アンタにはいないの?そういう奴?」
「いねえな、ずっと自分の為だけに生きて来た。他者を気遣う余裕なんてなかったよ」
国の使命で標的の家族を殺せと言われたら殺した。
そこに特別な感情は何もない、だってそれに共感できる環境がなかったから。
後始末を見られた結婚間近の女も殺した。
特に残念だと思うこともなかった、何故なら幸せなんてものは知らなかったから。
「アンタ、寂しい人間ね」
「自分でもそう思うよ」
金糸雀の目に映るのは地獄に落ちるべき悪魔の姿。
そして目の前のロリはそんな俺に指を突きつけた。
「なら約束なさい!いつか、大事な存在を作るって!そして、その人を一生離さないようにしなさい!殺し屋JB!!」
「………やっぱり分かっていたか。金糸雀・フランソワーズ。表向きは貿易業、裏では軍事企業を行う会社の跡取り娘」
正直、名前を聞いた時点で正体は分かっていた。
相手側も何処からか情報を得たのだろう、既に除隊した身、国も積極的に隠蔽するはずがないからだ。
「だが俺がその約束を守る道理がない」
「あるわ!貴方にアイスを奢ったじゃない!アレは私のお金よ!」
彼女に差し出されたのは渡したはずの万札で、はなからこいつは俺の金を使う気なんて毛頭なかったのだと気づいた。
「"幸も不幸も金次第"それが私の信念よ、この万札は貴方に返すわ。それで貴方が幸せになれないのなら、誰かを大事にしなさい!金で幸せは得られても孤独までは埋められないんだから!」
万札を三枚重ねで返され、拙い綺麗事をぶつけられた。
誤魔化し方ならいくらでもあった。
反論ならいくつも出てきた。
それでも
「………依頼として受けとく。これは前金だ。達成したら倍はもらうぜ?」
素直に受け止めてしまったのはきっとそういう事なのだろう。
金があっても孤独から逃げきれなかった少女は金を無くしてから、暖かな家族を得たのだ。
幸せは金次第だが、孤独は自分次第か、今の自分もそうかもしれないな。
「おーい!金〜!」
「あ!未来!」
こちらへ来る大和撫子に手を振る金糸雀を置いて俺は椅子から立ち上がる。
「あ、すみません。ウチの子がどうもお世話に」
「気にしなくていい、では私はこれで」
「JB!依頼はちゃんと果たしなさいよ!」
2人の姿が消えるまで見送って、俺は歩き出す。
今まで、国に言われるがままの生き方しかできなかったが残り僅かな人生だ、彼女のいう通りに生きてみるのも悪くはない。
*
「結局、その1年後に俺は病気で死んだ。つまり、金糸雀との依頼は果たせなかったって訳だ」
金糸雀、友哉さんの幼馴染の1人で………だいぶ我が儘な守銭奴だったと思うが、そんな彼女が大事な金を渡すほどJBは追い詰められていたように見えたのか。
「でもな、第二の人生を得て、大事な人も出来て、罪の重さを認識して、俺はようやく自分の意思で歩き出す事が出来たんだよ」
エルデは飲み終わったコーヒーカップを机に置き、立ち上がった。
「マコト、今回お前らを巻き込んだ代わりにちょっとした情報をくれてやる。俺らがこの国へ来た表の理由は、コンジュレイとの連合国を作るためだ」
「連合国?」
「組織された理由は1つ、魔王再来の脅威であるリリムを殺す事」
「は、え?ちょ、待てよ!どういう意味だ!エルデ!詳しく説明しろ!」
「………俺は以前、転生者だと名乗る奴の仲間から勧誘をうけたんだよ、マコト」
「待ちなさい、貴方、最後の編入生の居場所を知ってるの?」
「詳しくは知らねえ。復讐計画を立てて来た時にある女が俺に交渉を持ちかけて来やがったくらいだ。『一緒に世界を壊さない?』ってな。もちろん断ったが」
「………そう、ならさっきの話の続きを話して。どう言う事?何故、私は国に狙われなきゃいけないの?」
エルデは頭をガシガシとかき、真面目な顔で話し始めた。
「テメェらの魔眼回収が国にバレた。四大連合国は再び、魔王の再臨を恐れてやがる。だから先に目を潰しておこうって腹だ。俺は秘密裏に裏で軍事同盟を組むように使者としてこの夏は飛び回っていた」
「待てよ!リリムさんが何をしたって言うんだ!」
「何もしてないからこそ怖いんだよ。魔眼を集め直す理由なんざに興味はねえがそれが魔王再来なら誰もが本腰を入れなくちゃならねえ。リリム、テメェに国へと帰る許可が下りたのも戦争のための口実を得るためだ」
「魔眼を持ち帰った私が国へと帰れば危険とか理由はいくらでも作れるわね………」
「俺も色々手は打ってるが………正直分からねえ。ただ、俺の親父もそうだが全員が何かを隠してやがる。魔王を殺した件も何か秘密がありそうだ」
秘密って何だよ、何を王たちは隠してるんだ?
それこそひとりの女の子をここまでして殺さなきゃいけないほどの理由って何だ!?
「悪いことは言わねえ、さっさと国へ帰って迎撃の準備をさせろ。親父達もチマチマとやってたとはいえ、あと1ヶ月はかかる。八月の中旬が戦争開始だ。」
「わかったわ、有益な情報をありがとう」
「9月には互いに生きて会おうぜ、じゃあな2人とも」
エルデはガルディを連れてその場を立ち去った。
残された俺たち2人は、互いに黙り込み、沈黙が場を支配する。
「ねえ、マコト」
「何ですか、リリムさん」
「ーー私と一緒に戦ってくれる?」
呼びかけに、俺は静かに応じる。
顔を上げる。
前を見る。
リリムさんの瞳を見つめる。
穏やかで、優しげで、俺の口にする答えを待っていた。
いつか、言った。
地獄の底まで引きずってあげると、だからこれはそのための確認だ。
ここから先は不殺なんて許されない命のやり取りが行われる世界だ。
そこに足を踏み入れなくてはいけない領域に来てしまったのだ。
いつかは来ると分かっていた。
覚悟はして来たつもりだった、だけど何より
「勿論です、地獄の底まで連れ添いますよ」
ーー彼女の信頼を裏切るわけにはいかない。
彼女はきっと1人で立ち向かうだろう、また孤独のままに力を振るい、孤独の雪中で1人泣くのだろう。
それだけはダメだと俺の何かが言っている!
「そう、よかった」
彼女は置かれていた俺の手を取り、自身の小さく、冷たい手を重ね合わせた。
「私はもう1人じゃないのね」
重ねた手に指先が絡む。
安堵が入り混じった声が鼓膜を揺らす。
きっとこの戦争で俺は地球人の感性を捨てるだろう。
ただそれでもこの手を離してはいけない
俺は弱々しい彼女の優しい手を安心させるように握り返すのだった。




