さんにんいっしょならどこでもいい
ちょっと遅れました。
風を切り裂く銀閃が、火花を散らして剣戟を奏で合っている。
剣戟の片割れは片手剣の派生を操る鋭いナイフ。
相対するもう片方は迎え撃つ、流水の如く柔らかな動きでいなす盗賊。
刃の煌めきが宙を乱舞し、苛烈なはずの鋼の響き合いはどこか儚げで物悲しい。甲高い斬撃のぶつかり合いは、止まることなく高まっていく。
「………」
雄叫びは必要ない。ナイフ捌きが乱れるからだ。
力む必要はない。パフォーマンスが落ちるからだ。
感情を出す必要はない。それが隙になるからだ。
一歩踏み出せば、鋭い剣尖がジェームズの皮膚を削り、戻す動きで返しの刃が肌を裂く。
殺し慣れてる、ジェームズは素直にそう思った。
無駄な動きは必要ない。
ただ淡々と積み重ねてきたものがそのナイフに宿っているのだ。
人殺しの技術という血生臭い業が。
かつて半殺しにされた際は幾分か鈍かったが洗練され、研ぎ澄まされている。
まるで全盛期はこれだとばかりの殺人術。
だからといって、勝てない訳ではないのだ。
自分の心武器による強奪を使い、ナイフを持つ腕に触れる。
「今、お前の腕から力を奪った。もう指一本動かせないはずだぜ?」
ジェームズは驕ったように指を向ける。
確かにエルデの右腕は糸が切れた操り人形のようにピクリとも動かない。
だが、何を考えたか、エルデは自分の心武器を肩口に添えて一気に右腕を切断した。
これにはジェームズも理解不能のまま、しかしチャンスだと認識し、一気に詰め寄る。
「腕なんざいくらでもくれてやるよ。代わりにお前の命を貰うがな」
腰溜めの状態から放たれる両腕が一直線に、エルデに叩き込まれ――。
「………っでしょ」
「………」
ジェームズの渾身の一撃は右腕で防がれた。
訳も分からない状況に回避が遅れ、エルデは無表情のまま弧を描くような回し蹴りがジェームズを地面に沈める。
衝撃をまともに受けながら、なんとかエルデの領域から逃げ出したものの傷口から血が治らず、今の痛みさえ消える様子がない。
「お前………なんだよ、その体はぁ!」
「俺はあの日以来、お前を殺すことだけ考えてた。だからその対処法だ。力を奪うなら、奪った部品を取り替えればいい」
「まさかお前………心武器で!?」
「ああ。俺の体は2割くらいしか本物じゃねえよ」
エルデの体は『創造』によって作られた本物に近い体の部品から出来ている。
エルデは必ず殺すために自分の体を強化したのだ。
エルデがフェルムと対峙した際にフェルムに「何だ、その体は!?」と聞かれたのもそれが理由である。
「お前の能力によるイメトレも欠かさなかった。お前が万が一に出来るかもしれない能力は全て予測済みだ」
ポンポンとナイフを両手で回転させながらも隙をさらさず、ゆっくりと接近するエルデにジェームズは立ち向かう。
「だからどうした!!お前が強くなったように僕も強くなったんですよ!」
ジェームズは深く懐に入り込み、かろうじてナイフを避けてコンパクトなスイングで拳を急所である鳩尾に叩き込んだ。
「えっ?」
「言ったろ?俺の体は2割だけが本物だ」
揺らがない。むしろ殴った自分の方が拳に痛みを感じている。まるで鋼でも殴ったような衝撃に呆然するよりも早く、ジェームズの顎を吹き飛ばす勢いで拳が振るわれた。
低迷する意識の中で捉えたのは2本のナイフを持つ男の姿だった。
唸るナイフ捌きに肉体を寸断するように何回も撃ち込まれた。
(奴の能力は創造………武器さえ作れるのを忘れてた)
体で受け、屈んでかわし、飛んで避け、回り受けして回避し、渾身の打撃で相殺し、皮一枚で致命傷を避け、指を犠牲に無理矢理そらし、返礼の前蹴りが直撃して石畳の上を無様に転がる。
「あがっ!ごほ!」
血を吐き、咳き込みながらも顔を上げたその瞬間、凄まじい速度で銀色の円盤が投じられた。
だが、それは円盤ではなく、高速で縦回転する大振りの剣だ。
視認速度の限界を超えた弾速は音を風切り音を置き去りにジェームズに迫り、その頭部を割って鮮血を弾けさせようとする。
襲いかかる刃は咄嗟に掲げられた右の拳の表面を削り、巧みな角度変化によって真上へと跳ね上げられた。
飛ぶ刃は天井に吹き飛ぶも、その行方を追っている暇はない。
既にジェームズの領域に踏み込んでいたエルデは逃れようと身をよじるジェームズの鼻っ柱に気合い一閃、拳骨を突きさす。
鼻血を出しながら飛んだジェームズをエルデは追わなかった。
「そうですよね………貴方に僕は殺せませんよね………」
戦力的には圧倒されているのにジェームズの顔はニタニタと吐き気を催すほどの邪悪さに塗れていた。
「僕を殺してもあの女の魂は帰らない!むしろ解除されたら行き場をなくした魂は天へと帰る!」
「………戻すにはお前の口から『奪ったものを返す』と言わせるしかない、だろ?んなことはわかってる」
エルデは自分の背後から感じる電気と呪術のぶつかり合いに注意を払いながらそう言ってのける。
殺す、それだけならなんて簡単か。
赤子の手を捻るように死を与えてそれで終わりだろう。
だがそれをやる前にやらなくてはいけない事がある。
「だから、頼んだぜ、ガルディ」
*
「喰らえ!ベアークロー!」
「穴を掘るのに熊とはこれいかに」
把握の能力で穴を進むジャスティンの攻撃を頭を動かして避け、銃口だけ向けて無視弾を撃ち込む。
しかし、その弾丸は砂の中に潜ったジャスティンには当たらず………でもなあ、把握で位置は分かるから風の魔力で方向を変えてやれば………
「うぎゃあああ!」
「おお出て来た」
尻を抑えながら飛び出て来たジャスティンに視認すら困難な速度で接近し、そのまま飛び膝蹴りで顔面を砕く。
正直な話、全くと言っていいほど苦労しない。
魔眼で見たところジャスティンの心武器は『掘削』『貫通』あの爪に触れたら胴体に穴が空くのだろう。
彼の戦いは大体分かった。
本来なら今、ルナールさんが遊んでいる闘牛みたいな女が迫る中、穴を開けて邪魔をし、最後に貫通で射抜くのが正しいのだろう。
一度砂の中に潜られて仕舞えばその詳しい位置を把握することなど不可能。
砂に隠れていては攻撃も当たらない。
だが俺たちは違う。
霞の『把握』のおかげで奴の詳しい位置どりはしっかりと把握できているし、ロゼさんの『無視』のおかげで弾丸が砂の中で止まることもない。
後は飛び出すタイミングさえ分かって仕舞えばカウンターで『改造』肉体の蹴りや拳を食らわせてやればいい。
「ほれほれ、牛さんこちら。手のなる方へ」
「調子に乗っていると痛い目みマスヨ!」
猪突猛進、鉄の壁など簡単に貫けそうな鋭い角をルナールさんに向けるが当の本人は赤マントを取り出して闘牛士の真似事をしている。
ひらりと躱され、鼻息荒く、再び走り出す牛にルナールさんは宙返りをして飛び乗ると牛の前を赤マントで覆い隠す。
視界を真っ赤に染められた牛は闇雲に走った挙句、轟音を立てて壁に頭を激突、血を流しながらも赤マントを外し、こちらを睨みつけている。
「ルナール………よほど死にたいようデスネ?」
「雑魚があまり強い言葉を使わぬ方が良いぞ!馬鹿みたいだ!」
一気に頭に血が上った牛はだくだくと大量の血を流し続けるも何か思い出したのか、意地悪い顔を浮かべた。
「ルナール、貴方の師匠の墓を見て来まシタ。随分と貧相でしたネ、あれでは墓の下の男もたかがしれマス」
「挑発なら聞かぬぞ?そもそもそれに乗ったところで貴様を殺すのが速くなるだけだ」
呆れたような態度で欠伸をしながら低い煽りを聞き流す。
出来たらこっちはベアークローとやらを避けるのが面倒になったから手を貸して欲しいのだが。
「なら、私は奴の子だと言ったらどうデス?」
「ほう………中々に面白いが下調べはしておる。奴に身寄りはおらず、同時期に孕んだ奴などおらん。嘘をつくならもっとマシなものをーー」
「ならば真実を言いマース!私はあの女の妹の子孫デース!」
「は?それこそあり得ぬ。妾は奴の血の関係者ごと殺したのだぞ?貴様、亡者か何かか?」
牛の言葉に食いついてしまったルナールさんの毛が逆立ち、こちらにすら鳥肌を立てるような濃密な怒気が漂う。
「別の国に留学してたんデース!」
なるほどな、ルナールさんはバンの恋人の関係者を皆殺しにしようとしていたが、別の国まで逃げられていては捕まえることは出来ないだろう。
「私のご先祖さんは貴方をころす事を目標にしてマシタ!だから先祖の無念は私がうちマース!」
その言葉にルナールさんはーー笑っていた。
ただし、見たもの全てを壊すような暴力的な雰囲気を纏って。
「そうか、死ね」
ただそれだけだった。
文字通り、今までの攻防は彼女にとって遊びでしかなく、本気で戦う意味などなかったのだ。
銀の鍵を放り投げ、手元に落ちて来た大太刀を手に取ると魔眼の視認範囲から逃れる速度で真一文字に両断した。
「殲滅九重一狐に非ず」
宙へ飛ぶ2つの体、最早死ぬことは変わらないのに追撃には多過ぎる不可視の蓮撃が彼女の体をバラバにし、砂の中に埋まる。
「じ、ジェシカ!!」
「あ、そんな名前なのね?」
地面から心武器を失った状態で飛び出て来たジャスティンに改造弾を撃ち込み、捕縛する。
「ゲームオーバーだ。今回は余裕だったな」
自身の強さに実感が出てきた所でルナールさんの方を見ると彼女は険しい顔で足下の死体を見ていた。
「貴様の死因は1つ。妾の前であの女を出した事だ。そうすればもう少し、長生きはできたろう」
ルナールさんは死体を足蹴にしながら砂を排出する位置にまとめて放置し、手向けの言葉には似合わない侮辱の発言で復讐の幕を降ろす。
今回は余りにもあっさりとしていたが仕方ない。
「今回の主役は俺じゃないからな」
*
「いきなんす、散りなんせ」
「その口、直ぐに閉じさせてあげますわ!」
再び場面は変わり、雪のような純白の雷撃と白亜のような呪いがぶつかり合い、閃光を撒き散らす。
閃光に慣れているガルディは僅かに目を細めた彼女へ先手の腕を振り下ろす。
咄嗟に自身の腕を獣に変えて防ぎきるが横っ面が弾かれ、二発の打撃が胴体を持ち上げる。
宙に浮かぶ体が重ねた拳槌に打ち落とされ、地面に落ちた頭部に真上から拳が叩きつけられた。
だからといって手は止めない。
龍闘流法の真髄は手数と速さとばかりにガルディは1喰らえば5を返す勢いでジーンの体に白雷の魔力を撃ち込む。
「陰陽雷葬!」
だがその雷は手に持っていた札に吸い込まれ、当たることはない。
だからどうした?自分にはそれしかないのだから、愚直に馬鹿みたいに突貫するしかない!
「火龍の咆哮!!」
火属性の魔法を口から息吹のように吐き出す。
しかもご丁寧に雷入りだ。
2種類の混合魔法を前にしてジーンは先程の札から雷を放出し、相殺。
「はっ!」
「ふっ!」
相殺時に姿を消したガルディをジーンが探せば、足元の濃くなる影から上空への奇襲に反応し、丸太のような白虎の腕で防御、そのまま伸びた爪がガルディの鱗に傷をつけた。
「はあぁぁぁ!!」
一撃の力強さと速さと手数、拳と拳がぶつかれば力負けしてしまうがすぐに新たに攻撃を仕掛ける。
速く、速く、もっと速くーー!
研ぎ澄ませ、思考を絞れ、加速しろ、その先へ!
自身の脳からの電気信号を無理やり雷の魔力で変化させ、クレアと同次元の反射速度を持って肉体の悲鳴を精神でねじ伏せ、掌底がジーンの心臓をとらえる。
「貰いましたわぁ!!」
この時、ガルディは焦った。
あれほどエルデに深追いするなと言われていたのに目の前の死にそうな女へ一撃を止める事は出来なかった。
「"土塊、腕となれ"」
石造りの床が跳ね上がったかと思えば彼女の顎を正確に跳ね上げ、彼女の猛攻にストップをかけた。
「今までの受けた傷、返しやんす」
3枚の札が貼り付けられ、額に指を添えられたかと思えば全身に走る魔力が乱雑に掻き回され、体内から劔が生えるような痛みが襲う。
「"苦痛の思い出"」
全身にジーンが負った筈の傷が再現される。
ガルディの体はその痛みに耐えきれず、意識を失った。
「な、中々梃子摺らせてたんす。でもこれで散りなんし」
ジーンが滴る血もそのままに背を向けて、エルデを殺すために足を進める。
あの技は今まで喰らった自分の傷を相手に与える呪いだ。
ルナールも勿論、使えるが陰湿だと毛嫌いしているほど邪悪な呪術であり、受けたものが迎えるのは苦痛の果ての死だ。
だからーー
「何処に……行くんですの?」
確認もせずに立ち去ろうとしたことを責める事はできない。
騎士たるクレアならば立ち上がった
戦士たるフェルムならば立ち上がった
だが、姫であるガルディが立ち上がる事など予想できるわけがない!
血染めの花嫁のようにも思える多量の血を肌に貼り付け、使い物にならない足を雷で無理やり行使、筋肉の繊維が断裂する音を聞きながら、白雷となってジーンに迫る。
爆ぜた地面に粉砕した足などに気にせずに体ごと体当たりしたガルディはジーンごと壁へ激突、そのまま破壊する。
「離すでありんす!この死に損ない!」
拘束されながらも獣化した棍棒のような腕でガルディの頭蓋をかち割る。
既にどろりと粘度の高いものまで漏れていながらも彼女は止まらない。
「こんな痛み……ジュエを守れなかったと毎夜泣くエルデの痛みに比べたら!なんてことないですわ!」
もう使い物にならなくてもいい、それほどの気概で壁を破壊して目指す場所へ辿り着く。
「……無事か?ガルディ?」
「……死にかけですわ。姫は戦うもんじゃ……」
到達したのは無数の剣とそれを持って対峙するエルデと傷だらけのジェームズの姿。
安心からか意識を失ったガルディから逃れようとするジーンにエルデは創造の鎖で縛り上げる。
「よく頑張った、ガルディ。あとは任せろ」
エルデは傷口を創造で作り上げた部品で埋め、血も足して処置を終えると鎖に吊るされたジーンの元に近づく。
「ジェームズ、別にお前にその言葉を言わせる手間はいらねえ。こうすれば万事解決だからな!」
エルデはジーンの顔を鷲掴みにすると唇が剥がれそうなほどの熱いキスをした。
それを見て、ジェームズはエルデの考えていることを理解し、止めようとするも既に契約はエルデに移行したのだ。
「ガルムを引き入れたのはこれが目的だ。『維持』があれば契約の多重履行が可能だからな」
「や、やめろお!!僕が奪ったものを全てーー!」
「知らねえよ、バーカ。てめえらに『奪われたものを返す』!!」
ドクンとジェームズの体が脈動する。
胸をかきむしり、両腕で自分の体を抱きしめるようにしながら中から溢れる力を耐えようとするものの抑えきれず、解放してしまう。
「あああっ!やめろ!僕のものだ!全部僕のーー!」
「テメェのものなんて1つしかねえ。テメェの命だけだ……だが今から奪うがな」
声にならない悲鳴をあげながら逃げ惑うジェームズの目の前に剣が突き刺さり、石床から飛び出た鎖が罪人を拘束する。
「俺たちの国では絞首刑が一般だが、この国では斬首刑が一般らしいな?」
「やだやだ!やめろ!死にたくねえ!」
「そうか、その命乞いをお前は何度聞いてきたんだ?何度突っぱねたんだ?」
エルデの持っていたナイフが両手剣に変わる。
それを見てエルデは安心したように微笑んだ。
「この形状は2年前から契約が途切れていた奴の心武器だ。分かるな?今からテメェを殺すのはジュエの心だ!」
「ああ、やめーー」
「"三位一体"!!」
ガルディの『創造』ガルムの『維持』ジュエの『破壊』
それら全てが織り込まれた一撃は文字通り、天を破壊し、地を創造するほどの天変地異を引き起こす!
炸裂した轟音に監獄内が鳴動し、それを引き起こした本人はただ静かに首を残して塵となったジェームズを前にして背中から倒れる。
ようやく重かったものを下ろせた。
この日のためだけに磨いた斬撃がすべての因縁を断ち切ったのだ。
「長かった……ようやく終わったぜ、ジュエ」
それは長い復讐だった。
体から生きる渇望すら抜け落ちそうになるがこれで終わりではない。
彼女が戻ったかどうかを確かめに行かなくてはいけないのだから。
「エルデ!助っ人に……いらねえな、これ」
「よお、マコト。ちょっと痩せたか?」
「まあな、で?終わったのか?」
「ああ」
マコトに手を貸してもらい、立ち上がるエルデはガルディの方を見るとルナールが何か光る液体をかけていた。
「うわっ!なんかぬめぬめしますわ!しかもちょっと臭いですわよ!」
「仕方あるまい、だが後遺症なく、治るぞ?綺麗な体で会いに行きたいだろ?」
ガルディはその言葉に深々と頭を下げて、エルデの隣に行き、また頭を下げた。
「マコト、貴方には悪いのですが私たちをジュエのもとに運んで欲しいのですわ」
「あーいや、でも俺、囚人だから。立場的に不味いんじゃないかなあーって」
「花婿よ、貸し一つだ。無事に送り届けてやれ。こちらの対処はしておこう」
ルナールの言葉にマコトは頷き、2人の手を掴んでジュエの元へ転移した。
*
ここに来るまで色々な事があった。
運命的な出会いもあれば打算的な出会いもあった。
『僕の復讐に力を貸すなら君にも力を貸すよ』
運命はそう言って力を貸してくれた。
『協力して欲しかったら何でも言ってくれ。幾らでも手を貸す』
打算は最後まで信じてくれた。
だからこそ、今この場所に立っていられる。
「俺は席を外すよ」
ここまで連れてきてくれた親友に俺は頷き、扉を開けた。
「おいひい〜!おいしいよ〜!こんじゅれいはたべものおいひいな!」
浅黒い肌には血色が戻り、銀の髪は陽の光を吸収し、神秘的な雰囲気を作り出している。
指には紫の宝石があしらわれた指輪があり、彼女によく似合う。
ーー生きて動く、ジュエがそこにはいた。
「ハハッ、慌てて食ったら胃がびっくりするぜ?」
「落ち着いて食べたらいいですわ。誰もとりませんから」
俺たち2人はきめていたことがある。
決して彼女の前では泣かないことだ。
彼女の前では何の心配も与えたくない。
「わぁ!えーちゃんにがーちゃん!久しぶり……久しぶり?」
「まあ、そういう気分になるだろうな。少し、話そう」
俺は彼女が眠ってからの話を始めた。
学園に入学する前に襲われて、眠りに入り、2年の月日が経ち、ようやく起こせたことを。
「へ〜たいへんだったね〜」
「貴方ねえ、もう少し驚くとかしたらどうなんですか?」
「なんで?だってふたりがぜったいたすけてくれるってしんじてるもん」
そうだ、こいつは底なしの単純さで能天気で自分の差別すら気にせずに自分が楽しい事だけをし続けて来たわがままな女の子なんだから。
「んじゃまあ、寝起きだから仕方ねえが体力戻ったら祭り行くか。今回はかなり強い護衛もいるから、もう心配はねえ。絶対に守ってやる」
「はいはい!じゃあ、うみへつれてって!おんせんにもいきたい!あ、あと、ほしぞらもみたい!」
「当たり前だ。どこにだって連れてーー」
当たり前のように自分の要求を通そうとする彼女に苦笑いしながら退出しようとする。
これ以上、一緒にいたら泣いてしまう。
「でもーー」
だけど、ジュエはきっと分かっていたんだろう。
彼女はふわふわな緩みきった笑顔を見せて
「さんにんいっしょならどこでもいい」
ああ、だめだ。
せっかく目覚めたばかりなんだ。笑顔で対応してやるはずだったのに……
「だめ、かな?」
隣ではガルディが肩を震わせて、綺麗な顔を鼻水やらでぐちゃぐちゃにして泣いている。
そんな俺も目から溢れた感情を止められず、ガルディも引っ張ってジュエを抱きしめた。
「本当、わがままな奴だよ……お前はさ」
「それがわたしだもん!」
はらはらと流す2人の涙をジュエは拭い、頑張った2人を優しく撫で続ける。
今回はただこの再会を得るための物語
力を借りて、人を騙して、巡り巡ってようやく手に入れた再会の物語。
願わくば彼らの絆が永遠に




