戦う理由
衝撃的発言にマコトが叫んでいる頃、エルデ達改めマコトの無実を証明し隊(ジゼル命名)は汗だくになって彼女達が集めてきた情報を纏めていた。
簡潔にまとめれば黒兜達は腕や仮面に主の略称であるJBという名をを掘っている事。
黒兜達の本拠地は砂漠の中とされており、砂嵐とともに現れては財宝や女性を盗んでいくこと。
捜索隊を出そうにも広大な砂漠を全て探せることもできず、対策としては砂嵐が来るとなったら国民達を宮殿に避難させることくらいだ。
「それでも1人1人と消えてるみたい。祭り期間中は砂嵐が起きない期間を選んでいる以上、彼らを追うのは不可能よ?」
「少なくとも、1人捕まえればいいんですわ。後は私が探知、把握、逆算しますから。」
「姫様の探知力なら私たちの中でも群を抜いてるけどそんな都合よく、黒兜所属の男が来ると思う?」
「……手分けしては砂漠を探しましょう。私の千里眼に映るのが砂に囲まれた場所である以上、砂漠くらいしかないでしょう。」
「それしかないか………」
リリムの言葉に従い、皆が扉を抜けて出て行く。
エルデも後を追う前にガルムへ向き直る。
その顔は覚悟を決めたものだった。
「ガルム、ジュエを頼んだ。絶対に奴に………黒兜ジェームズ団長の野郎に渡すな。」
「ああ………だがだったらなぜこんなとこまで連れてきたんだ?あの厳重な部屋に入れておけば良かっただろ?」
疑問に思うのも当然で、ガルムはずっと考えていた。
その問いにエルデはこいつ大丈夫か?みたいな怪訝な顔をして一言、
「お前………ほんと馬鹿だな」
「んなっ!いくらなんでもご主人様だとしても許さないぞ!」
ガルムの質問を鼻で笑ったエルデは扉を押し開けた。
乾いた風がエルデの髪に絡み、ガルムの頬を撫でる。
「ーー目が覚めた時にすぐに駆けつけてやりたいだろうが」
誰が、とは言わなかった。言わなくても、ガルムにも伝わっただろう。
今もなお、深い眠りの中にある少女を眠りから目覚めさせる手段が見つかるのならば、それを掴むのは自分でありたい。
適任者が他にいるかもしれなくて、自分以外の誰かの方が可能性が高いのかもしれなくても、こればかりは譲れないし、譲りたくない、エルデのエゴだ。
「正直な話、ジェームズを倒して目覚めさせるならマコトでも構わないわけだ。いや、むしろマコトの方が上手くやるかもしれない。だけどさーー」
自分の力をしっかりと認識していても
自分の立場を捨てることになっても
「感情を入れたら全部俺がやってやりたい。過程も結果も全部自分で導いて、彼女にとって自慢のエルデでいたいんだ。」
ジュエを目覚めさせてやりたい。
全てを失った日と決別をする為に。
これだけは自分の手でやらなくてはいけないのだ。
「だからか………交渉で「黒兜盗賊団の位置を暴け」を「黒兜所属の団長を生死問わず、連れてこい」にしたのか。」
いくら武装国家で王家の血の気が多く、かつてエルデがこの国で黒兜団長ジェームズを半殺しにしたからこそ彼にそんな要求はしない。
エルデ自身が黒兜団長と決着をつけなきゃいけない理由があるからだ。
今、まさに大事にベッドの上で寝ている彼女を起こすために。
あの日全てを奪われた彼女の為に。
「はあ………本当に仕方ないな。我が主人は」
呆れたように笑ってみせる彼女に拳を合わせてエルデも皆の後を追いかけるのだった。
*
「義賊『王』ってマジの王様だったの!?」
「初代国王なだけで今の妾には何の力もないぞ?それに本来のカルチェーレは『墓』だ。国というよりかは奴を弔うためのものだ」
自分の倉庫から出したであろう、柔らかそうな赤身肉を切り分けてもらって口に運びながら、舌鼓をうつ。
「実はこの倉庫もカルチェーレにあるのだ。妾が使っている『オールキー』はカルチェーレの何処かに存在する宝物庫を開けて手元に取り出すのだ」
ルナールさんがよく使う銀色の鍵を見せてもらいながら、その説明を聞いて納得する。
「すみませんがルナールさん、どうやってこの国は動いているのですか?」
「マックスよ、他言は無用だぞ?カルチェーレはある生き物に乗っているのだ。其奴は普段は砂の中に身を潜め、周りに砂嵐を巻き起こす。神竜や怪鳥と同じぐらいの化け物」
ファンタジーあるあるの生き物の背中に国があるらしいがいったいどんな生き物なんだ?
「儂からも質問じゃがいつからこの国は砂漠の大監獄と言われるようになったのじゃ?」
「………妾が立ち直った後からだな。妾は立ち直った後、初めての囚人としてここで百年罪を償った。償った後は奴の意思を継いで義賊の真似事をしていたのだ。」
「奴って?」
「………あまり話したくないのだ。花婿だけならともかくな」
ルナールさんが神妙な顔つきで2人を見るので2人は肩をすくめるとベッドに入り込み、薄い毛布を頭から被った。
聞かない、ついていかないという意思の表れのようだ。
「花婿よ、いつかはそなたに語らなくてはいけないと思っていた。ついてこい、そなたに………妾の師匠を見せてやろう」
*
「だぁーっ!見つからねえ!」
「やはり闇雲に探しても無駄ですわ、旦那様。何とかしませんと」
「祭りの最中だから人がごった返しているのもあって探すのは一苦労………あっごめんなさい」
黒兜所属のものを探すために街へ繰り出したエルデ達、ロゼ達はジゼルの聖霊の導きの元、砂漠を捜索している。
代わりにエルデ達は街中捜索を頼まれ、祭りに盛り上がる群衆の間を抜けるように掻き分けていく中、クレアが人にぶつかって足を止めた。
ぶつかった男の子はクレアの美貌に鼻を伸ばしており、クレアと別れた後も骨抜きにされたようでふらふらとした足取りで進むのが危なっかしい。
「罪作りな女ですわね、クレアは」
「そりゃそれだけエロいフェロモン出してりゃそうなるわな。いつかマコトが腹上死しねえかマジで心配だ………っと悪りい」
「気にするな、悪いな」
クレアの行動に呆れ、マコトの行く末が心配になってきたエルデも人と肩がぶつかってしまい、彼が持っていたものを落としてしまう。
「落としましたわ………っ!」
「ああ…すまない。助かった。」
ガルディが彼が落とした小さな小包を手に取ると僅かだが顔が強張った。
男はそれに気づいているのか、いないのかわからないがさっさと荷物を受け取ると人ごみに紛れるように消えていった。
「クレア!今すぐ奴の後を追うのですわ!」
「え?どうかしたの?姫様?」
「いいから!距離は30!右斜め前ですわ!」
追いついてきたクレアにガルディはすぐに指示を出す。訳がわからないクレアだったがガルディの切羽詰まった顔に並々ならぬ事情を感じてすぐに奴に追いつく。
「………何かようかね?すまないが俺は急いでいるんだ」
そこには丸みを帯びた尻尾に気怠げな目をし、面倒そうに尻尾を揺らす狸の獣人だった。
「申し訳ないのだけどちょっとだけガルディ姫様に付き合って貰える?」
「なるほどさっきの女性は3つ首龍の1人か………面倒だ。」
「クレア!その男を捕らえなさい!訳はーー」
「世の中には面倒ごとが多すぎる。」
ガルディの声にクレアが振り向いたところで男はポケットから小さなコインを指で弾く。
反射的にクレアが掴むとそのコインは爆発する。
だがクレアの龍の鱗までを破壊する力は存在せず、クレアが爆炎をかき分けて男の肩を掴む。
「逃がさないわよ?何者かは知らないけどちょっとおねんねしてもらうわ!」
「昼寝は好きだが今寝ると夜に寝られなくなるので断る」
近接においてトップクラスの実力を持つクレアを前にしても心底だるそうな男は足の踵を軽く鳴らし、靴から飛び出たナイフがクレアの足へ迫る。
だがクレアはその足を真っ向から踏みつけ、顎への掌底をねじ込み、難なく意識を奪った。
「何なのこいつは?」
「ワタシハラクーン様にツクラレタアーティファクトデス」
クレアの呟きに意識を奪った男もといアーティファクトは機械的な音声を述べ、体内に込められた火の魔力が爆発する。
「伏せろ!クレア!」
だが真っ赤に炸裂した人形はエルデの心武器によって突如盛り上がった地面に飲み込まれ、くぐもった音を立てるだけで済んだ。
周りの人達も花火か何かだと勘違いしたようでパニックになることもなく、軽いやけどと煤けたクレアが悔しげに唸る。
「鈍ったわねえ、私も。それで姫様?貴方は何に気づいたの?」
「………あの小包に名前が記されていましたの。黒兜ジェームズへって」
「………んだと?」
震えながらも答えたガルディにエルデの雰囲気が刺々しいものへと変わる。
「あの人形が作った本人そっくりなら、見た感じだと彼は盗賊ではないわ。どちらかといえば職人?って言った方がいいかしら?」
「職人………アーティファクト職人じゃねえか?確か獣人達ってアーティファクト製造が得意だよな?」
「ですが職人がなぜ?」
「さあね?小包も爆発した際に何処かに消えちゃったし、ぐだぐた話しても拉致があかないわね。ひとまず彼を追いかけましょう。姫様、探知できるかしら?」
「波長から読み取りますので一度アルデバランに戻ってから陣を敷いてやりたいと思いますわ。」
「なら戻ろうぜ、ようやく得た手がかりだ。このチャンスをものにしなきゃな」
*
ーーそこには墓があった。
何にも頼らず、世界から忘れられてしまったような静寂さの中にひっそりと存在するその墓には『バン』という名が彫られている。
「これは………」
「妾の盗みの師であり、妾が初めて愛というものを得たものの墓だ。」
ルナールは懐から酒を取り出すと墓に添え、手を合わせるので俺もつられて手を合わせた。
「奴との出会いは数百年も前だ。妾がまだ守り神として活動していた頃だな」
ルナールさんは静かに想いを馳せて語りだす。
「妾はかつてコンジュレイの前の国の守り神だった。毎月、捧げられる供物を得ては国に富をもたらしていたのだ。だが、ある日若い男が妾の寝所に忍び込みおったのだ。」
「それが…バンって言う人ですか?」
「そうだ、奴はどうやら恋人の両親に黙されて来たようだな。妾の毛を抜いて持ち帰れば結婚させてやると言ったようだ。無論、嵌められたのだろう。奴は元々盗賊で生計を立ててたものだからな。」
心底愉快そうに笑いながらも彼女の瞳に浮かぶのは途方もしれない親愛の情だ。
長年積み重なった思いの丈が見えるようだった。
「暇を持て余していた妾は1年間、妾を退屈させるなと条件をつけて命を取らずにいた。そしたら翌朝、何をしたと思う?まさか、裸踊りで起こされるとは妾でも思わなかった!」
「盗みの技術もバンさんが?」
「妾も最初はコソ泥のような真似などもってのほかであったがやってみると以外に楽しくてな。気づけばハマってしまっていた。」
盗賊団『黒兜』だが弱き人からは富を得ない義賊として活動したバン達の話は手に汗握るようなものだったようで話すルナールさんからは楽しさが滲み出ていた。
そしてルナールさんが次第に惹かれていった事も話す内容から読み取れた。
「花婿の前で言うのもいささかおかしいのだが、妾は………バンを好きになっていたのだ。その気持ちに気づいた時、妾は本当っに後悔した。何故、1年と制限をつけてしまったのか。何故、もっと長くしておかなかったのか」
当時のルナールさんは夜も眠れなくなるほど悩んだようだ。
約束を果たした以上は返さなければならない義理があり、バンの帰りを待つ恋人もいたのだから。
それを自分の都合で破っては守り神としては失格だからだ。
「そして最後の日、妾は決死の思いで告白した。『今日をともに過ごし、明日をそなたとともに夢を見ていたいと』」
だが彼は言った。
『僕は恋人がいる。彼女と出会えたからこそ、真っ当な人生を歩みたいと思ったんだ。でも君の事も忘れない。また会いに来るよ、僕らの守り神』
バンは初めて愛を受け、きっぱりと盗みを辞めたのだ。
決して人を殺しはしない『義賊バン』の名を捨て、ただのバンとして愛しい人と過ごす為に。
「そして妾は振られた。だが別に恨んでもないし、むしろどこか清々しい気分だった。まぁラクーンに話したら馬鹿にされたがな。」
そしてルナールさんはバンさんに結婚資金として宝石や高価な武器を与えて送り出し、そしてバンは二度とルナールさんの前に姿を見せなかった。
「会いに来ると思っていたがやはり恋人が愛しいのだと思って、寂しかったが仕方ないと思っていた。だが、ある日の供物に新鮮な死体が入っていたのだ」
「まさか、それが………バン?」
「………ああ。奴は国へ帰った後、恋人に会いに行ったようだ。そこで見たのはーー違う男と膨らんだお腹をさすりながら歩く恋人の姿だったらしい」
言葉が出ない。
つまり、ルナールさんが1年拘束している間に恋人さん新しい男を作っていたのか!?
結婚する為に危険を犯した彼をなかったことにして!?
「まだそれなら良かった。だが奴が帰ってきたのを知ったその国の王が妾からの贈呈品を盗む為にバンを逮捕したのだ。奴なら余罪で引っ張る事も可能だったからな」
「でもなんで贈呈品があることを王家は知っていたんですか?」
当然の疑問にルナールさんは忌々しい顔で今にも呪詛を吐き出すように答えを述べた。
「ーー新たな恋人の夫はその国の王子であった。バンは恋人に会った時に全部話してしまったのだろう。そこから奴は1人、生を終わらされた。」
そして秘密裏の死体処理に困った王家はルナールさんへと献上したのか。
彼女がそれを見てどんな感情を抱くかも分からずに。
「それでルナールさんは国を………」
「バンが死んだ理由が不慮の事故、病気ならまだ良かったのだ。妾が死体を埋葬するだけで良かったのだから。」
だがそうはならなかった。
信じて送り出した愛しかった人は恋人に裏切られて、富と名誉に目を奪われた権力者に全てを奪われた。
ルナールさんがどのように感じ、何を思い、国を滅ぼしたかが言葉からでもひしひしと伝わってくる。
「何より、いちばん許せなかったのは妾自身だ。妾がもっと短い期間にしておけば奴は幸せを掴めたのかもしれなかったのだ。」
そしてルナールさんは国を滅ぼした。
呪詛を組み立て、呪いの対象者以外は全員国から追い出し、死体を抱えたままルナールさんは泣きながらその場を去ったらしい。
「妾を恨んだ者もいる。だがラクーンから事情を知り、妾を擁護する者もいた。正直妾はどうでも良かった。奴を弔えればそれで良かったのだから」
ルナールさんはその後、自分の住処に小さな墓を立てて毎日毎日泣いて過ごした。
それを不憫に思ったラクーンがアーティファクトを渡し、ある生き物と取引をし、背中にアーティファクトを固定して新たな国を作り上げた。
「それが移動国家カルチェーレ。妾が奴の死の尊厳を守る為の国であり、妾が償いを立てる場所でもあり、醜悪を許さない義の国だ」
ルナールさんはその後、砂漠の大監獄にて百年過ごした後、弱者を虐げる権力者だけを狙って盗みを働き、民達に振りまいた。
「彼が今も生きていたならきっと同じようなことをしただろうからな………だからこそ妾は奴の盗賊団の名を騙り、略奪の限りを尽くすジェームズを許さない」
「なるほど、通すべき義理のため………かっこいいじゃないですか。ルナールさん、俺も一口噛ませて下さいよ。」
「当たり前であろう?そうじゃなきゃ話などせぬよ」
ルナールさんはそうやっていつものように快活に笑うのだった。
*
「あ〜面倒だ。何で俺はこんなことしてんだろ」
祭りに賑わう街中を死にそうにふらふらと歩く狸の獣人はポケットにしまっていた小さな小包を手で弄ぶ。
「金がねえからか………やだやだ生きてくにも金なんてだらだらと過ごす事が出来ないもんかねえ」
彼は今、待ち合わせ場所に向けて足を進めている。
本職はアーティファクト職人であり、今回はある男に頼まれてアーティファクトを作ったのだ。
彼の工房は砂漠の中にあり、アポイントメントをとるにはそれ相応の覚悟と努力がいるのだがその男はそれを達成した。
『黒兜ジェームズ団長からの依頼であるアーティファクトを作って欲しい』
金髪のメッシュが入ったその男はJBと名乗った。
その男は金貨数袋を即決で出し、依頼をした。
「盗賊団なら金も持ってるからって受けたがまさか信頼を得る為に俺がわざわざ運ぶ羽目になるとはな〜誰だよ、人形ぶっ壊した奴。あ〜だるい、暑い、気だるい」
長いため息を吐きながら彼は足を止めたくなる。
今ここに呑み仲間の狐の獣人がいたなら手を引っ張って前へ進んでいただろうと考えながら何とか足を進めていく。
「もう数十年会ってないけど元気かな〜ルナール」
彼の名前はラクーン。
ルナールの呑み仲間であり、彼女も認めた稀代の天才アーティファクト職人だ。
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