いよいよ入学式
今回はここ迄にさせていただきます。
次回はまた明日の18時から投下致します。
やってまいりました、入学式当日。
朝日が差し込む部屋の中で2人分の寝息が聞こえて来ます。
1人は言わずもがなロゼさん。
そしてもう1人は……
「……んっ、ん」
俺のベッドに入り込んで抱きついて来ているクレアさんです!
おっきなお胸を顔に押し付けて来るクレアさんです!
(いや、どうすんだよ、これ)
最初は良かった。
仮にも男、柔らかふわふわなものに抱きかかえられて悪い気はしない。
だが限度というものがある。
意外にも力が強いクレアさんは俺の頭を豊か過ぎる双丘に埋めて完全に固定しているためにかなり息がしづらい。
そんなのが大体1時間。
既に日は登った。となると次に考えなくてはいけないのが2人の対処だ。
クレアさんは多分大丈夫。
目を覚ましてこの光景を見たら「楽しかった?」と熱っぽく言うだけだろう。
問題はロゼさん。
彼女がこの光景を見たら説教が始まる。
もっと酷いと魔法が飛んでくる。
さてどう切り抜けるか
(1、イケメンの俺は画期的な言い訳を思いつく。2、2人を襲って何とか誤魔化す。3、何も思いつかず、ロゼさんに見られ魔法を食らう。)
1は無理に近い。
どうあがいてもこの現場を見られては俺が怒られるのは間違いない。
2は無理ってか何でこんなの考えたんだ?
朝から欲求不満か俺?
3はまあ……現実は非情だよね。
諦めかけたその時、クレアさんの体が動いた。
「あ、起きました?クレアーーさんっ!?」
力が緩み、脱出したまでは良かった。
だがそこから体を起こしたクレアさんにベッドに押し倒されると無理やり唇を奪われた。
「〜〜〜ぶはっ!?クレアさん!?」
「………ん〜?」
あかん、目が虚ろだ。寝ぼけてる。
クレアさんやめて!こんなので初めてを失いたくないわ!
だが俺の願いも虚しく、両手を押さえつけられ首元に舌を這わせられる。
まるで軟体動物のように蠢くソレは徐々に耳元に上がって来る。
「やめっ……お願いっ!クレアさぁぁぁん!」
「うーん、朝からうるさくしちゃだめじゃない、マコト……君?」
ロゼは見た。
パートナーである男が女に襲われている姿を
涙目で助けを求めるマコトの姿を。
寝起きの頭が一気に覚醒する。
体を流れる魔力が一気に収束する。
「目を覚ましなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
その後、入ってきたリリムさんが見たのは、頭から水をかぶった2人がロゼから説教を受けている姿だったという。
*
「全く!お前達は朝っぱらから……そ、そのそういう行為は結婚前の男女がするものじゃないでしょ!!わかってるの!?」
「「はーい」」
「全くもう……じゃあ私は入学式について打ち合わせがあるから先に行くわよ?クレアさん、リリム、後宜しくお願いします……くれぐれも今朝みたいな事がないように」
そう言って彼女は赤らめた顔を隠しながら部屋から出て行った。
酷い目にあった。
いや幸せな目にもあったからプラマイゼロか。
現在俺は部屋でリリムさんとクレアさんに制服の着方について教えてもらっていた。
「制服の胸に書かれている空白の部分は分けられたクラスによって決まるから気にしなくて良いわよ」
その後、俺は入学式で着慣れないブレザー型の制服に四苦八苦していた。
学園の制服は青のブレザーに黒のスラックス、白のワイシャツを着用する規則があり、制服を改造する事は禁止されている。
女子も同じ色のブレザーにスカートと黒のストッキング着用との事。
だが制服の上からカーディガンやらなんやらを羽織るのは構わないらしい。生徒たちにとってはそこをどうお洒落するかがポイントだ。
ネクタイ、リボンの色は年齢によって決まっているらしく、
赤は16才
青は17才
緑は18才
と決められている。
上にあげた例は人族である。
他の種族は知らないが最悪金さえ払えば学園には入学出来るらしい。クレアさんがいい例だ。
しかし、3年で学園を卒業する事らへんからやはり高校と考え方は一緒でいいのだろう。
高校行ったことないけどねっ!
「遅い、早くネクタイつけて。」
「待ってください!リリムさん!後、少し時間を!」
「もう待てない。」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!石化だけは勘弁をぉぉぉぉぉ!!」
彼女はそう叫ぶ俺からネクタイを奪い去ると
「じっとして」
手際よくネクタイを締め、制服の裾や襟元をちょちょいと直すと上から下まで見て「似合ってる」とつぶやいた。
「ありがとうございます……」
「お礼はいい、私は貴方の何倍も生きてるのだから。これくらいできて当然。」
いやしかし、美人な人にネクタイを締めてもらえるなんて照れる。まるで新婚さんじゃないですか。
「じゃあ行きましょうか?」
俺は白衣を脱いで制服に身を包んだリリムさんと和服を脱ぎ、きちんとボタンを閉めたクレアさんと一緒に会場へと向かうのだった。
*
講堂はまるでオーケストラの演奏とかが行われる劇場のようだ。
その中は既に生徒達で満席だった。
「席の前の方から年齢別に座ってるからまーくんは真ん中らへんに座ってねぇ?私は上だから。」
「あ、はい。」
「じゃあ頑張ってねぇ、留学生挨拶。」
そうなのだ、昨日父に呼び出され、ビクビクしながら校長室に向かった俺に対してふざけた笑顔で「留学生挨拶するからよろしく」と言われたのだ。
何故そんな大事なことを早く言わないのか。
いい大人ならほうれんそうくらい守ってくれ。
結局、昨日は3人に支えられながら真面目で論理的かつ少し、面白い冗談を混ぜた内容を必死に覚えさせられたのだ。
とりあえず席についてカンペで復習しようと席を探すのだが見つからない。
いや少し表現が違うか。
「えっ!?こ、この席は無理です!」
「ほかにあんだろ!他によ!」
「近寄らないでください!けがわらしい!」
座ってもいい席が見当たらないのだ。
誰も彼もが席を拒み、俺に対して怯えや剣呑な目を向けている。
探し続ける俺の目に愉快そうに笑う男女がいた。
そう昨日あたりに復活したイワン君である。
会長曰く、約束通り、イノセンティア家の借金を肩代わりしてくれたらしい。
おそらくだがこの生徒たちの怯えようは間違いなく彼によるものだろう。
後なぜ来ているかと言うとここに顔を出さないと平民から逃げているようだからと言われたらしいが無理に来なくて良かったんじゃないかなと思ってる。
ほら、笑ってる顔真っ白だよ?大丈夫?
しかし、早く座らないと不味いな。色々と好奇の目が痛い。最悪無理やり座るか?
「おーいマコト!ここ空いてるぜ!」
しかしそんな俺に救いの手が差し伸べられた。
席の真ん中から少し後ろから俺を呼んだ奴がいたのだ。
俺とリリムさんはその声に従って彼の隣へいき、席に座る。右隣の彼、エルデにその隣のガルディは何処かニヤニヤしている。
「ようこそ問題児が見る世界へ。お前はもう普通の生活なんかには戻れねぇぜ!」
「おい!俺を巻き込むな!俺はただちょっぴりお茶目をしちゃっただけだ!」
「お茶目で人を半殺しは初めて聞きましたわ……」
「貴方達静かにして。」
「「十分静かじゃん?」」
「貴方達、今すぐ血染めの花を咲かせたいの?私は別に構わない。」
「そこの貴方達!私語を慎みなさい!」
やんやんやと騒ぐ俺らに気づけば壇上に上がっていた会長から注意の声が飛ぶ。
「ほら見ろ、怒られた。お前のせいだぞ、エルデ。」
「テメェの頭は花でも詰まってんのか?間違いなくテメェのせいだろ、マコト。」
「本当に静かにして」
「切実すぎますわ……」
気づけば会長の挨拶はもう終わって次に俺の名が呼ばれていた。
俺は足の踏み合いになりだしたのを回避し、壇上へ向かう。
「もうっ!あれだけ五月蠅くしないようにって昨日言ったのに五月蠅くして!」
「あーすいません。」
「お説教は後でするから今は挨拶してきなさい。みんな色々と期待してるから。Aクラスを倒した留学生の事を。」
まじか……やっぱり噂が流れてんのか。
じゃあさっきのもその噂のせいだと見ていいな。
仕方ないか、自分で招いた種だから受け入れよう。
俺は壇上に上がり、ポッケに入れたカンペをちらっと確認し、顔を上げると
雨嵐のような魔法が飛んできた。
「うおっ!!回避!」
すぐさま壇上からころがりおちるように魔法の雨を避けるが着地に失敗した。尻が痛い。
「おい誰だ!今の魔法を放ったものは!」
「真ん中らへんから飛んできましたぞ!校長!」
「誰ですか、そのようなみっともない真似をした者は!!」
粉微塵に吹き飛んだ壇上を見て先生たちが金切り声を上げて犯人を捜索する。
俺の側には会長と急いで降りてきたのだろうクレアさんとリリムさんが俺の体に怪我がないか確認してくれた。せいぜいかすり傷程度だったので2人は安心したようだ。
「先生たち、別にいいじゃないですか。被害に遭ったのは平民風情なんですから。」
騒ぎ立てながら犯人を捜す先生たちの耳にそんな声が届く。その声の主人は余りにも有名なために先生たちは即座に気が付いた。
「アルフレッド!貴方は何を言っているのです!」
「ですから先生、優秀な血を受け継ぐ貴族が生き残っているのです。何も問題はありませんよね?」
なんだあの貴族?人の命、何だと思ってやがる。
半殺しにした俺が言う事じゃねえけど!
「アルフレッド……貴方がやったの?」
「おやその声はかつての私のパートナーの声じゃないか?」
「……私を捨てた癖にどの口がパートナーと呼ぶの!」
「無論、この口さ。貴族の子女に甘い言葉を囁くこの口だ。」
何だろう……とりあえず無性に殴りたい。
少女マンガみてえな歯が浮くセリフ言いやがって…
「つか、あれがロゼさんの元パートナーですか?」
「ええ、彼がアルフレッド・ファルスチャン。かつて公爵の地位を持っていたイノセンティア家の代わりに台頭した家系よ。」
「待ってください……イノセンティア家って元公爵家だったんですか……?」
「今は領地を没収されて子爵まで落とされた。」
まじかよ!あれだろ!確か爵位の中で王族の次に偉い立場とかじゃなかったっけ!?会長、めっちゃ偉い立場の人じゃないですか!
「話はイワンから聞いている。君の力は素晴らしい、私の目が曇っていたようだ。どうだ?やり直す機会を君に与えたいのだが?」
「やり直そうじゃなくてやり直す機会ね……貴方私を馬鹿にしてるの?貴方みたいな貴族なんてこっちからごめんよ。」
「ほう……子爵がこの公爵家に逆らうか……なら父に頼んで君の借金の利息を挙げてもいいんだぞ?」
「お生憎様、この間の決闘で私の家の借金は綺麗さっぱり無くなった筈だ。君の取り巻きの1人、イワン君のおかげでな。」
ちらっとイワン君を見る。俺を見たイワン君が真っ白な顔で下を向き、周りの人達が悲鳴をあげる。多分キラキラを吐いてしまったのだろう。
ごめんね、周りのみんな。
ごめんなさい、イワン君。
「……今のを見たか?彼にそんなトラウマを背負わせて更に君は彼から金を無心するのか!仮にも貴族だろう!?」
「何を言ってるの?決闘を仕掛けたのは彼の方だし、条件を出したのも彼の方よ。なのに何故私が悪者みたいな扱いを受けなきゃならないのかしら?」
「神聖な決闘を先に汚したのは彼の方。策に嵌めて弱者を甚振ろうとした彼が悪い。」
「むしろ決闘後にごねるアルフレッドちゃんのほうが貴族らしくないわよ?ね?まーくん?」
「貴族の流儀とかはよく知らんけどダサい真似だって事はよく分かった。」
未だにごねるアルフレッドに対し、会長の援護射撃を行うリリムさんとクレアさん。いつしか、周りは静かになり、彼女らの議論が講堂内に広がる。
「そうか、君たちの言い分はわかった。だがやはりトラウマとなった原因は取り除いておかないといけないと俺は思う。」
あ、やべ、こっちに標的が移った。
くっそーそんな癖のない銀髪に切れ長の目で睨まれたからって引く気は無いからな。
「つまり、彼に学園から退学させろとでも?」
「いやそれではイワン君を狙って報復しに来るかもしれない。私が言いたいのはーー彼を死刑にするべきだ。」
「……嘘だろ?」
いや確かに怪我させたし、トラウマ植え付けちまったけれど、命は奪っていないし、俺から殺しにかかったわけでもないのに何故そうなる?
「貴方馬鹿?」
「リリムの言うとおりよ、彼が仮に自分から決闘を仕掛けておいて相手を殺したならそれでいい。けど!今回彼は私を助けるために手を貸して始めて使った心武器による事故みたいなものよ!彼に責任はない!」
「いや悪いのは確かだから謝るし、殴りたいといえば頬を出す気ではいるが流石に命を出せは無理だわ。」
実を言うと怪我が治り次第、予備の金貨袋を持って謝りに行くつもりだったし。
「そんなに彼を庇う理由があるのか?少なくとも俺にはそうは見えないが?たかが平民、貴様など俺の力があればーー」
「それはテメェの力じゃねえ、王家が与えた権力と言う力だ。」
席から立ち上がったのは茶髪の男、すなわちエルデである。
「何だと?」
「テメェの内政の手腕は親父から聞いてる。小さな頃から画期的な案で領地を広げて来たってな。けどよぉ…テメェがその間に潰して来た貴族達からの文句も王家は受け取ってんだよ。」
若干伸ばした茶髪をかきあげて射殺すような目でアルフレッドを睨む。
「それに加えてテメェがイノセンティア家と変わって公爵の地位についてから周りの貴族達が悲鳴をあげてやがる。おかげで親父の胃痛は絶えねえばかりだ。」
ねえ待って……エルデ君。
その話ぶりからすると君の父は王宮でもかなり偉い立場にいないかい?
大臣とかそこらへんじゃないかな?
「いい加減に権力に胡座をかいてんじゃねえぞ?借金がなくなったイノセンティア家が戻って来ればテメェはそうやってデケェツラ出来なくなるんだからなぁ。」
「ぐっ……」
「ねえねえロゼさん。エルデって一体何者?今、思ったけどすごいロゼさんと似ているし、あのアルフレッドが反論出来ないってどう言うこと?」
「彼は私の従兄弟、そして王家の血を継ぐ第1継承権の持ち主。エルデバラン・ヴァイス・ディアブレリー。ディアブレリーの王子よ。」
「……まじか。」
まさか不良みたいな雰囲気醸し出してるくせにめっちゃ高貴な身分なのかよ。ごめんね、心の中で問題児とか言っちゃって。
「……ここまでにして退け。これ以上やるのは時間の無駄だ。」
「だがーー」
「聞こえなかったのか?ーー俺は後、どれだけテメェに時間を割けばいいんだ?」
講堂内を覆う怒気に足がすくみ、倒れそうになった俺をリリムさんが支えてくれた。
「いいだろう……ここは貴方の顔を立てて退かせていただく。だが俺は諦めたわけじゃあないからな。マコトと言ったな?名前覚えたぞ。」
アルフレッドは講堂の扉を音を立てて開くと逃げ出すように出て行ったのだった。
*
その後、魔法を放ったのがアルフレッドによる取り巻きだと判明した為に無事に挨拶をすることが出来た。
壇上に立った際には好奇の目に哀れみの目が刺さったが覚えた通りの内容を口にすると意外にしっかりしていると先生からの評価が上がったとロゼさんが言っていた。
そして現在、俺は割り当てられたクラスーーBの文字の前で立っていた。
「ようやく私はFのクラスから解放されるのね!ここまで長かったわ……ええ、ほんとうに。」
「お姉さんはCから上に上がった事なかったから楽しみだわ。」
「私は研究の代わりにパートナーが免除されてたから私にとっては初めて。」
「……」
「どうしたの?まさか緊張してるの?」
「それともさっきの魔法で何処か怪我してた?」
「不安?」
違うんだよ、3人とも。
「なんか……信じられなくてさ。」
天涯孤独の俺がこうやって学校に行けるようになって友達も出来て、楽しい毎日を過ごせるなんて思ってもいなかった。
「実は夢を見てて、教室に入ったらそれが覚めるんじゃないかなって考えちゃっただけだ。」
「マコト君……」
異世界なんて実は夢で
魔法なんかは3D技術で
武器なんかはレプリカで
隣に立つ2人は雇われた人とかで
「心配ないわ。」
気づけばクレアさんが手を握ってくれていた。
「この温かさが何よりの証拠、貴方はここにいるじゃない。だからーー決して夢なんかじゃないわよ。」
優しげなその声と同時に頭に手を置かれ、撫でられた。
「貴方が見てる世界は決してうたかたの夢なんかじゃない。今まで苦労して来たんだから少しくらい幸せを受け入れてもいいんだよ?」
ロゼさんにくしゃくしゃになるまで髪を撫でられた。
このままだとまた泣いてしまう。
「よし!行こう!」
涙を閉まって俺は扉を開く。
中には36人の男女と1人の教師。
俺は彼等の前に立ち、挨拶をする。
「初めまして、留学生のマコト・カラスマです。パートナーはロゼ・イノセンティアとクレアシオン、リリム・ブラウ・ウィチェリー。楽しい学園生活を送りたいと思いますのでこれからよろしくお願いします!」
これから始めよう俺の学園生活を!
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