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厄介な人達

今日も2話投稿なので19時からもよろしくお願いします

 彼は、困惑していた。目に映る……今の自分を取り巻く環境に。


 抜けるような青い空と、どこまでも広がる荒野。それはいい。遙か後方に控えているパートナー達と、小さな笑みを浮かべて彼らと同席している家族達。


 沈黙を守っている父と、その傍らで震えている金の髪の娘の阿保な妹。


 自分の正面、50メートルほど離れた場所に立つ、幻獣の姿を模したとおぼしき刺繍入りの青いマントを羽織り、黒の軍服に身を包んだ女性。


「何故に、俺は義理の母と戦わなくちゃならんのだ。」


 しかし、その疑問に答えてくれる者はなく。


「ウィチェリー帝国海軍元帥、『九大罪』が1人『憂鬱』メーア・オーシャン。敵に背中を見せたことはない海の覇者!」


 ただ、目の前に立つ人物による名乗りの声が響くのみであった。




 *

 




「決闘よ!」


「………朝からなんすか?」


 翌朝、全ての栄養が搾り取られた俺の部屋の扉を叩かれ、乗り込んで来た父をパンイチで蹴り出して朝御飯の時間。


 艶々な笑顔のクレアさんに眠そうな霞、恥ずかしそうにこちらをチラチラ見るロゼさんに微笑んで、リリムさんに足を踏まれた所で朝御飯を食べる。


「貴方に皇女様を任せるに相応しいかテストするわ!」


「ちなみに断ったら?」


「今日のご飯全てが精力亀になります」


「場所はどこですか?すぐにいきます。」


 特にクレアさんとは夜明けまでしていたから体力の減りが酷いがこの決闘、負けるわけにはいかない。

 連夜3人相手にしてたらこっちが先に死ぬ!


 服を着替え、親父と一緒に転移した先は抜けるような青い空と高い壁に囲まれた練兵場。


 そして現在に至る。


「条件は私が勝ったら、今日の貴方のメニューは海鮮料理から精力亀フルコースよ!私が負けたら、そうね………息子として認めてあげるわ!」


「改めて、未来の息子になるかもしれない男と決闘するのもいささかおかしいが仕方ない。仕方ないだろ!連夜で皆を相手できるか!腹上死するわ!」


 何それ裏山とか言う奴、お前ら3人に奉仕して朝までコースとかマジで死ねるから!

 眠くても寝れないし、気遣いで精神的には削られる、俺はちゃんと1人ずつ愛したいんだよ!


「覚悟はいいかな〜?」


「いつでも!!必ず勝つ!」


「そうーーウィチェリー帝国海軍元帥、『九大罪』が1人『憂鬱』メーア・オーシャン。敵に背中を見せたことはない海の覇者!」


 空気が変わったのを肌で感じた。

 暗い波に飲まれたような息もできないような圧迫感を吹き飛ばすように高らかに宣言する。


「異世界からの来訪者、『双銃の希望』マコト・カラスマーーいざ尋常に勝負!!」



 *



 マコトは先制を仕掛けようと無視と改造によって仕立て上げた肉体で接近する。


 しかし、それは彼の頬に当たる冷たい感触に止められた。


「降り注ぐは歓喜の雨か!?」


 違う、私ならともかく彼女が降らせるわけがない。

 空を見上げれば魔力によって立ち込めた暗雲からただの雨が降り出す。


 水属性魔法を使う際に使用魔力を軽減する魔法ーー冷たい雨に濡れながら(ヒューエトス・カルト)


 そして彼女は海軍元帥、いわば海の上の女。

 なら次に使う魔法はーー


「雨の日限定ーー逆巻く波濤の覇者ヴァルナライド・マイスター!!」


 瞬間、地面がひび割れ、噴水のように吹き出した大量の水がマコトを飲み込み、そのまま飲み込んでマコトは海原に投げ出されてしまう。


 壁に囲まれた練兵場はこの水を逃さないためであり、シェンデーレが彼女が本気で戦えるための舞台を揃えたのだ。


 私は海を凍らせ、その上に立ち、他のみんなもアーティファクトや魔法類で解決しているので問題はないと思う。


 マコトは心配だが。


「さあ!波乗りの始まりよ!」


 顔を出したマコトへ向けてウィチェリー海軍所持のライドボート(サーフィンボード)に乗ってどんどん近づいていくメーア。


 マコトは慌てふためき、メーアはそれに向けてライドボードに取り付けた刃で切り裂こうとする


「かかったな!」


 だがマコトは水の中から飛び上がると海面を普通の地面と同じように高速で移動していく。

 その速さはメーアには到底追いつけず、銃にとって有利な距離を作り出してしまった。


「ぬははは!妾の移動ならば海面すら高速で移動出来るのだ!おそらく海中も一緒であろう!海に沈めて、行動力を奪う作戦は失敗というわけだな!」


 既に高速でメーアを中心に円状に移動しながら二丁拳銃を構えては撃っていく。

 まさしく文字通りの移動砲台を前にしてメーアは水の鞭で弾いていく。


「すごい!すごい!ならーー本気で行くわよ。」


 わずか数秒にも満たなかったマコトの硬直を、メーアは見逃さなかった。

 大声でそう宣言した後、即座に前傾姿勢を取る。それを見たマコトは、すぐさま迎撃体制に切り替え、彼は近距離戦に対応する。


「受けて立つ!」


 そのマコトの反応を見たメーアはニイッと笑みを浮かべると、波と共に……人間業とは到底思えないほどの超速度で猛然と滑りだした――正面を向いたまま、後方へ。


 マコトが見事にずっこけた。

 これには私とルナールも苦笑い。


「絶対お母さん、なんかやると思った。」


「相変わらず器用だな」


 メーアの家族達ですら呆れる中、義理の息子は再び銃を切り替えた。


「アンタ、決闘舐めてんのか!逃げてばかりで戦う気あんのか!!」


 彼はそれと同時に弾丸を呆れるほどの超高速で後退していくメーアへ向けて、毎回、数秒単位で飛ばしまくったのだが、全部ひらりひらりと躱されてしまう。それも、紙一重で。


 メーアが行っているこの回避行動は、とてつもない技量を必要とする『超高等技術』なのだが「うひゃー」とか「きゃあー!」「ひぇー!」などという叫び声が一緒についてくるので、締まらないことこの上ない。


「敵に後ろを見せないという話は、嘘だったのか!?」


「嘘じゃないわよ!その証拠に、全部前を向いたまま避けてるわ!!」


「それは屁理屈って言うんだよ!」


「ハッ、屁理屈だろうとなんだろうと事実であることには変わりはないわね!」


 超精密射撃すら当たらないとなると質より量の選択をとったマコトは無視の能力を込めた弾丸を海に放ち、目眩しに水を打ち上げる。


 2人の間に打ち上がる水飛沫で両者の姿は見ることはできないがマコトには把握の力と魔眼がある。


 遠くから見ている私には水飛沫を突き抜けて雨あられの弾丸がメーアへ襲いかかるがメーアがボードを使って波を立たせ、自分の姿を覆い隠す。


 弾丸達はその波の社に取り込まれていくが波が収まった後にはメーアの姿はなく、あるのはボードだけ。


 マコトは位置を把握しようと目を光らせた瞬間、底くらい水の底から赤黒い触手が一本伸びて来た後、マコトの足へ絡みつき、そのまま水の中に引きずり込んだ。




 *




「………それが貴方の真の姿か?」


 いきなり強い力で水の底に引っ張られたかと思うと目の前から迫る触手達を無視の銃弾で叩き落としていく。


 そして改造で肉体を水の中で活動するに相応しい鰓呼吸や水掻きなど体を変えて移動の力でそれから距離をとる。


「やっほー!驚いた?これがメーアちゃんの真の姿なのです!」


 そこにはタコに似た頭部、イカのような触腕を無数に生やした顔、巨大な鉤爪のある手足。

 ぬらぬらした鱗に覆われた大きなゴム状の身体、背にはコウモリのような細い翼を持った姿をしていた。


「クトゥルフかよ…」


「お、なんか褒められた気がするぞー?」


「水の中だから言葉にならないのによく伝わるな。」


「私の声は悪魔となった為に聞こえ、貴方の声は読唇術なのです。」


 ともあれ、これは相手にとって有利な状況に持ち込まれたという訳だ。

 水中戦なんてやったことはないし、あの巨体の触手を伸ばされちゃたまったもんじゃない。

 魔眼で薄暗い水の中だが見抜くことは出来る。


 俺はすかさず、銃を構えたがメーアさんはそれに対してなんのアクションも起こさない。


「戦う前に聞かせてほしい、貴方………本当に人間?」


「何をおかしな事を?俺は間違いなく人間だよ。」


 むしろまた空気が変わり、侵食するような冷たいものが俺の肌を撫でた。


「貴方からは私と同じ、いやそれ以上の匂いがする。貴方………まさか『憤怒』かしら?」


「憤怒?おいおい、俺は魔族でもないし、悪魔でもない。勘違いだろ?」


 問いかけの求める先に答えなどない。

 自分にそれを証明出来る手段や方法がないのだから。


「だとしてもおかしい。私達の中でも今だに憤怒の席が空いている。虚飾は既に別の魔族に移ったのは確認済みな以上、魔王であったサタン様の憤怒も誰かに受け継がれているはずなのよ。貴方がそうなら色々辻褄があう。」


「辻褄合わないって勘違いだって。」


「リリム皇女様と相性がいい者は誰1人としていなかった。私達魔族、更に大罪達ですらよ!貴方がそうならパートナーに選ばれた理由も分かるわ。」


「待てって父から聞いてるだろ?俺は人族の両親から生まれた人だって。魔族の血はこれっぽっちも流れてないんだ。推測の域を出ていないんだろ?」


「そうなのよ………そこだけが決して証明できないの」


 問題はそこだ。

 その通りならむしろライアがそれの方が納得できるものだろう。


「………まだ納得していないけど推測で適当な事を言ってしまったことは謝るわ。もしかしたらライアがまだ目覚めていないだけかもしれないしね。」


「よし、じゃあひとまずの決着をつけたところでやりますか?」


「あら?メーアちゃんに勝てるのかしら?わるいけど負けは見えてるわよ。」


 今度はちゃんと臨戦態勢に入った俺たちは触手と弾丸の応酬を繰り広げる。


 水の抵抗など無視した触手の射出を無視の力で最高威力のままの弾丸が弾いていくも唸る触手の動きと水中の戦闘経験の差が俺を追い詰めていく。


「ほらほらほらほら!!」


 水中を飛ぶように移動しながらも動きに追随するように触手達も早さをます。

 このままだと負けると思った俺は水中から移動を用いて水面に立ち、肉体を元に戻す。


 動きは把握しているため、海面から水柱を立てて出てきた触手達を無視の弾丸などで消滅させていくも壊した先からどんどん治っていく。


「にゃろ!なら火ならどうだ!」


 神龍の腕輪を経由した赤い魔力が形となり、弾丸が貫いた触手を焼滅し、再生も遅い。

 どうやら火なら有効らしい。


 それらを踏まえて倒し方は思いついたが………これはかなりの弁償額行きそうだな。

 後、すごい危ない。


「親父!先に謝っておく!ごめんなさい!」


「おい待て!何する気だ!」


 親父の言葉を無視して岩壁を改造弾で撃ち抜き、黒い液体、すなわちタールへ姿を変える。

 黒くどろりとした粘性の液体は青い水面を黒く染めていく。


「みんな!死にたくなかったら離れてくれ!」


 準備は完了、再生能力があるなら………今から火の海になっても死ぬことはないだろう。

 俺は火の弾丸を黒く染まった水へ狙いを定めて



「待ってぇ!やめてぇ!私の負け!」



 たと同時に水から人間形態に戻ったメーアさんが姿を現した。

 壁の上に立つと降参の意を示すように両手を合わせて頭を下げた。


「危ないよ!なんでシェンと同じ発想になるかな!?アレ、凄く熱いんだから!一度食らえば十分だから!」


 どうやらタールを流し込んで火をつけて燃やし尽くすという作戦を父は以前に思いついていたらしく、よほどトラウマになっていたようだ。


 父を見つめると露骨に目を逸らされた。


「やっぱり、シェンの子供だね。そこまでの容赦の無さならリリム様を任せても問題ないかも。でも私が倒れたところで第二、第三の大罪達が貴方を殺しに来るわ!だってみんな、リリム様大好きだから!」


「さらっと怖いこと言わないでもらえます!?嘘ですよね、リリムさん!」


「………………大丈夫よ、多分」


「信じられないくらいの間がありましたけど!?俺、大丈夫!?まじめに死なない!?大罪キャラは最強クラスってのが常識ですよ!?」


「まあともかく、お前はパートナー達の方に行け。明日の昼過ぎにはコンジュレイの姫君が来るぞ。しっかり打ち合わせするんだな。」


 父が指を刺された方を見ると皆が手を振っていたので俺は父に頭を下げてからそちらへ向かった。


「………メーア、本気じゃなかったろ?」


「馬鹿ね、血は繋がってないとはいえ愛する貴方の息子なら私にとっても愛しい子に違いないわ。親が子に暴力を振ってはいけないのよ」


「………甘いな君は」


「そんな甘さに溶かされた人が言えないわよ?さあ帰りましょう、ライア。帰ったら貴方のお話、たっぷり聞かせてね?」


「うん!」


 会話の内容は大まかにはそんな感じだがそれでも彼らの家族の温もりはしかと伝わった。


 いつか、俺もあんな家族になりたいもんだ。




 *




 翌日!しっかりと身体を休めたおかげで調子はバッチリだぜ!イエイ!


 違うんです、テンション高くしないと緊張感で吐きそうなんですよ。


「設定は頭に入れた?」


「大丈夫です、『リリムさんが俺に婚約関係を申し込み、承諾。位の順からリリムさんが婚約者になった』ということですよね」


「無理があるけどそこは押し通すしかない」


 隣に立つリリムさんは悪魔化した成人姿で青空のようなドレスの正装に身を包んでいた。


「2人ともきたわよ、コンジュレイの馬車が」


 クレアさんは今回、護衛として俺たちのお見合いに顔を出すようだ。

 闇討ち、暗殺などはないと考えていいだろう。


「行きましょうか、マコト」


「よろしくお願いしますよ」


 戦うよりも緊張するってのがおかしいがこれから先の勉強だと思ってやらせていただきますよ。




 *




 初めまして、マコト様。私はコンジュレイ第二王女、ベスティア・ジョーヌ・コンジュレイです。本日はお招きいただき誠にありがとうございます!」


「初めまして、ベスティア姫、私はウィチェリー帝国皇女、リリム・ブラウ・ウィチェリーです。遠路はるばるよく来てくださいました。」


 招いてないよ。

 仮に招いたとしても他国の王女様を蔑ろにしてはダメなのとエルデの策略だ。


 現在、案内された部屋で向かい合うベスティア姫と俺とリリムさん。

 護衛としてクレアさんが俺の後ろに立ち、ベスティア姫の護衛2人はクレアさんを見て冷や汗を流している。


「あれれ?ベスティアが聞いた話ですとロゼ・イノセンティアを婚約者にしていたのでは?」


「………私が彼に婚約を申し込みました、私は魔族である以上、外に情報を漏らして余計な緊張感を出したくなかった為に側室を隠れ蓑にしたのです。」


「あらあら、でしたらベスティアはお邪魔ですか?ベスティアは悲しいです」


 大袈裟にめそめそとするがどう見ても嘘泣きである。コンジュレイの第二王女ってこれで務まるのか?

 いや、俺たちを油断させる罠かもしれない。


「その為、貴方にはこのお見合いはなかった事に………」


「ところでマコト様はご趣味はありますか!」


 リリムさんの眉が顰まる。

 それに気づいているのか、気づいていないのか、これは多分気づいていない。


 ベスティア姫は瞳にハートマークを浮かべながら、うっとりとした表情で話しかけてくる。


「今日は是非、マコト様の武勇をお聞かせくださいませ!」


「い、いや、武勇も何も、大事に巻き込まれたりしたことは何度もありますが、自分1人ではなく皆の力があったからこそ切り抜けられた訳で。自分自身の力は大したことありませんよ」


「謙虚なんですね。そんなところも素敵です!」


 瞳と言わず、全身からハートマークを乱舞させる勢いで、ベスティア姫が返答してくる。

 どんな返答をしようと彼女の中で好感度が鰻登りで上昇してしまうらしい。

 俺は思わず苦笑いを浮かべるしかなかった。


「ベスティア姫、盛り上がっているところ申し訳ありませんが今回の縁談の話は………」


「マコト様は獣人はお嫌いですか?ベスティアはこう見えてスタイルはいいんですよ?」


 リリムさんからの冷気が凄い。

 リリムさんも予想外だったのだろう、まさかここまで話を聞かない奴だとは。


「ベスティア姫、何故俺を選んだのですか?貴方ほどの美貌なら選り取り見取りでしょう?」


 リリムさんが机の下で俺に話せと言う合図をしてくるので仕方なく、話題投下。


「ベスティアも最初は別の婚約者がいましたが初めてマコト様の情報を耳にした時、電撃が走ったのです!それ以来、マコト様を取り入れようと何とかしようとしましたが周りには止められてしまい、今回が初めてで最後のチャンスなのです!」


「そうなんですか………」


 瞳をハートマークにしたままで、そう言われましてもこちらが困る。


 どうもベスティア姫は惚れっぽいらしい。

 しかも惚れたら一直線の性格らしく、ぐいぐいと攻めてくるのだ。


 正直に言ってこの人は苦手だ……。

 ぐいぐい来るのは霞やクレアさんで慣れているが2人はちゃんと場をわきまえたりしてくれる。


 だがベスティア姫は人を気にしない性格らしい。

 だからと言って相手は皇女、下手な態度は取れないから扱い辛い。


「ベスティア姫、今回の縁談の話はなかった事に出来ませんか?俺はリリムさんの手を取るだけで精一杯ですから。」


「それに貴方との婚約に有利な点が見当たらない。コンジュレイがこの国と関わりを持つのなら、すでにエルデバラン王子が使用人として雇った彼女を通じればいい。人族は脆い、その為に血筋を増やしておくと言う目的なら貴方はエルデバラン王子に嫁ぐ方が至極当然な結論だ」


 国として関わりを持つならば第二王女の立場として第一王子であるエルデに嫁いだ方がメリットは大きい。

 あちらにも姫はいるがこちらと交渉するよりかはまだマシだろう。

 エルデ、女好きだし、さらっとハーレムに加えそう。


「逆に私たちの婚約関係はウィチェリー帝国の評価を元に戻す布石となる。父を殺した英雄の子と魔族の姫である私が結ばれれば他国との確執は小さくなる上に操りやすい。いくら民達でも私の花婿に手を出そうとはしないし、他国も2つの国を救った男と英雄が中にいるならひとまずは歩み寄りを見せるはず。現に英雄がそのように手配している。」


 設定上、側室扱いのロゼさんと繋がりがあると言うことはディアブレリー王室関係者と繋がりがあると言う事になり、両国の間で繋がりが生まれる。


 更に英雄の父が現在、管理している領地に魔族を歓迎していることで魔族を受け入れたテストケースとして王国も受け入れることを父は進言している。


 父の妻、メーアさん経由で商売にも海産物などが流れ、生まれる利益を無視できない以上、この婚約は行うべきらしい。


 それが昨日の打ち合わせで決まった理由である。


 だがベスティア姫に見せるとベスティア姫は首を傾げた。


「よりにもよって何故、魔族なのですか?あんな薄汚い種族よりベスティアたちのような獣人の方が宜しくてよ。世界の為と言いながら戦争を起こした何処かの王など同じ王族として恥ずかしいです」


 瞬間、テーブルが凍りついた。


「ーー今、なんて言った?」


「あら?ベスティアの可憐な声が聞こえなかったようですね?ならもう一度、貴方の父親は愚かな王だと言っているんですよ?」


 やばい、ベスティア姫が地雷を踏んだ!

 リリムさんから流れ出る冷気がより強まっていく。


「リリムさん!落ち着きましょう!ひとまず、一旦部屋を出て………」


「それで?こいつはどうするの?貴方が殺すの?マコト」


 聞いたもの全てを凍らせるように彼女はつぶやいた。

 これを見て流石にクレアさんも看破できないと踏み、リリムさんを落とし、羽交い締めにして部屋から連れ出す。


「すみません、婚約者が大変失礼な真似を」


「全くだ、やはり魔族は信用ならん。」


「そうですね、しかも貴方の婚約者のせいでベスティアの可愛いお手てが凍傷になってしまいました。傷物にされたこの責任はどう取ってくださいますか?」


 凍傷とは言うが指先だけだ。

 だが大事なのは傷つけたという事実。

 そこにつけ込んで自分に交渉を有利に進めるつもりか。


 だけどな、今のオレは結構イラついてんだよ。

 視界が歪むくらいにはな。


「そうですね、白金貨を詰めた袋を用意します。それで今回はお引き取り下さい。」


「何をご冗談を、マコト様。ベスティアは貴方にーー」


「黙って引いとけ、ここで死にてえのか?」


 ベスティアは思わず息を呑んだ。

 さっきまでとは違う、空気の変わりようにまるで別人なのではないかと錯覚してしまう。


「貴様!ベスティア様にどのような口を!」


「姫様に先におかしな口を聞いたのはそっちだろ。今回は縁談の話であって、誰も相手を乏しめる話し合いじゃないはずだ。」


 ベスティアは後ずさりながら護衛の後ろに身を隠す。


「リリムを傷つけたのはお前たちだ。オレの気が変わらねえうちに部屋から出て行け。金は後で………ルナール辺りに持たせる。知ってんだろ?義賊王」


「やはりいるのか、義賊王………」


「そう!義賊王は貴様の後ろにいる!」


「貴様!いつの間にっ!」


 護衛の後ろのベスティアの後ろに突如、姿を現したのは腕を組んでドヤ顔のルナールだった。

 ルナールはこちらを見ると自分のふところから袋を3つ取り出し、護衛に投げ渡す。


「さっさと退け、ここは妾に免じてひくのだな。また国を滅ぼされたくはないだろう?」


「ベスティア様!」


「いいわ、引きましょう。ですがベスティアはまだマコト様を諦めませんから。それと義賊王、盗賊王が復活しましたよ」


「何だと?」


 ベスティアは捨て台詞のような言葉にルナールが眉をひそめると部屋を出ていった。

 ベスティアを追いかけるように護衛たちも部屋から出て行き、ルナールとオレだけが残された。


「助かった、ルナール。感謝する。」


「例には及ばぬ。だが………貴様、何者だ?」


「やっぱ分かるか。安心しろ、ルナール。オレは何もするつもりはない。今回はただ苛ついただけだ。」


「そうか、なら早く元に戻れ。貴様の正体はなんとなくだが推測はつく。」

 ・

「正体って失礼な、俺は俺なんですけど。ルナールさん?しかし、やらかしちゃったな。どうしよう………」


 ともかくリリムさんの元に向かう為に俺は部屋から出ていくのだった。



 *



「ごめんなさい」


「いや、顔を上げてくださいってリリムさん。というか床に正座ってまさかの日本スタイル?」


「いやマコトさん、気にしないでください。私、床大好きだから。暇さえあれば床に座ってますんでマコトさんはお気になさらないでください」


 ルナールか案内した先の扉を開けるとそこにはグラマソーサリーの里で誠意を表す土下座をしたリリムさんの姿だった。


「いやいや俺も縁談、台無しにしちゃいましたし、お互い悪いって事でおしまいにしましょう!ねっ!?」


「マコト様は優しいですね。優しすぎてもう目、見れないです。私のことはオガクズだとでも吐いて捨ててくださいお願いします」


「………ロゼさぁん」


「リリム、いくらなんでも悪ふざけすぎよ。マコト君が泣いちゃうじゃない。」


「先輩の泣き顔もいいな………」


「約1名、既に手遅れねぇ」


 割と収まらない状況にあたふたしているとライアがやって来た。


「やっほー!お兄ちゃんっ、凄いことしたね!国同士で喧嘩売る気かなっ?」


「だよね〜一歩間違えれば国際問題だよね〜………俺の首だけで何とかなりますかね?」


 洒落にはならない状況を作ってしまったことに本気で死をもって償うべきではないかと悶々とする中でライアは紙を取り出した。


「でもあっちも馬鹿にしたみたいだし、とりあえずお父さんが何とかするみたい。具体的には1週間後に行われる『獣王祭』への寄付かな?白金貨100枚くらい。」


「………大臣の年単位の給料じゃない。マコト君、払える?」


「な、何とか。ルナールさん、貯蓄分が確かそれくらいありましたよね?」


 冷や汗を流しながらもティフォンの帳簿を思い出し、自分の手元に振り込まれている金額を考えて何とかなると判断。


「まあな、しかし可哀想すぎるから妾も1割くらいは負担してやろう」


「お姉さんも負担してあげるわ、1割くらい」


「私も」


「ありがとう、本当にありがとうございます。正直ちょっときつかったです」


 自分たちで稼いだお金を持つ人達が恵んでくれたおかげで何とかなりそうだ。


「何を言ってるの?最愛のパートナーが困ってたら協力するのは当たり前でしょう?だ・け・ど、お姉さんの貯金から捻出するから代わりにまーくんに補填してほしいなぁ」


「………お金なら必ず「そうじゃないわぁ」


 あ、やばい。

 今のクレアさんの目は夜とかに俺をベッドに押し倒した際に見られる猛獣の目だ。


 か、覚悟を決めろ。

 連日チャレンジが行われるかもしれないがそれで済むなら安い方だ。


「そう硬くならないで?お姉さんはアソコは硬いほうがいいけど〜今回はそんなんじゃないから。」


「な、なら一体何を?」


 クレアさんはにんまりと笑うと今、部屋にいる女子たち全員を見つめてこう言った。


「この領地の端っこに綺麗な砂浜があるの。そこまで言えば分かるでしょう?」

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