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2人の剣士

すみません!

少しおくれました!

「来たか。」


門の前、神経を研ぎ澄ましていた彼女は組んでいた腕を下ろし、脱力する。


「来てやったぜ。」


そこにやって来たのは自然体のエルデ。

至って普通に両手を上げて降参を表している。


「これからお前には私と一緒にディアブレリーに来てもらう。反抗すれば……わかっているな?」


「ガルディの命はないってか。やめろよ?なんやかんや言って俺、あいつ大好きなんだから。」


「ならそのまま両手を頭に合わせてこちらへ来い。無論、変な真似をして見ろ、腕くらいは斬りとばしても問題はない。」


「勘弁してくれ、ガルディの胸を揉めなくなるじゃねえか。」


両手を頭に乗せて近づいて行くエルデにメロは最大限の注意を払いながら近づく。


「うおっと!!」


だがエルデは足をとられて転んでしまう。

近すぎたメロは思わず両手を差し出して受け止めた。


瞬間、彼女の首元を狙うように心武器を出現させる。

飛び出るように出てきた剣の切っ先が彼女の喉笛を裂く。


「予想はしていた。」


だがふわりと花が舞うようにかわされ、エルデが剣を掴むよりも先に美しい刀身が彼の首元へ添えられる。


「予測済みだ、オラ。」


しかし、落ちる剣に膝蹴りをかまし、彼女へ向けて飛ばす。彼女も身を最低限ねじることでその攻撃を避けるが既にエルデには距離をとられていた。


「そしてお前はここまで予知してたか?」


「なるほど、すったな?」


彼の手にはラインが握られており、彼女はこの短い攻防に負けたことに少しイラつきを覚える。


「これでイグニスには連絡できねえ。つまり俺もガルディの心配はいらねえ。心置きなくやれる。」


再び心武器を取り出し、剣を地面に突き刺す。


「私がお前とやるとでも?周りの騎士を派遣すれば数の暴力で潰されるだけなのにか?」


「お前は剣姫の名を持つ騎士だ。騎士の見本たるアンタが矜持を蔑ろにするとは敵として思えねえ。」


「よくわかってるじゃないか。」


名刀桜吹雪を抜き、上段に構えた彼女は不敵に笑う彼に意図知れぬ不安感を覚える。


刹那、彼女の脇腹が貫かれた。


「っ!?」


「ギョッとして体が固まったな?」


何が起きたか理解できずに迫る彼を遠ざけようと一太刀。

それですら目視は不可能とされる鮮烈で苛烈な斬撃とされるが


「欠伸が出ちまう。もっとヒリつかせろ。」


それを紙一重でかわされ、晒した懐へ横断ちの斬撃。だがメロはそれに合わせてバックステップで避け、服1枚犠牲にするだけで済ませた


「バーカ。よけ方が甘い。それじゃあ食らうぜ?」


はずだった。服だけで済ませたはずが傷が広がるような感覚とともに横一線の傷跡が深くなっていくではないか。


まだ浅いがこのままいけば内蔵が飛び出てもおかしくないため、腹筋を収縮し、きつく締め、本気で処理にかかる。


(十中八九、能力!しかし、ガルディとは既に契約が切れたと連絡があった。ならば誰と契約した!)


内心、メロは混乱していた。

彼の剣技は冴えてはいるが自分よりかは劣っている。

それなのに受けた斬撃が今でも自分を傷つけているのだ。


「よーし、じゃあスピード上げてくからついて来いよー。」


ゆっくり考察している暇はない。

何故なら彼の姿が消え去ったのだから。


「ふっ!」


「おお、ついて来られるのかよ。すげえな。」


しかし、長年の勘と経験に身を委ね、僅かな気配と足音を感じ取り、推測した先に刀を添える。

そこには剣を振り下ろしたエルデがおり、信じられないと目を丸くしていた。


「私を甘く見過ぎだな。このまま………」


そこで彼女は受け止めたエルデの剣がやけに重い事に気付いた。それどころかしっかり止めたはずなのにゆっくりと刀ごと推しやられている。


「剣に気をとられすぎじゃ、ボケ。」


エルデが剣を手放したおかげで解放されたメロだったが勢いあまってバンザイするかのように刀を上げてしまった。


そんな隙を逃すわけもなく、臓腑へ響く重量ある一撃が彼女を吹き飛ばした。


傷跡を狙った一撃にはみ出そうになる内蔵を気合いで抑え、口から血を出しながらも顔を上げた先には笑うエルデの姿。


咄嗟に刀を突き刺すがエルデは相打ち上等の勢いで彼女の右肩から左脇腹を抜ける剣戟をうつ。


すぐさま彼女も彼を蹴り飛ばすが傷口が徐々に広く、深くなっていくことが理解できた。


(傷口の進行が止まらない。まるで斬撃が生きているようだ………違う、私の体に『固定』させて『維持』しているのか!!)


「おっ、気付いたみたいだな。じゃあネタばらしと行こうか。」


離れた距離からメロへ向けて剣を振り下ろすエルデ、だが削れていく地面と裂けていく空気を見て彼女は咄嗟にその場から飛び退いた。


「この能力は俺のメイド見習いの能力。『固定』と派生の『維持』。まさか王族が律儀にひとりの女を侍らせてると思ったのか?」


ガルムの能力は固定と維持。

ここに来るまでに合流していたエルデは彼女と契約を結び、戦いの舞台に赴いたのだ。


ちなみに派生しているということはもちろん、肉体関係を結んでいる。


女の子扱いされた事のない彼女を口説き、使用人とのいけない関係に燃えさせ、ベッドインするまでの鮮やかな手口にはハーレム肯定派のガルディも犯罪者を見るような目で見ていたそうな。


現在、ガルムはかまって系ヒロインとしてエルデに依存し始めている。


話を戻そう、最初に脇腹が貫かれたのは膝蹴りによって飛んでいった剣の軌跡を空中に固定していたため。


次に避けたはずの横太刀は当たった皮膚に斬撃を固定、そのまま勢いを維持し、彼女の傷口をひろげていったのだ。


そして振り下ろした一撃も維持しているため、刀で受け止めても力と速さを維持されたままなので止める事が出来なかったために重く感じたのだ。


彼の速さも最高速度を維持しているため速いのだ。


「創造に維持………そして、後はあいつだけだがまあそれはいいや。俺が彼女を選んだのはそんな理由もあったりする。さて、ご静聴どうもありがとう。だけど傷は結構進行したんじゃないか?」


この隙に膝立ちのメロは攻撃をしなかったのではない。

既に致命傷レベルまで進行した傷のせいで彼女は動くことが出来なかったのだ。


「ふっ………甘く見すぎていた。強いな、お前。ただの駄目王子じゃないな?」


「おっ?分かっちゃう?只者じゃない俺の雰囲気。」


「ああ、よく分かるとも。一体どれほどの………修羅場を潜り抜ければそんな冷徹な目をして笑えるんだ。」


メロ専用の魔導騎士もあるにはあるがこの傷では満足に動かせない上、この男にはそれすら通用しないと本能が理解してしまっている。


(こいつは問題児というよりも………天性の殺人鬼、又は稀代の殺し屋だ。人を殺す事に慣れすぎている!)


「考えてるとこ悪いけど死んでくれ。」


(こういうところだ!一切余裕を見せない!この男!)


躊躇いなしに無造作に急所狙いの剣を振るう。

当たれば最後、急所を破壊するまでその剣は止まらないだろう。


(だが私はまだ我が主人に何も返せていない!こんなところで死ぬ訳には!!)


忍び寄る死の気配に急回転した脳が解決策を導きだす。リスクはでかいがリターンもでかい。


(やるしかない!!)


迫る刃を前にして膝立ちの彼女はわざと彼に寄りかかるように倒れる。

そうすれば剣は髪を切り取るだけで済み、彼女はエルデの腰にまとわりつく。


エルデは不快さを盛大に表し、逆手に持ち替えた剣で無防備な背中を狙う。


そこで彼女はいきなり立ち上がり、エルデの振り下ろす腕を自身の肩で止める。

僅かな時間しか止められないがそれで十分。

今からやるのは殺すための一手ではない。


「存分に受け取れ。」


彼の能力を封じ、逃げるために


「むぐっ!?」


彼女はエルデにキスをした。


「離しやがれ!」


目を白黒させたが直ぐに前蹴りで蹴飛ばす。

しかし、心武器は消え、既に威力は並のものになっていた。


「悪いが契約を上書きさせて貰った。そして私の方から契約を切らせて貰った。これでお前は心武器を使えない。」


「だから何だ?剣が使えねえならこの手で殺すだけだ。俺は優れてるから格闘術にも秀でてんだよ。」


心武器がなくなったとしてもその目に宿る漆黒の意思は消えない。


それがメロの背筋に氷を差し込むような殺気になり、彼女は身震いをしながらも動く腕で紫の結晶を取り出す。


「これはイグニスが作った、『想像』の産物、転移結晶。砕けば決められた位置に転移する………さてここまでで理解できたか?」


「野郎っ!!逃すか!」


言いたいことが理解できたエルデは止めようとするが離れた距離が彼女に結晶を砕く時間を与えた。


「心武器を消して、遠距離の手段を消す。魔法を唱えるよりも私の転移の方が速い。これが私の逃走経路よ。」


紫の光がエルデの進行を止め、光が消えた先に拳を叩き込んでも手応えはない。


「しまったァァァ逃しちまったぁぁぁぁ!!」


端正な顔に焦燥を走らせるエルデ。

メロの転移先が仲間たちの元ならそこから情報が漏れ、ガルディに被害が及ぶ。


「ああっクソが!平和ボケしすぎだろ、俺の馬鹿野郎!!頼む、マコト!!ガルディを助けてくれ!!」


もはや自分に出来る事はなく、後は親友に託すしかなかったのだった。







「なーんかエルデの声が聞こえた気が………」


「黙って、バレたら蜂の巣にされる。」


「うむ、この狭い床下では逃げ場がないからな。妾もここではふざけたりはせぬ。」


こちらマコト。

現在俺らが身を潜めるのはグラマソーサリーの里の中心の城の外の箱堀から通じる抜け穴である。


大人1人がようやく通れる通路を何とか通っている状態だ。

ちなみにルナールさん、リリムさん、俺の順である。


ざっくりとこの城について説明すると本丸を中心とし、二の丸、三の丸と囲うように外に広がっているのだ。


ルナールさんが言うには本丸に1人、二の丸に1人、三の丸に1人、イグニスの嫁達が配置されている。


だが三の丸にいたはずの嫁はクレアさんとブラッド様が注意を惹きつけている為、俺たちは無事に二の丸にたどり着き、床下を移動しているという訳だ。


「ディアンは本丸であろう。本丸の天守閣だけやけに警備が厳しかったからな。」


「穴倉決め込んでんのか。いやこの場合は籠城か?」


「どっちでもいいから黙りなさい。」


埃っぽい床下を俺たちが匍匐前進で綺麗にしていくとルナールさんが床を開け、俺たちも続いて外に出る。


「こちらの通路を抜ければ本丸へ繋がる橋だぞ。気をつけるが良い。おそらく相手もそれはわかっているからな。」


「つまりこの先に敵がいると。」


「その通りだ。」


俺たちは通路を抜けて外に出る。そこには幅5メートルの橋が氷の破片となり、掘りに溜まった水の底に落とされていた。


そして橋があった地点に立つのは灰色の髪をした魔族の女性。


「お待ちしていました、リリム姫様。」


「ステロペ、王女命令。そこをどいて。」


「ここは通しません。イグニス様のためにも。例え相手がわが故郷の姫君だとしても。」


「リリムさん、3人なら直ぐに片付きます。ですが………リリムさんはどうしたいですか?」


彼女は黙って眼鏡を外し、その姿を悪魔へと変えた。

それこそが彼女の答えなのだと理解した俺はルナールさんを連れて移動の力で空を飛ぶ。


「………追いかけないのね。」


「個々で撃破した方が勝率が上がりますから。」


「生意気ね、私に勝つ気でいるの?」


「はい。」


すると掘りの水が生きたように蠢き出し、彼女に付着する。どうやら掘りの水の底に隠していた魔導騎士を装着したようだ。


透き通るような綺麗な泉の青色をモチーフとした彼女の装甲には隠されているが様々な接合部分が見えており、その場の状況に合わせて換装する万能機体。


それがステロペ専用万能型魔導騎士なのね。


「悪いけど私は負けてあげないわよ。」


私の持つ地眼、吸眼の魔眼は無機物には通用しない。

そして彼女は大罪の名を冠する悪魔の予備。


まあいいハンデかしら。









「本丸に入ったらいきなりこれか!」


「連絡が入ったのだろう。妾達も急ぐぞ!」


「あっちだ!逃すな!」


「撃てぇ!ターユ様の元に行かせるなぁ!」


本丸に入り込んだ俺たちを待っていたのはマシンガンやらアサルトライフルやらを所持した傭兵達。


嵐の夜を思わせるような弾丸をかいくぐりながら階段を見つけては登っていく。


そしてもうすぐ1番上に着く寸前で巨大な杭が階段に突き刺さり、更に飛来してきた鉄球が俺に直撃し、脳に直接刺されたような激痛を感じながら俺は外へ吹き飛ばされた。


ガードした左腕を見てみればすでに可笑しな方向へ曲がり、痛い痛いと嘆くように訴えている。

腕が無くならなかっただけマシって訳か。


壁をぶち破り、屋根の瓦を削りながら何とか止まった俺だがだいぶルナールさんと離されてしまった。


「だが好都合だ。このままズルさせてもらうぜ。」


俺は空中を走るように移動しながら中から行くことのできなかった頂上へ辿り着き、石の壁を弾丸で円状にくり抜いてから炎のライダーキックで蹴り破る。


だがそこには誰もいなかった。

俺はアルファレッドの件を思い出し、魔眼であちら側へ通じる穴を探してもだ。


「どこ行きやがった!?イグニスもマイアも!放送はここから来ていたんじゃなかったのか!?」


俺が蹴破った瓦礫の下敷きになった放送機器があることからここから放送していたのは間違いないはず、なのに何で誰もいねえ!?


「おい待てよ、そういえば放送でブラッド様に城に来いとは言ってねえ………だがブラッド様にはクレアさんが着いていたはずだ。」


それでも身体中を這いずり回るような嫌な感覚。

なにかを見落としていないか?


「………クレアさんが言ってた道場にいたはずのフィリアはどこに行ったんだ?」


クレアさんは朝ご飯を食べるまで彼女と話していたらしい。なのにさっきの道場にはもういなかった。


「………ルナールさんにこの事を伝えないと!」


すぐに移動にかかろうとした俺を外から黒の焔が俺を焼く。

神竜の指輪が炎に耐性があるため、何とか日焼けレベルの軽い火傷で済んだ。


「やっほー、元気ー?」


「フィリア!!」


右手で銃を構えた先には黒いドラゴン。

フェルムではない、むしろクレアさんにその姿は似ていた。


「気付いちゃった?ガルディもディアン様もここにはいないのにブラッド様を連れて来てくれてありがとう!」


「何処へやった!答えろ!クレアさんもだ!」


「お姉ちゃんなら今頃、地下でアルキュによって封じられてるんじゃない?お姉ちゃんなら抜け出せるとは思うけど古代魔法だから時間はかかるよ?」


「なら速攻で………」


「倒してから行く?なら私は時間を稼がせてもらうよ?イグニスからの命令は貴方を足止めすることだから。」


人型になり、中へ入って来たフィリアへ俺は右腕を前に出して応戦の態勢をとる。

片腕でどこまでやれるか、訓練の成果が試される。


「さあ始めよ。私の仇。愛する者を失う辛さを知りなさい。」


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