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Sクラスの実力

「なんで俺らがこんな事をしなきゃなんねえんだァ!?」


「黙って足を動かすっ!ほら走った走った!」


「テメェは背負われてるだけじゃねえかァ!?」


里内を走るのはフェルムとライア。

彼らは里内に散った学園の生徒達にシェンデーレの心武器の転移の矢を渡して避難場所に転移させている。


マックスとシルビアは避難場所近くに結界と護衛の為に身を潜め、エリスとアクセルも転移の矢を渡している。


「まだまだ半数だよっ!次は左!」


彼女は生まれた時から親切にしてくれた狐耳の褐色のお姉さんから渡されたアーティファクト『知りたいものが分かる羅針盤』を使って指示を出す。


故に彼女は知らない。

彼女が仮にショーコの血を継いでいたらそのお姉さんに誘拐されていたし、女の子だったから集めた宝の山からアーティファクトをたくさんプレゼントしてくれたのだろうという事を。


「良し!見つけたァ!!」


その先には肩を押さえてしゃがみこむ槌を持った男とそれを心配するパートナー。


「フェルム!避けて!」


すぐさま駆け寄ろうとした彼を止めるかのように空から刀が降って来た。

間一髪、避けたフェルムの前にオレンジ色に塗られた魔導騎士が現れる。


「ほう………拙者の一撃を避けるとは見事である。お主、名はなんていうでござる?」


「まずはテメェが名乗りやがれ。」


「そうでござるな。拙者はエレクトーーむっ!?」


自己紹介の途中だがフェルム魔力を磁力に変えて砂鉄を操作。背後と足元から黒塗りの刃が飛び出てくる。


「エレクト流剣術ーー堅!」


だがその刃を装甲から吹き出す魔力で避け、刃全てを叩き切る。


「お主、卑怯だとは思わぬか!」


「馬鹿言え、俺の師匠だってな、いざとなれば汚い手段取るんだぜ?普通に戦っても強え癖によォ。」


「ふむクレアシオンのことでござるな?だが彼女はイグニス殿に負けたでござる。なら同じ3つ首龍だとしてもたかが知れてるでござるな。」


騎士ではあるが強さを追い求めた結果、割とダーティーな手段も扱う師匠の姿を脳裏に描きながら、黒い粉、砂鉄を空気中に漂わせる。


「随分と可笑しな話だな、そりゃァ。倒したと思うのは自由だがなァ。」


「拙者のイグニス殿を馬鹿にするな!」


高さはざっと10メートル。

オレンジ色に塗られた鎧武者をモチーフにしたその鎧には三日月型の前立てが付いている。


だが肘や膝、背中に当たる部分には噴射口がつけられており、そこから使用者の魔力を放出して神速の動きを可能にする。


持つ刀は『黒刀 宵月』もちろん、イグニスの命名である。

刃渡りは1メートル、長さは5メートル。

それを刀と呼べるのかは本人次第ではあるがエレクトは刀だと言い張っている。


これがエレクト専用白兵戦速度型の魔導騎士だ。


エレクトは魔力を放出し、機体を加速させる。

対してフェルムは受け止めるためか構えた。


「悪くはねェ、道は一本、左右は建物。俺が逃げる隙もねェ………が、真っ正面から突っ込んできたのが失策だ。ライア!」


「はいよっ!お待たせっ!」


彼女はフェルムの背中から降りて地面に持っていたペンでなにかを書き込んでいく。


「文字を言葉に、言葉を現実に、このペン型アーティファクトはそれを可能にするっ!来てっ!」


現れたのは黒い砂山。

すなわち砂鉄。それらがフェルムの黒雷に帯同するように集まっていく。


「真っ正面から突っ込んで来るなら………そこにおいておけば済むんだよォ!!」


「無駄でござる!全てを叩き斬ってやるでござる!」


砂鉄が集まって出来た黒い球体。それが狙うのは顔と胸だということはエレクトにも理解できた。だが分かっているなら斬るのはたやすい。


彼女は刀を腰に構えたまま居合斬りの体勢に入る。

そして放たれた砂鉄でできた黒い槍向けて力を解放する。


「エレクト流剣術ーー斬!!」


固められた砂鉄の槍のど真ん中を切り裂いていく黒刀。そして全てを叩き斬った時に見えたフェルムの姿。


「もらったでござる!」


エレクトは刀を両手で持ち、地面すら砕く兜割を打つ。


「ああ、俺の勝ちだ。」


瞬間、エレクトの機体の両足の部分に3本ずつ砂鉄の槍で貫かれた。

両足を破壊され、スピードが乗っていたその機体は急に止まる事は出来ず、前のめりに倒れていく。


「そんだけ巨体ならよォ、足元お留守だよなァ?」


「ぬ、ぬかったでござる!」


何とか手を突こうと急いで刀を手放すが両手が離れない。


「ぬ!?砂鉄が両手にへばりついている!?」


「さっきの槍はテメェを殺すものじゃねェ。テメェの両腕の動きを縛るもんだァ。」


そして倒れる先には先端が鋭く尖った黒の針山。

自重によって倒れて仕舞えば充分致命傷になることは彼女にも理解できた。


「魔力放出で逃げるでござる!」


肘のブースターを曲げて倒れる方向を変えようとするエレクトであったがコックピットの画面にはブースターに砂鉄が大量に入り込み、使用不可との文字。


コックピットから脱出しようにも一手遅く、倒れた巨体に鉄柱が突き刺さり、行動不能となった。


「これが3つ首龍だ、覚えとけ。」


そして彼らは直ぐに学園の生徒達を集めに奔走するのだった。









リリは傷だらけの体で里内を走り回っていた。

市民達の誘導をし、学園の生徒達を保護する彼女の目に迷いはない。


今はディアンを助けるよりも無事な人達の避難が最重要だと分かっているからだ。


里内を歩き回る傭兵団との戦いを経て、騎士団の仲間たちは既に倒れてしまった。


そして今、ニック団長は傭兵団に保護されて、猛威をふるっている。

他ならぬ、リリ自身に。


量産型だろうと思う赤騎士に乗った彼と龍化して戦いを続ける彼女は周りの街を破壊しながらもクレア仕込みの龍闘流法で抑え込み、ブレスを放ってニックごと消し飛ばす。


勝利の余韻に浸る事なく、殺しの辛さに顔を変える事なく、自分がやらなくてはいけない事をやるために彼女は再び走り出す。


「リリちゃん!」


「エリスか!今、どんな状況か分かるか?」


「学生全員が避難し終えたらしいわ。だから、私がリリちゃんを迎えに来たのよ〜」


「ああ、後は私たちに任せてくれ。君も傷が酷い。少し見せてくれ。」


精霊族たる彼女は光属性の回復魔法を扱える。

故に彼女の体を治療していく。


しかし、そこへ影が飛来する。


「伏せろ!アクセル!リリ!」


辺りを見回していたエリスが2人を突き飛ばし、そこへ飛んで来た巨大な瓦礫から2人を庇って下敷きになってしまった。


「エリス!無事なら返事してくれ!」


「アクセルさん!来るぞ!」


上空を巨大な影が横切ったかと思うとそこから巻き起こる竜巻が彼女達を襲う。


「ハリケーンアロー!」


長ったるい詠唱をしている間もないので短い詠唱によって唱えられた竜巻の矢が荒れ狂う風と拮抗、その間にエリスをリリが回収し、2人で肩を担いで逃げ出す。


「光よ、苦痛を消せ。『慈愛の光(ヒーリングライト)』」


彼の体から傷が消えたのと同時に意識があるのを確認した彼女は彼の手を取り、心武器を取り出す。


「彼を頼む。あの飛行物体は私が仕留めよう。」


「貴方が心武器を使うのか!?それにあの高さにいるものにどうやって攻撃を与えるんだ!」


「あの高さなら問題はない。それに女が心武器を扱ってはいけないわけでもないだろ?」


彼女はそれだけ言うと引き止めようとするリリを置いて槍を空中に投げ飛ばすと彼女自身も槍に飛び乗り、風魔法を唱えて飛んでいった。


「羽虫が飛んで来たわぁ、ならはたき落とさんとねぇ」


青色の5メートルはある6本の翼を広げた巨大な鳥のような形態を持つ機体は背中の装甲から砲台を2つだし、撃ち始める。


「私は英雄の子だ!甘く見るな!」


それを空中を滑空しながらかわしていく。

全てを受け流し、避け切って彼女は背中に飛び乗った。


「『加速』!」


同時に彼女の体が搔き消え、装甲を分解するように隙間へ緻密な一撃が入り始める。


「なんや、思ったよりやるやないか。ほな、旦那様のためにも本気出しましょうか。」


揺れるコックピット内のケライノはボタンを押し、レバーを引く。


「旦那はんは言っとりました。変形は男のロマンやと。」


蒸気を噴出し、振動し始めた機体にしがみついていたアクセルは吹き飛ばされ、空に落ち、再び槍に乗って退避する。


「変形しているのか!?」


装甲が変化し、手足となり、翼が背中に回り、尻尾の部分が巨大な三文槍と化す。

これこそがケライノ専用魔導騎士飛行型である。


「羽虫がぶんぶんうるさいからなぁ、叩きのめさせてもらうわぁ。」


8メートルほどの巨体が翼をはためかせてアクセルの方に向かって来る。

彼女はそれを加速しながら避けて行き、背後に回ると彼女は槍から飛び降りた。


「刺し穿て!悪なるものを滅するために!突き穿て!邪なるものを殺すために!『貫き穿つ閃光の槍ライトニング・スピアランチェ』!!」


そのまま光属性の魔法を付与し、オーバーヘッドの要領で白き光を発する槍を蹴り穿つ。


更に能力の加速すら付与されたそれは音速を超え、光の速度に達し、一筋の彗星のように魔法騎士に着弾した。


「眩しいわぁ、あんまりにも眩しいから…加減が出来ないわぁ。」


だが槍が着弾しながらもその装甲は貫くことが出来ず、さらには背中の翼が全て、裏返り、差し出される砲塔。

つまるところ6つの砲塔が落ちる彼女を狙っている。


彼女が光の魔法防御を張る前に撃たれた砲弾によってアクセルはガトンボのように地面に向けて落ちていく。


「だめ押しや」


槍を弾き飛ばし、持っていた三文槍を落ちゆく彼女へ向けて狙いを定め槍を投擲する。


余りの速さに飛行機雲を描き、風の螺旋を纏ったその槍の矛先が彼女の心臓目掛けて突き進む。


「ーー何してくれてんだ。」


しかし、その槍を蒼龍が弾き飛ばす。

同時に飛んで来た蒼の炎を彼女は砲塔で迎撃するが背後から回されていた長い尾を巻きつけて地面に向けて投げつけた。


「なんや死んでなかったんかい?」


建物を破壊し、地面を削りながら吹き飛ばされたケライノはワンバウンドしてから体勢を立て直し、遥か上空から落下して来た男に槍を構える。


青龍の姿から人へと戻ったエリスはアクセルをこちらを見ていたリリに渡す。


「わたしとの契約でね〜わたしはいざという時までは戦いたくないの。そんな血とか肉とか飛び交う凄惨な技を使う光景よりも布に色を染める洗練された技術を見ている方がいいもの。けどね〜」


エリスが地面に転がった槍を足で跳ね上げ、手でキャッチすると確かめるように槍を振り、矛先をケライノへ向ける。


「彼女はこんな臆病なわたしに戦わなくていいからわたしとパートナーになってくれって言ったのよ?そんな彼女をわたしは死なせたくないの。」


「なら一緒に死ぬといいわぁ。」


背中の砲塔6つを前に回し、放たれる大威力の砲弾。

速度は音速、気がつけばあの世いきのような攻撃を捌くことができるのは限られたものだけ。


響き渡る轟音に舞い上がる爆炎、生者などが立っていられる訳がない、少なくともケライノはそう思った。


「我が槍は新なるものにして常に真。我の実力に虚偽もない、洗練されたこの槍こそ我が真実。」


だが爆炎を背に立つ男がいた。

槍を右手で持った男がいた。


信じられるだろうか、この男は音速の砲弾を全て捌き、いなし、掠らせることすらさせなかったのだ。


「剣姫メロに並ぶ我が名は真槍エリス。我が武功、とくとお見せしよう!」


大地を蹴り、ケライノへと肉薄するエリス。

ケライノは空に逃げようとブースターを起動させるがそれよりも『加速』により最高速度に達したエリスの方が速い。


「戦場から離れようと我が槍に衰えなし。」


炎に酸素を取り込み、蒼色とかした槍がケライノの翼を溶かす。

ケライノは槍を向けようとするがその時点で既に翼全ては使い物にならなくなっていた。


(速度が違いすぎるわぁ!)


速度が違えば世界が違う。

ケライノの操縦よりも更に一手先を行かれてしまう。

蒼炎が装甲を徐々に溶かし、分解されていく。


(けど可笑しいわぁ!なぁんでこんなに追いつかん!?加速だけじゃないなぁ!?)


外から見れば分かるがエリスの動きが速いのはもちろん、槍が当たった部分がどんどん遅くなって言っているのだ。


これこそ『加速』の先、『遅行』の能力。

速さを操る彼に追いつく者など誰もいない。


「露呈したな。ならばこの絶技とくと味わえ。」


操縦者が乗るコックピットの装甲が剥がされ、青褪めた表情のケライノが姿を表す。


「真槍と謳われた我が槍に一切の矛盾なし!『蒼炎眩む真なる槍フラムバーン・スピアランチェ』」


獣の如き、俊敏さを持って蒼く熱された槍を持ち突っ込んでいくエリス。


「あかんなぁ、負けや。ほなさいなら。」


だがその槍が届く寸前、懐から取り出した結晶を砕く。


矛先が貫いたのは誰もいないコックピットの中であり、逃した彼は忌々しく舌打ちをするのだった。







「喜べ!市民と騎士団、生徒たちは避難させた!後はガルディとディアン様だけだ!」


「よし行きましょう!皆んな、作戦通りに!」


突如現れた父の言葉を受けて皆が動き始める。


俺、リリムさん、ルナールさんはクレアさんがブラッドさんを連れて自首に来たのと同時に城内に忍び込む。

ロゼさん、タツ婆さん、ドラゴーラさんは俺たちがガルディとディアン様を見つけて戻ってきたら中に突入する。

そしてエルデは……


「本当にやる気か?メロと一騎打ちって。」


俺が言ったように彼は待ち構えるメロと戦う気でいるのだ。

誰かが言ったわけではない、自分から言い出したのだ。


メロの周りにいる魔導騎士は逃げようとする者達を襲うだけで攻め込んで来ない。

つまり自立型ではなく、操作型だと同じような能力を持つ彼はそう予測した。


おそらくは彼女に指揮権が与えられているだろうから彼女を撃破すれば里を囲む兵士達は動かなくなるのではないかと。


無論、俺たちは止めた。

だってどこの世界に王子様自ら戦う馬鹿がいるんだ。

だがそれをエルデは強情に納得させたのだ。


それでも相手の悪さにクレアは苦渋を表したがタツ婆とドラゴーラさんに行かせてやれと言われ、渋々納得したのだった。


「ガルムもいるし、大丈夫だろ。それにな、」


エルデは強敵が控えているというのに気負いせず、それどころか気軽に散歩にでも行くように道場から足を踏み出した。


「妻の故郷を守りたいなんて未来の旦那として当たり前だろ?」


走り去るその背中には確固たる強いが感じ取れ、俺は同じ男として素直に感動したのだった。

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