パートナーは誰?
1時間ごとに投下します。
ディアブレリーで1日休んでから馬車を借りて慣れない感覚に体を委ねる事約1時間、豪華な装飾が施された門の前で馬車から降りる。
「おかえりなさいシェンデーレ校長、後ろの子が今年の留学生ですか?」
「ああそうだ、門を開けてくれるか?ゲト君。」
俺が豪華な門に見とれている間に守衛の人が門の隅っこで何かを弄ると重厚音を立てて門が内側に開く。
中に進むとまず見えたのは商人達が店を構える場所であり、和気藹々としていた。
しばらく真っ直ぐに進むとそこは清流な水を噴出する噴水広場だった。
周りには美しい花や木などが植えられ、ベンチなども置かれ、憩いの場として使われているらしい。
父なら話を聴くと噴水広場を中心として北が火、南が水、東が風、西が土の方角と定められており、それぞれ用途に合わせた場所にわかれているらしい。
火の方角は訓練場、水の方角には娯楽施設、風の方角は商人街、土の方角は職人街となっている。
「それだけ入るって……この学園ってかなりでかくないか?」
俺の言葉に父は豪快に笑いながらそれについての説明も行う。
何故ここまで大きくなった理由は年々入る学生の量が増えているかららしい。
人が増えれば物を消費する割合は高くなる。それを狙って数多の商人や職人が学園内に店を開き、儲けようとする。
そんな繰り返しの果てにここまで大きくなったらしい。
「貴族の子達も学園から支援されたお金でこの中にある店で買い物をする。そうする事で金の大事さ、使い方を学ぶ。買えないものを我慢する気持ちも覚える。その為にも学園内に店は必要なんだ。」
たしかに漫画でよくある悪徳貴族や箱入り娘なんかはお金の使い方を知らないことも多いしな、やっぱりこっちの世界でもそういう事があるのだろう。
「それにパートナーに贈り物をする時に自分の力で得たお金で買ってあげればそれは一生の思い出になるだろう?」
それは一理ある。
「よしこの後はお前が住む寮に行くぞ!部屋にはもうお前のパートナーが待っているから心しとけ!」
えっ!もう!?
お、落ち着け!俺、案ずるな俺はできる子。
慕ってくれていた後輩の女の子以来だが、大丈夫な筈だ。
*
「初めまして、貴方のパートナー候補のクレアシオン。クレアって呼んでくれるとお姉さん嬉しいわ。」
「…………まさかの妖艶和服美女」
学園の水の方角に少し進んだ先に青の屋根と煉瓦造りの建物が寮だと言われ、父に案内されるまま俺の部屋の前に立たされた。
「じゃあ後はお若い2人でごゆっくり〜」
薄汚いウインクと共に黒い穴を通じて何処かに消えた父から視線を自身の部屋に向ける。
「よ、よし行くぞ!」
気持ちを整え、深呼吸を行なって軽く木製の扉をノックする。中から鍵が開く音ともに「どうぞ」と涼しげな声に心臓が高鳴る。
明日には心臓が止まるんじゃないかな?ってくらい、鼓動を感じながらゆっくりとドアノブをまわす。
中は6畳程の大きさで両壁にくっつくようにベッドが備え付けられ、1つの机と2つの椅子が置いてある簡素な部屋であった。
そして中にはベッドに腰掛けていたのは黒髪をツーサイドアップにし、少し垂れた目の下には泣きぼくろ。黒地に花が描かれた和服を上から羽織り、制服の上ボタンは2つほど開けており、そこから吸い込まれそうな深い谷間に折れそうな腰つきなどのスタイルの良さに目を奪われていた。
「あ、えっと……鴉間真です。こ、これからよろしくお願いします。」
「よろしく。それじゃあさっさと契約結びましょうか。」
アンティークな椅子に腰掛けて読んでいた本を閉じた彼女はゆっくりこちらに近づくと俺の肩に手を置いた。
意外と背は高く、170ある俺より上だ。
180はいっていないと思うが。
いや、それよりも気になる言葉があったな。
「あ、あの?契約って?」
「あら説明……受けてないのかしら?でも緊張しなくていいわよ?お姉さんがちゃあんと導いてあ・げ・る。」
「先に契約について教えてもらえますかねぇ!?」
小悪魔チックなウインクに高鳴る胸を押さえつけ、脊髄に走る悪寒に従い、問いただす。
「契約とはパートナー同士の能力と武器を組み合わせる為に必要な儀式。これをしてからようやくパートナーとして学園に認められるのよ。」
そのわかりやすい説明は有り難いのだがなんか近くない?
すごいいい匂いするし、もう顔の距離ほとんどないよ!?
「で……そ、その儀式、とは?」
いやなんとなくだけど分かるよ!
でもね現実に最後まで抗いたいお年頃なの!
「粘膜的な接触、つまりキスね」
「ですよねぇぇぇぇ!じゃなきゃここまで顔が近づくこと有りませんからね!?」
ヤメロォォォォォォォォォ!!
俺はまだ綺麗な体でいたいんだ!だいたいこんな仕方なくみたいに俺の初めてをあげるわけにはいか……あだだだだ!何この子!力めちゃくちゃ強い!?
「良いから、減るものじゃないわよ」
「俺の精神ポイントが減りますが!?」
「別にキスくらい挨拶じゃない?だから大人しくしないと激しいのしちゃうわよ?」
「そんなこと言われましても!?」
「もしかして初めて?」
「文句ありますか!?彼女いない歴年齢ですが!?」
「いえ?むしろ初物は好物よ?」
「やだ!この人怖い!」
気がつけば壁際まで追い詰められた俺は彼女の透き通った目を見ながら、必死になって彼女の桜色の唇から逃げようとするも最終的に壁に体を押し付けられて完全に体の自由を奪われた。
「大丈夫、少しの間目を瞑っていれば終わるわよ。壁のシミでも数えてなさい。」
「それむしろ男側のセーー」
しかし、最後まで言葉を紡ぐことは出来ず俺の唇は彼女の唇に奪われるのであった。
*
「もうお婿さんに行けない……」
「心配しなくても私が貰ってあげる。」
床に横になり、顔を覆ってメソメソなく俺を彼女はあまり気にすることはなく、読みかけの本を再び読み始める。
しかし、柔らかかったな……
「……はっ!今、俺は何を考えていた!?」
甘くていい匂いが……
「落ち着けェェェェェェェ!初対面の相手にそんな邪な気持ちを抱くんじゃねえ!」
「聞こえてるわよ。」
気持ち悪いだろう?これが初めてのキスを交わした年齢=彼女なしの男である。
しかし、分かってほしい。
止めどなく溢れる欲求に打ち勝とうとする俺の強い意志を!
今にも悶え死にそうな恥ずかしさ全てを受け止めてなお生きようとする意思を!
結論から言うとそんな意思なんて煩悩の前では無駄でした。
「自問自答は終わった?なら学園内へ散策に行きましょうか?」
そりゃあ有り難い。
何より今は薄汚く舞い上がる欲望の渦を考えないでおきたいから新たな知識をインプットするのも悪くないだろう。
「行きたい所とかある?」
「全部!」
「分かったわ。好奇心旺盛な年頃だもね。」
何でいちいちそんなエロそうなのクレアさん。この学園広いから回るのが楽しみだだけだからね!他意はないよ!
「まずは商人街かしら」
彼女の後ろをついていく俺は辺りをキョロキョロと見回し、あれは何だ?これは何?と質問を積み重ねていく。
最初は簡潔に受け答えしていたが次第に彼女の方から丁寧に説明してくれるようになり、商人街に着く頃にはだいぶ学園内が分かるようになってきた。
「ここが商人街、何でも売ってるの。」
商人街というだけあって、あちらこちらに店が乱立している。まるで学園祭の屋台とかそんな感じだ。
毒々しい色の草や鮮やかな花を売る薬屋に魔法のポーションを売る魔道具屋など如何にもなお店もあれば果物やカフェなどをしている店もある。
「日用品もここに売ってるから買いに来るときはここを使うように。くれぐれも無断で学園から出ないようにしてね?」
何故か、クレアさんの顔が若干引きつっている。
「も、もし許可なく出た場合は…」
「罪には罰をとだけは言っておくわ。」
ヒィィィィィィィィ!?
ロゼ会長も言ってたけどそんなに規則に厳しいのこの学校!?
「次の所に行く……なんか騒がしいわね。痴話喧嘩でも起きたかしら?」
ん?あ、本当だ、なんか喫茶店近くに人が集まってる。
「行ってみる?」
「気になるし、行ってみよう。」
俺たちは人の垣根を掻き分けながら前へと進んで行く。ようやく最前列にたどり着くと人だかりの原因が分かった。
目の前にいるのは制服にDと書かれた男女がAと書かれた男女に怒鳴り建てられていた姿であった。
「馬鹿ね……たまに頭の湧いてる奴がこんな風に下のクラスに喧嘩を売る子達もいるからあなたも気をつけなさい。」
「それよりもほっといていいのか?あれ?」
「心配いらないわ、もう少しで彼女が来るもの。」
彼女?と聞こうとする前に人垣を超えて男女の前に飛び出した女性がいた。
その白髪の女性は以前出会った時とは違い、制服に身を包み、クラスが書かれている場所にはFの文字。だがだいぶ息を切らしている。
「やめなさい!貴方達!学園の風紀を乱さないで!」
そう、昨日出会ったロゼ会長であった。
「なんだFクラスか。独り身の無能会長がこんな所に何の用だい?」
「ロゼさん?貴女は子爵、こちらのイワン様は伯爵ですよ?身分が下の人間が気安く彼に話しかけては駄目ですわ。」
「そんな貴族の規則を振りかざす前に学園内で規則を守ってもらえる?学園内の権力の乱用は禁止されているの知ってるでしょ?そもそもこれで3度目、貴方達もわざとやっているわね?」
イワンと呼ばれた男は身なりも良いが何処か鼻につく貴族らしく、隣にいる女性も典型的な箱入りお嬢様のようだ。
「貴族が下の民に権力を振りかざして何が悪い?」
「貴族とは…民を守る為に前に立つ代表としての意味がある。そんな貴方が貴族を名乗るなんてちゃんちゃら可笑しいな。」
おいおいなんか雲行きが怪しくなってきたぞ。イワンの顔からは薄気味悪い笑顔が浮かんでいるし、何企んでやがる。
「そうか……これだけ対立して君も引かないというのなら規則に従うとしよう。」
「やっと分かってくれたましたか…」
「ああだから規則に従って決闘で君達に格の違いを教えてあげようじゃないか」
周りの人に緊張が走る。
会長の顔も驚きを隠せないようだ。
「てか、決闘って何?」
でも俺には何故みんながここまで焦っているのか分からない。てな訳で教えて!クレア先生!
「決闘とは互いに我慢ならない争いをする時に行われる。お互いになにかを掛け合い、負けた人間はそれを奪われた挙句、指導室に呼ばれる事になる。パートナーで戦うために先に女性をやるもよし、男性を狙うも良い。」
要するにパートナーによる闘いってことか、あれ?でも会長はフリーなんじゃなかったけ?
「決闘時にフリーやランカーは関係ない。決闘を仕掛けた相手が誰に対して決闘をするかで決まる。」
「それってフリー対ランカーもあり得るって事じゃねえか!?」
じゃあ何で誰も助けに行かないんだよ!このままじゃなぶり殺しだぞ!?
「大丈夫、決闘時には魔法陣が引かれて死ぬような攻撃を食らった場合、魔法陣によってふせがれる。死ぬような事はない。更に決闘を終えれば自動的に治癒魔法陣が作動するから怪我もない。」
おう……何と都合の良い…いやなんて安全に配慮した学園なのだろう。
「イワン・シルベストリアはロゼ・イノセンティアに決闘を挑む!条件はそうだな……僕に勝ったら君の家の借金は僕が肩代わりしよう。ただし負けたら君は俺のものだ。」
「あらイワン様?わたくしでは不満ですか?」
「違うよ、アルル。彼女を召使いとしてこき使おうと思ってね?見てくれも悪くないし、飾りとしては丁度いい。更に生徒会の奴らからの五月蝿い注意も無くなるからね。」
「悪いけどそんな奴隷のような決闘を受けるつもりなんて……」
「おいおい!聞いたか諸君!この学校の生徒会長様が由緒正しい決闘の規則を反故にしようとしているぞ!これこそ貴族の恥ではないか!?」
「そうだ!受けろ!」
「生徒会長が規則を破ってんじゃねえ!」
「決闘から逃げんな!」
イワンの言葉にちらほらとそんな声が上がる。だがタイミングが良すぎだ。
「取り巻きを周りに仕掛けてたわね。これで彼女は退路を奪われた、真面目な彼女はこの戦いを受けなきゃならない。」
取り巻きによる言葉の誘導で周りの人達の空気も彼女に不利なものになる。
「………最初からこれが狙いかっ!!」
「はて?何のことかな?それよりも受けるのかい?受けないのかい?」
「くっ……受けるわ!」
周りから歓声が上がる。
それと同時に俺は気がつけば走り出そうとしていた。
「待ちなさい、貴方には関係ないわぁ。それに貴方、弱いでしょう?」
「………でも!」
「今のところは私の方が強いわ。行くにしてもいいから大人しく、話しを聞きなさい」
だがクレアさんの腕が俺の腕を掴む。相変わらず小さく細身の女性とは思えないほどの剛腕だ。
「彼らはAクラス、学園のトップクラスの力を持つペアよ。親愛度によって変化する能力も2段階目を行ってる筈。それに貴方は武器魔法すらまだ使えない。それでも貴方はあそこに行くの?」
確かに俺は未だこの世界の規則や法律を全て知っているわけではない。武器魔法も使えなければ武術とかを修めていたわけでもない。
「けど、俺はあの人に助けられた。なら何処かで恩を返さなきゃいけないだろ?」
馬鹿2人に絡まれたのを助けてもらった。
その事実がある以上、俺が彼女を助けに行かなくてどうするんだ。
「貴方…相当お人好しね。勝手になさい、貴方の強さ見極めさせてもらうわぁ」
「かまいません。生憎母がかなりのお人好しなんもんでね。」
別世界に移動してその世界で英雄とされるまで活躍して、お腹の子を下ろさずに育て上げた母が極度のお人好しじゃなければ一体何だというのだ。
力が抜けた腕から抜けてロゼ会長の前にしゃしゃり出る俺。
イワンとアルルは怪訝な顔をし、ロゼ会長は驚きを露わにする。
「誰だい君は?神聖な決闘を汚すつもりかい?」
「神聖なら規則に従ってしっかりやれよ。相手を罠にはめた決闘なんて卑怯としか言いようがないだろ。」
俺の言葉にカチンときたのか、顔の色が真っ赤になっていく。
「貴方は……マコト君!?何で来たの!?危ないから下がって!」
「貴方に助けられた恩を返しに来ました。パートナーが必要でしょ?」
今更ながら、俺馬鹿じゃないのか!?
こんなこと言っていきなりパートナーを結ぼうとする奴はいないよね!?
うわっやらかした!完全にやらかした!
けど俺のそんな気持ちとは反対に真面目な顔をしてロゼさんはいくつかの質問を投げかける。
「そうか……なら貴方は武器魔法を使える?」
「全く!!」
「自信満々で言わないで貰えるかな!?なら足に自信は!?」
「それはあります!」
こう見えてかつては友哉先輩の友達から『エイン流』っていう武術を習ってはいたんだ。それなりに動ける。
「なら私を背負って走ってもらうわ。私には体力がないけど攻撃手段はある。貴方は攻撃手段はないけど鍛えた体がある。協力してもらえるかしら?」
「もちろんです、会長さん。」
「話し合いは済んだかな?では始めるとしよう……アルル!」
「はい!イワン様!」
2人が寄り添い、イワンが右手をアルルが左手を互いに重ね合う。
その手には紫とピンクの色の魔法陣が煌めいていて
「「心武器」」
それが重なり、2つが1つになると光は一層激しさを増し、その閃光がおさまったと同時にイワンの手には全てを潰すような巨大な槌が握られていた。
「あれが……心武器。」
「初めて見た感想は?ここまで来て逃げるのはやめてよ?」
何つーでかさだよ。
あんなもんで殴られたらひとたまりもねえっての!
「さあ先制は君達に譲ろう。なんせ心武器を使えないからね。僕の器の大きさに感謝するといい。」
こんにゃろう、やけに余裕あるじゃんか。
これがAクラスってことか!
「悪いけど私を背負ってもらえるか?私が使える最大の攻撃呪文を使うけど倒せるとは思えない。」
地面に下ろすだけで地面に放射状のヒビがはいる。
振るうだけで空気が弾ける。
そんな武器を持った相手じゃあやっぱり魔法でも足止めが精一杯か。
「集え4種の精霊よーー」
彼女を背負った同時に始まる詠唱、一体どんな魔法なのか若干ワクワクする気持ちを抱えながら相手の動きに注意を払う。
「…………嘘」
「………………ちょっと待たないか?」
あれ?え、おかしくない?
何で2人ともそんなに目を見開いてるの?
何でそんな血の気が引いてるの?
えっ?…………え?
「此処にいたりし罪を浄化せよーー''E・N・D''」
「何でそんな魔法を使えるんですの!?」
「悪いがここで潰させてもらう!」
「おい約束破らないでもらえます!?」
走る速さも段違いのイワンから何とか逃げようと体をよじるが急激に方向転換したイワンの槌が俺の鳩尾を直撃する。
「吹き飛びたまえ!」
内臓が跳ね上がるような浮遊感にバキバキと何かが砕ける音が体内を反響し、脳に警鐘を鳴らす。
「…………クソッ」
体から力が抜けて、喉元から上る熱い液体を口から吐き出しながら地面に仰向けになった俺はそのまま暗闇に意識を呑まれるのだった。
*
「さてここからよ、貴方の中にある魔眼の力、私に見せなさい。」
眼鏡を外し、青の目に螺旋が描かれた彼女ーーリリムは薄く笑うのだった。
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