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ーー地獄を見た

今日は2話投稿です。

1時間後にまた投稿しますのでそちらもどうぞ。

翌朝、というか夜明け、具体的には4時。

俺はクレアさんに朝、叩き起こされて正門前に連れてこられていた。


「で、何でお前までいるの?」


「そりゃ、こっちのセリフだ、雑魚が。」


何故か、クレアさんの弟子がいた。


決闘時に俺をトラウマ寸前まで追い詰めたのは仕方ないとはいえ、パートナー達に対する侮辱は謝られていないのだ。


だからあまり俺の態度は宜しくない。


「朝からぎゃあぎゃあ騒ぎやがって、で?体の調子はどうなんだ、あ?」


「別に?お前にやられた傷はほぼ回復しきりましたが何か?」


「俺が聞いたのは、訓練前の体調心配だったんだけどよぉ、負け犬にしては根性は立派じゃねえか。」


煽り、牽制。睨み合いにいがみ合いをし続けて一触即発の空気の中で何処かに行っていたクレアさんが俺たち2人に拳骨を落とす。


「「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」


「喧嘩する元気があっていいわねえ、2人とも?それなら今日はかなり厳しくしても良さそうね。」


「ハアッ!?俺もっすか!師匠!?」


「当然でしょう?貴方の腑抜けた心、叩いて、折って、砕いてあげるわ。」


「クレアさん、それ、精神崩壊してます。」


ブルーベリーくらいまで真っ青になり、肌寒いはずなのに汗が止まらないこいつを見て改めてクレアさんとその訓練内容に恐怖を感じた。



クレアさんが何処かに行っていた理由は外出許可を取っていた為だった。

クレアさん曰く、Sクラスは外出許可が簡単に取れるからいいわ、との事。


目的地まで軽い準備体操でジョギングしながら走る事、約1時間。

目の前に見えてきたのは深く草木が生い茂る森であった。


「はい、止まって。それじゃあ今から訓練を始めるわ。訓練の間は厳しく行くから、泣かないでね?」


ガタガタと壊れた洗濯機みたいに微振動を起こす奴の隣で俺は息を呑む。


「今日から貴方達の教官となるクレアシオンよ !」


森に響き渡るその威勢ある声に俺は萎縮する。

するとクレアさんは俺に詰め寄り、威風堂々たる顔を近づけて来た。


「く、クレアさん?」


「誰がそう呼べと言ったぁ!金髪猿!!今後は私を教官又は師匠と呼び、私が口を開いていいと言った時だけ、口を開きなさい!分かった!!」


金髪猿!?

あまりの変わりように面食らってると彼女の目がより鋭くなった。


「返事も出来ないのかしら!だとしたら貴様は猿以下、いや獣以下ね!そこらの糞にでも混じってなさい!!」


「は、はい!」


「もっと大きく出せないの!!」


「はいっ!!」


腹から絞り出すように森に響かせるつもりで声を上げるとクレアさんは隣に移動してあいつにも同じように怒鳴る。


「答えろ、貴様は何をしに来た!」


「はい!糞みたいな精神を叩き直しに来ました!!ご指導のほどよろしくお願いします!!」


「よく言った!塵にしてはやるじゃない!!これから貴様を塵龍と呼んでやる!感謝しなさい!!」


「はい!ありがとうこざいます!師匠!!」


鼓膜が破れるほどの声量と慣れたように返す光景に教わる人を間違えたんじゃないかと疑念が過ぎる。


つか、これってハートマン軍曹の訓練方法に似てるなぁ。


「では社会の屑ども!今回は基礎体力を鍛える。お前たち!私が良いというまで森を走り回れ!!」


……待って、この森って割と魔物がいるところだよね?

そんなところを走り回れ?明けてもいない夜の森を?


「口答えは許さない!分かったやつから、森を畜生どものように走り回れ!!」


「分かりました、師匠!!」


躊躇いなく森へ突っ込んでいく後につられて俺も森の中を走り回る。


深い樹木が作り出す常闇の森の中を黙って走り続けるがこれは意外に体力の消費が激しい。


まず暗すぎるために周りの判断がよく出来ない。

急に現れた木にぶつかりそうになったり、足元がおぼつかない所為で転んだりと体の至る所に擦過傷が出来上がっていく。


次に魔物の存在だ。

どこから来るのか、何体いるのかすら把握できないことから細心の注意を払わなくてはいけない。

これがまた精神的体力をごっそり持っていく。


そして最後に

息がきれ、足を止めたその時、俺の横に黄金の光が着弾する。


「止まるな!走り回れ!次に止まったら当てる!」


上空、木々の合間を縫って走り回るクレアさんだ。

彼女は俺を見張っているらしく、足を止めるとすぐに落雷をぶち込んで来る。


しかもその音と光の所為で生き物のような荒い息遣いが近づいて来るのだ。超怖い。


くそッ、喉がいてえ!

血の味がする!だけど足を止めたら魔物達の朝ご飯にされてしまう!!


俺は少し先も見えない森の中を景色が変わらない闇の中をいつ終わるか分からない時間の中で延々と走り続けていく。


だがその甲斐虚しく、夜の森に似つかない煌々と輝く紅の双眼。

その数、両手両足の指先を使っても数えきれることは無い。


「教官!心武器の使用許可を!!」


「許可する。」


こんなピンチにすら開眼しない偏屈な魔眼に嫌気がさしつつも膨れ上がる殺気が狂乱の宴を開く。


「逆境上等!かかってこいよ!獣ども!」


両手の銃を構えて精一杯の強がりで絶叫が響く森の中を生き抜くために俺は意地を見せるのだった。









「しゅーりょーう!」


空が白んで太陽が微かに見え始めた時を見て森中に響く大声でそう告げると木々をかき分けて赤髪の男が枝先に現れた。


「あら、フェルム、貴方臭うわ。」


「当たり前じゃねえか!師匠が殺気を上手く使って俺の方に魔物をやるから返り血塗れになるまで戦う羽目になってんだよお!!」


私の言葉に舌打ちしながらも返り血に塗れたシャツを腰に巻き、汗と血が入り混じった不快な匂いを漂わせている。


「で?あの野郎はどうだ?」


私は黙って飛び降りる。

膝を柔らかくついて前転した先に彼は倒れていた。


「外傷はねえな、単なる体力切れかよ、情けねえ。」


「でも一般人にしては頑張った方じゃない?」


「………チッ、まあな。」


先程まで心武器を手にして魔物達とやり合っていたまーくんは今は気を失っているようだ。


まーくんの私服には数え切れないほどの爪痕や出血痕、露出している肌には固まりかけの傷跡が痛々しく

浮かんでいる。


「しかしよ、師匠。この特訓って騎士団の団長だったアンタがとった『(地獄の)3週間で騎士になろう!』の指導法だよな?」


爪先で頭を軽く蹴り、意識の有無をするフェルムに私は睨みを利かしながらも彼の傷跡を治療していく。


「厳しくねえか?あれは龍人を基にした訓練法だ。並みの人間じゃあ3日も持たねえぞ。」


「その時はその時よ。けどね、フェルム」


彼を背中に背負い、重みを感じながら私は自信ありげに笑った。


「私と1番相性がいい彼ならきっと大丈夫よ。」








「待っていたぞ、我が依代よ。」


「………どちら様?」


黒い靄が漂う中で意識だけが自由に動き回り、世界の果てすらない空間に次第に溶けていく。


だが完全に溶けきる前に何者かが前に立った。

体格を映す影から男であるということだけは分かるが記憶には一切ない人影であった。


口がないが何故か会話が出来る。

どうやら頭に浮かんだ言葉が伝わっているようだ。


「前回の記憶がないのか。ならば改めて、我は救世主だ。」


深みのあるバリトンボイスが意識だけのマコトの体に染み込む。

影は揺らめき、見慣れた目が宙に現れた。


「我は貴様に魔眼を貸した。彼女を守る為にな。」


「彼女?ロゼさんか?」


影は形を変える。

人影が人になり、見慣れた男の姿へ変わった。


「その礼だ。貴様に我の魔眼の所有権を譲渡しよう。貴様の負担を抑える為に半分程度の出力だが自由に扱える。」


「マジで!?」


舞い降りたチャンスに歓喜の声を上げると人が靄を切り裂いて現れた。


「その代わり、彼女の味方であり続けろ。例え、世界を敵に回してでもだ。」


現れたのは鏡で自分を見たような姿。

まるで複製でもされたのではないかと疑うマコトに手をかざすとマコトの意識が後ろに引っ張られることに気づいた。


「約束を違えば我は貴様を乗っ取る。この事だけは絶対に忘れるな。」


「待て!一方的にーー!!」


遠ざかる影は口元を歪めて消失する世界に添えるように


「さらばだ、共犯者のーーよ。」







「待てっての!!」


「何をですわ!?」


目を覚ました俺が見たのは清潔な病室の天井でなければ最近、引っ越した寮の豪華な装飾付き天井でもない。


「あれ?ガルディさん?なんで?」


「ここは俺の部屋だっつーの。」


「エルデ!?」


椅子に座り、ネクタイを結びながらこちらを向く俺にエルデは詳しく話しをする。


「お前はクレアさんに連れられてここまで背負われてきたの。」


「クレアシオンが疲労除去の電気按摩やってと言われましたからそれをやり終えたところですわ。」


そういえばクレアさんに聞いたことがあった。

3つ首龍はそれぞれ特色あるようで


黄金の雷撃龍たるクレアさんは無限とも言える雷の魔力を用いた武術や殲滅などの攻撃力に特化している。


黒曜の磁辰のあいつは磁力を発生させ、場にあった応用力だ。


白雪の竜姫であるガルディさんは電気を用いた生体反応捜索に電気治療などの支援系らしい


「おっ、本当だ。体が軽っ!」


「大分、解しましたわ。これなら今日の授業には出られるでしょう?」


「ありがとうございます!ガルディさん!」


俺は彼女に礼を言って自身の寮へと戻る。


「………何だったんだ、あいつは。」


その道中に思い浮かぶのは俺とそっくりの姿をした救世主と名乗る男。


「魔眼の所有権を持つ…って事はまさか、転生者!?」


まさか俺の中に転生した男が入ってるってのか!?


「どうすんだ、これ。俺は死にたくないし、かと言って皆んなに言ったりしたら………」


想像して身震いする。


「と、とにかくクレアさんかリリムさんに報告しよう。そうしよう!」


嫌な事は後回し、とりあえず現実から目を逸らして俺は寮の扉を開けて中に転がり込む。


新しく割り当てられた部屋の内装や装飾品は素人目に見ても高価だと分かり、絢爛ではあるが落ち着いた雰囲気を醸し出しているのが俺的には悪くない。


広さも以前よりは大きくなり、ざっと6人ぐらいなら暮らせるのではないかと思われる。


「はあい、まーくん?」


「うおおっ!?クレアさん!?」


そんな中で1人の女性が部屋にいた。


着替え途中なのか、彼女は服を着ておらず、その立派な双丘や引き締まっている腰が惜しげもなく俺の目に飛び込んで来る。


「な、な、な、何やってるんですか!?」


「お着替えだけど?」


「じゃあ前を隠してくださいよ!目の毒だ!」


「目の保養じゃなくて?」


クレアさんは目をつぶって背を向けた俺の背中にその柔らかなものを形が潰れるほど押し付けて、右耳にふうっと息を吹かれた。


理性のタガが緩みはじめた。


「うーん、いい抱き心地。やっぱり、お姉さんとまーくんは相性がいいのねえ。」


「性格ですよね!性格の話ですよね!?」


ジタバタするものの腕力で圧倒的に負けている彼女から逃げられることもなく、彼女の両腕が俺の胸で交差する。


「………あら?ねえ、まーくん。貴方何かした?」


「な、何が!?ぽ、僕は何もしてませんよ?」


愛でるようにそして悪戯っぽく指を背中に這わせたり、抱きしめたりするクレアさんが不可解な言葉を上げた。


「筋肉がついてる?早すぎるわ。少なくとも今日より厳しいのを暫く続けないといけないんだけど。」


「あれよりか…」


「まーくん、貴方、何か無視した?例えば努力を無視して力を手に入れるとかそんな異世界の法則。」


「有るわけないじゃないですか、そんな………あっ」


「あるのね?」


クレアさんが耳元で囁く。

これ以上何かされる前に自分から話の主導権を握らなくては!!


「あれです!『一万時間の法則』!」


「一万時間の法則」それはどんな分野でも、だいたい一万時間程度継続してそれに取り組んだ人は、その分野のエキスパートになるという経験則である。


「そんなのがあるのね。じゃあそれを無視すると………短い期間で最高の結果がでると。」


「く、クレアさん?何を考えていらっしゃるのでしょうか?」


「まーくん?明日からは特別な訓練をやって貰うわ。血反吐を吐いた私の1年間を過ごして貰いましょう。」


「待って、怖い。何か嫌な予感しかしない。普通にやりません?」


「ロゼちゃんを守れるほど強くなりたい。そしてそこに至るまでの最短距離が用意されているのなら、突き進むしかないでしょう?」


「いやいやいやいや、そんなずるい真似…」


「何が狡いの?貴方はしっかり努力する。それこそもちろん血反吐を吐くような、ね?それを効率よく自身の力に変えることの何が卑怯なのかしら?」


言われてみれば…って何か丸め込まれている気がする。

けど確かにクレアさんの言う通り、彼女を守る為に自身の成長の最短を進めるならそれを進むしかないだろう。


「わかった、やります。やらせて下さい。」


「ーーその言葉を待っていたわ。」


彼女が俺から離れると後ろで僅かな布ずれの音と共に黒地に紅い花がさいた和服を身につけて、髪を後ろで纏めたクレアさんがいた。


「1週間、学校を休んでやるわよ。さっきの法則を無視すればそれくらいでしょうから。場所は私が連れて行くから、暫くは戻れないけどいいかしら?」


「……覚悟は出来たと言えるほど強い気持ちじゃない。だけどどこまで出来るのかっていう気持ちは出来ました。」


今の俺からどこまで強くなれるのか

それだけを糧にして乗り越えよう。


「ええ、書き置きは残したわ。なら行きましょうか。」


クレアさんが窓を全開にし、そこから飛び降りる。

俺もそれに続き、窓から身を投げると黄金の床に足をつく。


それは8メートルもある巨大な西洋の龍。

黄金の鱗を全身に纏い、絢爛にそして神々しく朝陽の輝きを受けている。

背中からは大きな翼と長い前足には鋭い爪が力強い存在感を発していた。


「龍化したクレアさんに乗るのは初めてかもしれないですね。」


「飛ばして行くから無視の力、ちゃんと使って起きなさい。」


一瞬にして音すら置き去りにした彼女にしがみつき、俺は天国のような学園生活から地獄のような特訓へと足を踏み入れるのだった。









『1週間ほどまーくんと学園の外に出てきまーす。心配はいらないからね〜』


手紙を音読し、持ってきた本人であるロゼに返す。


ガルディはこめかみをぐりぐりと指先でほぐしながらクレアシオンにどうやってこの怒りを伝えようかと考え始めた。


「これが皆様の部屋に置いてあったんですの?」


「そうなの、ガルディさん!どうしよう!マコト君が………クレアさんに連れさられちゃったぁ!!」


トライアル部室内で響く彼女の悲痛な叫びにガルディ、エルデ、リリムは耳を塞ぎながら彼女達の行方を考える。


「はあ、大丈夫ですわ。ロゼ。彼女、クレアシオンはこんな真似をして男を独り占めするような人じゃありませんわ。」


「で、でもクレアさんとマコト君ってかなり、相性がいいんでしょ?だ、大丈夫かな?私が嫌になって、2人で駆け落ちしたんじゃあ………」


「クレアの体についていかない男なんていね…あだぁ!!」


「少し、黙りなさい、旦那様。話が拗れますわ。見なさい、ロゼが虚空を見つめてぶつぶついい始めましたわ。」


キノコが生えそうなほどじめじめした空気を体から放出し、焦点の定まっていない視線はまるで別世界を見ているようだ。


「で?心当たりは?」


「おそらくは特訓にでも行ったのでしょう。」


「特訓?」


リリムの質問に僅かにガルディの声が震えた。

というか、ガルディの目から光が失われている。


「かつてクレアシオンが彼女の師匠に課されていた特訓『(死んだほうがマシな)1年間で英雄を超えろ』ですわ。かつて、私、フェルムがやったところ3ヶ月でダウンしたというお墨付きの」


「………それ、マコト死なない?」


「常人なら死にますわね。半年持てば私たちに並び、1年間耐えれば世界有数のクレアシオンと同等にはなると思いますわ」


「………マコト君が死ぬ」


ふらっと気を失いかけたロゼをリリムは支え、気になっていたことをトラウマ思い出し中のガルディに聞く。


「この1週間………ってことは1年分を1週間でたたき込むと。」


リリムの言葉にガルディも頷く。


「恐らく、彼女は潰すつもりで鍛えあげるでしょう。ですがそれを乗り越えれば扱える黄金の雷撃龍と同じように新たな産声を上げられますわ」


ロゼを除いた全員はそれを聞いて


「無理」


「無理だろ?」


「無理ですわね。」


誰もマコトが帰って来ることを期待していなかった。


「何でよ!信じてあげましょうよ!マコト君は必ず帰って来るって!!」


「すまん、ロゼ。信じられる要素が皆無だ。」


「考えて、普通は無理。」


「あれは死にに行くようなものですわ。」


「なーんーでーよー!!」


机をバンバン叩く公爵令嬢。

礼儀作法はどこ行った。


「まあ死んだ奴は置いといて、」


「まだマコト君は死んでないわよ!きっと!多分!」


「お前も自信なくなちゃってんじゃねえか。」


一旦仕切り直しとばかりにリリムが仕方なーく渋々、嫌々に献上したW・Sじるしのクッキーを食べながらまったりとする。


「そういやもうそろそろ新歓旅行だけど準備出来たか?」


「ええ、勿論。今回の旅行先はグラマソーサリー帝国。ガルディさんの故郷よね?」


「そうですわ。美肌効果で有名な温泉に数々の恋愛の証とされる宝石採掘場、そしてそれを支える壮大な活火山!これが私の国ですわ!」


目をキラキラしながら語り合う女子2人。

全く興味がなく、トライアルを出しながら駒を並べる女子力皆無の魔女と挨拶に行き過ぎて第2の故郷とかしている王子。


ここで新歓旅行について説明しよう。

新歓旅行とは新入生と在校生の関係をより深くする為の3泊の旅行である。


年度毎にクラスが分かれているわけではないこの学園は卒業生の数だけ新たに新入生がその教室に割り当てられるのだ。


普通は壁などが生まれてしまうがこういった機会を用いて、話したことのないクラスの先輩や後輩と関わりあう機会が増やそうとしている。


今回の目的地は有名な観光地のグラマソーサリー帝国。温泉に宝石採掘、古くから伝わる伝統を重んじる国である。


3つ首龍全員の故郷でもある。


「2日目には宝石採掘があるそうですわ!ロゼさんもマコトさんにお願いしてみたらどうですわ?」


「そりゃいいな。互いの婚約指輪に採掘した宝石は思い出にのこ………あっ!待った!今のなしだ、リリム!」


「待ったはなし。私の勝ち。」


「ちくしょうが!!」


新歓旅行を前にしてワクワクする皆は1週間後に思いを馳せるのだった。







「そんなのがっ…あるんですねっ!」


「まだまだ元気ね!追加するわ!」


「ありがとうございます!教官!」


クレアさんに連れてこられた先はグラマソーサリー帝国近くの火山地帯。


そこの採掘場近くの岩山にて俺はまた豹変したクレアさんによって筋力トレーニングのために重りをつけて穴を掘っていた。


なお、この重りは俺の体重ほどあるので体力、疲労がどんどん持っていかれる。


しかし無視の力で体の痛み、疲労全てを無視して、俺は黙って動き続ける。


「よし!今日はそこまで!1分、休憩挟んだら格闘訓練するわよ!」


ざっと10メートル程で終了。クレアさんの計画では最低でも1時間で100メートルは掘らないといけないようだ………終わる気がしない。


休憩と言えない休憩を終えてクレアさんと向かいあい、格闘訓練を行う。


クレアさんにひと通りの格闘術を教わり、すぐに実戦に移す。

これが何より辛い。


割と容赦なく拳や蹴りを叩き込み、地面に転がされても足踏みなどで気が抜けない。

ここらから既に意識はもうなく、いきなり右腕が動かなくなった。


どうやら無視し続けた痛みや疲労が限界値を超えたようだがクレアさんはそれを見てもやめたりしない。


曰く、戦闘中に負傷したからと言って見過ごされる訳がないのだから最悪の体調で最高の結果を出せるように努力なさいとのこと。


気づけば俺は地面に寝ており、無視が解除されたせいで身体中に走る激痛や倦怠感から逃れるためにまた無視を使う。


「寝ている暇はないわよ!次は射撃訓練!今から岩を投げるから全部撃ち抜きなさい!」


こちらの準備が出来るとすぐに巨大な岩を投げつけて来るクレアさん。


その岩が拳骨大の大きさで砲弾並みの速度を持っていても泣き言言わずに撃ち抜いていくほかない。


魔眼を用いれば早いがそれでは自分の力にならない。魔眼を封じて自分の基礎能力をあげるのが今回の目的なのだから。


日が沈み、夜になっても射撃訓練は続き、岩が当たって何処かが折れたような音を立てても無慈悲にクレアさんは訓練を続け、東の空が白んで来ると投石は止んだ。


「これにて終了!明日からは更に厳しくするのでしっかり休むように!」


その言葉と共に張り詰めた糸が切れて俺の意識は暗い意識の底に沈んでいく。







「さて、タツ婆?後はお願い。」


「全く、老人をこき使うんじゃないよ!」


倒れ伏したまーくんへ堂々たる白髪を纏めた私と同じくらいの背、しかし、その体には隠しきれないほどの力と覇気を感じる老婆が近づく。


「じゃあ師匠?それともお婆ちゃん?どっちがいい?」


「好きに呼びな!我が弟子、クレア。そして最愛の孫よ!」


老婆は懐から小さな小瓶に入った茶色の液体を取り出し、無視が切れたせいで僅かに痙攣し始めているまーくんの口に流し込む。


するとまーくんの体から傷は消え去り、痙攣も止まって穏やかな寝息を立て始めた。


「全く!秘伝の薬を使わせるんじゃないよ!」


「いいじゃない、素材は全部私が集めたんだから。」


「そういう問題じゃないんだよ!」


タツ婆はガミガミと私を怒鳴りつける。

それがとても懐かしくて


「で?どうなんだい?この子は?アンタと同じ英雄の血を継いでんだろ?強くなれそうなのかい?」


「強くはなれるわ、けど種族の壁が出てくるわね。この見立で行くと姫様よりかは確実に強くなれて、フェルムに負けるくらいかしら?」


「はっ!人間にしちゃあ上等だよ!………なんだい?その顔は?まさかこの子がアンタと同じくらいになれると思っていたのかい?」


「………願うのは自由でしょ?」


「驚いた、アンタがまさかここまで入れ込んでいるとはね。そんなにいい男なのかい?こいつは。」


タツ婆の疑惑の目のせいかうなされ始めたまーくんの頭を優しく撫でる。

ふわふわで指先に絡まる彼の髪を堪能する。


「以前のアンタじゃあ出来ない顔だね。それをこの坊主が与えたことにあたしゃあびっくりしているよ。」


「あれ?タツ婆帰るの?」


「近々、学園の生徒たちが来るらしいからね!なんだい、アンタ聞いてないのかい?」


ああ、そういえば新歓旅行の季節か。


「あたしはその準備で忙しいんだ。またこの時間に来るから、アンタもたまには道場に顔出しな!」


タツ婆はそれだけいうと老躯の身とは思えない速さで岩山を下っていく。


「………えいっ」


火を炊き、熟睡するまーくんの頭を私の膝に乗せて膝枕。

ロゼちゃんがいないからこそ出来る幸せを私は膝の温かな重みとともに感じるのだった。


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