Sクラスの愉快な仲間たち
明けましておめでとうございます!
さてこちらの季節は5月くらいですが今回は新たなクラスメイトのお話です
「………んっ、んーん。」
窓から差し込む朝日の光に私の体が活動を始める。
長年にわたり、戦場では短い睡眠時間で活動し続けたこの体は2年間の安全な環境のおかげなのか、きちんとした睡眠を欲するようになった。
昔は直ぐに冴えた頭も今では起きて暫くは頭の中がふわふわしている。
微睡むことの気持ちよさを味わっていると私の胸元あたりで何かが動いている。
触るとふわふわな毛、寝ぼけている私には未だそれがわからずに愛玩動物か何かだと思い、その感触をもっと味わいたくて豊満な胸にそれを埋める。
暫くするとピクピク震え始めたのを感じて様子を見ようと思い瞼を開いた先に
白目を剥き、真っ青な顔をしたまーくんがいた。
「あら………窒息させちゃったかしらぁ?」
一先ず彼の意識を戻しましょう。
このままだとロゼちゃんに怒られちゃうわぁ。
*
「朝から胸で窒息死とか…何それ羨ましい。」
「朝起きたら、花畑がある川の向こう側で母親がエグザ◯ルばりのダンスを踊ってたんだぞ?まず引くわ。」
今朝からいきなり臨死体験をしたのは驚いた。
というかここで死んだら俺って異世界に転生したりすんのか?
「クレアシオン!貴方、まだ抱き着き癖が治ってないですの!?」
「いいじゃないの、別に誰にも迷惑かけてないわよ?」
「かけてますわよ!主に騎士団の団員達に!貴女は魅力的な体をしているのですからもう少し、気をつけたらどうですの!?」
食堂内でホットサンドを食べながらぎゃんぎゃんと騒ぎ立てるガルディにクレアさんは紅茶を飲みながらハイハイと適当に受け流す。
「抱き着き癖か………やだ、クレアさんかわいい。」
「マ〜コ〜ト〜く〜ん?」
「あだだっ!脇腹抓らないで!ロゼさんも可愛いから!」
「"も"って何よ!私の方が可愛いでしょ!?」
「無理すんなって、どう見たってスタイルは負けてああっ!おろしたての服に泥水が!!無詠唱の無駄遣いしてんじゃねえ!!」
「煩いわよ!馬鹿っ!私だって良い体してるわよ!」
「そうだぞ、エルデ。ロゼさんはな、抱きしめると意外と肉付き良いんだぞ!スタイルだって、美乳美脚の持ち主ぃぃ!冷たぁ!背中に氷入れないで!」
「もうっ!馬鹿っ!」
腕力のないペチペチパンチが俺を襲う。
「ははっ!効かんな!」
彼女の両腕ごと彼女を抱き寄せて頭を撫でてあげる。暫くすると甘えるように胸に顔を擦り付けてきた。
「うん、まあいいけどね?婚約者同士だし、イチャイチャするのも構わないよ?だけどさ……身内の惚気を見せられるこっちの身にもなれよ!?」
「何よ〜文句あるの?」
「あるよ!?大有りだよ!昔のロゼはどこに行ったんだ!?」
「あら、知らないの?女の子は恋をして大人になるの!」
「な、何だってぇぇぇぇぇぇ!!じゃあ既にロゼは大人の階段を登ーー」
「彼女はまだシンデレラだっつーの!!」
前世組にしかわからないネタとともに粉砂糖を指で弾き、机から乗り出してきたエルデのおでこを撃ち抜く。
椅子から転げ落ち、更に運悪く彼の側にいた召使い見習いのガルムが驚き、彼女が持っていた紅茶のポットが中身を撒き散らす。
「あっつァァァァァァァあああああああ!!!!!」
「ちょっと大丈夫ですの!?ガルム!何か拭くもの!」
「お、おう!待ってろよ!」
バタバタと動き回る彼らを見ながらデザートのオレンジを食べ、俺は息を吐く。
「はあ………平和だな。」
アルフレッドの事件から約1ヶ月、季節は初夏へと入っていた。
*
「階段が長い!」
「もう疲れたぁ!マコト君おんぶして!」
「そう言わないの、もう少しだから頑張りなさい」
俺は2人を連れて、階段を登り続ける。
ちなみにリリムさんは論文締め切りデスマーチを終えて泥のように眠っているため連れて来なかった。
以前、Bクラスだった時は4階だったのだがロゼさんの誘拐事件のゴタゴタでSクラスになってからは6階になったのだ。
ここでSクラスについて説明しよう。
Sクラスとは学園の親愛度が100オーバーの者だけが入れる選ばれたクラスだ。
前回の事件とそれまでに積み重ねた日々のおかげで跳ね上がったロゼさんの好感度。
そして多数のパートナーと契約を交わしながら、好感度を著しく下げなかったために俺はSクラスへと上がった。
下見で訪れたSクラスの教室は豪華であり、見るもの全てが高級な品で出来ていながらも決して景観を損ねることはない教室。
机は優秀な職人のオーダーメイド作品らしく、値段をつけると日本円で億がつくほど。
椅子もふんわり沈み込む高級ソファであり、あまりの快適さについついウトウトしてしまった。
黒板やノートは普通だがお茶やお菓子などが常備されており、教科書などをしまう専用のロッカーも存在する。
この通り、いたせりつくせりなのだがある問題がある。
1つは恵まれた環境を与える代わりに学園内で1番利用されるということ。
例えば学園の代表として他の国の宣伝の挨拶しにいったり、学園に危機が迫ってきた場合はSクラス各自が真っ先に動く事だ。
仮にも生徒、父にこんなんでいいのか?聞いたところ……
『Sクラス卒というだけで狙われることもあるからな。彼らにはその壁を自分達だけで乗り越えて欲しいからあえてきつくしているんだ。現に彼らは英雄の子、より辛い道が待っているだろうからな。』
まあ一応、彼自身の娘。
つまり、俺の妹に当たる存在もこうして頑張っているらしいので何も言わないが。
話しているうちにSクラスの教室の前に着く。
俺は一息、深呼吸してから扉を開く。
新たなクラスメイトはどんな奴らなんだろうと心を躍らせながら。
「おはようございます、カラスマ君。クレアシオンさんにイノセンティアさんもおはようございます。初めまして、僕はマックス・アブリゲイトです。」
「初めまして、皆さま。わたくしはシルビア・ヴィヴィアンですわ。」
扉を開けた先にいたのは皮の腰巻だけを巻いて四つん這いの馬になったマックスの背中に乗っているロウソクと鞭を持ったシルビアの姿である。
俺は扉をゆっくり閉めた。
そして深呼吸をし、窓から見える鳥のさえずりに思いを馳せてもう一度扉を開く。
何も変わっていなかった。
「何やってんの!?」
「見て分かりませんか?わたくしの所有物である証を刻むところですの」
「実は今日は女王様とのパートナー契約貴女の下僕になりますの2周年記念なんですよ。女王様は大変慈悲深く、下賤なイヌである僕にご褒美をくれるんですから」
はぁん!と鞭がパチンと間抜けな音を立てるたびに恍惚の表情で喘ぐ彼を見ながら「そっか………」とだけしか言えない俺がいる。
マックスはオレンジの髪に形のいい眉などの容姿端麗であるがちょっと無表情気味、眼鏡をかけた真面目な委員長タイプだ。
シルビアさんは全体的にほっそりしながらも出ているところはでており、長く尖った耳と黄緑の髪を三つ編みでカチューシャにしている。
見た目だけは美男美女なのにどうしてこんな………
「えーと…シルビア様でよろしいですよね?ヘクセレイの枢機卿の娘さんの。」
「マックスって…確か獣人の英雄の子よねぇ?」
ロゼさん、クレアさんの自信なさげな声を肯定する2人。
「まさかのSMパートナーなのかよ…」
性癖は人それぞれだから突っ込む気は無いけど、せめてかげに隠れてやってもらえませんかね…
「おや、君が新入りかい?初めまして、精霊族の英雄の子、アクセル・レラレーションだ。以後、よろしく頼む。」
「あらあら皆んな、おはよう〜わたしがパートナーのエリスよぉ〜」
げんなりしている俺の元にそう言って近づく者がいた。
短く切りそろえた透き通るような紫銀の髪に俺よりも高い背、甘い顔で数々の女子達からの支持があると聞いていたアクセルだ。
エリスは背丈は俺と同じくらい、ちまちまとした動きでアクセルの後ろをついて回る小動物を思わせる。
うん?彼らは普通じゃないかって?
まあまあ話は最後まで聞いてくれ。
「アクセルさん………その制服」
「ああ、私は女だ。そして彼が私のパートナーのエリスだ。」
「あらあら〜可愛い子ねえ!」
そう…アクセルは女の子だ。
エリスは男の子だ。
うん?もう一回言うぞ?
アクセルは女の子でエリスは男の子だ。
つまり宝塚みたいな騎士乙女とオネエのパートナーなのである。
だってエリスの見た目、めっさ男らしいもん!
どこのハリウッド俳優だよってくらいの彫りの深い顔立ちに髭を生やした姿は野性味を感じられるのに!
「こんなかっこいい人がなんで………」
「信じられないか?ロゼさん?だがそうでもない、彼は夜にはかなり男前に………」
「そんなことは言わなくていいのよ〜あーちゃん?」
背丈にあったがっしりした体のエリスはポカポカと彼女の肩を殴る。
側からみれば微笑ましい光景なのだが……
「もう寮に帰って、ロゼさんに甘えていたい…」
「ま、マコト君!?な、何言ってるの!?」
おっと、本音が漏れてしまった。
『だけど僕には君が癒しなんだ………ロゼ、これから僕と癒されないか?』
『ああっ!そんな!マコト様!駄目です!マコト様には婚約者がいらっしゃると言うのに!!』
『禁断な者ほど燃えるだろ?』
おい、待て
「そして彼は彼女の手を開き………」
「おい。」
「や、ダメ、それは…… ロゼは思わず身を捩り、抗議の声を上げる。しかし…」
「おい!」
「あ!初めましてっ!私、ライアって言うのっ!よろしくねっ!」
「そうか………よろしく」
「マコトの手は止まる事無く、やがてロゼの服の内側に……」
「続けんのかよ!?つーか何書いてやがんだ!!?」
机に向かって何か呟きながら書いてると思ったら!
この野郎、官能小説書いてやがった!
「何って、決まってるよっ!学園に流してる官能小説『淫らな彼は私の英雄』の新作だよっ!」
「題名言うな!実物だすな!後、色々な権利の侵害じゃボケ!」
「法に縛られてたら、いいものは生まれないよっ!お兄ちゃん?」
明るい金髪を2つのおさげにした、眼鏡をかけた青色の目、小柄な体。
つまりこの子が俺の腹違いの妹、ライアなのだ。
「どうしたのっ?お兄ちゃん?」
「………お兄ちゃんか」
ああ、妹がいるってこんな感じなのか………
「生きててよかった………」
「ちょっと、マコト君!?大丈夫!?なんか今にも天に召されそうだけど!?」
「そうだよ、お兄ちゃんっ!お兄ちゃんにはロゼさんとの夜の性活とか聞かないとっ!」
おーっと何だか感動の再会とかがぶち壊しの発言出たぞ〜
「貴方ってもしかして………最近学園に流されてる禁断の愛を取り扱った官能小説を書いてる『むっちむっち』さんかしら?」
「おおーっ!生徒会長さんもそういうのには興味深々ですかっ!!」
「馬鹿っ!私はそういう不純なものを没収しているの!作者がわかった以上は………」
「まあまあ、生徒会長さん、ここは穏便に………ここだけの話、好きな相手と状況さえ教えてくれれば普通の純愛物も書きますよ?」
「………………それって私とマコト君の、そのぉ………し、幸せな結婚生活とかも…」
「孫まで生まれて天寿全うさせられますよっ?」
「………まあ、小説書くのは自由だからね」
「待てい!ロゼさん!?今、小言で買収されませんでした!?」
「違うわ、マコト君。彼女には規制をしてもらう。けど………私の見えない所でやられたら防ぎようがないわ」
「それ、悪徳政治家とかが誤魔化す時に言うセリフぅぅ!!」
やべーよ、まさに賄賂を受け取る現場を見ちまったよ………僕のパートナーは賄賂を受け取るような人だと思いたくありませんでした、まる。
「もういいや、ライア………お前のパートナーは?」
話を変えようと聞いたその言葉に顔を曇らせるライア。
どうしたのかと聞く前に教室の扉が開かれた。
そこに居たのは紅い髪をオールバックにし、目に一筋の傷跡が残る強面の男。
体格は制服を雑に来て居ながらも分かる隆起した筋肉の鎧に包まれている。
「おいライア………こいつか?新しくSクラスに入って来たやつってのは?」
彼はつかつかと俺に詰め寄ると値踏みするように俺を眺め、そして鼻で笑った。
「ハッ!雑魚だな、こいつ。俺たちのクラスには相応しくねえ。おい雑魚、さっさとこの教室から出て行くんだな。」
後ろ指で教室の扉を指し示すこの男がライアのパートナーなのか?
「初めまして、俺はマコトーー」
「いいから出てけって言ってんだ!!あ゛ぁ゛?」
おおっとまじめな自己紹介を遮ってガン飛ばして来たぞ、こいつ。
「フェルム!やめてよっ!私のお兄ちゃんを虐めないでっ!」
ライアが小さな体を懸命にふるわして抗議するが彼は聞こうともしない。
それどころか、更に体に纏う空気が熱を持ち始めている気がする。
「ライアの兄って事はテメェも英雄の子か?」
「まあそうだけど?」
「なら、その力を俺に見せてみろ。」
えっ?待て待て、なんでそんな展開になるの!?
「条件は心武器なしの魔法なし、男同士の殴りあいだ。テメェが本当に魔眼持ちを撃破したならこれくらいできるだろうが」
そんな、阿保な!
俺があいつに勝てたのはロゼさんの力があってこそだぞ!?
そこらの軟弱貴族ならまだしもあからさまに武闘派な体をしたお前と戦ったら負けるに決まってんだろ!
「待ちなさいフェルム。貴方とまーくんじゃあ実力差がありすぎるわ。」
「………んだよ、何でこんなとこにいやがんだ?クレアよお」
「クレア師匠よ。我が弟子にして3つ首龍が1人、『黒曜の磁辰』フェルム。」
こいつが!クレアさんやガルディさんと肩を並べる実力を持つ1人!
「はあ?先に言っといてやるよ、今の俺はあんたより強い。こいつとやった後で相手してやるよ。」
「随分とデカイ口を叩くようになったわね。いいわ、まーくんこの決闘受けなさい。」
「待ってえ!何故に!俺は争いなんてしたくないんだけど!?」
「この決闘に勝てなんて言わないわよぉ。だって無理だもの、絶対に勝てない。それは保証する。」
「クレアさん!?そこを保証するより、マコト君の身の安全を保障して!!」
「ロゼちゃんも落ち着いて、この決闘をすれば今のまーくんに足りないものが見えてくるはずよぉ。」
いつもの声音だがいつになく顔は真剣で
「おいおい、クレアよ。あんた負けると分かっていながら俺とやらせる気かよ。」
「負けたことで得られる何かがあるなら私は幾らでも負けるわ。今回もそう。私のパートナーが負けて何かを得られたなら、それでよし。何も得られなくてもこの決闘は決して無駄にはならないわ。」
クレアさんの目が俺を射抜く。
ロゼさんの心配そうな視線が俺を貫く。
俺は考える。
もし、この決闘で俺に足りない何かが見つかればロゼさんを今度こそ完璧に守ることが出来るんじゃないか?
未だに夜中、魘されて泣きながら飛び起きる彼女を抱きしめるだけしか出来ない俺から変われるんじゃないか?
「分かった、やろう。」
「そう来なくちゃな。」
その言葉を待ってましたとばかりに意地悪い顔で受け取ったその男は場所は訓練棟、日時は今日の放課後と決めて教室から出て行った。
「すまない、カラスマ君。彼はいつもあんな感じなんだ。自分が気に入らないと直ぐに喧嘩をうってくる。」
「私もかつて決闘を仕掛けられてな、満身創痍になりながらも女だと舐め腐ったあの男の鼻をへし折ってやったんだ。あれはだいぶ気持ちよかったよ。」
2人の英雄の子たちがそう補足する中でライアはおずおずと近づいて来ると俺たちに頭を下げた。
「本当にごめんなさいっ!フェルムくんは根は悪い子じゃあないんですっ!どうか彼を嫌いにならないであげてっ!」
「嫌いも何も、彼は粗暴だけど情に厚い性格だったはずよねぇ?お姉さんと別れてから、一体何があったか、ライアちゃんは知ってる?」
ライアは黙って首を横に振る。
「そう、なら私がやるしかないのね。いいわ、ライアちゃん。彼とは私が語り合うわ…拳でね。」
ニコッと笑う彼女の拳は強く握られていた。
その彼女に隠された心情は伺う事は出来ない。
「いや、今はそんな事を気にしてる場合じゃないな。」
今日の放課後には世界でもトップクラスの相手と決闘するんだ。
負けるつもりで行っちゃダメだ。
勝つつもりで行かなきゃ。
「おはよう、諸君!今日も元気に生きてるか!?なら良し!席につけ!」
先生が来て席に座った後でも俺は放課後のことしか頭になく、気がつけば時刻は放課後になっていた。
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