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駄々を捏ねた子供への罰

「生かして!」


「殺る!」


 ドン!という腹を震わす音を立てて2人の男が地面を蹴る。


 マコトの武器は拳銃、見た通り遠距離戦が得意だ。ヒットアンドアウェイで相手の体力をチクチクと削る事ができる。


 反面、近距離に持ち込まれるとそのメリットがなくなってしまう。


 アルフレッドの武器は両手剣、近距離戦でないと機能しない無骨な装飾をしたこれならマコトの防御など紙に等しい。


 反面、ロゼとの契約が切れたことで遠距離に対する手段がなくなった。


 だがアルフレッドの方が有利である。


「喰らえっ!」


 フィリアの存在である。

 接近戦、遠距離戦とバランス良く行える彼女がアルフレッドに迫るマコトの進行を上手い具合に妨げていた。


 更にリリムの存在がでかい。

 リリムは未だに倒れたまま回収されることなく地面に転がっているのだ。


 仮に彼女を人質に取られたりすると余計にアルフレッドを倒せる可能性は少なくなる。


 マコトは思考をしながら黒雷を飛ばしてくるフィリアへ威嚇射撃を行い、2人がリリムに近づかないように場所を移動していく。


 気を抜けば刈られる。

 油断すれば斬られる。


 高まっていく緊張の中でマコトの頭は逆に冴え渡っていく。


(まずはリリムさんの避難。2人を相手にするのはその後だ。)


 体は軽い、空気抵抗を無視し、慣性の法則すら無視した事で龍人であるフィリアの動きにすら着いていける事が出来る。


(この無視はどの法則も無視できるなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「よし当たる!」


 意識を思考に集中し過ぎていたせいか頭上から全身を飲み込む黒の雷がマコトの体へ飛来する。


「良くやった!フィリア!雷を受けて立っていられる人族なんてこの世にいない!」


 最早勝負はついたとばかりに剣を握りなおし、熟練の剣士から見ればダメダメだが吸収した魔力により破格の威力を持った鋭い剣戟がマコトに迫る。


「じゃあ俺が始めてだな、やったぜ」


 だがオームの法則を無視し、焦げ跡すら無い綺麗な体のマコトはその唐竹割りの剣を体を横にして躱すと返す刀で右手の銃の引き金を引く。


「あぶねっ!?」


 イワンから無視についての詳しい能力を聞いていたアルフレッドは彼の武器が自身の歪んだ空間を超えて自身に傷をつけられると知っていた。


 向けられた銃口を弾くが、すぐに左手の銃が向けられる。

 しかし、発射される間際に高めた身体能力、動体視力がそれを捉え、頭を下げて左の拳で銃ごとマコトの腕を殴りつける。


 マコトはそれを受けながらも回転、右に持った銃を向けるがそれは構えなおした斬撃に飛ばされる。


 そこからクレアの腹に風穴を開けた突きがマコトの眉間へ向けて突き進む。


 が、それは見抜いていたマコトによって放たれた弾丸が剣筋をそらし、虚空を貫く。


 左手に構えた拳銃の引き金を引くがそれは剣に阻まれ、カウンターの斬り上げを防御したマコトの二丁拳銃が宙へと飛び、あまりの威力に後ろへとよろめく。


「貰った!!」


 一気に踏み込み、我武者羅に振るった横薙ぎの剣を前にして目を見開くマコト。


 けれどマコトは後ろに倒れると空に弾かれたと同時に1度閉まって、また手元に戻していた2つの拳銃から弾丸を発射する。


 これに面食らったアルフレッドは肩と脇腹に一撃ずつ弾丸を受けてしまう。


「アルフレッド!?」


「心配ない!かすり傷だ!」


 精一杯の強がりを吐くアルフレッドに対し、マコトは無慈悲に弾丸を射出。


「ふっ!見え見えだ!」


 これは避けたアルフレッド、だが一瞬だけマコトの姿を見失う。


「アルフレッド!あそこ!」


 フィリアが指差した先にはリリムを背負うマコトの姿。

 しかし、遠距離に対する攻撃手段がないアルフレッドにそれを止める手段はない。


「フィリア!!」


「任せて!」


 だがフィリアがいる。

 フィリアは一息でマコトに肉薄すると黒雷を纏った黒い拳を振るう。


「悪いな、フィリア。俺はお前に付き合ってられないんだ。」


 拳は止められた。


「だから私が相手するわ。かかってきなさい、妹。再戦よ。」


 黄金の光を持つものによって。


「お姉ちゃん!?なんであれだけの傷を負ってまだ動けるの!?」


「その返答は私に勝ったら教えてあげるわ。」


 拳ごと腕を捻られ、折られると予測したフィリアは回転に合わせて飛ぶがそこに前蹴りが突き刺さり、爆音じみた衝撃音と共に地面を削りながら吹き飛ぶ。


「少しお願いします。」


「大丈夫よ、お姉さん、守るのは嫌って言うほど得意だから。」


 パチっとウインクを交わして再び戦いへと進む彼女を尻目にマコトはビル内へと戻っていく。




 *




「マコト君!大丈夫!?」


「俺は大丈夫だ!リリムさんをお願いします!」


「任せて!必ず助けるから!」


 ロゼさんは地面に優しく置いたリリムに対して治癒魔法をかけ始める。

 だがいつもと違うのは彼女がそれを無詠唱で行なっている事だ。


 どうやらさっきの錯乱状態の時に何か掴んだらしく、無詠唱によって効果が増した魔法が使えるようになったらしい。


 だからすぐにクレアさんは復活できた。

 けれど何とか動けるようにしただけで絶対安静に変わりはない。


「早めに決着つけないとな。」


「頑張って!!」


 俺は再び戦場に戻る。




 *




 どうしてだ!どうして上手くいかない!

 仲間たちは全員やられて目の前の羽虫如きの障害すら取り除けない!


「よう待たせたな。じゃあ続きいこうか!」


 蓄積した魔力や身体能力を持った俺へと追いつく速さで俺を中心に円状に走り出すマコト。


 どうやら先程と同様に典型的な遠距離攻撃を繰り返すようだがまだ甘い!


「ヘルファイア!!」


 こう見えて俺は三重魔法使いだ!

 遠距離に対する手段は持っているんだよ!


 マコトの奴は炎を避けた。

 そうだよなぁ、当たるわけにはいかないもんな。


 お前は無効化しているんじゃない、無視してるだけだ。


 激痛が走る毒を受けても無効にして効かない事にするのではない、激痛が走る毒の進行を無視して動き続け、限界が来たら死ぬしかないのがお前の心武器だ!


 先程の魔法だって炎を無視しても焼けるのは無視出来ない!だから避けた!


 俺みたいな歪曲や引力の影響を無視出来る力はたしかに強い。だが弱点は必ずある!


「"煉獄に笑う者よ、血を滾らせ、罪人を劫火の演舞で、灰燼とかせーー紅蓮演劇灼熱演舞インフェルノ・ダール・シュテルング!!」


 この燃え盛る火炎を俺と彼を中心に迸らせ、逃げ場をなくし、強制的に近距離に持ち込む。


「どうした?かかってこい!それとも諦めたか!」


 両手剣を握りしめ、鋭い剣舞でマコトへと踏み込む。


「お前は…何でこんな事やってんの?誰かに命令されたのか?」


 拳銃をクロスして俺の一撃を受け止めたマコトは訝しげな目で此方を睨む。


 こんな事?ハーレムとか俺Tueeeをやって何が悪い!

 前世じゃあ下らない学友やありふれた勉強に嫌気がさして40までニートだったんだ!


 こんな不幸な人生を送ってたんだから今世で好きな事をやって好きに生きてもいいだろうが!!


「誰でもない!自身に従った結果だ!最高だぜ!?俺を慕う女の子は選り取り見取り、金は湯水のように使える。なのにロゼの野郎は俺に従わなかった!あろうことか俺に指図して来た!生意気な野郎だ!」


 部屋内にまだ食べる2日前のお開けっ放しの菓子を置いといただけで怒られる。

 金が足りないから彼女から拝借しただけで怒鳴られる。

 授業をサボって1ヶ月くらい遊び呆けてたら叱られる。


 どう見たって彼女が悪い。


「だから彼女を孤立するように仕向けたり、イワンに頼んで奴隷レベルまで落とそうとしたのが何か悪いのか!?」


 マコトはそこまで聴くと疲れたような呆れ顔を浮かべ、俺を蹴り飛ばす。


 剣を地面に突き刺して飛ばされるのを防いだ俺の頭にゴリッと硬いものが押し付けられた。


「もしかしたら……無理やりやらされているかもしれない可能性を信じて見たが……無駄みたいだな。これで心置きなく引き金を引ける。」


 能面のような無表情で氷のような冷たい声で銃口を押し付けられる。


「お前の情報を見抜いた。お前地球じゃあニートだったらしいな。」


「何故それを!?まさかお前も魔眼持ちか!?」


「ご名答、更には同じ地球出身だボケ。」


「ならどうだ?俺の傘下に入らなぎゃああァァァァァァァァァァ!!」


 こいつ躊躇いなく、引き金を引きやがった!!


「バカだろ、お前。つか、40代までニートとか何やってたんだ?親も良く養ってくれたな。」


 血がだくだくと流れる右腕を抑えながらも睨んで見るが逆にゴミを見るかのような目で睨み返された。


「40代なんて下手したら両親死んでるだろ。それでも目が覚めずに自分だけの世界から一歩も出なかったんだろ?」


「五月蝿え!偉そうな事言ってんじゃねえよ!まだ社会に出た事ないケツの青いガキがぁ!!」


「ブーメランって知ってるか?」


 今度は左腕を撃たれる。

 泣き叫びたいし、喚きたいくらいの激痛だがここでそんな事をしてしまえば彼の思うツボだ。


 だから耐えろ、俺!


「それに俺はお前と違って父は蒸発、母は過労で亡くなり、高校を自主退学したお前と違って学費が払えなくて仕方なく辞めたんだ。そこから働いて大体2年、お前よりかは社会を知ってるつもりだ。」


 なんだこいつ?

 そんなことか……ありきたりな不幸な身の上話でしかないだろ。


「で?だからどうした?お前も俺も所詮地球じゃあ負け組!何も変わりはしねえ!大体ムカつくんだよ、お前さ!人の彼女寝取って彼氏ヅラしやがってえ!!」


 どうやら俺の完璧すぎる反論に意見出来ないらしい、ふるふると悔しさのあまり震えてやがる。


「全く偉そうに語りやがって!分かったらさっさとーー」


 刹那、黒の拳銃が迫るのが見えた。




 *




 どうしようもねえな…


 余りの馬鹿さ加減に全力を尽くした殴打で炎の壁ごと吹き飛ばしちまったが死んじゃいねえだろうなぁ。


 いじめとかで学校への興味をなくしたなら俺だって同情するし、仕事に就けずに何年か過ごすのもまだわかる。


 だがあいつはただ単に自分が気に入らないからやりたくないからを続けて来た結果が今なんだ。


 ロゼさんだって身の回りをそこそこ綺麗にしとけば何も言わなかったし、学園からの支援金すら割と大目に分けてくれた。授業は行くの当たり前だしな。


 甘やかされてつけあがった自尊心の塊が死んでも治らず、こちらの世界でも周りから甘やかされた結果がアレなんだろう。


「要するに大人になりきれない子供ってとこか。わがまま言ってれば周りが何かしてくれると期待しつづけているただのガキだ。」


 消失した火の壁を越えた先に鼻から血を流しながら激昂に身を委ね、荒い息を吐くアルフレッドの姿。


 アルフレッドはおそらく自分だけで戦った事がない。

 平和な日本で喧嘩珍しいかもしれないが、こちらの世界ですら戦った事がないのは……


(恐らくはフィリアが強すぎたのと魔眼の吸収能力を使って弱った相手を一方的に叩きのめしただけだろうからな。)


 一応、前世の先輩の友達に空手の師範代がいたので格安で通っていた俺に比べ、アルフレッドは闘いの素人。


 喧嘩すらしたことはなく、こうやって対等の相手と戦った事が無いのだ。


 だから体の動かし方も分からないし、避け方も分からない。だから俺の攻撃も当たる。


「もう我慢はしない、来いよ。アルフレッド(クソガキ)。」


 だからといって手を抜く気はない。


 指をくいくいっとすると闘牛のように突っ込んで来る。


 さあ、そろそろ決着つけようか。




 *



 雷光が瞬く、空気が破裂する。


 2人の女は互いに雷を纏わせた肉体をぶつけ合う。


 黒と黄金の光が真正面から激突し、黒の女性が吹き飛ばされた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!!」


 追撃の雷撃が飛んで来る中で彼女は解体工事の名残である鉄骨を電気発生による磁力で立たせる。


 それは稲妻の避雷針となり、鉄骨は粉微塵になるが彼女は無傷でやり過ごせた事に安堵の息を吐く。


「油断大敵、慢心不要。」


 上空から迫る影にその場を転がる。

 上から落ちてきた黄金の龍は先程までいた場所に小さなクレーターを作ると先程の雷撃を食らわなかった鉄骨を手に取る。


「磁力を使うなら少なくとも『黒曜の磁辰』レベルじゃないと使い物にならないわよ?貴方レベルなら私にだって出来るわ。」


 鉄骨を破壊し、その拳大になった残骸をかき集め、自ら放つ黄金の光に乗せて豪雨を横殴りにしたような散弾に変える。


「くっ!なんで!そこまでの力を出せるの!」


 フィリアがそう叫ぶのも無理はない。

 すでにクレアの体は死に体だからだ。


 真っ青な顔に若干歪んでいる右腕、足元はふらふら、なのに魔法の出力はどんどん上がっていく!


 次々に飛んで来る散弾を黒雷で消し飛ばして行くもそのせいで彼女の姿をまた見失う。


「教えてあげるわ。」


 フィリアの死角から彼女の右拳が脇腹に深々と突き刺さる。

 一瞬息が止まったのを見計らってクレアは黄雷を纏わせた左の掌底を彼女の胸に撃ち込む。


 フィリアはそのまま数メートル吹き飛ばされ、何とか立ち上がろうとするもの直ぐそばまで来ていたクレアに頭を踏み潰される。


「私は以前、シェンデーレ校長のパートナーであるショーコさんに会った事があるわ。まだ騎士として働き始めた私に対して彼女はとても有意義な話をしてくれたのよ。」


『電気は私たちの国だと発電所って所で人工的に作ってるの。発電所っていうのは太陽光や熱や風、水とかから電気を作り出す場所なんだよ。』


「強くなる方法を模索していた私にとってそれは天からの啓示だったわ。魔力が無くなれば雷は作れない、だったら別の方法で雷を作ればいいってね。」


「別の方法……?」


「太陽の光や水の流れに風から発生する力を雷に変えること。そこから更に私は闘いの中で効率の良い発電方法を考えたわ。」


 バチバチッとクレアの前身に迸る雷は朝の光に照らされて神々しく見えた。


「傷を負うことよ。体に蓄積した負の力である疲労や怪我を全て雷に変えることで私は魔力を奪われても強大な雷だけは使えるわ。」


 その雷は全身を漂うように移動し、全てが右腕に集約されていき、高価な宝石なんて目でもない煌めきを見せる。


「さっき私たちに追い詰められていた時から力を溜めていたって言うの!?」


「当たり。これで分かったかしら?『黄金の雷撃龍』含む3つ首龍はそこまでやわな看板じゃないのよ、フィリア?貴方如きが軽々しく口にしていいものではないの。」


 フィリアが見上げた先の彼女の顔はまるで子供に説明する母のようであった。


 けれど右手を帯電させながらその顔を出来る彼女には恐怖しか感じられない。


(お姉ちゃんにとって殺すことは朝起きて顔を洗うというみたいな何気ない日常と変わらないんだ!敵対した妹にさえきっと……容赦はしない!)


 何とか逃げ出そうと体から黒雷を発生させるが右腕を振るわれて全てが霧散する。


「悪い子には罰を与えないといけないからねっ!」


 雷雲を表すかのような不穏さを隠さずに高まっていく右腕の力。


「やだやだっ!ごめんなさいっ!許してお姉ちゃん!!」


「ふふっ……だーめ。悪い子には決まって拳骨をしなきゃねえ〜」


 死の恐怖に体全体が水に浸かったように冷えて行く。

 それを見ても彼女はいつものように妖艶に笑う。


 登りだした太陽に負けない黄金の輝きは今、最高に至った。


「龍闘流法ーー"雷竜一閃"!!」


 全一の雷光が黄金の軌跡をもたらして1人の女の子に裁きの光が下った。




 *




「クソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 躱す。


「貴様さえいなければぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 いなす。


「俺は……俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 受け止める。


「いつまで夢見てんだ。現実を見ろよ、お前のパートナーはやられてその剣には何のチカラも宿ってはいない。」


「五月蝿えよ!年上に逆らってんじゃねえぞ!!」


 吸収した魔力全てを解放するかのように爆発的な一撃を前にして俺は銃口を掲げる。

 甲高い金属音と激しい火花を散らしてあっさりと受け止める。


「作用反作用の法則を無視すればいくら力があった所で防ぎさえすれば俺にダメージは入らねえよ。」


 本来なら俺の腕では支えきれなくても物理法則から解き放たれたなら話は別だ。


「難しい言葉使って頭がいいってアピールすんのも大概にしろよ、てめえ!!所詮は学生レベルだ!間違ってるに決まってる!!」


 まあ間違っていてもいいさ。お前を倒せるならな!


 引き金を引いて空気抵抗を無視して初速を維持した弾丸はアルフレッドの剣を邪魔だと吹き飛ばし、宙を舞う。


「というか、お前説明できんのかよ。慣性の法則とか作用反作用の法則とかさ。」


 空いた胴体をくの字に曲げるつもりで前蹴りを入れてトラックに轢かれたかのように吹き飛ぶアルフレッドへ向けて弾丸を3発射出する。


 魔眼により、当たる位置も見抜いているから誤射で死に至らせることはない。


 廃ビルの壁へと叩きつけられ、放射状のヒビが入り、追撃の弾丸が綺麗に決まってアルフレッドは咳き込みながら大量の血を吐く。


「そーら追撃だ。避けなきゃ死ぬぜ。」


 だが手は緩めない。

 両手に持った銃を乱射しながら逃げようとするアルフレッドの道を1つに潰し、そこに俺が割り込む。


 急いで剣を出そうとしたアルフレッドの端正な横顔を殴り飛ばし、土煙を上げながら吹き飛んだアルフレッドに並走し、サッカーボールのように蹴り上げる。


「万有引力の法則無視」


 こうすればきっと空も飛べるはず!


 ふわりと体が軽くなる感覚を体で確かめて俺は上空で体をばたつかせるアルフレッドへ近づくと無視を解除して重力を加えたかかと落としをお見舞いする。


「同郷のよしみだからこれで終いにさせてやるよ。本来ならロゼさんの分やエルデを牢にぶち込んだ分はまだまだあるが…これで手打ちだ。」


 天から落下するアルフレッドを受け止める必要もないので顔面陥没しかけているがまだ微かに息があるフィリアを俵持ちしているクレアさんの元に向かう。


 背後から生々しい音が聞こえるがまあ大丈夫だろう。


「避けなさい!まーくん!」


 だがクレアさんがパチッと電気を帯電させ、俺を地面に倒す。


 どうやら何者かによる鋭い剣戟らしいがそんな奴は1人しかいない。


 あり得ないわけではないがオレの経験上じゃあ絶対に立ち上がれない傷なんだがな?


「マコトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 体から膨大な魔力を拡散させてビルを背にしてこちらに剣を向ける血塗れのアルフレッド。


 魔眼で見なくてもわかる漏れ出した濃密な魔力がアルフレッドの傷を癒す。


「貴様らが死ねばまだどうにでもなる!死ね!俺のために!最高の人生のために!!」


 魔眼が疼く。

 どうやらその膨大な魔力を全部使って強大な魔力砲を撃つつもりのようだ。


「魔力砲を撃つ前に1つだけ言っとくぞ。マーフィーの法則って知ってるか?」


 アルフレッドには聞こえていないようだ。

 後ろでクレアさんとロゼさんが魔力壁を張ろうとしているようだがそんなものはいらない。


「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる。を基本とした法則なんだが……俺はそれを無視出来る。するとどうだろう?」


 失敗するかもしれないものが失敗しない。

 欲しいものがすぐに手に入る。

 願ったものは必ず叶う。


「簡潔に言うとな、()()()()()()()()()()()んだ。」


 俺たちがここまでたどり着いたのもそれが理由。

 無視の力を使ったのはイワンとふざけて使ったエルデだけだ。


 だが2人はその後、都合良く俺に対して協力してくれた。

 もし、エルデが人形を作らなかったら?

 もし、イワンが改心しなかったら?


 きっとロゼさんは取り返しのつかない事になっていただろう。


「けどこの力は魔眼使用時にしか使えない。難儀なものだ。」


「うるせえよ!運命に抗うのは誰にだって与えられた権利だ!」


 主人公っぽいセリフを吐きながら収束した魔弾を放つ。


 だがさっきの傷を治療、俺への攻撃、防御を含めてもアルフレッドの魔力に俺たちを殺す力はない。


 どう頑張った所で俺1人を巻き込む事で精一杯だ。

 これが俺にとって都合のいい結果だ。


「これくらいならお姉さんが露払いしてあげるわ。」


 雷の魔力を拡散するように広げて魔弾を受け止めるとクレアさんはそれを天高く蹴り上げた。


「………クレアさんって大概怪物ですよね。」


「お姉さん傷ついちゃう。」


 くねくねするクレアさんはとりあえず放っておき、アルフレッドが居る場所へと銃口を向ける。


「……どこ行った?」


「魔弾を置き去りにして逃げたのかしら?」


 そこにアルフレッドの姿はなく、代わりに廃ビルないから


「きゃあァァァァァァァァァ!!」


「ロゼさん!?」


 ロゼさんの悲鳴が響いた。




 *




「ちくしょうちくしょう!何で俺がこんな目に合わなきゃいけないんだよ!」


 痛む体を押して気絶させたロゼを肩に担いで2人から逃げるために上へ上へを目指す。


「何としてでもあいつらを殺してやる!絶対にだ!」


 どいつもこいつも俺のやり方が間違っていると文句を言う奴らだ。


 下らねえ!本っっ当に下らねえ!!


 気づけば10階ほど登っていたようで崩れた壁がある階につき、登っていた朝日が差し込み、目にしみる。


「アルフレッドォォォォォォォォ!!ロゼさんを返せ!!」


 来やがったよ、自分は不幸なんです〜を自慢する野郎が。

 後ろにナイスバディのお姉さんを連れてよぉ。

 ハーレムとかいったい何様なんだテメェは!!


「何だよ!何でだよ!お前がっ、お前さえいなければっ。俺がっ――」


 言葉を遮るように銃を撃たれた。

 右膝に入った弾丸は貫通し、俺は思わず剣を手放した。


「それ以上動くな!動けばここから彼女を落とすぞ!」


 ロゼの手をつかみ、彼女の体をほとんど外に出した状態であいつらの動きを止める。


「卑怯者が……!!」


 何とでもいいやがれ!

 テメェが運命を操れたとしても俺はそれに打ち勝つ!




 *




 参ったな、弾丸が内部に残ってくれればマーフィーの法則無視が使えたんだが……


 魔眼で見抜いた限り、弾丸が体内にうまく残った上で魔眼開眼時なら使用可能らしい。1回使うと体内の弾丸は消えるようだ。


 写◯眼使用時のみ使える千◯みたいだな。


 って今はそうじゃないだろ。


「どうしますか、クレアさん?」


「こういう場合はロゼさんが目を覚ますのを待つか、又は相手の望むものを用意するか、どちらかよ?それまではきっと彼女を落としたりはしないでしょうけど。」


 パチパチとクレアさんの荒ぶる感情に呼応するようにスパークが弾け飛ぶ。


「クソ!いったいどうすれば!」


「……待って?ねぇまーくん?」


 彼女の肉厚な唇が小さく動く。


 ()()()()()()()


「へっ!そこから動くなよ!俺の眼でお前らの力を吸い取ってから逃げてやる!じゃあな!『吸眼』!!」


 瞳の文様が巨大化し、それが魔法陣となって俺たち2人を飲み込む光が放たれーー




「みんな、私を忘れすぎ。」




 否、その前に氷の壁が現れて崩れた壁の外側から飛び出して来た謎の美人がロゼさんをアルフレッドから奪い、こちら側へ駆けてくる。


「やっぱりリリムちゃんだったのね?」


「えっ!?リリムさん!?そんな姿だっけ!?」


「マコトには見せてなかった。これが私の真の姿。」


「まあ後でそれは聞くとして形成逆転だな。」


 氷の壁が崩れてあたふたするアルフレッドの姿。


 慌てて両手剣を出すも手元はガタカタと震えている。


「諦めて投降なさい。そしたら私は命なんて取らないから。」


 私はって、クレアさん殺す気だったのかよ。


 だがそれがいけなかったのかアルフレッドは錯乱したように喚く。


「どうしてだ!俺は選ばれたんだ!異世界転生したら主人公だろ!御都合主義を使ってちやほやされる筈だろ!なのに何で!お前みたいな悪役が正義の味方みたいな事をやってんだよぉぉぉぉぉぉ!!」


 行き場をなくしていた魔力の矛先が俺へと向く。


 憎悪に満ちた表情で獣のような唸り声をあげた。


「2人は下がっていて下さい。これは俺と同じ出身の問題です。だから俺にやらせて下さい。」


 雷と冷気を纏った2人はその言葉に一歩下がってくれた。


「行くぞ『編入生』」


 その小さな言葉が合図となり、両者は互いにぶつかり合う。




 *




 この一瞬で勝負は着く。


 全身に治しきれない傷を負ってはいるが莫大な魔力を使うアルフレッド

 魔眼の長時間使用により魔力が底をつき、魔眼の使用が不可になったマコト。


 私から見てもアルフレッドの方がわずかに有利だろう。


「おま゛えぇ! おま゛えぇざえいなきゃ、ぉ!」


 傷だらけの体を推して魔力を纏わせた剣、その横薙ぎの一撃が首へと迫る。


 マコトはそれを銃で弾き返そうとする。


 だがそれを見てアルフレッドは卑屈な笑みを浮かべ、その姿が幻のように揺らめき、最初の軌道とは別の軌道を描いた本当の剣が本命。


 私がよく使う水と風に火の幻惑三重魔法『もう1人の自分(アナザー・ペルソナ)だ。


「ーーッ!?」


 声にならない悲鳴をあげてその剣が狙い撃つ場所を見抜き、避けきれないと悟ると上げていた銃口を彼に向けて撃つ。


 彼の弾丸はアルフレッドの右肩を貫通、アルフレッドの剣は右の脇腹の肉の半分を削り飛ばし、骨が見える。


 そこが勝負の分かれ目だった。


 痛みに慣れていないアルフレッドは思わず後ろに下がる。

 だが逆にマコトは前へと一歩踏み出した。


 そのマコトへ向けて全魔力を乗せた一撃が迫る中でマコトは左の銃口をアルフレッドの足元に向ける。


 朝の光を浴びながら軌跡を残して左膝を貫くと両膝に力が入らなくなったアルフレッドの剣が僅かにそれ、床を破壊する。


 階を落ちる2人。

 だが決定的に違うのは1人は空を飛べると言う事。


「……ゲームオーバーだ。もう一辺人生やり直せ。」


 瓦礫を蹴り泣き叫ぶアルフレッドに近づくと、彼は右拳を握りしめて何の能力も込めていない拳で殴り飛ばす。


『遊戯終了だ。諦めろ。』


 その姿にかつての父を垣間見た。


 気づけば地面に背中から落ちたアルフレッドは白目を剥き、完全に意識を失っていた。


 私やクレアも階を飛び降りて彼の脇腹を止血する。


 幸い、ロゼが目を覚ましたので彼女に治療を任せて私たち2人は彼を縛り上げる。


「さあ……帰りましょうか。」


 ロゼに支えられて立ち上がった彼はそう笑うのだった。

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