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失ってから気づくもの

後編投稿致します!

今回で一章終了です!

 四方がしっかりした石で建造された壁で囲まれた冷たい四畳程の空間。

 そこに鎖で壁につながれ、足には枷を嵌められた女がいた。


「………」


 声は出せない。喉を潰されているからだ。

 明かりで照らせば分かるが彼女の体には暴行の跡が見て取れた。


 美しかった新雪のような髪は薄汚れて輝いていた肌は栄養失調からかくすんでいる。


 目から光は消え、腫れた顔からは生気を感じられない。


 変わり果てたーーロゼ・イノセンティアの姿がそこにはあった。




 *




「…………本当に何処に行ったんだ!?」


 どうしてこうなった?


 3日前にロゼさんの姿が消えてから今日に至るまで彼女についての有力な情報は何1つ入って来ない。


 仮にも王家の血を継ぐ長女がいなくなったことは直ぐに城に伝えられて捜索隊が組まれた。


 だが国中をくまなく探し、他の国に伝達を出しても彼女がいなくなった手がかりすら掴めない。


 誘拐なのか?彼女自身の学園の脱走か?

 仮に誘拐だとして何の動機で彼女を狙ったのか?

 一切見当がつかない。


「………学園の中はくまなく探した筈なのに、見当たらない。何処かに見落としがあるのか?」


 周りの生徒たちも最初はざわついていたが2週間もすれば皆、気にしなくなった。

 元々頭の固い貴族からは嫌われ、貴族嫌いの平民からも好かれていなかったためか彼女の心配をする者は片手で数えられた。


「入るわよ?」


「……クレアさん?」


 授業も今では滞りなく行われているが俺は授業に出る気にもならず、ここ3日は辺りをくまなく探したり、後悔に苛まれていた。


 そんな中最近姿を見せなかったクレアさんが学園の外へ出ようとする俺を訪れた。

 だがいつも余裕ある笑顔で笑っている彼女の顔から笑みが消えている。


「……何かあったんすか?」


「……犯人が捕まったわ。」


「それは本当ですか!?」


 座っていた椅子を弾き飛ばしながら立ち上がった俺はクレアさんの肩を掴み、前後に揺らす。


 しかし、それは嬉しい事の筈なのにどうしてクレアさんの顔は沈んでいるのだろう?


「驚かないで聞いて?犯人は……」


 その名前を聞いた時、俺の足元から地面が消えた気がした。




 *




 現在、学園内に相応しくない集団がいる。

 筋肉質な大人の獣人たちが堅牢な作りをした馬車を連れてやって来たのだ。


 彼らは砂漠の何処かに存在する大監獄『カルチェーレ』の護送要員。


 彼らが来ることは強大な犯罪者が学園内にいるということを表している。


 滅多に見る事の出来ない彼らを一目見ようとわらわらと正門前に集まる生徒達。


 そんな中を赤髪で褐色の獣人に連れられる男が1人。


 少し伸ばした茶髪で母の血を引く耳を隠して手には魔法禁止の手錠をつけられ、俯いた顔からは表情が伺えない。


「乗れ。」


 頑丈な鋼鉄製の馬車を前にして足踏みする男を赤髪の獣人は後ろから蹴り飛ばす。


 男は獣人に目を向ける。

 その目には黒いものが垣間見え、蹴り飛ばした獣人の背に得難い寒気が襲う。


「なんだその目は!反抗的だな!犯罪者!」


「はっ!悪いね、反抗期なんだわ。」


 減らず口を叩く男に獣人の拳が突き刺さる。しかし彼は倒れるどころか揺らぎもしない。それどころか、獣人よりも獰猛な眼差しで相手を威圧する。


「今はおとなしくしといてやるが……この冤罪がなくなった瞬間、百倍返しで返してやる。お前の顔、覚えたからな。」


「このッ!舐めた口を!」


 獣人は再び腕を振り上げるがそれは後ろから止められた。


「その辺にしておけ。仮にも王家の者だ。」


 現れたのは豊かな鬣をなびかせた2メートルはあるであろう獅子の獣人。


「しかしこの男は!!」


「我らの掟は何だ?レインフォース?」


「………"どんな時でも中立であれ"」


「そうだ。だからお前が彼に怒りを抱くのは御門違いだ。我らは中立に則り彼を監獄に運ぶまでだ。」


 納得がいかない顔をしていたがレインフォースと呼ばれた獣人は黙って一礼をすると場所内部に乗り込む。


「お見苦しいところをすまない、英雄よ。」


「気にすることはない。監獄にいる彼によろしくと伝えてくれ。」


「心得た。では。」


「待ってくれ!」


 正に男が場所内部に入れられようとした時に集団の中を掻き分けて飛び出して来たのは金髪翠目の青年。


「マコト!」


「彼は誰だ?英雄よ。」


「今、連行されそうなエルデバランの友達だ。」


 その間にもエルデの元に向かおうとするマコトだったが2人の獣人に止められて先に進めない。


「エルデ!お前が犯人なわけないだろ!?」


「当たり前だろ?従兄弟の俺がやるわけがねえ。むしろ心の底から…心配してる。」


 馬車に無理やり押し込まれる中で必死に手を伸ばすマコトへ向けて彼は不敵に笑った。


「後は…頼んでもいいか?俺はこれから臭い飯を食わなきゃいけないらしいからな……お前が救え。」


「エルデ!」


 馬車に強引に入れられて扉を閉じられると直ぐに馬車が走り出す。


「さあ、帰りたまえ生徒たち。まだ授業の途中だろ?ほら君もだ、マコトくん。」


 校長は解放されて地面に跪く彼の肩に手をのせる。


「後で校長室に来い。事情を教える。」


「!?」


 追求しようとマコトが直ぐに振り向いた先にはもう彼の姿はない。


 マコトは素早く立ち上がると校長室に足を向けるのだった。




 *




「事情聞かせてもらうぞ……糞親父。」


「はあ……やっぱりまーくんも英雄の隠し子だったのね?」


「だから2人の相性がいい。」


 あの話を聞いた俺らは急いで校長室に乗り込んだ。

 そこには目を赤く腫らしたガルディと引き締まった顔つきの父親がいた。


「匿名の情報が入ったんだ。ディアブレリー王子が犯人だと。動機はロゼを人質にしてイノセンティア家に貴族の位を返還するためだと。借金をなくしたイノセンティア家がファルスチャン家を乗っ取ろうとしたかららしい。」


「無理がありすぎる。」


「同感だ、リリム。間違いなくこれは捏造した後付けの理由だな。」


 頷く校長を睨むかのような目でリリムさんは意見を述べた。

 彼女も英雄が嫌いらしい。


「だがエルデは1度大問題を起こしている。そのせいで王家もこんな理由に強く言い返せずに王子は監獄に連れていかれた。」


「エルデ……」


「それで?犯人は見当がついてるんじゃないの?」


「君は鋭いなクレアシオン。無論、何故ならわかりやすかったからな。」


 彼が差し出したのは文書。

 クレアさんがそれを受け取り、読むと彼女の顔に明確な憤怒が見えた。


「私が人脈を駆使して探す必要もなかったわ。英雄シェンデーレ!!貴方がいながら何故このような人間を見過ごしていた!」


「…今回の件についてこれ以上の捜索を禁じる。この署名はファルスチャン家。つまり学園に簡単に侵入出来て彼女に執着していた人物は…」


「アルフレッドねぇ………英雄、貴方は何をしていたの?」


 胸ぐらを掴んで父を椅子から立たせたクレアさんの体から焼け付くような怒気が離れた俺にも伝わって来る。


「リリムさん……この国の法律で聞きたいことがあります。」


「何?」


「……人を殺した場合の罰についてです。」


 叫びたくなるような憤懣を

 壊したくなるような激情を

 どうにかなりそうな腹立を


 全てが入り混じって頭の中が漆黒に染まり、視界が紅蓮に染まる中で絞り出した言葉がそれだった。


「……貴方の国に人を殺したら死刑という制度があるならそれと一緒。ただし例外として犯罪者、又は奴隷なら恩赦が出る。」


「そうか……なら!」


 この手でッ!!


「ダメよ、まーくん。」


 しかし、握りしめた拳はいつのまにか目の前に立っていた彼女の暖かな両手に包まれていた。


「殺しがダメとか言うつもりはないけれど……今の貴方の目は私が一番大嫌いな目をしてる。力を求めて強さを追い続けた英雄……私の父に。」


「けど!あいつは!」


「短絡的な殺しはダメ、それは…貴方を縛り続ける。どうしても殺したいならまずは考えること。貴方が奪う命は貴方が将来得るであろう幸せに釣り合うのか。」


 彼女の手から温もりが伝わる。

 その手に握られていたのは優しい光だった。


「誰かを殺して何かを守り続けた私のようにはなっちゃダメよ?1人殺しただけで貴方の人生は決まってしまうのだから。」


 頭に上がる極悪非道で非人道的で悪逆無道の思想が1つ1つと零れ落ちていく。


「殺すのは一瞬、咎は一生。その場で殺すくらいなら未来永劫の時を使ってアルフレッドに罰を与えた方がいい。」


「さあ考えて?女性を誘拐して酷い事をする人間として屑の彼を殺す代償に貴方の幸せを払いたい?」


 2人の言葉に脳内に掛かっていた黒い靄が晴れた気がした。


 冷静に考えればそうなのだ。

 あんな屑に自分の未来や幸福を差し出す必要は無いのだと。


 俺はこちらの世界で平穏に過ごしたいだけ。

 ただそれだけだ。


 だからーー


「ロゼさんを取り返してアイツには一生分の幸せを払わせる。後悔して慚愧を抱いて死ぬまで責め続ける。」


 ロゼさんを誘拐して平穏を壊した…俺が得るはずだった幸せを(ロゼさんとのデートを)返してもらおう。


「ここら辺は俺譲りだなぁ…全く。頼むぞ、お前ら。今回の件は公爵家からの圧力だ。並大抵の貴族、平民は動けない。更に相手は『編入生だ』」


「編入生?」


「詳しく話してあげたら?まーくんも魔眼持ちっていうことは別世界から来たんでしょ?」


「えっ!?何で!?」


 急に言われたその言葉に心臓が高鳴るが校長はただ笑う。


「そうだな……話しておくか。魔眼とはリリムから話を聞いていると思う。あれは俺たち英雄が壊し損ねた負の遺産だ。それが何の因果か倒した際にお前たちの世界に散ってしまったらしい。元々この世界とお前の世界はコインの裏表のようなもの。だから互いに影響深く、関わりが深い。」


 つまりこちらの世界の環境がやけに地球に似通っている理由は地球の影響を直に受けていたからって事か。


「魔眼を宿したものは彼方の世界で死後、こちらに魂を飛ばされて生まれてくる本来の子に成り代わり、この世界で生を受ける。俺たちはそいつらを『編入生』と呼んでいる。」


 要は地球でいう転生者ってことか。まさか異世界転生なんてもんまで起きてるとはな。


「俺は魔眼の回収を含め、編入生が悪さをしないように学園に2人を招いた。『黄金の雷撃龍』クレアシオンに『雪の魔女』リリム。彼女らに協力を依頼して魔眼持ち候補を探してもらっていたのだ。」


 だから2人は色々と情報を知っていたらしい。


「そしてお前を招いたのは翔子の忘れ形見もあるがリリムによって魔眼回収を行う為だ。最も魔王を倒した際に近い場所にいたのだからきっと宿っていると思ったよ。」


 やっぱり、裏があったようだ。


「そして魔眼持ちだと分かった以上、俺たちが秘密裏に動かなきゃいけないわけだが今回はここまで大ごとになった以上、俺たちが動くと英雄の失態が世間に露わになる可能性が高い。」


「だから俺たちが動くのか。英雄の血を継ぐ2人なら両親の想いを受け継いでとか何とでも言えるからな。」


 俺の言葉に父は高らかに笑い出す。


「その通りだ、マコト。英雄の血を継ぐ2人に父の遺産の魔眼を回収したい魔女が動くなら何とでも誤魔化しが聞くからな。だからお前らに全て任せる。」


 親父は真面目な顔つきで横一列に並んだ俺たちに目を向ける。


「クレアシオン、君は竜種の英雄より英雄らしい騎士だ。君ほどの名声を持つものを彼らは簡単には潰せない。」


 妖艶に笑うクレアさん。


「リリム、君は魔族の残党に反乱を起こさせないための人質だ。君を潰せば魔族は黙ってはいない。そんな度胸をファルスチャン家は持っていないだろう。」


 髪をかきあげるリリムさん。


「マコト、お前は違う世界の人間だ。そんな奴がこの世界の規則に一から従うわけがないもんな?」


「当然だろ?糞親父」


 俺は恐れげもなく笑う。


「学園にも圧力がかかっている以上は素直には動けない。だからこの件は君たちに任せる。」


「私からもお願いしますわ。どうかエルデを…私の最愛の旦那様を助けて下さい。」


 校長の信頼を寄せた言葉と涙ながらの彼女の声に俺たちは強く頷きながら部屋を出ていく。


「まーくん?」


「何ですか?」


「貴方は目的の為には犠牲を問わないタイプよ。貴方の父と一緒、だからさっきの言葉ををゆめゆめ忘れないで。」


「…はい。」




 *




 俺たちはまずはじめに足を向けたのはある報告があった場所。


 報告者はジャッジ…生徒会副会長である。


『お願いします!アイツを止めて下さい!もう20人弱が犠牲になってるんです!……僕のパートナーも』


 彼の今の根城は生徒会室らしい。

 ロゼさんの席にあの野郎が座っているというだけで腹わたが煮えくり返りそうだ。


 階段を下りて生徒会室の扉を音を立てて開く。


 アイツは中にいた。

 周りに様々な女を侍らせて。

 涙目と苦痛に染めた顔全てがこちらを向く。


「おやおやどうしましたか?マコトさん。」


「ロゼの手がかりがないか調べに来たんだ。悪いが退いてもらえるか?」


 ああ……アルフレッドを前にしたら我を忘れるかと思ったがそうでもないらしい。

 血が冷たくなるような感覚と氷のように冷えていく冷静な感情がそうさせているようだ。


「これは困りましたね〜既に犯人は捕まり、情報が出てくるのも時間の問題です。それなのに君たちはまだ調べようと思うのかい?上から打ち切られても。」


「何事にも納得いくまで調べるのが悪いのか?」


 ボルテージは上がらない。

 テンションは下がらない。

 心のそこで煮えたぎる溶岩のような激情に身を委ねたい。


「それとも調べられると何か都合が悪いのか?」


 だがその心に蓋をする。

 今にも吹き出しそうな憤怒を押さえることで正式にこいつを殴るときに爆発させるように。


「別に?何も?」


 僅かに眉が潜められた。

 周りの女性の顔に恐慌の文字がありありと見える。


「しかし、かなりの女子がこの部屋にはいるな。一体どうしたんだ?」


「皆、将来有望な俺に嫁ぎたいと言って来た子たちさ。俺は博愛主義者だからね。君の後ろにいる女性2人もどうだい?」


 纏わり付くような嫌らしい視線に2人の体から僅かな殺気が漏れるも2人は何もなかったように平静に装う。


「お姉さんは多数もいけるけど〜出来たらひとりひとりを大切にしてくれる人がいいなあ。」


 クレアさんが俺の右腕に抱きつく。


「私は王族。愛人に抵抗はないけど私が正妻。」


 リリムさんが俺の左腕に抱きつく。


 ……別の感情が沸騰しそうだ。


「って訳だ。パートナー制度を()()して得たハーレムはどうだ?アルフレッド?」


「様をつけろ、平民。」


「そうですね、すいません。おい貴様。」


「………よほど死にたいらしいな?決闘するか?まあ勝負は決まってーー」


 刹那、部屋全体を覆う光と耳をつんざくほどの炸裂音が部屋内に響き渡る。


「あら?大分訛ってるみたい。龍人の固有魔法の雷魔法、最近鍛え直したばかりなんだけどなぁ」


 閃光が収まった先には両手剣を体の前にかざして椅子から転げ落ちたアルフレッドの姿。


 そしてアルフレッドのすぐ側には焼けたような黒ずみが出来ていた。


「先に言っとくわ。今ここにいる貴方の()()()のパートナー全員をけしかけたところで私は勝てる。けど〜お姉さんはあんまり乱暴な真似はしたくないから〜ね?後は分かるでしょ?」


「ふん!さあな?分かる気がしない。それよりも決闘外のこの仕打ちは報告させてもらうぞ!」


「勝手にすれば?学園追い出されてもお姉さんを受け入れてくれる場所は山ほどあるもの。さあ、行きましょうか、まーくん。」


 クレアさんの後ろをついていき扉を抜けようとしたところで言い忘れた事を思い出した。


「アルフレッド…幸せに浸っていられるのも今のうちだ。せいぜい楽しむといい。」


 俺は扉を思いっきり閉める。

 中から何かが聞こえたが気にしない。


「やはりここにいましたわ。」


「姫様?どうしたの?」


 パタパタと走る音ともに縦ロールの髪を揺らしながら来たのはガルディさん、


「皆様に渡したいものが2つありますの。」




  *




「クソがぁ!!舐めた真似しやがって!!」


 イライラする!

 特別な俺に対して高々17年生きてきた男が()()40年生きてきた俺に指図しやがってェェェ!!


「おいそこのお前!」


 指差したメイド服の美少女がビクッとすると泣きそうな顔でこちらに近づいて来る。


「奉仕しろ。」


 彼女らの泣き顔や絶望感に浸る表情を見るのが好きなんだ、俺は。


 イヤイヤと首を振る少女を殴りつけると泣きながら奉仕を始める。


「転生してから上手くやってきたのにここに来て邪魔が入る!おい!歯を立てるな!この出来損ないが!」


 鍛えた体で殴りつけると彼女の体は面白良いように吹き飛ぶ。


「はいっはーい!アルフレッド〜ただいま〜!」


「お帰り、フィリア。」


 扉を開けて入って来たのは快活そうな笑顔を見せるフィリア。


「彼女は屈服したかい?」


「ううん……フィリア失敗しちゃった。暴力だと心は折れても彼女はアルフレッドに屈しないよ〜」


 スリスリと体を寄せながら俺の息子を優しく撫でてくれるフィリア。


「そうかなら明日も休みだから朝から俺が行こうか。」


「私を鳴かせたこれを使うの?」


「女を落とすにはこれがいいって本に書いてあったからな。」


 俺の聖書である薄い本たちの様々なプレイを一通りやればあの女も自分から欲しがるようになるだろう。


「じゃあその練習しようか?」


「うわあアルフレッドの変態〜」


 この楽園を手放すわけにはいかない。

 やるならこい。相手してやるぜ!




 *




「まさか渡したものがアレとはな…」


「でもこれで大分マシにはなる筈よ。」


「これで私たちも自由に動ける。」


 ガルディさんに渡された1つのものを上手く使ってアルフレッドの目を誤魔化している間に俺たちはある部屋を訪ねていた。


「しかし渡す物が貴方とは。お久しぶりです。イワンさん。体の調子はいかがでしょうか?」


「正直なところ、君が側にいるだけで悪寒が止まらない。だがそうも言ってられないのでね。」


 そうかつて戦った相手であり、アルフレッドの取り巻きの彼が2つ目の贈り物。


 顔色悪く、アルルに背中を指すられながらもベッドに座り、こちらに1枚の紙を渡す。


「彼女の居場所ーーロゼ・イノセンティアの監禁場所だ。」


「リリムさん。」


 彼女はこくりと頷くと紙を受け取り、位置座標の計算と詳しい地理を把握しながら監禁場所を割り出していく。


「マコトよ、悪いが1つ条件をつけさせてくれ。」


「条件だと?」


 何だ?俺の命か?金か?


「アルフレッドの命だけは助けて欲しい」


「……正気なのかしら?貴方?」


 彼は俯いたままだが1つの雫が落ち、ベッドに染み込む。


 彼は泣いていた。


「アルフレッドは俺の親友だ。あいつは俺の事を肯定してくれた!信頼してくれた!『お前の思想は間違っていない』と!!」


 彼は語る。

 涙ながらに心に留めておいた言葉を。


「だから俺はその信念が間違っていないと思った!お前に倒されるまでは!」


「イワンさん…」


「最初は怨んだ!憎んだ!潰そうと思った!けどアルフレッドの入学式の行為で気づいた。なんて醜いのだろうって!!」


 あの雨嵐の魔法か。

 今思えば確実に殺しに来てたな、アレ。


「貴族が平民に権力(ぼうりょく)を振りかざす姿は無様で醜悪、愚劣で滑稽だった。あんな事をしても意味などないと理解したんだ。」


 堰を切ったように出されるその言葉は留まる事を知らず、川の流れのように静かに流れていく。


「だからスティーブを止めた。平民に優しくするようにした。そしたら挨拶をされるようになった。今まで入学してから1度もなかったことが行われるようになったんだ!」


「そりゃそうだ、だって俺たちは同じ世界に住む住人なんだから。怒りもすれば泣きもする。そうだろ?」


「そうさ、僕が間違っていたんだ。だから!今も犯罪に手を染めて間違え続ける彼を止めて欲しい!だって親友だから!」


 彼は泣きながら話を終えた。

 その言葉に誤魔化し、嘘、虚証は存在せず、本来のイワンという男を表した言葉であった。


「わかったよ。」


 なら俺はそれに応えよう。

 それを彼への感謝にしよう。


 友を裏切りながらも親友を止めてくれと願った彼の為に。

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