表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
留学先は異世界学園!〜チートでハーレムな学園生活〜  作者: ソラ
10月 ハロウィンナイト編
118/182

君の名を呼ぶ

「何やってんだ?」


「………」


「いやマジでこの非常事態に何してくれてんの?」


 ソファに寝っ転がっていた俺にエルデは苛立ちを隠さずに伝えるが、それを無視して再び目を閉じる。


「お前もあいつも頑固過ぎんだろうが! ああ、面倒になっちまったじゃねえか、くそ!」


「はいはい、エルデちゃん。苛立つのはそこまでにして、後はお姉さんに任せなさい」


 クレアさんがエルデを部屋から追い出した後、向かい側のソファに座る。


「で? 何したの?」


「………別に、何も?」


「嘘をつかないで、正直に話しなさい」


「やだと言ったら?」


「拒否権があると思ってるの?」


 クレアさんの黄色の目が俺を射抜く。空気は聞き出すではなく、尋問そのものだ。


「………ロゼさんに愛想を尽かされただけですよ」


 クレアさんはそれを聞いて、しきりに耳の調子を確かめ始めた。数十秒ほど確かめた後、もう一度向き直る。


「で? 何ですって?」


「だからロゼさんに愛想を尽かされたんです」


「いやいや、そんな訳ないでしょう」


 クレアさんは疑っているようだがそれ以上でもそれ以下でもないのだ。彼女に愛想を尽かされたという事実だけは変わらないのだから。


「えぇ………もう、何がどうなってるのよぉ。ロゼちゃんとすれ違ってるだけじゃないのぉ?」


「知らないです」


 クレアさんはそこまで聞くと疲れたように息を吐いて、部屋から出て行った。時刻はもうじき朝になる。


 結局、眠れなかった。




 *




 結局、眠れなかった。


 寝不足で疲れた顔をほぐしつつ、寝泊まりしていたトライアルの部屋から出ていく。


 共用の洗面所で顔を洗いながら、昨日のことを振り返り、下降気味の気分が更に悪くなる。


「カエルムの狙いはマリンじゃなかった。狙われているのは私だった」


 狙われる理由はある。もはやそれしかないだろう。ウィッチクラフト家の狙いは最初から私だったんだ。


「私が………狙われてる!」


 唐突に怖くなった。いつからこんなに私は弱くなってしまったのだろう。


 気付けば彼に守られることが当たり前で何の守護もないこの身一つがどれだけ頼りないものか。


「落ち着きなさい、ロゼ。何も変わらないわ、ただ昔に戻っただけのこと。えぇ、何も、変わらない、はず」


 両手で肩を抱く。そうでもしないとこの湧き上がる感情に壊されてしまいそうで。


 作られた暗闇が私を責め立てる。私のせいでこんなことになってしまったと。私のせいで皆に迷惑をかけていると。


「ーーどうしたらいいの?」


 その問いの答えを誰も出すことはない。




 *




「狙いはイノセンティアさんとなるとこれまで以上に彼女に警戒しなくてはなりませんね」


「つか、その仕事はテメェだろうがよォ」


「お主、何をこんな事態に契約解除するほどの喧嘩をしたのじゃ」


「みんなして責めるな。………悪いのはわかってるから」


 既に学園では俺がロゼさんとのパートナーをやめたという話が流れていた。いつもならざまあ、とか言われるのだろうが今回ばかりはそうはいかない。


 それに加えて、彼女が狙われていることがわかった以上は彼女に警備を割かなきゃならないのだ。


「師匠やあの女狐にやらせろよォ。俺たちだって忙しいんだからなァァ!」


「わかってる。わかってるって………」


 とはいえ、元はと言えば俺のせいなわけで。


「遠巻きでもいいからイノセンティアさんを頼みましたよ。では解散」


 マックスの号令に合わせて、各々が果たすべき役割のために動き出す。今回の俺の仕事は周りと協力しての学園の警護だ。


 今回はほかのSクラスが外に出て、障壁をどうにかできないか色々試すらしい。


 俺はその計画を反芻しながら、事前に集めていたレオと愉快な仲間たちことFクラスの寮へと向かう。


「あっ」


「あ………」


 その途中、ばったりとレオと遭遇。そしてその後ろには冷や汗をだらだらと流す雅とウェーブかかった髪を退屈そうにいじる女。


 俺はレオを通して皆を集めてほしいとお願いしたはずだ。それが何故彼らだけを連れて寮の出口に向かっているか。


 答えはひとつだろう。


「ま、待つんだ、マコト! 人間って皆、馬鹿な生き物だから間違いなんて何回も起こすんだ。だから、別に彼らは自分の命が惜しいから逃げ出そうとしてたわけじゃないんだよ!」


「おい馬鹿ァァ! 何、ベラベラ喋ってくれちゃってんの!?」


「ハッ! ついうっかり!」


 やはり俺から逃げ出すつもりらしかった。あんな噂が流れてから俺がFクラスを集めればそう考えるのも無理はないか。


「別にとって食おうともしないから、さっさと戻れって。今日の役割を教えるから」


 普段通りの俺に2人はほっとしたようだ。


「ふーん、案外平気そうね。女に逃げられたくせに」


 だがリオはそれが気に食わなかったようだ。


「あのさ、リオ。お前は俺に何の恨みがあるんだ?」


 この間からやけに食ってかかる彼女に対し、俺が疑問を述べる。すると彼女は人を小馬鹿にしたような態度で指を指した。


「だって、アンタが私の父を守り切れなかったせいで私は貴族ですらなくなったからに決まってるじゃない!」


「守り切れなかった………?」


 記憶を掘り返すが俺は護衛の仕事など受けたこともなく、ましてやアザゼル以外人を殺したこともない。


「覚えてないのは当然だよなぁ! だってアンタは魔族側についたんだから! あの裏切り者の魔法使いも一緒にな!」


 魔族側についた? もしかして戦争の事を言ってるのか? あそこでも俺が殺したのはアザゼルだけだ。他にはいない。


「アンタが魔族側じゃなくて人と獣人族側につけばアタシのとうさんは死ななくて良かったんだよ!」


「つまり、あれか? 戦争で俺が魔族側についたから戦争に参加したお前の父が死んだと?」


「待て、リオ! お前がカラスマに恨みがあるってそういう理由か!? 殺されたって、守らなかったってそういうこと!?」


「それはマコトを恨む理由にはならないじゃないか! 君のそれは八つ当たりだ!」


「八つ当たりだと!? ふざけんじゃないわよ! こいつは人族の裏切り者の癖に戦争が終われば希望だの守護者だのと呼ばれてやがんのよ! これに私が納得するとでも思ってんのか!」


「誰が………殺したんだ?」


「知るかよ! 知らねえからアンタを責めてんだろうが! リリムの野郎は姫様だから報復の可能性がある以上、文句は言えねえからな!」


 彼女のがなりたてる声に俺は冷静にそれを聞いた。


「じゃあ、ロゼさんにあんな事を言ったのも………?」


「決まってんだろ! アンタから力を削いで傷つけるためだ! そして、こんな状況を選んだのもそうすれば守り切れなかったアンタの地位は地に堕ちる! そうした時がお前のーー」


 瞬間、レオが2人を突き飛ばした。そして、一拍遅れて彼らがいた場所を氷河が貫く。


氷結戦線(アイシクルライン)ーー絶対零度の壁(ゼロ・ウォール)


 体の血が一瞬で煮えたぎり、そして冷めていく。その冷たさが体の隅々まで沁み渡って後でようやく現状を再認識する。


「いつもなら話し合いから入るが今回はナシだ。今すぐ、彼女に謝罪しにいけ。そしたら、俺は何もしない」


 つまり今回の仲違いの原因である最初の言葉も回りまわってみれば結局、俺な訳だ。


「あー笑えるよ、全く………」


 どこまでも馬鹿な自分にな。結局、俺が彼女を傷つけたんじゃないか。見放されて当然だ。


「リオ! お前がカラスマを恨むのはわかったけど、ロゼさんは関係ないだろう! さっさと謝りに行くぞ!」


 ミヤビは俺が引き起こした氷を前にして、俺の怒りのパラメータを瞬時に理解したようだ。だがそれを前にしてもリオは動かない。


「バーカ、アタシが何の脈絡もなしにベラベラ喋ると思うか? もうあの女の所に行ったって遅えよ」


「………どういう意味だ!」


 俺が彼女の胸ぐらを掴み上げるとリオは心底愉快げに俺を嘲笑う。


「アンタだって気づいてたろ? 自分たちのやる事なす事が全部筒抜けだって言うことによ!」


「まさか………お前がバラしていたのか!」


 よくよく考えれば彼女はFクラス。キルディアとも同じクラスだったに違いない。彼女と通じるタイミングなら幾らでもあったわけだ。


「じゃあ、今頃、ロゼさんは………」


「アタシが招いたとおりに彼女を回収する部隊が向かっているだろうよ!」


 そこまで聞いて振りかざした拳が彼女の顎から脳を揺らし、意識を飛ばす。それをミヤビに押し付けるとすぐさま駆け出した。


「レオ! お前はそいつを連れて、ほかのSクラスに伝えろ! 俺はーー」


 そこまで言って俺は思考を止める。今更、振られた身で彼女を前にしてどうしよういうのか。


「ってそんなこと言ってる場合じゃない! 彼女に嫌われようと奴らの目的を達成させるか!」


 現在の契約者は霞、能力は俯瞰と把握。すぐさま彼女の位置を探し出せば俺とは正反対の位置にいた。


 この寮から飛び出しても無視や改造がない憤怒の能力では時間がかかる。それに恐らく、邪魔をしてくる奴らもいるだろう。


 ならば、別の手段だ。

 彼女を影から助け、尚且つ時間もかからない方法を。


 そして俺は寮を見上げ、中の階段を上り始めた。



 *



「会長、大丈夫ですか?」


「いいの、いいの! 護衛とか言っても窮屈なだけだから。それにゴミを燃やして帰るだけのすぐにすむ仕事だもの!」


「いえ、そっちではなく………えーと」


「カラスマさんと別れて良かったのかってこと」


「ギル!」


 時を同じくしてロゼは生徒会のジャッジ、ギル、シエルを連れて、生活の中で生まれたゴミを捨てに来ていた。


 勿論、最初はルナールが護衛を名乗り出たのだがロゼがそれをやんわりと拒否。沢山いるところを狙っては来ないだろうと推測したのだ。


「………良かったのよ、これで」


 ふわふわと周りのゴミ袋を浮かせながら彼女はそう言った。僅かな灯りからでは彼女の表情を見ることはできず、気まずい空気が流れる。


「悲しいときは甘〜いお菓子が1番だよ〜後で会長にもお渡ししますね〜」


「ええ、ありがとう。シエル」


 そんな空気をシエルが壊してくれたおかげで彼らの中で安堵が生まれた。そしてゴミ処理の焼却炉に来たのだが………


「変ね、誰もいないわ」


「可笑しいですね。確か、ジャック先生がいると言っていたのですが………」


「近くで催してるんじゃない?」


「ギル!」


 辺りを灯りで照らしても誰も見当たらない。いくらなんでもこの状況はおかし過ぎる。


 処理場に入ろうとしてロゼは躊躇った。些細だが見落とせない違和感、微細だが見逃せない異物感。


 学園に似つかわしくない、何かーー


「ーーがする」


「何かしら、シエル?」


 それを真っ先に感じ取ったのはシエルだった。彼女はカタカタと体を震わせて、その正体を口にする。


「人喰に食われた残骸と同じーー血の匂いがする!」


 その直後だった。


「何!? 地震!?」


「違う、これは!」


 河川が堰を切ったように溢れ出す水。それが水風船に穴を開けたような勢いで足元から吹き出したのだ。


 その水たちは彼らを飲み込み、その命を消す前にロゼが水を凍らせ、足場を作り、彼らを水面に引き上げる。


「大丈夫!?」


「な、何とか」


「助かったよ〜」


 一瞬の事だった。鉄砲水などでは常識的に考えられないほどの河川の津波が施設もろとも押し流すほどの勢いで殺到したのだ。


 そして水嵩は今も減っていない。処理場の屋根に避難したがそれごとこの水が飲み込んだというのか。


 びしょ濡れの髪をかきあげれば水面上に光が昇り、5人の男女が立っていた。


「なるほど、この仕業は貴方たちね!」


「まあな、この間の男がいねえなら俺たちで十分だ!」


 リーダー格の男がロゼを指差す。次に他の人たちを指差して………


「そして、それ以外は希望を抱いて溺死しろ」


 首を掻き切るようなジェスチャーを送り…1人が水底へと沈んで行き、戦闘が始まった。


 濁流の中から次々と飛来する水の刃が彼女を狙う。

 ロゼはそれを同じ水属性でいなしつつ、大量の水の支配権を握ろうとする。


(上手くいかない! これが奴らの能力!)


 だが握れない。それが彼らが持つ武器の1つ『局地』の能力だ。ある一定の空間内を支配する力。今回支配しているのは暗闇と水量だ。


 暗闇を支配し、自分たちからは昼間と同じ視界にする。そして水量を支配し、武器を使う自分が呼吸できる空間を作り出した。


 そして残りが唱える無数に飛び出した水の刃が次々と飛来する。


「シエル、面倒とは言ってられないみたいだ。僕たちも行くぞ!」


「了解〜」


 ギルは自身の心武器である牙を口につけるとそのまま荒れ狂う水の中へと飛び込んだ。


 本来なら自殺行為にしかなり得ないがそこは彼らの『適応』の武器の力で対処するだろう。


(問題は水面に立つ奴ら! 魔法の腕は私より遥かに劣るけど、こうも囲まれちゃあ反撃ができない!)


 後ろで『伝達』の武器を使い、助けを呼ぶジャッジを庇いながらでは大魔法を練ることが出来ない。その上、的確に邪魔になるように魔法を撃ち込んでくる。


(こんな時にマコト君がーー)


 咄嗟に頭に出た男の子の名前を彼女は消し去り、マシンガンのような水弾を蒸発させる。


「こうやってやればあの女もいつかは魔力が切れるはずだ!」


「ふん! 私たちを舐めた罰よ!」


(勝手な事を言ってくれるわね。私の魔力がそう簡単に切れるわけないでしょうが)


 魔力量と魔力回復量は文句なしのトップを走る彼女だ。この程度では彼女の魔力が底をつくわけがない。


「!?」


 だから、彼女はいきなり限界を迎えた自身の体に疑問を覚えた。


「会長!」


 咄嗟にジャッジがロゼを受け止めるが彼女が張っていた魔力壁も解除される。


「ようやく効いたようだぜ! 俺の武器の力『消費』がな! 」


「アンタは普段どおりに行動してたつもりでも実はその倍以上の体力と魔力を使っていたって訳さ!」


 水から上がり、ロゼたちを囲うように彼らが距離を詰めてくる。咄嗟にロゼは魔力を練るがそれより先に疲労感が彼女を襲った。


(魔力云々より、体力の方が限界を迎えてる! このままじゃーー!)


 今にも失いそうな意識で悪どい表情の彼らを睨みつける。


「まあ負け犬らしく、吠えてみたらどうだ? ほら、今なら動いてやらねえからよ!」


 おちょくるようにその場で煽り始めた男、ロゼは最後の気力を振り絞って、顔色を変えてやろうとした。


「………は?」


 確かに男の顔色は変わった。彼の肩口に何かが貫通した跡が生まれたからだ。


 だがロゼは何もしていない。


「な、何ーー」


 そして次の瞬間、今度は膝頭から血が吹き出す。そして地に伏した男が見たのは処理場の屋根につけられた弾痕。


「ま、まさかーー」


 大まかな方向を予測して、そちらに顔を向けた瞬間、弾丸が彼の頬をかすめ、ひとつの赤い筋を残す。


「この暗闇の中、寸分狂わず俺たちを狙っていやがるのか!!」


 そんな芸当ができるのはただ1人しかいない。ロゼはただ薄れゆく意識の中で、


(マコト君………)


 彼の名を呼ぶのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ