8話
出来たてほやほやの新話だぜ!
「ーーーーーーーーーこそこそと鬱陶しい!邪悪な〈トレント〉め!この《聖剣勇者》アレックス・シーザーが残らず滅ぼしてくれる!木々の隙間に隠れてないでかかってこい!」
森の内側に転移した私達の耳に入ったのは、若い男性の叫び声だった。〈樹人族〉を〈トレント〉と呼ぶところや自称聖剣勇者なあたりを見るに、目下〈樹人族〉を苦しめている件の召喚勇者だろう。この世界の人間は〈樹人族〉のことを〈トレント〉などとは呼ばない。そもそも種族をカタカナ呼びでは呼ばないのであの呼称を知っているとなると、おそらく私のいた地球またはそれに類する世界から来たのだろう。
「随分と大きな声だ。それに〈樹人族〉を邪悪とは。騎士国の者達も、いよいよ焦ってきてると見える。」
「え?どういう事りっちゃん?」
転移にあまりなれていないジュリアが目を瞬きながら私の呟きに反応してくる。
「いや何、彼の国は随分昔から《魔精森》を開拓したがっていた。あそこの木は魔力に富み、様々な木造物に使える。それに精霊も多い、利用価値は膨大なものだろう。」
「そう言えば〈樹精族〉の皆は今はりっちゃんの迷宮でお世話になってるからいないけど、まだ奥の方には〈湖精族〉や〈華精族〉が少しいたもんね。」
ジュリアと会話しながらも声の発信源を目指す。まだ叫んでいるのを聞く限り、あまり離れていなさそうだ。
「そうだな。彼らも出来れば迷宮へ移ってもらいたいものだな。迷宮も豊かになるし、見捨てて〈普人族〉にいいようにされるのも寝覚めが悪い。ジュリア、面倒をかけて済まないが〈樹人族〉の説得が終わったら〈湖精族〉や〈華精族〉達の説得も頼めないか?」
「う、うん。やってみるけど、りっちゃんは?」
「私はあの勇者とやらについて見てこよう。それに〈樹人族〉達を説得するにもあんなに騒がれていては落ち着いて話せまい。」
「りっちゃん1人で大丈夫?危なくない?」
ジュリアが心配そうな顔で聞いてくるが、あの勇者はそこまで大物でもなさそうだ。
「ああ、問題ない。気配から察するにそこまで大物という訳でも無さそうだ。まだ召喚されてから日数も経っていないようだ。闘級もまだ1桁か10前後だろう。私の心配よりも早く〈樹人族〉の元へ行って安心させてやれ。〈樹精族〉の女王たるお前が駆けつけたとなれば、奴らも安心するだろう。」
そう言う私に未だ不安そうな顔をしているジュリアは不承不承と言った感じで頷いてくれた。
「わかった。けど絶対無理しないでね?」
「わかっている。それにたかが闘級十数の小僧に無理できるほど、私は器用ではない。」
「じゃあ、行ってくるね?」
そう言うとジュリアはすっと姿を消し、〈樹人族〉の元へ移動して行った。今は離れているとはいえ、元々この森の主のような存在であったジュリアは〈精族〉らしく、魔力体化し、森ないならばどこへでも行くことが出来る。森の外から一気に森の中へなどはできないが、自分の領域内であれば自由に好きな所へ行き来できる。
さてジュリアも行かせたことだし、私も勇者の顔を拝みに行くとするか。
そうして歩きだそうとした時、
「りーーーーーーーーーーつーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!」
ドンッ
と私は何者かにぶつかられた、と言うより押し倒された。
「ぐっ!ええいイツキ!お前はいつもぶつかって来るなと言っているだろう!」
「えへへー♪ごめーん!でもりつがアタシをほおって置いてどっか言っちゃうのも悪いんだよーだ!」
そう言って居るのは私を押し倒した勢いのまま私に抱きついて離れないのは、金髪赤目のどこの「ヴ⚪ンピィちゃん」?という感じの美少女だ。んんっ。いや「〇ァンピィちゃん」など私は知らない。うむ。金髪赤目で八重歯が可愛らしく、陶磁器のような白くきめ細やかな肌に赤黒い蝙蝠のような翼。何を隠そう彼女も私と従魔契約を結んだ魔の者の1人だ。
吸血鬼であり、正しくは〈血鬼族〉と呼ばれる、〈人族〉と〈精族〉の間のような存在の〈鬼族〉に分類される者達だ。
まあ細かい分類の話は後でもいいだろう。そして〈血鬼族〉は〈ちおにぞく〉と読む。間違っても、音読みで読んで誤変換などした日には正しく血の雨が降るだろう。まあ私くらいしか日本語の漢字なんぞは使わないのだが。しかし日本語に見えるのだから仕方あるまい。そしてこの読み間違いは何故かこの異世界でも通じてしまう。彼女と契約したばかりの頃うっかり読み間違えた結果、実にな大変なことになった。
む?話がそれるのは私のよくない癖だな。話を戻して、金髪赤目、ブラウスのような服に赤黒いスカートの少女。む?これは蒼い世界の他にありふれてる様な世界からも文句が飛んでくるのでは?いや、だがやはり吸血鬼の少女の服装と言えば日本人ならこれになってしまうだろう。そう私は悪くないはずだ。
とにかくそんな美少女に唐突にタックルをかまされた。
「私はこれでも遊んでいる訳ではなく、所謂敵状視察の様なものの途中なのだが・・・。」
「それならアタシに声かけてくれてもいいじゃーん!」
イツキは文句をたれているが、〈樹人族〉のこともある。あまり悠長にしても居られないだろう。
「済まないイツキ、一応急ぎなのだ。さくっと勇者とやらをしばき倒さねばならぬのだ。」
「えー。じゃーアタシも行くー。って言うかりつ若干素に戻ってるよ?ってか何でそんなキャラ作ってるの?」
「ええいキャラ作ってるとか言うでない!一応迷宮主であるのだからそれらしい言動をしようと心掛けているのにあまり邪魔をしてくれるな!」
そうキャラ作りなどではない!決してない!無いったら無い!
別に読者を混乱させる為にあえて喋り口調を変えてみたとか、変えてみたはいいけど考えるのが大変で素が出始めているとかそんな事は決して無いのである!
「そもそもりつ、一人称まで私に変えて、大人アピール?」
「ええい違うわ!いいか!?何度も言うが、これでも私は!」
急いでいるのだ。そう言い募ろうとした時である、突然周辺の温度が一気に下がったように感じられた。
「りっちゃーん?」
「ひっ!!?」
「やばっ!?」
静かな声で私の名が呼ばれる。
「ねえ、りっちゃん?さっきりっちゃんはお姉さんに勇者をどうにかするって言ったよね?それとお姉さんには〈樹人族〉と〈湖精族〉、〈華精族〉達の説得を頼んだよね?最初の予定にはなかった〈精族〉達の説得まで。もしかしてお姉さんを長く遠くへ追いやる為だったのかな〜?」
「い、いや、違うんだジュリア、これは、そのなんと言うか、複雑な事情が・・・。」
そんな浮気男の様な言い訳を並べ立てながら、イツキに押し倒されたままなので首を反らせるように後ろを向くと、目元が影で隠れたジュリアさんが・・・。
「ア、アタシ知ーらなぃっと!」
そう言って逃げようとしたイツキは、
ピシッ
と、どこからともなく伸びてきた蔦に絡め取られ、動きを封じ込まれた。
「イツキ?いつもそうだよね?いつもりっちゃんの仕事邪魔して、妨害して、あまつさえり、りりりり、りっちゃんにだ、だだだ抱きつくなんてうらやまけしからん事よくもおおおおおおおおおおおお!!」
まずいジュリアさんがご立腹だ!
「ジュ、ジュリア?ひとまず落ち着いてくれ・・・?」
「いいえこれが落ち着いていられますか!わたくしだって離都様のことはお慕い申し上げておりますし、何時如何なる時も御傍に御使えさせて頂きたいと思っておりますが、抱擁など!嗚呼いけませんわ!そんなご無体な!ですが離都様がどうしてもとおっしゃられるのであれば・・・(ポッ)」
ダメだ、壊れすぎてトリップしてる!
「ねーりつ〜。ジュリア起こしてこの蔦外してよ〜。身動き取れないって結構辛いんだけど〜。」
しかし、そんなふうに騒いでいたら当然・・・。
「何!?〈ドリアード〉に人が襲われているだと!?ええい邪悪な魔物め!この《聖剣勇者》様が倒してやる!」
と勇者が・・・ん?今こいつ、ジュリアの事を・・・。
「おい、そこの小僧。貴様今何と言った?」
「ん?ああ、安心してくれよおっさん!その邪悪な魔物は俺が倒しtげぼらっ!!?」
「うちのジュリアは魔物じゃねえよ。」
勇者とやらは寄生をあげながらどこか遠くへ飛んで行ってしまったが知ったことではない。方角的にもおそらく《魔精森》の外に飛んで行ったことだろう。
全く、どれくらいの力があるのか見ようと思ったが、あれはダメだな、典型的な厨二病疾患者の俺TUEEEE系になったと勘違いしている輩だ。ずっと右手に握っていた剣はかなりやばそうだったが、それ以外は普通だ。
しかし、〈人族〉以外は全て魔物とは、いや、〈樹人族〉も魔物と見なされていたところを見るに、おそらく〈普人族〉に与するもの以外は魔物と教えているのだろう。これは予想以上に不味いだろう。あの剣は危険すぎる。やはり〈樹人族〉を始めとする《魔精森》の各種族はここを離れた方が良さそうだ。その為には、先程からハートでも飛びそうな目でこちらを見ているジュリアに協力してもらわねばならないのだが・・・。
「離都様がわたくしの為に怒って下さった・・・。」
先程からこればかり繰り返していて、再起動には時間が掛かりそうだ。
さて、どうしたものか・・・。
「ねーりつー。ねーってばー。おーい。早く下ろしてよー。ねー!」
壊れたラジカセ状態のジュリアと悩む私、そして吊られたままのイツキであった。
いや色々悩んだ結果なんか複雑な事情がなくてこんなことになりましてん。
ご理解とご協力をお願い致します。
誤字脱字意味不明な点などございましたらお気軽にお願いします。
次回もよろしくお願いします( ̄^ ̄ゞ