僕、妖狐になっちゃいました 《夜襲・後編》 ~特別企画『ボスキャラ大移動』~
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1番手企画主yukke
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作者『yukke』 僕、妖狐になっちゃいました 《夜襲・前編》 ~特別企画『ボスキャラ大移動』~
先ずは2番手の師走様が投稿されました。こちらです。↓
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作者『師走皐月』 平凡男子高校生のSUPER HERO LIFE~外伝~【ボスキャラ大移動リレー小説】第二部
続きまして3番手木野様です↓
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作者『木野二九』 超ブラック企業の社畜の僕(5歳児)がトラックにひかれて異世界に転生した件ですが、なにか?
続きまして4番手蠍座ノ白鴉様です↓
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作者『蠍座ノ白鴉』 全ての神妖怪が集まる御子神神社は問題だらけ。神社とは須らく壊れるもの?【ボスキャラ大移動】
続きまして5番手望月 幸様です↓
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作者『望月 幸』 怪物、怪盗モンブランと出会う
続きまして6番手Lune bleue様です↓
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作者『Lune bleue』 最強超激突!! 人気アイドルグループのセンター VS 世界最高峰の大泥棒 VS 世界一の怪力JK警察官!! 第四話「未知なる脅威、顕現す!」~https://ncode.syosetu.com/n9365eg/17/
第四話「奏VS世壊シ」
続きまして7番手藤沢正文様↓
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作者『藤沢正文』幕間劇の侵入者 『脳筋乙女の異世界花道:番外編』
続きまして8番手暁月夜 詩音様↓
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作者『暁月夜 詩音』 私と精霊の非日常【ボスキャラ大移動】
続きまして9番手レー・NULL様↓
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作者『レー・NULL』 零の映写機希構 企画【ボスキャラ大移動】
とこのようになり、最後の話がこちらとなります。
どうぞお楽しみ下さい。
あれから1ヶ月近く経ち、様々な準備を終えた僕達は、今京都駅前の京都タワーにいます。
何だか、とてつもない妖気がこの世界に向かってる気がして、僕はたまらずその場所にやって来たけれど……まさか世壊しがもう帰ってきたの?
「今は丁度お昼時、夜は……まだ来ないですね」
僕達妖怪の存在は、ある程度人間達に知られちゃってるので、おじいちゃんが事情を説明して、この辺り一帯立ち入り禁止にして貰ったのです。
そこは警察内にある妖怪対策課、捜査零課の人達に頼んで貰いました。お陰で今ここには誰もいません。
実は京都駅には、とっても横に広い大階段があって、その横からビルの建物の中や、ショッピングセンターに入れたりするんだよね。
その上は屋上になってて、京都市内をある程度見渡せます。五山の送り火も、ここから見えますね。
その京都駅の前には京都タワーというものがあります。有名だと思ったけれど、知らない人もいたからビックリした事があるよ。
白いロウソクのような形のそのタワーは、夜になったらライトアップされて綺麗に光ります。
僕は今、京都駅の屋根の上からそのタワーを眺めているけれど……突然夜がやって来ましたね。
「……白狐さん、黒狐さん……」
「分かっとる」
「さて、行くとするか」
そして僕は、京都タワーのある部分を眺めながら、いつも持ち歩いている巾着袋に、変化でキーホルダーになって引っ付いている白狐さん黒狐さんに話しかけます。
その後、キーホルダーになった白狐さん黒狐さんは変化を解き、僕の左右に並び立ちます。
それにしても、あのタワーにこべりつくようにして現れた黒いのは……。
「グギ……ギ……えぇい、どの世界も厄介な奴等が多い……あぁ、だがこの世界に永遠の夜を与え、壊してやったら、優先的にあいつらの世界をぶっ壊しに行ってやる……いや、つい先程の世界は無理だな。何故あんな世界に? 呼ばれた? あの魔王にか……グギギ、気持ち悪い」
世壊シ……黒い毛むくじゃらな毛に、虫のように節のある足、毛むくじゃらな体から伸びる、毛で覆われた尻尾。
そして傷だらけの体……って、何があったの?!
「白狐さん黒狐さん……」
「うむ……どうやら早く帰って来たのは……」
「他の世界でボコボコにされたからか……これは天狐も予想外か?」
これが予想外かどうかは分からないけれど……相手はずいぶんと消耗していますね。
でも油断は出来ないよ。だって、色んな人の能力をコピーしているはずだからね。
それでも手はず通りにいくしかないですね。美亜ちゃん、頼みましたよ。
「ギ……? なんだこれは? 木か? 気持ち悪い木だな」
すると丁度良いタイミングで、禍々しい木の蔦等が世壊シに襲いかかります。美亜ちゃんの呪術です、ナイスタイミングだよ。
美亜ちゃんは金華猫の中でも特殊で、木に呪いをかける事が出来るんです。それで世壊シの動きを先ずは封じます。
「ギギ……樹槍」
「ふにゃぁあ!! 何これぇ!!」
「美亜ちゃん?!」
ちょっと嘘でしょう?! 世壊シが美亜ちゃんの呪いのかかった木に触れた瞬間、槍みたいになって美亜ちゃんのいる方に?!
美亜ちゃんは咄嗟に避けたけれど、既に数本の木が槍になってる。あっ、そっか……足がいっぱいあるからその数だけ槍に出来るんだ……それって強すぎませんか?
「ギギギギ、探す手間が省けた。貴様等だ、貴様等を先ずは倒さないとこの世界は壊せない!」
そう言うと、世壊シは京都タワーのてっぺんに登り、そのまま器用にタワーの先端にその足で掴まります。
そして体を高く上げ、まるで威嚇するかのようにして毛を逆立ててきます。
「椿よ……用意は良いか?」
「大丈夫だ、皆がスタンバイしているだろう。協力してこいつを封じるぞ」
「…………」
いや、でもその前になんだろう、あれ……。
世壊シの体から何かが光ってるというか、発信されているというか、何かが埋め込まれているんでしょうか?
「椿?」
「どうした?」
あっ、しまった、白狐さんと黒狐さんに心配されちゃったよ。
「う~ん、あの世壊シの体に何かある」
「いや、そんな事よりも……」
「前を見よ、椿」
えっ、何あれ? 節みたいな足が燃えて……。
「ギギ、そうら食らえ! バーニングフィスト!!」
すると、世壊シはその燃えた足で僕達を突き刺そうとしてきました。いや、多分これパンチだ! でも、足が節みたいだしパンチには……。
「うわぁあっ!!」
炎が拳みたいな形になってたぁ!! 何ですか、これは!
何とか避けられたけれど、シンプルな分使い勝手が良さそうですよ。ビルに大きな穴が空いちゃいましたからね。これ、後で直すの僕達なんですけど……。
「ふむ……体術ばかりをコピーしたか?」
「それなら俺達だけでも……」
白狐さん黒狐さん、多分前に出たら危ないです。
「ギギ、そう思うか? 『一閃』!」
「うぉっ!」
「ぬぁっ?!」
危なかった、咄嗟に玩具生成で高強度のマジックアームを出して、2人を持ち上げました。ついでに僕は白狐さんの力を解放して、上に飛び上がってます。
だって、何だか世壊シが腕を水平に振ろうとしていたからね。斬りつけてくるって、咄嗟に判断しました。
お陰で、後ろのビルが真っ二つになって崩れていく程の相手の攻撃を、なんとか避けられました。
何度も言うけど、これ僕達が直すんだよ……戦う場所間違えたかな?
そして僕は、白狐さんの力を解放しているから、毛色は真っ白です。
「ほぉ……椿、久々に我の力を!」
「ぎゃぁ!! 白狐さん、戦闘中!」
すると、何故か白狐さんがマジックアームから抜け出して僕を抱き締めてきました。今はそれどころじゃないってば!!
「ギギギギ!! まだまだ俺様の武器はあるぞ! その前に貴様等はこの樹槍で……んっ?」
そして、世壊シが再び禍々しい木に足を触れて、その木を操ろうとしくるけれど、その木は全く反応しなくなっていました。
「フゥ、フゥ……あんたねぇ、私の木を勝手に使わないでよね! 呪いを上書きしてやったわ!」
「ギギ、えぇい、使い勝手の悪い木だ。それなら別の……んっ?」
「あっ、しまった。すり抜けの能力」
「ちょっと雪さ~ん!! それ忘れないで下さい~!」
いや、里子ちゃん。何やってるの?!
いきなり世壊シに飛びかかってパンチしてるよ! でもね、そいつすり抜けるから!
「キギ、邪魔くせぇな。これで吹き飛んどけ。『狼牙狂奏拳・古太鼓』」
すると今度は、世壊シが節みたいな足を前に突き出します。
その瞬間、雪ちゃんと里子ちゃんに向かって凄い衝撃波が飛んいき、それと同時に太鼓の音が……。
「そうはいかないっす!! 妖異顕現、狸腹反鏡!」
だけど、どうやら太鼓の音はその衝撃波が何かに当たった時に鳴るみたいで、今当たったのは目の前に突然現れた、くノ一の格好をした楓ちゃんが出した、大きなお腹に鏡を付けた狸の像です。そしてそれは、相手の術を跳ね返します。
でも、相手に返してもすり抜けるからあんまり意味がないです。
それにしても楓ちゃん……いつの間に忍者らしい動きをするようになったんですか……今のはビックリしました。
でも今のを見ると、やっぱり準備したあの場所に連れて行くしか……。
「皆!! 作戦通りに行きます!」
そして世壊シから距離を取りながら、僕はそう叫びます。
その瞬間、辺りにあった沢山の妖気が、それぞれ例の場所に向かって動き出しました。
「ギギ、待て待て……逃がすか貴様等……」
それを見た世壊シは当然着いてくる。着いてくるんだけれど……何あの足の動きは? 回してる?
「ギギギ……この技がこんな使い方出来るとは思わなかったな。人間が使えば間抜けだが……俺様が使えばこうなるんだよ! ぐるぐるパンチ~!!」
技名が……!! ちょっとなにそれ?! なにをコピーしたのですか!
「いかん椿、全速力じゃ!!」
「ふざけんな! 何だあれは!」
あっ、本当だ……これ、全力で逃げないと僕達の体がバラバラになる!!
「ギギギギ!!!!」
節のある沢山の足を、ぐるぐる回して……しかもその速度が速い。それはまるで掘削機みたいで、巻き込まれたらぐちゃぐちゃにされちゃう!!
「ひぇぇえ!!!!」
とにかく、追ってくる世壊シから必死に逃げるために地面に降りて走るけど、これ地面に降りるんじゃなくて、ビルとビルを飛び移るようにすれば良かったよ。
「どこに逃げようと無駄だ~ギギギ!!」
世壊シが地面を耕しながら進んでる!! 建物が、信号機が、次々と倒れていく! 変な技だけど、世壊シが使ったらとんでもない事になってるよ!!
とにかく、白狐さんの力を解放して全速力です!
「ギギギ……夜闇を移動する俺に、走って逃げようなど無意味だ!」
すると、後ろから世壊シが叫んで来たと思ったら、次の瞬間には目の前に現れました。
夜の闇の中を自在に移動する夜壊シを前にして、普通に逃げても駄目でしたか。
「あ~!! 背後の遠くの方から!!」
「ギッ?! 何だ!」
「黒槌土塊!!」
「ギギェッ!!」
いや、なんで引っかかるんですか。しかも、僕が遠くと言ったから目をしばたかせたよ。
それ、すり抜けられないでしょ。僕の尻尾をハンマーにした妖術を、思い切り食らってますよ。そしてそのまま前のめりになって倒れちゃったよ。
「今です! 白狐さん、黒狐さん! あの公園に!」
「椿よ……今の作戦を使えば倒せるような……」
「あれを見ても?」
確かに、さっきの方法で不意打ちみたいにしていけば倒せそうな感じもするんですけど……ちょっとマズいことになっちゃってます。
「ギギギ……貴様……やはり貴様だけは!! 見ろ! 沢山の能力をコピーしたから出来る技! 能力複合!! 『バーニングフィスト』『幼児泣きわめきグルグル・パンチ』!」
「いかん……これはいかん……!!」
「走れ椿!!」
「さっきから走ってます!!」
だって、さっきのグルグルパンチの掘削に、炎の拳が加わって、燃える車輪が地面を耕していってるんですよ!!
「ギェェエン!!!!」
「そして泣くのは真似しなくても良いでしょう?!」
思わずツッコんじゃいました!
でも、もうすぐだ。もう見えてる! 京都駅から直ぐ近くにある、とても広い公園、梅小路公園!
ここなら存分に戦える。そして、こっちも戦力は揃ってますよ!
とにかく僕達はその公園に入り、木々の全くない中央の広場へと向かいます。
周りに木はあるけれど、中央の広場は広すぎて、木の影が届かないんです。夏にここに来たら死にます。日射病になるよ。
そして、その中央の広場の前には残りの皆が揃っていました。
「来たわね、椿。さぁ、早速……って、何やってんの!!」
「ごめんなさい! まだ厄介な能力が残ってました! 弱らせてから連れて来るはずが、全くダメージを与えられてません!」
急いでやって来た僕達に、金髪ツインテールの妲己さんが答えるけれど、世壊シを見て瞬時にそう叫んできました。
「最初から上手くいかなかったからね」
「うぅ……美亜ちゃんの呪いが効かないなんて……」
作戦では、美亜ちゃんの呪いで世壊シの動きを封じるか鈍くさせ、潜んでいた楓ちゃんや雪ちゃん、里子ちゃん達でダメージを与えていくものでしたが……とても良い能力をコピーしてきていました。
僕の横を併走する皆も、この結果に慌てちゃってます。美亜ちゃんだけは冷静だけど、そう見せてるだけで内心焦ってそう。
どんな能力をコピーしてくるか分からなかったから、皆で相談して最善の策をとったけれど、駄目でした。
こうなったら……。
「はぁ……はぁ」
「椿?!」
「何を立ち止まってる?!」
一旦アレを隠して貰わないといけない。それは、やって来た世壊シの状態を見て、妲己さんと玉藻さんが気付いたはず。
それまで、僕が時間稼ぎです!
「世壊シ、ストップ!!」
「ギギギィ!!」
「ストップって言ってるでしょ!! 影の操!!」
「ギッ?! なんだこれは!」
ストップって言っても止まらなかったから、僕の影の妖術で自分の影を操り、世壊シの体を固定しました。これでしばらくは動けないはず。
「世壊シ、なんでそんなに見境いなく襲うんですか? 君の過去は聞いたよ。だから、何とかして君を助けられる方法を探してみたんだよ。それなのに……」
「ギギ……何を言ってる? 助ける? 誰をだ? 俺か?」
「だって君は……」
世壊シは元々神の使い。
こんな事になったのは、夜に取り込まれてしまったから。そして、当時の夜に溶け込んでいた、人々の負の念に染まってしまったから。
もう1000年以上も前だけど、それでもまだ夜壊シの部分が残ってるなら!
「世壊シ……君には……」
「ギギ、じべたりあん」
「ぬきゃっ?!」
何これ? 急に地面に?! ちょっと、また厄介な能力を……! 重力で押さえつけられてる!
「貴様の言葉になど耳を貸さん。人々は同じ事を繰り返し、負の気を濃くさせていった。昔より濃い、濃いんだよ……! ギギギ!!」
言ってる事は分かるけどさ……それで僕達を問答無用で襲うのは違いますよ。
「だから、俺が食ってやる。あの時夜を食べられたように、俺様が負の気を持つ者を全部食らって……この世界に明るい朝を呼び込んでやる!!」
そう言って、世壊シは自分の体に力を入れてくる。いったい何をするのかと思っていたら、とんでもない能力を発動してきました。
「邪悪[次元を超越する一撃]!」
「嘘っ?!」
世壊シが体を震わせて、僕の妖術を解こうと暴れた瞬間、いとも簡単に僕の妖術が壊れました。解かれたんじゃない、壊れたって感じです。
そして僕は相手の能力で、未だに地面にへばり付いてます。
これ、ヤバい。どうしようどうしよう……。
「ギギギ……さて、この能力と他の合わせればどうなると思う? 複合。『次元を超越する力』『一閃』!」
それダメ!! さっきのは、僕の妖術の効果とか色んなものを無視して、ただ世壊シが暴れたダメージを直接与えてきたって感じです。
つまり、そんな能力に一閃を組み合わせたらどうなるの?!
「安心しろ、この星を壊したら意味がない。壊すのは……お前等の目的がありそうな、あの広い公園だ!!」
「しまっ……!!」
バレてた? 相手にバレていたの?! マズい、どうやって……。
「ギギギ!! 食らえ!!」
だけど、世壊シはその足を横に振り、能力が合わさった一閃を放ってくる。空気抵抗とか、そういうものを一切無視して飛んでいく。
「そうはいかないっす!! 狸腹反鏡!!」
すると、また楓ちゃんが僕の横に立ち、妖術を発動し、なんと相手の能力を跳ね返しました。
「ギッ?! また貴様か!」
あっ、ちょっと待って楓ちゃん……今のは跳ね返したらダメだったよ。世壊シの後ろが……その街並みがスパッと横一列に綺麗に斬れて……。
「楓ちゃん~?」
「あっ、し、仕方ないっすよ! 今のは!!」
そうだけどさ……後で直すのは僕達なんだからさ、後始末は増やさないようにしたいの。
「とにかく姉さん、早く行くっすよ!」
「くっ……思った以上にこの能力、キツい!」
「へっ? ぎゃん!!」
そして、僕に近付いてきた楓ちゃんまでかからないで下さい! 楓ちゃんのバカ!!
「ギギギ……とりあえず貴様等2人から……ん? 木の葉? なんだこれは……うぉっ! 木の葉が燃えて……!! なんだなんだ!!」
えっ? 世壊シが慌てている……あっ、能力が解けた!
「2人とも、今の内に行くんじゃ。私がこいつを抑えておくからの」
すると、僕達の後ろから玉藻さんが現れ、目の前に手をかざしていました。もしかして、世壊シに幻術をかけてるの?
「ふふ、物理的なものはすり抜けても、このような精神攻撃は効くようね。それなら他愛ないの」
だけど、世壊シはまだ諦めないのか、更に能力を使ってきます。しかも今度は僕の能力を……竹トンボを作って、その風で消そうとしているけれど、それ幻術だからね。
「グギィ……消せない。ということは幻術か……? ギギギィ!!!!」
そんな状況でパニックを起こしたのか、世壊シは能力複合で編み出した、ぐるぐるパンチとバーニングフィストを組み合わせた技で、僕達の方に突進してきます。
それこそ今度は本当に泣いてます。
「ギギギィ!! ちくしょう! この幻術を生み出してるのは誰だ! 出て来い!! 熱いぃい!! 何で熱いんだ! この技は熱くないのに、どうなってやがる!!」
「……2人とも大丈夫かの?」
とりあえず玉藻さん……僕達が近くにいるのと、相手が錯乱してきた時に、さっきの複合技を使われたらどうしようって、それを考えて欲しかったです。
僕は咄嗟に横に飛び退き、楓ちゃんも血相を変えて反対側に飛び退いてました。とにかく追わないと!
「もう、玉藻さん……」
「いや、すまんの。思った以上の効果だったわ」
ということは、あの作戦は成功するかも知れません。
ここまで力を付けた世壊シを倒すのは、もう不可能です。それなら封印する?
ううん……僕の作戦は世壊シに戻って貰うんです。元の夜壊シにね。その為には、アレをしないといけません。
多分出来るはず。その為の道具はあるんだ。
ただ、あの子達とはもう繋がれないから、他の妖怪さん達に頼まないといけなかったよ。
あとは足止めです!
「果たして上手くいくかのぉ」
「上手くいかすんです。そうじゃないと……」
世壊シを追いかけて、僕達も梅小路公園の大きな広場へと向かいます。
「ギッ、ギギ……き、消えたか?」
そしてそこに着いた時、丁度世壊シは良い位置に立っていてくれました。そこは中央です。効果は抜群のはず。
「今です! 皆!」
僕がそう叫んだ瞬間、世壊シを照らすように、強力な光が浴びせられます。そう、これ球場とかにあるあの照明です。
急遽ここに運んでもらったんです。それなら球場に行けば良いんだろうけど、球場だと怪しまれるからね。
「ギギ!! ま、眩しい! なんだこれは!!」
そしてその光を受けて、世壊シは目を殆ど開けられなくなりました。これで透ける能力も、夜の闇に消える能力も使えませんよ!
それにしても……。
「おじいちゃん~一個間に合わなかったんですか?」
1つだけその照明じゃなくて、急場しのぎに作った長い竹の棒の先に、お化け提灯をぶら下げただけのやつなんですよね。
照明に負けじと必死に自身を照らしているけれど、ちょっと可哀想だから降ろしてあげて……。
「ギ……ギギ。ちくしょう、こんな事をしても俺様の能力で……」
「それは、俺の能力より強いのか?」
「ギ?」
「銀雷槍!!」
「グギギギィ!!」
あぁ、ようやくですか……やっと銀狐である僕のお父さんがやって来て、世壊シに銀色の雷の槍を突き刺しました。
流石の世壊シも、これには堪らず悲鳴を上げてます。って、なんでその後に僕に向かってVサインしているんですか? 早く仕事して下さい。お母さんが上から睨んでますよ?
「銀尾~親バカもいい加減にしなさいって、そう言わなかったかしら?」
ほら、お母さんお父さんの名前言っちゃってるよ、本気で怒ってるよ。
「あっ、待て……金狐。俺まで閉じ込め……ぐはっ!!」
「金縛重」
あ~あ、お母さんの封印術の1つ、動きを封印する妖術に、世壊シとお父さんがかかっちゃいました。
容赦なく手を下に降ろしたからね。それと、親指も下にしていたような……お母さん……。
「グギ……ギギギ。動けない」
とにかく、世壊シは動けなくなっている。お父さんの攻撃のダメージと、お母さんの強力な封印術で、もう殆ど何も出来ません。
ここには木の根もないし、足も動かせない。注意すべきは太鼓の音を鳴り響かせる、あの衝撃波ですね。
そして、僕は巾着袋から扇子を取り出します。
そう、あの扇子をね。あの子達、天照大神の分魂が入っていた扇子。今は何も感じられないし、広げてもあの子達は出て来ない。
それでも、僕の舞いは特別です。音楽があれば踊れる。だから……。
「おじいちゃん、皆ごめんなさい。この1ヶ月頑張って練習してもらって……」
「本当じゃわい。まぁ、その分定期的に椿に舞って貰わんとな」
「うぅ……分かりました」
おじいちゃんにそう言われたら否定出来ません。でもとにかく、今は舞う事に集中するんです。
「ふふ、世壊シ。目をかっぽじって良く見るんだ。俺の愛娘の美しい舞いを……舞いを……椿?」
「目つぶって」
お父さんが変な目で僕を見るのが気になります。
「なっ、そうは言われても俺は金狐の能力で……」
「それじゃああっちいって」
「ぬぉわっ!! 椿!! 反抗期なのか~?!」
自分で体は動かせなくても、他人はその体を動かせます。だから、僕は影の妖術でお父さんを掴むと、そのまま遠くに放り投げました。地面に落ちても大丈夫でしょ、お父さん丈夫なんで。
とにかくあの時の感覚、あの時の足の動き、手の動き、舞いは座敷わらしのわら子ちゃんに、ずっと習っている。だから舞える。まだ僕は、あの舞いが舞える。
「ギ……ギギ。なんだ、その踊りは……」
そして、妖怪の皆が奏でる和楽器の演奏で、僕は舞い始める。ゆっくりとしなやかに、世壊シへの敵意を無くして。
「これは、『神休めの舞い』だよ。本来神様とかに有効だけど、神様の使いだった君にも、多少は……」
「グギ……ギギィ、その踊り止めろ! それは止めろ!!」
止めません。キッチリと効果を受けているし、何だか苦しそうな表情ですね。しかも、世壊シの体から何かが噴き出してる。
それにしても、こんな効果的だなんて……って、僕の妖気に反応しているのがある。
世壊シの体に引っ付いてるものが、僕の妖気に反応して、世壊シに思った以上の効果を与えているんだ!
「世壊シ……今君が頑張ってこの世界に夜を与えようとも、人々はもうとっくの昔に、その夜の恐怖を克服しています。この電気の発明と、明かりの発明でね」
「ギ……ギギギ……」
「分かるでしょ? 身をもって体験してるよね。これだけ強力な明かりまでも生み出したんだ。人々はもう、君がいなくても大丈夫になった。だから、もう休んで下さい。お点かれ様です」
僕は舞いながら、世壊シに向かってそう言った。ただ力だけで勝とうとしても、この世壊シはまた別の世界に行っちゃう。
だから封じる。でも、また復活したら厄介です。いつまでもいつまでも、この世壊シの恐怖に怯えないといけない。
それなら、元に戻した方が良い。
その方法は、古い文献を見て何となくこれじゃないかと思ったんです。
夜壊シは、夜を照らし続けて使命を終えたら「お点かれ様」と言って役目を終えさせる。
負の気に触れた世壊シに効くかどうかは分からなかったけれど……でも……。
「……グ、ギィ……あぁ、あぁ……そうか、俺様は……」
「うん、もう休んで良いよ。休みたかったんだよね。夜を消そうとして、その夜の闇に紛れた負の気と、それを持つ者を全部消してしまえば、夜は消えるって思って……それで世界まで。でも、もう良いんです。人々は夜を乗り越えているんだ。だから、もう大丈夫です」
「ギギ……あぁ、そうか……あの世界でのあの音は『花火』だったな。昔から、人々は既に夜を乗り越えようと、夜を楽しもうとしていたな……ギギギ……」
すると、世壊シがそう言った後、体から黒い気が一気に噴き上がり、夜空へと舞い上がっていく。
「ギ……ギギ……キピィ」
「えっ?」
そして、世壊シの体はもうあんな禍々しい姿ではなく、本来の夜壊シ、光る小さな毛玉のような状態になっていました。
それが本来の姿なんですね。闇の中に取り込まれた、夜壊シの1体なんですね。
更に、小さな毛玉の夜壊シになった瞬間、一気に夜が明けて夕焼けの太陽の日が僕達に降り注ぎます。
「うっ……! いきなりは眩しいな、もう」
「ふぅ……何とかなったようじゃな」
夜が明けて、夕焼けの空が広がって……って、これもう夜ですよね? もう夜が来るよね。なんだかおかしな感覚だなぁ。
とにかく僕は舞いを止め、妖怪の皆も演奏を止めていました。
そして夜壊シは、もう一回だけ「キピィ」と小さく可愛く鳴いてから、そのまま夕焼けに消えるようにして消えていきました。役目を終えて、疲れ果てたような顔が、頭に浮かんだ。顔はなかったけどね。
「……これ……」
その後、僕は夜壊シの元に落ちた紙を拾い上げます。
「椿よ、それは?」
「手紙のようだな、なんて書いてある?」
「僕達に会いたいって事が書かれてますね。これ、異世界の人達のだ……」
スゴく強い思いで書かれているよ。よっぽど異世界に……というか僕達に会いたいんだね。
その想いだけでも、僕達出会えたようなものだよ。あっ、でも、お返事書きたかったな~
「……」
「何を考えておる? 椿」
「いや、世壊シ復活しないかな~と思って」
「お前な!!」
「いたたた!! 黒狐さんごめんなさい! ほっぺひっぱらないで!!」
やっぱりダメですよね。そんな事を考えていたら。
でも、何でだろう。夜壊シって沢山いたんだよね。実は今まで気付かれていないだけで、他にも夜に取り込まれた夜壊シがいたのかも……そして今も……な~んてね、僕の考えすぎですね。
「ギギ……」
うん、考え過ぎ。今の声も気のせいです。気のせい……だよね?
でも、他の異世界の人達がこんなに強いなら、世壊シもちょっとやそっとじゃ世界を壊せないと思うな。
あっ、でも……そうじゃない世界もあるかもね。
そして僕は、そんな事を考えながら皆と一緒に帰路につきました。
くれぐれも、気を付けて下さいね。多分世壊シはもう居ないと思うけれど、もし出て来たとしたら、それはその世界が世壊シにとって住みやすいくらい、負の気が濃いって事だからね。