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空シリーズ

空と空 ~after~

作者: 東京 澪音

ネットでこんな記事を見かけた。


”クロード・モネの再来!”


モネファンの僕としては気になる記事だ。

イギリスのノーフォークという街に暮らす9歳の男の子。


彼の絵は、モネのタッチに似ている事からミニモネと呼ばれているらしかった。

ネットから彼の事を検索すると、かなりの数の記事がヒットする。


作品も掲載されていたので、その幾つかを見てみた。


「なるほど!!」

モネを好きな人なら間違いなく彼に魅かれるだろう。

僕も既にその一人となっている。


何でも1枚6万ドル(日本円で610万円)の値が付いた作品もあるらしい。


異国の地でこれだけ世間を騒がせる男の子がいると思えば、精々家庭内を騒がせる事くらいしか出来ない奴もここにいる。


僕自身の事だ。


はるか~、青山さん来たわよ!」


ね!

言ってるそばから騒ぎ出す家族が一名。


あ、僕の名前ははるか。17歳高校二年生。

このところ色々あったけど、青山あおやま そらと付き合いだして、ひと月ちょっとになる。


今日は期末テストの対策という事で、空が家に勉強を見に来てくれる予定になっていた。

母の呼ぶ声に、僕は玄関まで空を出迎えに行く。


「おはよう空。折角の休日に申し訳ないけど、家庭教師よろしくお願いします!」

そう言って頭を下げる僕。


「しっかり勉強して赤点避けなきゃね!私、遙君が期末で赤点取って春休み返上とかになったら、一生恨むから。」


笑顔で恐ろしい事を言う。

一生恨まれるのも怖いんで、ここは意地でも頑張るしかない!


折角の春休みだ、僕だって空と一緒に過ごしたいさ!

空の厚意を無駄にしない為にも、今日はしっかり勉強したいと思う。


「あ、ゴメン!あがって!」

そう言うと二階の自分の部屋に彼女を招く。


「お邪魔します。相変らずここからの景色って素敵よね!私の部屋からもこれだけ素敵な景色が楽しめたらいいんだけど。あ、そうそう!お母さんが遙君によろしくって!またいつでもいらっしゃいって!随分気に入られてたわよ、遙君。」


それはとても嬉しい。

色々と緊張したが、先日僕はとうとう彼女のお母さんにご挨拶に伺った。


”ご挨拶に”と言うと、まるで結婚するみたいな流れに聞こえてしまうが、要は空に招かれたって事なんだけどね。


その時の事を少し話そうかと思う。


彼女のお父さんを探しに伊東へ出かけてから数日後、空が僕にお礼をしたいと言い出した。


僕からすれば大好きな彼女の為にした事だし、何よりデート要素も含まれていた訳だから、特にお礼の必要なんてないと言ったのだが、それでは気が済まないと言う彼女。


色々と話をした結果、空が手作りのご飯を僕にご馳走するという事でお互いに折り合いをつけた。


まぁしかし緊張した。

男友達の家に気軽にお邪魔するのとは訳が違う。

異性の、しかも好きな女の子の家に行く訳だ!緊張しないはずがない!


僕は駅前のケーキ屋で適当にケーキを幾つか見繕ってもらい、約束通り彼女の家にお邪魔する。


”青山”


表札を確認し、深呼吸を一つすると、意を決してチャイムを鳴らす。

あの時の空もこんな心境だったのだろうか?


今、何となくあの時の彼女の気持ちが判ったような気がする。

しばらくすると玄関の向こうから返事があった。


「は~い!」


返事と共にドアが開く。

僕はてっきり空が出てきてくれるものだとばかり思っていたのだが、現れたのは空によく似た女性。


「あら、ひょっとして遙君?初めまして、空の母です。いつも空がお世話になっております。」


ビックリした!まさかいきなりお母さんが出て来るとか思わなかったから、心の準備も出来ていない僕はどうしていいのかわからず、アタフタしてしまう。


「ちょっと、お母さ~ん!何で私より先に出ちゃうのよ!遙君ビックリしてるでしょ!」


はい。ビックリしてます。いきなりこんな展開になるとは思ってなかったし。


「だって空さっきまで食事の準備してたでしょ?折角訪ねて来てくれたお客様を待たすなんて、お母さんには出来ません!ましてやそれが娘の彼氏なら尚更です!という事で改めまして遙君!空の母です。よろしくね。」


綺麗な人だな~。ウチの母とはだいぶ違う。

僕もこんな綺麗なお母さんが良かった。


そんな事を思っていると、左腕に痛みを感じる。

「ちょっと、遙君!なにお母さんに見惚れてるのよ!」


とても不機嫌な空がその後ろから顔をだし、今僕の腕をツネっている。


「痛たたっ!スミマセン!空のお母さんがこんなにも綺麗だとは思わなかったのでつい見惚れてしまいました!ごめんなさい!あ、ご挨拶が遅れました!藍井あおい はるかです!本日はお招き頂きましてありがとうございます!これツマラナイものですが是非召し上がってください!」


いきなりの事で軽くテンパったけど、何とかご挨拶できた・・・かな?


「もぉ、ちょっと遙君!なんで私のお母さんに綺麗とか言ってるの!?そう言うのはお母さんに言うもんじゃないよね!?まさかと思うけど、熟女好きとかじゃないわよね!?」


何だか空が怒っているみたいなのだが、僕には理由が良くわからない。


「ウチの母とは大違いで、とてもビックリした。でもここに来るまでに少し想像していた。空がとても美人だから、お母さんもきっと美人なんだろうな~って。で、想像以上に綺麗だったから絶句しました。」


空が呆れてため息を吐く。


「はぁ~ズルい人ね。そんな風にサラッと言われたら怒れないじゃない!天然だって言うのは前から薄々気付いていたけど、ここまで天然だったとは・・・。もういいわ。お母さん、今更改めて紹介しなくてもわかると思うけど、こちらが遙君。凄い天然です!で、私の母。取り敢えずあがって。今お昼の支度してるから」


そう促されて、初めてお邪魔する彼女の家。

女性だけの家だからだろうか?


僕の家と違って、どことなく全体的にファンシーな感じがする。

居間に通されると、空のお母さんと向かい合わせで座る。空が紅茶を持ってきてくれる。


「もうすぐ出来るから、ちょっと待っててね。あ、ケーキありがとう!食後にデザートとして出すわね。お母さん、遙君に変な事話したら私、怒るからね!」


そう言うと台所に消えてゆく空。

しかしこの状況、どう切り抜ければいいんだ?


いきなり彼女のお母さんと向かい合わせとか!レベル高すぎだろ!


緊張のあまり喉がカラカラとなっていたので、彼女の淹れてくれた紅茶をひと口飲む。


「アチッ!?」

その熱さにビックリした僕と、それを見てニコニコと笑う空のお母さん。


「あらあら大丈夫?緊張しなくていいからね。それより先日はありがとう。あの子を伊東まで連れて行ってくれたんですってね。あの人とも無事に合えたみたいだし・・・。空からいろいろ聞いたわ。」


お礼を言われる事じゃないんだけど、さすがは親子だな。二人ともとても律儀だ。


「あ、いえ全然!僕はただ空さんについて行っただけですし、これと言って何もしてません。それに初デートでもありましたし・・・、とても素敵な日となりました!」


そう答えるとまたニコニコと優しそうに微笑む。


「最近ね、あの子がとても明るくなって私は嬉しいのよ。私たちが離婚して以来、あの子から笑顔が消えてしまってね。友達を連れてくる事もないし、学校での出来事なんかも全然話さないしね。正直とても心配だったの。でもね、このところ急に明るくなったのでもしやと思って尋ねたら彼氏が出来たって言うじゃない!私、とっても嬉しくてね。それまでは親子らしい会話も少なかったんだけど、それ以来昔みたいに色々と話すようになったわ。お料理も率先して手伝ってくれるようになったしね。これも全て遙君のおかげよ!ありがとうね。それと、不束な娘ですがどうぞ末永くよろしくお願いします。」


そう言って僕に頭を下げるお母さん。

僕は大慌てでお母さんに声をかける。


「ちょっ、あの、頭あげてください!僕は全然大した事してないですから!頭を下げなければいけないのは、むしろ僕の方ですから!空さんにはいつもお世話になりっぱなしで、勉強なんかも教えて頂いてます。時々お弁当なんかも分けて頂いてますし、本当に僕なんかに勿体ない位素敵な子です!まだまだすねっかじりのガキんちょですが、どうか長い目で見てやってください。よろしくお願いいたします。あ、男手が必要な時にはいつでも呼んで下さいね!これ僕の携帯電話の番号です。」


突然だったが、何故か僕は空のお母さんと電話番号の交換をした。


あ、先に言っておくけど、決して僕は熟女好きな訳ではないぞ!

もしもの時の為に、連絡先を教えておくべきだろうと思って、したまでの行動だから変な勘違いだけは避けて頂きたい。それに僕は空が世界で一番好きだからね。


しばらくお母さんと談笑していると、空が居間に顔を出す。


「お昼出来たわよ。あら、この短時間ですっかり二人とも仲良しね!お母さん恥ずかしい話しなかったわよね?」


ギロッと母を睨む空。


「お母さん何にも話してないわよ?ね、遙君!ただちょっと遙君と携帯電話の番号を交換しちゃっただけよね~。あ、良かったらメールアドレスも交換しない!?」


その言葉を聞いて空の顔がみるみる赤くなっていく。


「ちょっと!どういう事よ!?なんで携帯電話の番号交換してるのよ!と言うか、100歩譲って電話番号交換は許すとしても、メールアドレスとかダメでしょ!仮にも私の彼氏なんだからね!」


怒り出した空に僕はなんかイケない事だったのだろうか?と考えてしまう。


「え?もしもの為にも、お互いに連絡先とか教えておくべきでしょ?」


そう答えると、少し困った様なかをする空。


「それはそうだけど!・・・うーぅ。ちょっと!なにニコニコ笑ってるの遙君!?私今怒ってるんだからね!」


矛先がお母さんから僕へと移動した。


「あ、ゴメン!なんかさ、少し新鮮だったから!僕は空の笑った顔はいつも見てるけど、怒った顔を見たの初めてだからさ。でもさ、美人ていうのは怒っても美人なんだね!不謹慎だけど、納得納得!」


そんな僕を横目にクスクス笑い出すお母さん。

怒りの矛先を失くした空は、それをどう消化していいのかわからず、不完全燃焼と言った顔で地団太を踏む。


「もういいわ!今後はこれにどう対処していくかを考えて行かなければ、私は生涯不完全燃焼のまま過ごす事になりそうね。その辺は追々考えるとして、冷めないうちに先にお昼にしましょう。さ、遙君。ほら~お母さんも!」


僕らは空に促されながらキッチンテーブルについた。

メニューはハンバーグとサラダ。コーンスープもある。ハンバーグの横に配置されたニンジンとブロッコリーが彩を一層に引き立てる。


「空の得意料理なのよ!とても美味しいから食べてみて!」

そうススメられ、僕は手を合わせ頂きますと一礼する。


ホークとナイフでハンバーグを切り、一口食べると、中から肉汁がジュワ~っと出てきた。

ちょっとしたレストランで食べるハンバーグみたいでとても美味しい。


「凄く美味しい!レストランのハンバーグみたいだね!僕は時々空のお弁当分けて貰ってるから、美味しいのは勿論わかっていたけど、ここまでとは驚いたよ!僕はハンバーグ大好きだからさ!」


素直に感想を述べると恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑む彼女。

その横でそれを冷やかすお母さん。


「あらあら良かったわね~空!これで遙君は完全に空のモノね。胃袋さえ掴んじゃえばコッチのもんなんだから!でも変ね~まだ冬だって言うのに、この辺だけ暑いわ~。青春よね~。」


冷やかされて二人俯いてしまう。

そんなやり取りが一部あったものの、僕はこの日だけで随分と青山家に解け込めたように感じた。


「でもなんだか嬉しいな。久し振りに楽しく食事出来て!こんな日が来るなんて、考えた事なかったから。またこうやって食事しようね!私、頑張って美味しいモノ作るから!」


その後も三人でお茶をしながら色々な話をした。

空の小さい時の話や、僕の小さい頃の話。空の恥ずかしい話なんかも飛び出したりして、僕にとっては色々な空が見れた一日だった。


時間をすっかり忘れて、随分遅くなってしまった。

玄関まで僕を見送ってくれる空とお母さん。


帰り際、お母さんに声をかけられる。


「遙君、空って言うのはね、何にもないとただ青いだけなのよ。夜空も同じ。星も月もそこに無ければただの暗闇なの。青い空に白い雲。暗い空に月や星。それらがあるから空には沢山の表情があるのよ。遙君は娘にとって雲であり、月であり、星なのよ。私がこんな事をお願いするのもおこがましいのだけれど、どうかあの子の雲でいて。寂しい夜にはそれを照らす月や星でいて。そうすればあの子もずっと君の空でいる筈だから。うまく言えないけど、二人一緒じゃなきゃ、どちらも成り立たないって事忘れないでね。」


なかなか哲学な話で難しくもあったけど、お母さんが言わんとする事はしっかりと僕には伝わった。


「決して空を曇らせたりしません。」


そう答えると、どこか安心したような優しい顔で僕を見るお母さん。

二人は僕が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。


これが、先日空の家にお邪魔した時の話の全てだ。


「ちょっと、遙君!ボケーっとしてない!私が今説明した方程式聞いていた!?」

どうやら随分と時を遡ってしまっていたらしい。

僕は空に謝ると、彼女は若干怒りながらも僕に判りやすく数学の方程式を説明してくれた。


部屋の窓に目をやると、澄んだ空に寄り添うように白い雲が浮かんでいた。

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