【◆構想中・休止中】SF系(第二章IF)
※応募したのが一次で落選したため、
目標と執筆するモチベが無くなりました。
SF系の執筆は、ファンタジーの100倍大変なので、
しばらく続きを書く予定は無いです。
なんか、読者様からの無言のプレッシャーを感じてしまい、
新作のネタを考える合間に、ちょこちょこと思いついたネタを
書き連ねていく予定です。(※本編に採用するかは未定です)
(※応募用の十万文字のノルマを超えた作品なので、
執筆の優先度は低いことを、ご了承ください)
まだ構想中のネタのプロローグ部分を投稿。
世界観の設定も全く固まってない見切り発車なので、
続きを投稿するかは未定。
【◆決定事項とか、世界観の設定とか……】
・前に投稿した第二章を、一から作り直し中……。
・異種族の生態に着目したエピソードを書きたい。
◆諸事情により、複数話を一話に纏めてます。
【第21話】混成特務隊 ★6/12-14 加筆。
【第22話】ブリーフィング ★6/16-23 加筆。
【第23話】地上へ ★7/13-16 加筆。
【第24話】??? ★7/17-7/18 加筆中。
※7/24 他の作業が忙しくて、執筆ができてません。
★思い付きでエピソードを追加したり、いきなり削除したりします。
また、前後の話に矛盾点や、整合性の取れてない箇所が多々ありです。
あくまで執筆中のネタなので、そこを留意したうえで読むことをお願いします。
◆【第21話】混成特務隊
『ノア、部屋を展望モードに切り替えてちょうだい』
メアリーの声に反応して、AIノアが外にある映像カメラへリンクするよう、仮想空間の切り替え操作をしてくれた。
本船の最上部にある展望室から、俺とメアリーを残して天井や壁が消失する。
まるでテラスから、ガラス越しに宇宙空間を眺めてるような光景が広がった。
「近くで見ると、やっぱりデカくてゴツイな……」
『そうね』
いつでも俺達の盾になれるよう、すぐ傍を飛行するシュマール族の戦艦が目に入る。
機動性を犠牲にして巨大戦艦を堕とすためだけに建造された、重装甲のフリゲート艦を見上げた。
一番に目を引くのは、やはり前方に装着された重厚な特攻兵器だろう。
シールド工法みたいなトンネルを掘るためではなく、敵戦艦の装甲を砕くための禍々しい無数のドリルが、突撃強襲艦らしく際立っていた。
護衛艦隊を指揮するシュマール族のオリガ大佐が、俺達に見せてくれたシミュレーション映像を思い出す。
全長三キロメートルある巨大戦艦の横腹に体当たりし、主砲を撃たれる前に内側から船内を破壊していく、玉砕覚悟の恐ろしい戦術を……。
「これで巨大戦艦の主砲に一撃でも耐えれたら、機械生命体からすれば厄介極まりないだろうな」
『そうなのよね……。あとは、うちとシュマール族の防衛協定さえ上手くいけば良いんだけど……』
軍事兵器の技術提供は、ある意味で賭けだ。
共通の敵がいる間は協力し合うだろうが、自分達が良かれと思って提供した軍事兵器が、いつ自分達の首元へ刃を向けるかは予想がつかない。
お互いが背中を預けれると安心できるために、星系を統治する異種族間で防衛協定を結ぶことは必須事項なのだと、難しい顔で語っていたギャミン中尉の言葉を思い出す。
『あっ……。あれ、キャミーじゃない?』
俺の肩がバシバシと叩かれ、メアリーが指差す先へ目を向けた。
見覚えのある小型輸送船が一隻、俺達の船へ接近している。
展望室から外の様子を眺めている間に、どうやら待ち人が帰って来たらしい。
嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねるメアリーの動きに合わせて、背中に垂れた茶色の三つ編みが跳ねた。
大好きな飼い主が帰って来たことに気づいて、犬が尻尾を振るみたいな反応だな……。
地球産のメイド服を参考にした、可愛らしさを重視したデザインのフリル付きスカートが、ひらりひらりと舞う。
どういう偶然かエリファ族のメアリー達は、地球人が良く知るファンタジー系物語に登場する、エルフと呼ばれる種族に容姿がよく似ている。
横に細長い耳を生やした美人エルフが、メイドのコスプレをしてるようにしか見えない彼女に、スライドした扉の外から手招きされた。
AIノアに頼んで展望室のVR空間を元の状態に戻した後、俺も退室する。
『トウマ、早く早く』
「はいはい」
待ちきれないとばかりに先を急ぐ彼女の後を追って、格納庫へ足を運んだ。
今は無き故郷となった地球を旅立ってから、二ヶ月近くは経つ。
船内地図を見なくて良いくらいに、通い慣れた船内の通路を歩いて、目的地である格納庫へ到着する。
扉がスライドし、白銀の装甲が目立つエリファ族の小型戦闘機や、カブトガニ型フォルムのルト族専用機が並ぶ、広い格納庫が俺とメアリーを出迎えた。
鳥羽を生やしたルオー族達が作業着に身を包み、小型戦闘機の側面カバーを外して機体の中に鳥頭を突っ込んだりして、忙しそうに整備作業を勤しんでいる。
往来する整備技師達の邪魔にならぬよう避けながら、エリファ族の女性技師が作業してる場所へ向かう。
『はーい。オーライ、オーライ』
作業着らしきツナギを着た、エリファ族のテザー技師が誘導灯を振り回し、ゆっくりとホバー移動する小型輸送船を誘導している。
俺がいた地球では、ダークエルフと呼ばれたファンタジー系種族に容姿が似た、褐色肌の女性が姿を現す。
綺麗に切り揃えた銀髪のボブカットを揺らしながら、軍人女性が輸送船から降りて来た。
切れ長の青目が鋭い視線で船内を見渡すが、すぐに目元が優しく和らいだ。
駆け寄ったメアリーに抱き着かれ、数日振りの再会を二人の女性が喜び合っている。
『お帰りなさい、キャミー』
『ああ、ようやく帰ったよ……。私がいない間、トラブルは無かったか?』
『大丈夫よ。宇宙ステーションで、のんびり皆で羽を伸ばしてたわよ。そっちは、どうだったの?』
『軍のお偉いさん達から、たくさん小言を頂いたよ……。まあ、それで済んだだけマシと言えるさ……』
『その言い方からすると、軍人は辞めずに済みそうなのね?』
『ああ。首の皮一枚で繋がった感じだな……』
終始ニコニコ顔のメアリーに、仲の良さをアピールするように頬ずりをされ、ギャミン中尉が苦笑混じりに答える。
滞在していた宇宙ステーションからギャミン中尉が出発する直前に、地球で俺を助けたのは軍の任務ではなく、個人的な理由だと聞かされていた。
しかし軍を辞める覚悟で、他の救助艇とは違う行動を起こした彼女の選択が、幸か不幸か機械生命体の絶望的な包囲網を切り抜け、結果的に地球人の滅亡を阻止したのだから、何とも言えない話だけど……。
『トウマとルト族のお陰だ』
「……え?」
『どういうことなの?』
『その件について詳しく語りたいが、いつもの場所に移動しよう。ここでは、口外できない内容もあるからな……』
ルオー族と一緒にシュマール製の機体整備を手伝う、青いキノコ傘に白色の水玉模様が目立つ宇宙キノコ達を、ギャミン中尉がチラリと見た。
『本隊へ顔を出した時に、生物兵器の治療薬を作るため、地球人から採取した研究データを提出したのだが……。一緒に提出した戦闘ログのせいで、軍上層部でいろんな事が起こってな……。もともと査問委員会に出席するつもりだったが、それどころじゃなくなったのさ……。聞いたらビックリすると思うぞ』
『なによ。珍しく、もったいぶるような言い方をするじゃない……』
『それはそうさ。なにしろ前例が無いことだからな……。君の努力と、姫様の悲願が達成されたとも言えるぞ』
『私の努力もよく分かんないけど。姫様が、何か関係することかしら?』
思い当たることが無いのか、困惑した顔のメアリーが俺の方を見てくる。
『トウマ。ルト族の居住区へ行くついでに、チャビーもスタッフルームへ呼んでくれ』
「チャビーですか?」
『ああ、そうだ……。正式に我が軍へ参加する、ルト族のリーダーをな』
『正式って……。それって、もしかして?』
何かを期待するようなメアリーの視線に、ギャミン中尉が薄い笑みを浮かべた。
* * *
『ふむ……。メアリーの淹れた茶を飲むと、戻って来たという感じがするな……』
エルフ騎士のアニメ調イラストが側面に描かれたマグカップに口をつけ、スタッフルームの壁に設置されたモニター画面をギャミン中尉がチラ見する。
三十人程いるルト族の居住区を映す船内カメラには、二足歩行する犬人達の日常生活がリアルタイムで映されていた。
子供用エアバイクを操縦しているのは、星型のサングラスを掛けた黒い柴犬頭のルト族だ。
空中浮遊するエアバイクが、通路を歩くルト族の一人に声を掛ける。
垂れ耳が特徴的なビーグル頭のルト族が、車輪の無いエアバイクの後部座席に乗った。
俺達がいるスタッフルームへ向かって来るのを、画面分割された映像カメラの一つで視認する。
『なによ。それはもしかして、褒めてるつもりかしら?』
『そうだな。お堅い軍人が出す飲み物は、どうにも私の舌に合わんらしい。小難しい会議ばかりが、続くせいかもしれんがね』
ギャミン中尉の言葉に、満更でもない笑みをメアリーが浮かべた。
テーブルの上に置いてた別のコーヒーポットを傾け、ご機嫌にマグカップへ注いでくれる。
『はい、トウマ』
「ありがとう」
地球人の俺が好む舌に合わせた、地球産のコーヒー味を思い出す合成飲料を口に含む。
スタッフルームの扉がスライドし、大きな茶色の垂れ耳が特徴的な宇宙ワンコが顔を出した。
体長一メートルの小柄なルト族が、俺の隣にある空席の椅子に座る。
「ワン!」
『なんだ、チャビー?』
「お帰りなさい、だそうですよ」
『そうか。ありがとう』
船内どころか宇宙で一人だけかもしれない、ルト族の言葉が理解できる俺が伝えてあげると、ギャミン中尉が薄い笑みを浮かべた。
『チャビーも来てくれたから、さっそく本題に入ろうか。正式な話は皆を集めた会議でするつもりだが、トウマ達に深く関わるところだけを先に話しておくぞ……。まず一つ目、本部直轄の混成特務隊が新しく創設される。この多目的船と所属する支援部隊は、そこへの配属が決まった』
『本部直轄って、どういうことよ?』
『順を追って説明しようか。太陽系を脱出するまでの間に、ルト族の実戦データをログに残していたのだが。私が本隊へ提出したデータに、今後の戦略を考える軍上層部の参謀本部が食いついてな。本来の作戦任務から逸脱した行為をして、トウマを救出した私に対する査問委員会を開く予定が中止になった。いろいろと根掘り葉掘りと聞かれてな……。なかなか大変だったよ』
当時の記憶を思い出したのか、ギャミン中尉が遠い目をしながらマグカップに口をつける。
『これから私が話すことは、口外しないで欲しいのだが……。私達がトウマを助けたことは、軍上層部の命令で行われたことになった』
『……え?』
メアリーの表情が、困惑した顔で固まる。
『軍上層部とのつじつま合わせは私の方でやるから、軍内部の事情を君達が深く考える必要は無い。ただ、私がトウマに依然した話は忘れてくれ……。地球人の君は、ただの民間人ではなく。参謀本部と姫様が秘密裏に進めていた計画の過程で救出され、合格基準を満たした重要人物として正式に登録される』
「じゅ、重要人物ですか?」
『そうだ……。メアリー』
『な、何よ?』
『生態研究所が中止にしていた、ルト族の実戦訓練案は試験的に継続されていた。君は姫様の指示で、それに該当する地球人を指導していたと話を合わせてくれ』
『姫様の指示で?』
『うむ。全ては軍上層部の計画通りであり、我々はその一部に関わっていただけ……。という、やや強引なシナリオを軍上層部が描いてるところでな。それに我々が協力することで、トウマ救出に関する御咎めが無しということになったのだ』
ギャミン中尉が一呼吸を置いて、お茶をゆっくりと飲み干す。
『一番に戦略班が気にしてる点は、トウマとルト族が対話レベルの意思疎通をできてるところだ。しかし、それはトウマの主観的なところが大きく、我々がいくら研究データを取りたくても言語化のできない世界だ……。それでも実戦データとしては、我が軍に採用したいレベルの結果をルト族は出してくれた。軍上層部の戦略班が、真剣に検討するレベルでな……。メアリー、もう一杯もらえるか?』
『はいはい』
おかわりを催促され、メアリーがマグカップを受け取る。
『本部直轄の話に戻るが。今後を見据えて、私をリーダーとした新しい部隊を作り、試験運用をすることになった。この部隊はどこにも所属せず、総司令官から直通で送られる指示のみで行動する。要は本隊から離れて自由に動ける、独立した部隊になったのだ』
「ええっと……」
『簡単に言えば、今まで通りってことだ。大きく変わったのは組織内部という話で、トウマは私の指示に従ってルト族を指導してくれたら良い』
「な、なるほど」
小難しい話をされて、いろいろ不安になってたが。
それなら、俺にもできそうだ。
『それで。チャビーをここに呼んだ理由は、結局は何なの?』
「クゥン?」
ここまでの話にさっぱりついていけなかったチャビーが、メアリーから名前を呼ばれたのに気づいて小首を傾げた。
『事務手続きの都合でな。君達には当部隊のみで適用される、特殊階級を与えることになった。トウマには小隊を指揮する権限を持つ、士官である准尉の階級を。チャビーにはトウマの現場補佐として、軍曹の階級を与えることに決定した。これから二人共、よろしく頼むぞ』
* * *
◆【第22話】ブリーフィング
ずんちゃずんちゃと、賑やかなサウンドが耳に入って後ろへ振り返る。
星型のサングラスを犬頭に掛け、とってもカラフルな南国風シャツを着た、怪しげな風貌の二人組が目に入った。
体長一メートルの小柄なルト族でも乗れる、子供サイズのエアバイクが俺の傍に寄って来る。
『トウマ。軍曹って、どれくらい凄いワン?』
「急にどうした?」
俺の横を二人乗りのエアバイクが並走し、茶色柴犬頭のタマに質問の意図を尋ねた。
『チャビーに自慢されたワン』
運転手をしてる黒色柴犬頭のポチが、後部座席に乗るタマの代わりに答える。
通路を歩く足を止めて、肩に提げたショルダーバッグへ手を伸ばす。
ヤシの木やパイナップルなどのカラフルなシルエットの絵柄で、謎センスが光るトロピカルなシャツをチラリと見る。
これはもしかして俺のツッコミ待ちなのだろうかと、ふと疑問に思った。
地球大好きな、メアリーの趣味かとも思ったが……。
まだ顔も会わせたことのない姫様チョイスだったら、不敬罪と怒られるのが怖いのでいつも通りにスルーしておく。
「まだ作りかけの表なんだけどさ……」
ショルダーバッグの中から、取り出したノートパソコンを二人の前で開く。
文字をまともに読めないルト族のために、メアリーと相談しながら作った仮案の階級表が、パソコン画面に表示される。
目元に掛けた星型サングラスを頭の上にずらして、二つの犬頭が俺のパソコンを覗き込む。
「この一番下にあるのが、二等兵って言う階級で……」
チャビーの子供達が、写真画像で載せられた場所を指差す。
戦争未経験な子が一番最初になる階級を、指先を動かして円を描く。
「俺がいる准尉の下に、六つの等級があるんだ……。チャビーは、下から五つ目のココ」
二等兵、一等兵、上等兵、伍長と指先を動かし、軍曹と書かれたチャビーの犬顔写真が載せられた場所で指を止める。
『いっぱい、ルト族がいるワン』
「ん? ああ、数字よりもこっちの方が、分かり易いかなと思ってさ」
メアリーが用意してくれた、アニメイラストの犬頭マークをタマが指差す。
チャビーの隣りには、チワワ、ポメラニアン、パピヨン、シベリアンハスキー、ドーベルマンと五種類のワンコマークが並んでいた。
『トウマが、一番多いワン?』
「そりゃ、階級だけは一番偉いからな」
ポチが指差した先にある、俺の顔を映した写真画像の隣には、更にビーグルと柴犬が追加されていた。
表に載せれらたメンバーの中では最多である、合計七個のワンコマークが並んでいる。
『トウマ。僕らはどこワン?』
「君達はココ」
太陽系を脱出する時の戦争を無事に生き残った者達へ、自動的に割り振られた階級を指差す。
「下から二番目の一等兵」
チャビーの長男であるビリターの顔写真がある場所を、ポチとタマが覗き込んだ。
『どうしてチャビーだけ、こんな上にいるワン?』
「三十人いる群れを、俺の代わりにまとめてくれてるリーダーだからだよ……」
不満げな犬顔で、二人が俺を見上げている。
「じゃあ、次からはチャビーの代わりに指示を出してくれるか? チャビーの代わりに皆をまとめてくれるのなら。ポチとタマの階級を上げてくれって、ギャミン中尉に伝えておくぞ?」
俺の言葉に、ポチとタマが互いの犬顔を見合わせた。
『面倒臭そうだから、嫌ワン』
『僕達は、自由が好きワン』
「だろうね……」
二人が集団を指揮するリーダータイプでは無いことは、俺もよく分かってる。
「でも二人共、この前の戦いで敵をいっぱい倒したから。撃墜数だけはエース級だって、ギャミン中尉が褒めてたからね……。シュガー軍曹みたいな例もあるから。これからチャビーに並ぶ可能性も、ちゃんとあるぞ?」
獣みたいなギザギザの白い歯をギラリと光らせた、ギャミン中尉とは違うタイプの軍人女性が脳裏に浮かぶ。
『本当ワン?』
『僕達もなれるワン?』
目をキラキラと輝かせながら、期待する眼差しで二人が俺を見上げた。
「うん。次に向かう星は、機械生命体が地上に降りて悪さをしてるらしいぞ。初めての地上戦だけど、そこで頑張って活躍すれば」
『ポチ。訓練室に行くワン!』
『了解ワン!』
「あっ、そういえば。二人共……」
俺が言い終わるよりも先に、二人乗りのエアバイクが急発進した。
ルト族を溺愛する姫様からプレゼントされたらしいエアバイクが、ルト族の居住区を駆け抜ける。
「キャッ」
通路奥の曲がり角から、女性の悲鳴が聞こえた。
『こらっ。ポチ、タマ、危ないでしょ……。もうっ』
頬を膨らましたメイド姿のメアリーが、通路の奥から姿を現す。
それと、フリル付きの可愛らしいピンク色のワンピースを着た、ルト族のメスが後ろからついて来る。
白色の体毛に覆われた、柴犬頭のハナコだ。
『トウマ。もしかして、二人にも話をしたの?』
「途中まではね……。まだ決まってない階級がチャビーに負けてるって聞いたら、やる気満々で訓練室に行っちゃったよ……」
『なるほどね……』
俺の言わんとしてることを察したのか、二人が消えて行った通路の奥を見たメアリーが苦笑する。
「ハナコも含めて、ポチとタマは姫様の預かり者だし。前回と違って人手不足じゃないからさ……。どうしようっか? ゲームと違って、命の危険があるし。ハナコにも協力してもらって、やっぱり二人には諦めてもらった方が」
『無理だと思いますワン』
「え?」
俺を見上げる、白い柴犬頭と目を遭わす。
『もうゲームじゃ満足できないって、言ってましたワン』
「うーん……」
『トウマ。どうしたの? ハナコが何か言ってるの?』
未来技術であるエリファ族製の翻訳機でも、ルト族の言葉は変換できないらしい。
だから俺が、エルフ耳に通訳機能付きのイヤホンを装着したメアリーに、ハナコの喋った内容を伝えてあげた。
『そうね……。ルト族は、もともと根っからの戦士だし。本物の戦争を経験したせいで、狩猟本能が止められないのかもね……。分かったわ。本人達の意志を尊重しましょう』
「……え? でも姫様の許可無しで、勝手にやったらマズいんじゃ……」
『大丈夫よ。姫様との調整は、私がなんとかしておくわ。トウマは気にしないで』
「いや、でもさ……。この前は、たまたま上手くいっただけで。次は死ぬかもしれないんだぞ?」
最初の戦争で、不幸にも戦死したビタロー達の顔を思い出す。
『それは本人の責任ですワン』
「うーん……。本人の責任ね……」
『ハナコの言う通りよ。ここよりも安全な本隊へ移動せず、この船に残った時点で。みんな、覚悟はできてるわよ……。ポチもタマも、姫様のペットじゃないわ。もう立派な戦士でしょ?』
両膝を曲げたメアリーが、ルト族のハナコと同じ目線の高さになるよう腰を下ろす。
ハナコを後ろから抱きしめながら、彼女の肩越しにメアリーが真剣な表情で俺を見上げた。
『トウマ教官殿。二人を、よろしくお願いね』
「……責任重大だな」
正直な話、先日の戦争で優秀な戦績を残してる二人は、できれば継続して俺の部隊に欲しいところだ。
エリファ族が住む主星の姫様から頼まれた、預かり主であるメアリーが責任を持つと言えば、俺には何も言うところが無い。
二人の性格を良く知る彼女達の申し出に戸惑いながらも、ポチとタマが俺の部隊に加わることを了承した。
* * *
眼前にある扉がスライドし、大学の講義室を連想させる長机が並んだ室内が目に映る。
会議室には、エリファ族の軍人である褐色肌の女性が、気だるげな顔で頬杖を突きながら座っていた。
「おはようございます。シュガー曹長」
『あいよ』
他に誰もいなかったので、とりあえずシュガー曹長の隣りに座る。
『昇進おめでとうございます、シュガー曹長』
ルオー族の特徴である白い鳥羽を腕から生やし、人間よりは鳥に近い容姿をしたスノウ技師が、俺の隣に腰を下ろした。
『あー、ホントめんどくせぇなー。遠征へ参加する前に、辞めちまうべきだったぜ』
一緒に来たスノウ技師が開口一番に発言した内容を聞いて、シュガー曹長が口を尖らせる。
『あまり嬉しそうに見えませんね?』
スノウ技師がシロフクロウみたいな鳥頭を覗かせて、俺越しにシュガー曹長に尋ねた。
『そりゃそうだろ。軍人は偉くなっても、メンドクサイことしか無いからな』
外ハネした銀髪の後頭部で両手を組み、上半身を後ろに伸ばしたシュガー曹長が不満顔で答える。
『その気持ちは分かります』
エリート軍人であったが夢を追い求めて軍を退役し、民間の整備技師になった経歴を持つスノウ技師が、共感したように鳥頭で小さく頷いた。
「ギャミン中尉が、一日掛かりで説得したって聞きましたよ?」
メアリー経由で聞いた話をすると、シュガー曹長が口の端を吊り上げた。
『おうよ。俺は、縛られるのが嫌いだからな……。前の五月蠅い上司と違って、キャミーは割と自由にやらせてくれたからさ。最期の付き合いみたいなヤツで、遠征隊に参加しただけだからな……』
『この調子では。気楽な傭兵稼業の道は、まだまだ遠そうですね』
『ホントだよ、ったく……。お偉いさんが真面目に、ルト族を軍人にしようなんて思わねえだろ? スノウを整備技師に雇って、トウマと傭兵団を作る夢が破れちまったなー』
「その話、好きですね」
太陽系を脱出してから、三人でよく喋ってた雑談がまた始まる。
人手不足だった軍人の穴埋めに、ルト族のチャビー達が代わりに俺達を護衛してくれたおかげで、太陽系を無事に脱出することはできた。
でも正規の軍人となれば、俺以外にまともな意思疎通ができない宇宙ワンコだから、これからは傭兵稼業でもして小遣い稼ぎでもするかという、妄想レベルのおふざけ話だったけど……。
通りすがりに俺達の雑談へ加わって話を聞いてたギャミン中尉が、現状を有効活用できないかと真剣に考えて。
宇宙ワンコでも入隊できる、軍規や縛りの緩い傭兵団みたいな組織を本当に新設して、手土産に帰って来たのだから凄い話だ……。
『言っとくが、俺はまだ諦めてねぇからな』
シュガー曹長が前のめりに、冗談めかしながらニヤリと笑う。
そんな雑談をしてると、会議室の扉がスライドしてギャミン中尉が姿を現した。
『みんな揃ってるな? ブリーフィングを始めるぞ』
ギャミン中尉に続いて、白衣を着たサデラ科学班長も顔を出した。
教壇に上がったギャミン中尉が俺達を見渡す。
『さて諸君。異種族に拘らない混成特務隊として、初めての幹部ブリーフィングだ……。本来はシュマール族の軍人も、ここに参加してもらう予定だったが……』
部屋の照明が落ち、サデラ科学班長が映像出力装置を弄り始めた。
『昨日の全体会議でも話をしたが、シュマール族との防衛協定が上手く進んでいない。五星系を跨る広大な土地を占有する種族なので、この星系を離れる前に是が非でも、防衛協定を結んでおきたいのが総司令官や姫様のお考えだが……』
『ギャミン中尉、準備ができましたよ』
『ああ、ありがとう』
広大な銀河が背後のスクリーンに映し出され、壇上に立つギャミン中尉とサデラ科学班長が左右に別れる。
宇宙キノコ達が統治する五星系がズームアップされ、『第五シュマール星系』と書かれた俺達がいる星系の星々が拡大された。
『交渉の会合が長引いてる間、総司令官から混成特務隊の実地データを取るよう指令が出た。まだ未経験である地上戦のデータを得るために、我々はこの星へ降りる』
俺達が滞在中だった宇宙ステーションが拡大され、その近くにある星へ青い矢印が伸びる。
『オリガ大佐の護衛艦隊が敵大型戦艦と衝突した際に、いくつかの戦艦が逃亡した。近隣の星へと逃げ、現地の者達に被害をもたらしてるらしい……。その救出作業を支援するのが、我々の主な任務だが……』
壇上の中央に、立体化されたホログラム映像が出現する。
ダークグリーンの装甲に覆われた飛行型無人機が目に入り、どこか見覚えのあるデザインに嫌な予感を覚えた。
胴体の底にはタンクが取り付けられており、胴体の側面から四方に伸びた棒状の先端には、飛行可能なプロペラの機械が装着されている。
『これは先に降りたシュマール族の軍人が、地上で回収した物だ……。トウマにも一度、見せたことのあるタイプだな』
「はい。農薬を散布する時に使う、農業用無線機をモデルにしたヤツですね」
地球で数年もの間、ギメラウィルスが世界的に猛威を振るっても発生源を特定できなかった理由の一つを、サデラ科学班長達から聞かされた記憶を思い出す。
機械生命体は地球の無人機に目を付け、似たようなデザインの機械を作り出し、巧妙に地球外のウィルスを散布していた。
しかし俺を含んだ地球人は、過去の流行り病を克服したように抗体を自然と作り出し、生物兵器にも適応して生き延びることには成功したが……。
今度は未来技術を所有する機械生命体に、実力行使で滅ぼされたわけで……。
『トウマの言う通りだ。地球でも使用された、ギメラウィルス散布型ドローンであることは間違いない。問題はだな……』
『地球で発見された物よりも、ウィルスの型が新しいことですね。採取したウィルスを解析した結果、その脅威度は地球型の十倍を超えてました』
ギャミン中尉の視線に促されて、白衣を着た色白のエリファ族が口を開く。
サデラ科学班長の背後に映されたディスプレイに、研究レポートらしき文章とグラフが表示された。
『フンッ。俺達が地上に降りれない理由がコレか、サデラ?』
『そういうことになりますわね、シュガー曹長。あなたの持つ強い抗体でも、生き延びるのは厳しいレベルです』
『そうかよ……』
忌々しげな舌打ちが、俺の横から小さく聞こえた。
『我らエリファ族にとって、死に至るような猛毒を浴びる戦場だ。気密性の高いボディスーツを着てるとはいえ、万が一の可能性はある……。地上への降下部隊は、我々とは身体の構造が全く違う異種族、または生物兵器に耐えれる抗体を持つ者に限定する。よってシュガー曹長率いるフェアリー隊は、本船と共に上空からの援護をしてもらうぞ』
『……了解。エリファ族の軍人を、こっちに寄こさなかった理由がよく分かったぜ』
『そういうことだ。シュガー曹長』
己の命を天秤には賭けられないと、不満の色を含んだ声がシュガー曹長の口から出る。
『軍幹部が混成特務隊に、大きく期待してる部分がコレだ。地上へ降下できないエリファ族の代わりに、よろしく頼んだぞ。トウマ教官』
「了解です」
* * *
◆【第23話】地上へ
「移民申請が通ったんですか?」
ストレッチするように身体を動かして、支給された量産型パワードスーツの着心地を確認しながら、俺の耳に入った言葉をヘルメット越しにオウム返しする。
『はい。第五シュマール星系で、トウマさんの移民申請が無事に通りました』
白い水玉模様のある青いキノコ傘が特徴的な、シュマール族のリムドウ大使がホログラム映像越しに答えてくれた。
『ルオー族が避難した星だけでなく他の星でも、地球人であれば住むことができますよ』
「へー。そうなんですか」
『ワシが予想したより、かなり早かったな……。絶滅危惧種として地球人を申請した時に、賢老会が口を出してきたから政治家連中が動いたと妙な噂も聞いたが。本当なのか、リム?』
リムドウ大使と俺の会話に、赤いキノコ傘が特徴的な宇宙キノコが口を挟む。
『さあ? 大使である私の口からは、あくまで噂ですよとしか言えませんね……。百億近くいるルオー族の移民受け入れ対応に、どこもパンク状態の中でこのスピード申請ですから。五星系を跨る評議会の影響は、多少あったかもしれませんね……』
チョビ髭みたいなのを生やしたオリガ大佐の問い掛けに、青い複眼のリムドウ大使が視線を合わせて答える。
『ふむ……。どういう気まぐれかはしらんが。頭の固い枯れジジイ共が、他種族に干渉するのは珍しいことだな……。まあ、これでワシとしても、いろいろ動きやすくはなるが……』
パワードスーツのブーツ越しに、地面を歩く感覚も確かめるために移動する。
俺が歩き始めたら、カニ足のような銀色の四本脚をカチャカチャと動かして、二体の球体自立型無人機が俺の後ろをついて来た。
AIノアの指示により俺と足並みを揃えてくれる軍事ドローンからは、通話相手のシュマール族がホログラム映像で照射されている。
遠方の異なる星にいる二人と通話しながら、立て掛けていたパルスライフルへ手を伸ばす。
『エリファ族の本隊が滞在している主星に、トウマさんの居住区も確保してます。前にもお話しましたが……トウマさんがその気なら、いつでも住めますよ』
小柄なルト族が愛用するハンドガンタイプよりも、一回り大きいパルスライフルを弄っていた手を止め、リムドウ大使に視線を向けた。
「リムドウさん。ありがたい話ですが」
『大丈夫ですよ、言ってみただけです。あなたの意志が強いことは、分かってますから』
人型のような瞳は無いのに、どこか優しさすら感じられる青い複眼が、申し訳なく思いながら言った俺の顔をじっと見上げる。
『ワシは、まだ諦めて無いがな』
リムドウ大使の隣りで、触手の先端からニョキっと伸ばした複数の指で、チョビ髭を弄りながらオリガ大佐が不満げな感情を口に出す。
『オリガ。本人の意思を尊重するべきです』
『意志は尊重しているさ。ただ、エリファ族の星系までついて行かず、安全な場所で静かに余生を過ごすのも一つの選択肢だとワシは言っとるのだ。トウマは最期の地球人なのだぞ? わざわざ種を絶やすリスクを冒してまで、戦場に出る必要は無いと言うとるのだ』
『ルト族を軍人として採用するためには、彼らの声を聞けるトウマさんの協力が必要不可欠なのですよ』
『その話は何度も聞いとるわ。それこそ臆病者達の勝手な都合だろうが。肝心のエリファ族は何をしとる? ギメラウィルスが届かない安全な場所から、高みの見物か?』
ホログラム映像のオリガ大佐が、怒りを含んだ声色で触手の指先を天に向ける。
オリガ大佐が指で突き上げた先には、雲をかき分けながら千メートルあたりを飛行する、さっきまで俺が乗っていたエリファ族の多目的中型宇宙船が浮遊していた。
『奴らが中途半端に地球へ干渉しなければ、地球人が滅びる寸前になることもなかったのだ。ワシらの移住計画が、頓挫になったのも奴らのせいだろうが』
『そのへんにしておきなさい、オリガ。あなたがエリファ族を嫌う理由は、よく分かってます……。ただ、もう少し言葉を選びなさい。仮にもエリファ族と交友関係のある、トウマさんがいる前なのですよ?』
『フンッ、知った事か。それこそ、友人は選ぶべきと言うヤツだ』
異なる星にいる者達が通信機越しに、やいやいと言い合ういつもの夫婦喧嘩が始まった。
この状況を見ていれば、エリファ族とシュマール族の防衛協定が上手くいってない理由がよく分かる。
『地球人を救えなかったことで、我々はシュマール族にすっかり嫌われてしまったようだ』と、眉をひそめながら現状を苦笑混じりに教えてくれたギャミン中尉の顔が脳裏によぎった。
『そんなに嫌いなのでしたら。どうして今回の作戦に、エルマを紹介したのですか?』
『ギャミン中尉は、エリファ族の中では骨があるヤツだ。トウマをこちらまで連れて来た根性は、認めてやっても良いと思っただけさ』
『査問委員会に呼び出しをもらった者同士ですから、気が合うのですかね?』
『何か言ったか、リム?』
『いいえ、何も言ってませんよ』
視線を反対側に向けてボソリと呟いたリムドウ大使を、オリガ大佐が睨みつける。
オリガ大佐は俺達が太陽系から脱出する際に、軍上層部の指示を待たずに護衛艦隊を率いて、いの一番で救援に駆け付けてくれたシュマール族だ。
言葉遣いや性格に荒いところはあっても、悪い宇宙キノコではないことは誰もが知っている。
『それに星救いの英雄が乗っとる船だったら、ワシに似て気難しいアイツも乗船する気になるかもしれんからな』
『気難しいという自覚はあったのですね?』
『フンッ、いちいちうるさいの……む? 戻って来たぞ』
一台の大型エアバイクが、ジャングルの中から現れる。
深緑色の密林に覆われた茂みをかき分けて、試運転に同行していたルト族達も戻って来た。
樹々の中に身を隠せるように、迷彩色に装甲をカラーリングされた軍用バイクが俺達の前で停車する。
『どうでしたか、エルマ。乗り心地の方は』
『悪くないわね』
運転席に乗る赤いキノコ傘のシュマール族が、リムドウ大使に素っ気ない返事で答える。
『急にどうしたの、エルマ。さっきまで本物に乗れて、すごくはしゃいでたのに』
『ハンナ。余計なことを言わないでっ』
指導役として後部座席に乗っていた、整備技師であるシュマール族の姉を睨みつける。
足下から四本の触手を伸ばし、不機嫌そうな声色でエルマが運転席から降りて来た。
『新兵では乗ることができない、最新型の試作機だぞ。もしエルマが入隊試験をクリアしたとしても、コレと同型に乗れるのは数年先になるぞ』
『私はシュマール族の軍人になるのよ、何回も言わせないで。ていうか、もしってなによ、もしって。私なら余裕で、一発合格に決まってるでしょ』
オリガ大佐に容姿が似た同色キノコ傘のエルマが、鋭い眼光をホログラム映像に向ける。
『オリガの若い頃に、そっくりですね。調子に乗って初試験をやらかして、不合格になる未来まで同じにならないことを願いますよ』
『うるさいぞ、リム』
俺の前で歩みを止めたエルマが、白い水玉模様の目立つ赤いキノコ傘を斜めに傾けた。
相手からは顔色が覗けない仕様のスモークヘルメット越しに、白い胴体にある青い複眼が俺をじっと見上げる。
『アタシは絶対に。地球人を滅ぼしたエリファ族なんかに、手を貸さないからねっ!』
* * *
「ということで。彼女には随分と嫌われたようです。地上の案内役は、してくれるそうですが……」
ギャミン中尉が乗ってる宇宙船を見上げながら、俺は先ほどのやり取りを説明した。
『なるほど……だいたい状況は理解した。トウマの正体は、まだ明かさないようにしてくれ。彼女の能力が、こちらの要求水準に満たしてるかを確認できるまではな……』
近くにあった小型輸送船がジェットを噴き出し、周囲の土埃が舞い上がる。
俺やルト族を運んでくれた小型輸送船が、上空にある宇宙船と合流するために地上から飛び立った。
『最期の地求人である君が、ここにいることが機械生命体にバレた場合、いろいろと面倒だ……。最悪、敵大型戦艦の群れを呼び寄せる事態になったら、少数部隊の我々では君を守り切れん』
「分かってます。常時スモークマスクは、起動したままにしておきます」
『そうしてくれ。民間人のスカウトは最優先事項ではない。我々を嫌うのは構わんが、それを戦場にまで持ち込むタイプを乗船させるわけにはいかん。まずは地上訓練のデータを取ることに集中してくれ』
「了解です。個人的には、嫌いなタイプじゃないんですけどね……」
腕に装着されたスマホサイズの携帯情報端末を開き、画面に表示された映像を眺める。
まさか他の所から覗かれてるとは思ってないのか、俺からは死角になる場所で軍用バイクの側面に頬ずりをする、宇宙キノコの姿が目に入った。
『廃品から軍用バイクに模倣改造したエアバイクを作って、小さい頃から軍人ゴッコをしてましたからね。父であるオリガ大佐への憧れが強いんです。その分、父の影響でエリファ族への偏見も強くなってしまいましたが……』
飛び立った小型輸送船に乗ってる整備技師のハンナが、ホログラム映像越しにエルマとの思い出話を語ってくれる。
『ギャミン中尉の判断には、私も賛成です。彼女は親族達の中では、オリガ大佐の菌糸を一番濃く受け継いでますから、才能はあるのですが性格も父親譲りですからね……』
「ハンナさん、菌糸ってなんですか?」
『人型の生命体が持つ、遺伝子と同じようなモノです……。エルマはオリガ大佐の菌糸を七割、リムドウ大使の菌糸を三割と受け継いでます。まだ軍人に入隊してない民間人というカテゴリでは、一番おススメな子ですが……』
『待て、トウマ教官。問題発生だ』
俺達の会話を遮るように、ギャミン中尉の鋭い声が耳に入る。
『高速接近する識別不明機を、多数確認しました』
AIノアの淡々とした声が続き、上空から眩い閃光が視界に入る。
視界を上に向けると無数の赤い光弾が、俺達が乗っていた宇宙船を覆っていた。
* * *
◆【第24話】???
数多の赤い光弾が飛来し、上空から爆音が耳に入る。
寸前で展開したらしい宇宙船を覆う青色シールドに、次々と光弾が容赦なく撃ち込まれていた。
『なにボーっとしてるのよ、トウマ。早く乗って!』
エルマが操縦する軍用バイクが、俺の前に止まる。
『森へ逃げるのよ! 早く身を隠さなきゃ。上から戦闘機で撃たれたら、みんな穴だらけにされちゃうわよ!』
怒鳴り散らすエルマに言われて、ようやく混乱していた頭が動き出す。
みんな――。
エルマの言葉に、興奮しながら空へ吠える犬頭のルト族達が目に入る。
「チャビー、森へ逃げるぞ! みんなを安全な場所へ逃がせ!」
『了解ワン!』
「オオーン!」と遠吠えするチャビーの声を聞いて、周囲に散っていたルト族達が駆け寄って来る。
俺も後部座席に慌てて乗り込むと、手乗りサイズの球体ドローンも飛び込んだ。
AIノアが操作する球体ドローンが、下部から生えた四本の銀色カニ足で、前方の座席にしがみついたのを視認する。
『シートベルトを締めて! 飛ばすわよ!』
軍用バイクが急発進をし、身体が後方に仰け反りそうなくらいのGが掛かる。
再び目を空へ向けたら、見覚えのあるカブトガニ型の小型戦闘機が、大量に出現しているのに気づいた。
宇宙船の周りを包囲するように、沢山の敵船が飛び回っている。
軍用バイクが森へ入る寸前に、上空で数機の小型戦闘機が急カーブを描き、地上にいる俺達の方へ急降下する様子が目に映った。
視界を樹々で遮られた上空から、森の中へ逃げるルト族の集団に目を向ける。
森へと駆け込むルト族の最後尾を、ポチが運転する小型エアバイクが飛んでいた。
後部座席に乗るタマが上空に向かって、牽制をしてるのかハンドガンを撃っている。
ポチ達の小型エアバイクも森へ入り、俺達が寸前までいた場所へ赤いレーザーが、雨のように降り注いだ。
『トウマ教官、そちらは無事か?』
「危なかったですが、なんとか生きてます。そっちは大丈夫ですか?」
『こちらも被害はゼロだ。シールドは問題無いが、どうにも数が多過ぎる。安全を確保するのに時間が掛かりそうだ。トウマ教官は部隊を引き連れて、予定していた回収ポイントへ移動してくれ。地上にも敵が潜んでる可能性が高い、十分に注意しろ』
「了解」
公募用の新作ネタを執筆するのがメインだから、
こっちは亀より酷い、ナメクジ並みの更新だからね!