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血みどろの魔女

酒の入った瓶を大きな音を立ててテーブルに乗せる。

さほど、酒が飲めるわけでもないからやけ酒というのには程遠い。

酒を飲みきる前にコップに酒を注ぐ。


「飲み切ってから入れてよね」


「うるせぇな、なんでもいいだろ」


そこで、一杯グイッと飲み切れば格好はつくと思うのだが、あいにく俺は飲めないのでコップに右手を添えるだけだ。

窓の外は白に近い黄色の月が登っていて、部屋を照らしている。

何一つ雲もなく、綺麗な月だ。

明日ぐらいには、満月になるだろうか。


「やけ酒がしたいなら、一気に飲めばいいのに」


「んな事したら、明日二日酔いで頭が痛くなるだろうが」


「……あぁ、そうだったね。

ごめんごめん。

君はなかなかのバカだもんね」


「んなっ!?」


そう言うと、ベッドに潜り込んだ。

この宿は安いわりには設備がなかなかいい。

何か訳ありなのだろうか。

そう考えると背筋がヒュッと寒くなる。


「なぁ、元天使って悪霊退治とか出来るのか?」


「はぁ?

君、頭でもやられちゃった?」


「な、なんでもいいから答えろよ!」


「悪霊って言ったってねぇ、霊のほとんどはあっちに閉じ込めてあるから出てこれないと思うけど」


俺は軽く首をかしげる。


「あっち?」


「そ、霊界(あっち)

扉を開けられるのは、天使と神様だけ。

まぁ、例外として呪いの類で出す人もいるけど……。

基本は、出て来れないよ。

だから、天使と神様は扉を開けられるし、霊を還す事も出来るわけ。

“元”はしらないけどね」


俺から目を背けると、掛け布団を頭まで被せる。

もう話したくない、という事だろう。







夕方が近くなると、街の人々が騒ぎ始めてきた。

不穏な空気を発している。

近くにいた、野菜を売っている女性に声をかけるとビクリと体を震わせる。


「何があったんだ?」


「あ……あぁ、あのね昨日の夜からチェルニーあたりで人がいっぱい死んでいるそうよ」


「チェルニー?

なんでまた……」


「さぁ?

よくわからないわ…」


ジェラルドと視線を合わせると、ジェラルドは首を傾げた。


「行くぞ」


「どこに」


「チェルニーに決まってるだろ」


「君はとことんバカなんだよね。

まぁ、いいよ。

君に死なれたら困るし」


俺が走り出すと、後ろからほぼ同じようなペースでついてくる足音が聞こえてくる。

しばらく走り続けていると、俺とエミリアが初めてあった場所に出た。

俺は横目で見て、止まる事なく走り続けた。

チェルニーまであと少しだろう。


「そういえば、どこまでいくの?」


走り続けてずいぶん立っているのに全く息があがらないままジェラルドが質問する。


「そうだな……。

まずはエミリアの家あたりまで行くか」


俺も息はあがっていないが、少しだけ足に疲労感がたまる。

ジェラルドと違って人だからな。

空を見ると、あっという間に暗くなっていて長い時間走り続けた事がよくわかる。

エミリアの家に近づくにつれて、鉛のような血の匂いが強くなってくる。


「……なんだ?

っ!?」


この街に住んでいた人たちだろうか、皆左胸が裂けていて体の横に心臓だったものと思われるものが置いてある。


「これは酷いね」


鼻をつまみながら言うので、声が半音高くなっている。

鼻と口を覆うように手を被せ俺は辺りを見回した。


「……ジェラルド」


「はいはい」


ジェラルドは、死体の頭に手を触れ目を閉じた。

数秒もたたぬうちに、死体から離れると俺の目の前の真っ直ぐに続いている道を指差した。


「コッチに犯人がいるよ。

行く?」


「当たり前だろ」


「めんどくさ……」


周りに気を使いながら歩いていくと、家が少なくなっていきやがて何も無い草原に出た。

今日の大きい満月を背中に一人の少女が立っていた。

白いワンピースに赤黒いものが付着していて、白だとわかりにくい。

そして、顔の半分を隠すように薄いベールを被っている。

少女はこちらを認識すると、片手間に持っていた赤黒い塊を地面に落とす。

口を横ににいっと広げると子供のような無邪気な笑みを浮かべた。


「エミリア……?」


白い毛並みも赤黒く染っていてわかりにくかったが、耳の青い線の模様と笑い方でわかった。


「エミリア、なんでこんなことーー」


「あなたが悪いのよ。

私、なんどもなんども助けを呼んだわ。

あなたが、言わなければ」


「何の話だよ!?」


俺の声がもう聞こえないのか甲高い笑い声であたりを包み込む。

皮肉な事に、血にまみれて笑い狂っているエミリアの姿は満月のおかげか美しく見える。

そんな事を考えていると、いつの間にかエミリアが俺の目の前に来て短剣を心臓に刺そうとしている。

左に体を逸らすと、エミリアの短剣を持った右手は宙を切った。


「ーーっ!」


腰についている剣を取り出して構えるが、エミリアを殺すなんて到底不可能だ。


「彼女本来の力を上回っている。

何を迷ってるのか知らないけど、君だって一般人の力を上回っているんだ。

勝てるだろ?」


「力の問題じゃねぇんだよ!」


短剣を振り回すたびについている血が飛び散って行く。

俺にしか狙いが定まっていないからか、ジェラルドは涼しい顔でため息をついた。


「んなっ!」


バランスを崩し、後ろに倒れこむとエミリアが上に覆いかぶさって剣を持っている右手を短剣を持っている右手で抑え込む。

その力はいように強くて、手首の血の流れが止まりそうなほどだ。

なんとか離れようと左腕に力を入れた瞬間、エミリアの右手の力が無くなり、俺の上に倒れこんだ。


「は?」


エミリアの背後には血に濡れた剣を持ったジェラルドが冷たい目線で俺を見ていた。


「あぁ、なったら死ぬしか楽になる道は無くなる。

僕は彼女を楽にしてあげただけさ」


そう言うと、自分のマントでエミリアの血を拭き取る。

俺のお腹部分に暖かい物が広がっていく。

エミリアを退けると、案の定俺のお腹あたりは血で赤く染まっている。

エミリアの体は暖かさを無くしてすでに冷たくなっている。


「……」


「ま、こんなことが出来るのは……」


そう言ってジェラルドは、俺の後ろを睨んだ。

振り返ってみると、黄色の毛並みで黒に近い紺色をベースにしてマントの淵に白い線のような模様が描かれているマントを羽織っている男がニコニコと不気味に笑っていた。


「くっくっくっ……いやいや、お久しぶりですね」


「やはり、君の類なんだね」


「え、何?」


状況が読み込めないまま、俺を挟んで二人の間には不穏な空気が漂っている。


「お前だれだ?」


「あぁ、初めまして。

私はモーリスと申します。

よろしくお願いしますね、ギコラスさんジェラルドさん」


「なんで、俺の名前知ってるんだ?」


クスクスと静かに笑うだけで、俺の質問に返答はしないままジェラルドを見つめる。

はりつめた空気で、一歩でも動いたら殺されそうな雰囲気だ。


「君があの子に呪いをかけたんだろ?」


「やめてくださいよ。

まるで、私が悪いみたいじゃないですか。

私は、彼女の願い通りにしてあげただけですよ」


お互いに逸らす事のない、その目の奥には俺には理解出来ないような感情が眠っている気がする。


「まぁ、あまり私が居ても空気が悪くなるだけですよね?

また会えるといいですね」


目を開けているのも辛いほど強い風が一瞬吹いたと思った、次の瞬間にはモーリスはいなくなっていた。


「おい……ジェラルド」


「さぁね。

悪魔の行き先なんて知らないよ」


「!?」


悪魔だったのか……。

俺は立ち上がると、背中の砂を払った。


「知り合いだから、天使同士かと思ったよ……」


「悪魔だって、元は天使さ」


「え?」


「はぁ……。

まぁ、細かい事は後で話すさ。

とりあえずその子を埋めた方がいいんじゃない?

少しぐらい休ませてあげなよ」


「あ……あぁ。

そうだよな」


俺はエミリアを抱き上げ俺とエミリアが初めて出会った場所へ向かった。

そこに埋めるのが正しいのかしらないが、そこが一番景色がいい気がしたから。



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