尋問という名の拷問
腹部の強い衝撃で目が覚めた。
周りはとても薄暗く、早く慣れるように目を細める。
ようやく目に入ってきたのは、薄汚れた壁と温かさも感じない床。
余計な物は何一つ置いていないように見えるが、よく壁を見ていると壁に何かがたくさんぶら下がっていたり立てかけてある。
ここからじゃよく見えない。
横なっていた体を起こして、辺りを見回すと、誰かがいることに気づいた。
黒を基調とした服に帽子を深く被っている男が二人。
口元はニヤニヤと下品な笑いを浮かべている。
「おはよう」
帽子を深く被っているうちの一人の男がエミリアに言う。
エミリアは、返事をしなかったが無意識のうちに体が強張っている。
二人は帽子を取ると、部屋のドアの所まで投げた。
片方は白い毛色に温厚そうな垂れ下がった目をして下品な笑みを浮かべている。
もう片方は黄色い毛色に胡散臭そうな種族特有の笑みを浮かべている。
「おい、レナード。
こいつ返事すらしねぇぞ?」
「ラルフはいちいち気にしすぎモナ」
「まぁ、いいや」
ラルフは、エミリアに指を指すと再びニヤリと笑う。
「君は“魔女”だろ?」
「……ッ違う!」
「ふぅん……」
別に動けないようにされているわけではないが、エミリアは足がすくんで立てないままでいた。
不安そうな視線でラルフとレナードを見る。
ラルフは、動けないままのエミリアのみぞおちを蹴る。
「っ!?」
「ほら、嘘はいけないよ?」
後ろに倒れこみゴホゴホと咳き込む
。
青色の瞳は涙ぐんでいて、その顔がそそるのかラルフとレナードは恍惚
そうな表情を浮かべている。
レナードは、壁にぶら下がっているナイフとワイン瓶を取り外した。
「あぁ、道か?」
「大正解モナ」
レナードは、四、五本取り外すとエミリアの目の前で地面に投げつけて割る。
エミリアの目の前からレナードの所まで十メートルほどの道を破片で作った。
「ほら、コッチまでおいでモナ」
ニコリと可愛いとは程遠い不気味な笑顔で笑う。
ラルフは、レナードから渡されたナイフを手に持って振り回している。
「……っむ……無理っ」
ラルフは、ナイフを持ったままエミリアの脇に手を入れて無理やり立たせる。
しかし、腰が抜けているのか足が震えているからなのか、ラルフの手伝い無しでは立てない。
「立たないと君のお腹さいちゃうよ?」
「ひっ…!!」
エミリアの顔が一気に真っ青になる。
ラルフが離れると、膝がガクガクと震えながらも必死に立っている。
「早くおいでモナ」
足を踏み入れようとすると、ラルフが一度動きを止めさせた。
何かとエミリアが見ると、ラルフはかがんでエミリアの靴を脱がせて遠くに投げた。
「コッチの方が動きやすいよね」
震える足でゆっくりと破片の上に足を置く。
そこに体重をかけると、パリパリという破片と破片が割れる音と擦れる音が何も無い部屋に響く。
「ぐっ…!」
すでに顔は涙でくしゃくしゃになっていて、息も乱れていた。
「しかたないなぁ」
「ちょっ!何すーー!!」
ラルフは破片の上に乗らずに、エミリアの両手を掴むと歩くスピードでエミリアを引っ張る。
エミリアの歩いた後には血が付いており、ぬらぬらと輝いている。
息と声が混じった叫び声をあげながら引っ張られてエミリアはようやくレナードの所までたどり着いた。
「っはぁ……はぁっ…」
フラリと体制を崩しレナードに持たれかかるがそれも一瞬の事で、次の瞬間にはレナードの横に倒れていた。
気を失ったのだろうか、目を閉じたまま開かない。
二人は目を合わせると、両手を広げた。
レナードが破片を片付けている間、ラルフがどこから持って来たのか茶色く濁った水をバケツいっぱいにいれて持ってくる。
そして、エミリアの頭を掴んで泥水の中に顔を入れる。
最初はブクブクと泡が下から出るだけだったが、肺の中の空気が無くなったのか、バタバタと体を動かして逃れようとする。
頭を上げさせると、息を激しく乱れさせる。
「言っちゃいなよ。
“魔女”ですってさ」
「はっ…はっ…」
「……」
もう一度頭を泥水の中につけると、今度は何か叫んでいるのかゴボゴボと音が微かに聞こえる。
エミリアが足をばたつかせるたびに、足についている破片と血が飛び散る。
「がはっ!!
はっ……はっ…」
ラルフが顎で指示すると、レナードは後ろからエミリアの背中にナイフを突き刺す。
しかし、内臓まで届かないように浅めに刺す。
「ひぎゃっーー!!」
エミリアが叫ぼうとすると、ラルフの手によって泥水の中に頭を入れさせられる。
頭を上げさせるともう一度ラルフが言う。
「“魔女”か?」
「っ……はぁ……はぁ」
再び泥水に入れようとすると、二人の後ろのドアがギギッと軋んだ音を立ててあいた。
ドアがあくとほぼ同時に二人はドアの方に振り向いた。
中に入ってきたのは、ラルフと同じ種族で黒に近い紺色をベースとし、淵に白い線が入って首元で一つ折られているマントを羽織った男だ。
見たところ約二十代前半の男だ。
「……何の用だ?」
「その子と話がしたいんです」
丁寧な口調に優しそうな笑みを浮かべている。
ラルフは、エミリアを地面に叩きつけると立ち上がった。
「悪いが、許可無しには……」
言葉の途中でいきなりラルフは、その場に倒れこんだ。
「ラルフ!?
いったい、何をし……」
男に話を聞こうとしたレナードも喋り切る前にはその場に倒れてしまった。
虚ろな瞳のエミリアでも、状況が理解出来たのか、肺の中に入った水を出すこともできない固まっている。
そんなエミリアの目の前に男はしゃがみ込み、同じ視線になった。
「あなたは、“魔女”じゃないのでしょう?」
背中をさすられ安心したのか、エミリアはゲホゲホと咳込んでいる。
しばらく咳込んで、落ち着いたのか涙ぐんだ表情で男を見つめる。
そして、小さく頷いた。
「まだ死にたくは無いでしょう?
助かりたいのでしょう?」
「……うん」
「なら、私があなたを助けてあげましょう」
ニヤリと不敵に微笑みエミリアの両頬をを両手で触れる。
「憎いでしょう?
あなたを“魔女”にしたてあげた人が、隣人が、知り合いが。
助けてくれるはずの方も来てくれなかったのですね……」
ポロポロと、エミリアの瞳から涙が溢れていく。
そして、再び小さく頷いた。
男の背中から、三枚の対になった羽根が出たと思うとエミリアを包んだ。
数分立つと羽根は元からなかったかのように何もなくなっていた。
一つ変わった事といえば、エミリアの顔を隠すようにベールがかかっていた。
「うん。手始めに彼らからやるといいですよ」
「……」
いつの間にかエミリアの手に短剣が握られていた。
冷たい眼差しで短剣を見つめると握り直し、そのまま近くにいたレナードの体を切り刻み始めた。
「体っがぁ!!
動かっ……ぎゃっ!…動かなっ」
エミリアの様子を見ながら男は、顔に手を当てて笑っていた。