BER タカラ
「はぁ……」
「ため息多すぎ。
これで何回目だと思ってるの?」
「うるせぇな。
後悔してんだよ、いろいろと」
俺は手に持っている小さなコップを机に大きめの音を立てて置く。
その拍子に中に入っている氷がカランと綺麗な音を立てた。
木で出来た綺麗なカウンターに、小さめの椅子。
ほとんど客はおらず、俺とジェラルドだけだ。
もっとも今が昼間だから、という事もあるのだが。
カウンターの奥に居る黒いベストを来たマスターと思われる男が奥の棚にワインの瓶を並べて、店員であろう傷痕だらけの女性がコップを白い布で拭いている。
「はーぁ……。
やっぱよ……エミリアがあんな風になったのは俺のせいだよなぁ」
「元はそうだとしても、あんな姿に変えたのは彼だよ」
そういうと、クイッと酒を飲み干した。
顔色一つ変えないままマスターに追加を頼む。
金払うのは俺なんだよ、この野郎。
コップに酒を注ぎ終えると水色の毛並みでニコニコした顔つきのマスターがジェラルドの前にコップを置いた。
そして、カウンターの所に肘を置くと笑顔のまま俺らに話しかける。
「お客さんたち、まだ昼間なのによく飲めますね」
あははは、と楽しそうな笑い声をあげる。
俺らの雰囲気を察してなのか、優しそうな声色で、話しかける。
「嫌な事があったときは、飲んで忘れたいだろ?」
「あぁ、それはそうですよね。
僕も同じですよ」
そこからお互い話が弾みドンドン会話が進んでいく。
隣にいるジェラルドの様子を見ると、話に入るつもりは無いのかどこか遠くを見つめながら酒を飲んでいる。
会話が弾むと、酒も進むようで俺の体は火照って行き頭はクラクラとして来た。
手元にある酒に口をつける。
ギコラスは酒が回っているのかゲラゲラと大きな笑い声をあげて、マスターの方もギコラスから酒を貰いチビチビ飲んでいる。
「「働けよ……ん?」」
僕の呟きと、誰かの呟きがハモリ僕は左横を見ると、茶色の毛色に傷跡が赤黒くくすんでいて、エメラルドグリーンの綺麗な目をした女性が立っていた。
おそらく店員だろう。
長いワイシャツの袖は肘あたりまでまくっているが、腕にも傷跡が残っている。
黒の長いズボンに、腰あたりに黒に近い紺色のエプロンをつけている。
「貴方もそう思いますか?」
少しカタコトの言葉で僕に問いかける。
国が違うのだろうか。
左の耳は根本から千切れており、見るからに痛々しい。
「あぁ、思うよ」
目の前の女性は、少し怒りの混じった顔をしてため息をついた。
その顔つきは生まれつきなのだろうか、思い返してみれば、コップを拭いている時もそんな顔だった気がする。
「おー…えっと、ディアナだっけ?
お前も酒飲もうぜ!」
ギコラスが赤い顔でディアナと呼ばれた傷跡だらけの女性に向かって手招きをする。
しかし、ディアナはふぅ、とため息をついた。
「私はお酒飲めないんです。
すいません。
……ところでタルコットさん」
「は、はい?」
「私達は、お酒を飲むのは営業時間外にしてくれませんか?」
腕をくみ、刺々しい口調で言い、そして鋭い目つきでタルコットと呼ばれたマスターを睨む。
タルコットは、ビクビクした表情で苦笑いを浮かべている。
「いや、あの、ま、まぁいいじゃないですか。ねぇ?」
「僕に同意を求められても困る」
僕を見るタルコットの同意を拒否すると、タルコットは眉を下げて困ったような顔をした。
ディアナは眉をしかめてため息をついた。
「はぁ……。
今日だけてすよ?」
カウンターの中に入り、タルコットの隣に立つと手元にあった誰のかわからない酒をほんの少しだけ飲んだ。
その姿を見た瞬間タルコットの目がキラキラと輝き(目が細いのでよくわからないが)とても嬉しそうな顔になった。
「ディアナさん……!
「よしっ!
じゃあ、飲むぞ!」
「おー!」
大して乗り気ではない、僕とディアナは互いに顔を見合わせて肩をすくめた。