表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/36

願い事

何か、怖い夢を見たんだと思う。

真っ暗な世界の中に自分の意思とは関係のない何かが居て、それが自分自身を操っていて。

そこまで言い訳を考えて、俺の思考は止まった。

なんど目を瞑っても、なんど現実を否定しても、今俺が見ている目の前の景色は全くもって変わらない。

むしろ、酷くなる一方だ。


「綺麗になりましたね。

貴方も上手くやったものです」


「……違う。

俺じゃ……ないから。

俺は何も……」


隣に立っているモーリスの手が、俺の顔が下に向きそうになるのを阻止する。

モーリスの手は俺のマントを襟を掴み、体を無理やりにでも起こさせ、信じたくない現実を視界に入れさせる。


「いやぁ、なんとも面白い光景でしたよ。

まさか、燃やすとは……ねぇ」


断片的にだが、俺の頭にいろいろな光景がよぎる。

ギコラスを殺そうとして、家に火を付けた事。

マッチを擦った感覚。

焼け始めの小さな炎。

今では大きな炎となり、俺の家を包み込んでいる。


「そうだ!ギコラス!

ギコラスは!?」


モーリスはクスクスと楽しそうに笑う。

俺は、怒りの感情が抑えきれずモーリスを睨んだ。


「さぁ?」


ニッコリと口を三日月型に開く。

目は薄っすらと細め悪魔がほくそ笑むような顔になっている。

いや、悪魔だけれど。

そういえば、俺はなんでこいつの名前を知っているんだろう。

なんで、ココにいるんだろう。

なんで、火を…。

思い出せない事ばかりで頭が、痛くなってきた。

火は勢いが止むこと無く燃え続けている。

俺とモーリスの体を赤く照らして。


「残念ながら、私のお目当の人物はいなかったんですよ」


ため息をつきながら、俺を地面に放り投げる。

その時に頭をぶつけたからか、それともモーリスが何かしたのか再び俺の頭はぼうっとして瞼が酷く重くなり、周りが暗くなっていった。

意識を失うほんの一瞬、モーリスの呟きがおれの耳に入った。


「さぁて、何処に逃げたのでしょうかね」







次に俺の意識が戻って来たのは、暗い教会のような場所だった。

実際ココが教会か、わからないけど神聖な空気を体に感じる。

体の疲れが休まるようだ。

その場に倒れている事に気付いたが起き上がる力もなく、その体制のまま射し込んできている月明かりを見ていた。

しかし、その月明かりを遮るように一人の男が窓の縁に座った。


「ココの教会、眺めが綺麗なんですよ。

高い丘の上に立っていて見晴らしが良いんですよ。

見てみますか?」


何をしてたのか、俺の体はどうも重く動けそうにも無い。

ただ、男の顔がよく見えるようにと顔を浮かせて上を見上げた。

声からしておそらくモーリスだが、顔を見ない限りなんとも言えない。


「……ふん。

悪魔は、教会が好きなのか?」


「好きも嫌いも無いですよ」


「なら、なんでわざわざ教会に……」


「彼が捨てた教会を見に来たのですよ」


クスクスと、モーリスは楽しそうに笑う。

長いことこの男と一緒に居た(ほとんど記憶がない)が、この男はいつも笑みを絶やさ無い。

これが悪魔と言うものなのか。


「自ら神父をやめたわりに、この教会が好きなようでしてね。

面白い物でもあるのかと思いまして」


何があるのか知らないような口ぶりをしているが、この男はおそらく知っているのだろう。

モーリスは、目を俺の後ろにやる。

動かない体を叩きつけて俺は、横になったまま体を捻らせ、後ろを振り向いた。

そこには、薄い緑の毛色で耳の先が内側に折れ、細くつり上がった目をした男が立っていた。

スーダンのような物を着ていて、神父なのだろうという事が分かる。

しかし、その男の顔はどこか余裕が無いような顔をしていた。


「モーリス。

久しぶりですね」


モーリスは返事をしなかった。

状況が読み込め無い俺には何も言えないし、そもそも体が動かないので何もできなさそうだ。

目の前の男は俺の姿が見えて居ないのか、モーリスだけを睨むように見つめている。


「ココに何の用事ですか?

貴方のような悪魔が、来る場所では無いはずでしょう」


「いやいや、ただ気になったのですよ。

貴方が捨てたこの場所を。

……貴方がこの場所を、その仕事を捨てたのは何回目ですか?」


「っ…!」


表情を見られたくないのか、俯いてフルフルと震えている。

あまり触れられたくない話題なのだろうか、狼狽している。

対してモーリスは、天使のような笑みを浮かべている。

目の前の男は、俺らに背中側を向けると何も言わず歩き出そうとした。


「どこ行くんですか?」


「ぐっ……!」


俺の目では追いつけなかった。

ものすごいスピードでモーリスは男の真後ろに行き、剣のような物を背中に突きつけた。

男の体からは血が溢れ出し、足元に水たまりを作った。


「……っお、前……」


「ほら、また貴方の悪い癖です。

自分のピンチに陥るとすぐに本性を出す…。

……もう手遅れなんですけどね」


モーリスが手を離すと、男に刺さっていた剣はいつの間にか無くなっていて、男は支えを無くしグラリとその場に倒れ込んだ。

モーリスは、男の顔の目の前でしゃがんだ。


「良いところに刺さったので、あまり長いこと死にそうにも無いですね。

おめでとうございます」


「……生き返るとは……いえ……辛い…」


言葉の途中にあるで力尽きたのか、体を小さく震わせ声を発しなくなった。

その様子に飽きてしまったのか、モーリスは男のそばを離れ俺の所に来た。

そして、襟元を掴み立ち上がらせるが未だ足に力が入らず崩れ落ちそうになるがモーリスの襟を掴んでいる左手がそれを許さない。

だいぶ慣れたあの感覚が押し寄せてくる。

瞼が重くなり、頭はぼうっとして何も考えられなくなる。

そして、俺は瞼を閉じた。

意識が戻っては自分のした事に後悔し、意識を失っては自我と言うものがなくなる。

そして、何度目か……何十回目かの意識が戻った瞬間、俺は全てに絶望をした。

目の前に浮かんでいる景色は懐かしい俺の仕事場。

力仕事ばかりだし、皆ガサツで乱暴だったが、最年少の俺にも優しく接してくれたいい人達が大量の血を辺りにぶちまけて倒れている。

意識が戻ったあと、いつも隣にいるモーリスを俺は見つめた。

モーリスは死体の山を見ているのかわからないが、目線はそちらの方を向いていた。


「なんでだから……。

お前は、何がしたいんだよ!?」



俺は自分より少し背の高いモーリスの襟首を掴んだ。

しかし、モーリスは表情を崩すことなく笑っている。


「何が目的?

私は面白い物を見たいだけですよ。

それ以外の事は望みません」


俺に襟首を掴まれた状態で、モーリスは俺の額の指先を添えた。

振り払おうとしても、体が動かず瞼が重くなってくる。

あぁ、またか。

そういえば、ギコラスはどうしてるだろうか。

元気だろうか。

そして俺は……いつになったら死ねるだろうか。

狂って自我を完璧に忘れられるのだろうか。

もう……つかれた。

人を殺すのも、大事な人を亡くすのも。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ