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突然の悲劇

まだ月が家の周りを照らしている時間帯。

僕は外の涼しい夜風に当たっていた。

木でできた古びた家。

その脇にある小さな小川と大きな木。

ここは普通の住民が住んでいる所からかなり離れた場所なんだろう。

周りには月明かりに照らされた青い草しか生えていない。

黒いマントは風が吹くたびにバサバサと音を立ててなびいた。






眠い目をこすり、起き上がる。

家の中はどういうわけか異常な静けさが包んでいる。

ジェラルドをおそらく寝ているであろう起こそうと僕は布団をはいでジェラルドの部屋の扉を開ける。


「ジェラルド、朝だ……。

あれ?」


ベッドは綺麗なままで、ジェラルドは部屋にはいなかった。

はやく起きて、たたんだのだろうか。

俺は部屋から出て、窓に近づき外を眺めた。

今日は何もやる気が起きない。

というか、ここ最近家の仕事がたまっていっているような気がする。

後ろにつんである洗濯物や食器の山にため息がでる。

ふと、その洗濯物の山の上に小さな紙切れを見つけた。

何かと思い手にとり、見てみるとそこにはこの家を出るという事を酷く完結的に書かれていた。

理由の一つでも書けばいいのに、何も書かずにその言葉だけがあった。


「……嘘…だろ?」


手力が抜けてヒラリと紙が手から滑り落ちて行った。

こんな時に限って、この状況に限って、なんで出て行くんだよ。

確かに働かないで、家にいられても迷惑だったけど……それでも、たった一つの……。


「……っ」


こぼれかけた涙を手の甲で拭うと俺はいつものように、家の仕事に手をつけた。

兄ちゃんのいる部屋からは相変わらず何かの落ちる音が聞こえてくる。

俺は、大きな足音を立てて兄ちゃんの部屋の前にたった。


「おい!

兄ちゃん!!

なんなんだよっ!なんで出てこないんだよ!!」


俺の叫び声にも兄ちゃんからの返答はない。


「なんでっ!?

なんでっ……こんなことに…」


足の力が抜けて、ヨロヨロとその場に座り込む。

俺の目からは涙がこぼれた。

一人で泣くというのはこんなにも寂しくて、辛いものなのだろうか。

いつもは、兄ちゃんのそばで泣いていたので涙のそばに温もりを感じられていた。


「……っ…」


俺の口からはだらしなく嗚咽がこぼれた。





どれほどの時間が経ったのだろうか。

気づいたら寝ていたらしく、顔は熱く火照っていた。

起き上がろうとすると、元ジェラルドの部屋のベッドに布団をかけて寝ている事に気づいた。

一体なんで……!

そこまで考えた頃には体が走り出していた。

着いた先は、兄ちゃんの部屋の前。

兄ちゃんがベッドまで連れてきてくれたんだ。

そう思って部屋をノックした。

不思議な事に、部屋からはいつもの物音が全くせず、静かな雰囲気だけが流れていた。

なんとなく、ドアノブを掴み回してみるとかちゃりと開く音がした。

普段なら、内側に物が置いてあり開かないようになっていたのだが、今日はドアを押すことができた。


「兄ちゃっ……!!」


ドアを開き、頬が緩んだまま部屋に駆け込む。

しかし、足を踏み入れた瞬間俺の目に入ってきたのは、誰もいない、真っ暗な部屋だった。

カーテンは締め切り、兄ちゃんがいたであろう場所には本がいくつか転がっており、部屋は恐ろしいほどに寒く感じられた。


「……兄…ちゃん?」


体の力が抜けていくのがわかった。

口を少しだけ噛んで、少しの可能性にかけて家の中を走り回るが、どこにも兄ちゃんの姿はない。

家から出て、外に行くが外の眩しい日差しで小川がキラキラしているのと、青々しい草木が生えているぐらいで兄ちゃんがここに居たという痕跡すらも残っていなかった。


「……そんな……。

嘘だろ?

兄ちゃん……どこに行ったんだよ」


視界がぼやけて鼻の奥がツンとする。


「…っくそ!」


当てどころの無い怒りと悲しみの中俺はただただ泣きじゃくった。

泣いて泣いて、泣き疲れて眠ってしまい、目を覚ました時。

そこには、兄ちゃんおろか暖かい布団の温もりも明るい電気もみんなの笑い声も聞こえることなどなくて、昼間居た、青々しい草原の上で俺は縮こまっていた。

空はすでに月が登っていた。


「……悪魔でもなんでもいいよ。

お願いだからさ……。

俺を……殺してよ」


虫の音も、風の音すらも鳴らない中、虚しく俺の声だけがどこかに消えて行った。



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