10月28日 水曜日 午後1時7分 新港市 港警察署 玄関
10月28日 水曜日 午後1時7分 新港市 港警察署 玄関
リュウとトウノの二人は公用車で港警察署に向かった。運転手はリュウだ。
建物の正面に車寄せが設けられていて、階段が玄関まで続いている。階段にテレビ局の撮影クルーがいた。テレビカメラや、ポールに固定された集音マイクをもって作業している。
二人が階段を上がると、警察署長の木野が待っていた。キノは初老の男で、階級を表す飾緒のついた制服を着用していた。隣に中年の男が立っている。
「市長司法調査室のリュウです」
「トウノです」
「署長のキノです。こちらはドイ警部補です。今回の捜査の指揮をとっています」
「ドイです。よろしく」
そう言ってドイは笑みを浮かべた。ドイは四十過ぎの痩せた男だった。安物のスーツを着ていて、生地が摩擦で部分的に薄くなっている。
玄関内は警官たちで騒然としていた。
「まず、署内が停電させられた電気設備室から案内します」
電気設備室は地下に設けられていた。配電盤を保護する鉄扉が並んでいる。現場鑑識班の制服を着た鑑識たちが現場検証していた。
「犯人は通気口から侵入したようです」
「ジョン・マクレーンかも」
リュウが小声でトウノに囁く。
ドイがファイルに綴じられていた写真をみせる。焦げて切断された電線が写っていた。
「犯人は時限装置を仕掛けていました。高圧遮断器に接続する電線を露出させ、それにマグネシウムの粉末を塗布したんです。小さな穴をあけた紙コップに水を注ぎ、滴下する水が一定量に達したら、化学反応の発熱で電線が切れるようにしてありました」
「紙コップは?」
「署内のコーヒーサーバーに置かれているものです。水はペットボトルなどに入れていたと思われますので、署内のゴミ箱のものをすべて回収しています」
署員が犯人だった場合には、証拠を特定するのは不可能ということになる。しかし、ドイが不快に思うのを恐れてトウノは黙っていた。
「犯行当時の入館者は?」
「正面玄関には受付がいますし、そこを含め、すべての出入口には監視カメラが設置されています。停電時には機能していませんが。また、被害者を発見してすぐに部下を二人、出入口の監視に当たらせました。犯行があってすぐ署の内外の捜索に当たりましたが、不審人物、凶器ともに発見できていません。現在、犯行以前の監視カメラの記録をすべて検査していますが、今のところ、入館者は記録にある人物だけです」
トウノは意外な思いをもった。警備が予想より厳重だ。港警察署自体が、巨大な密室だったと言える。
「現在、捜査に当たっているのは?」
「私の班の五人です。今は全員オフィスにいます。紹介します。犯行現場にも近い」
ドイたちは電気設備室を出た。
「犯人は本当にジョン・マクレーンかもしれないぜ」
歩きつつ、リュウが小声で漏らす。トウノは言葉の意味に気づき、表情を緊張させた。ジョン・マクレーンは、ロス市警の刑事だ。