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公衆電話な女の子。  作者: 夕凪
第1章
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第4話

 あれから何時間くらい経っただろうか?

 目が覚めた俺はしばらくぼーっとしていたが先程の出来事を思い出し、一気に覚醒した。


 妹は死んだ。

 母さんも。

 父さんも。


 いや、まだ生きているかもしれない。

 そう思わないとクローゼットの扉を開ける勇気が湧かなかった。


 震える足に何とかいう事を聞かせ、立ち上がる。


 扉に手をかける。


 喉はカラカラに乾いていた。


 力を込めて立てつけの悪い扉を開けると…………。




 何もなかった。




 まるで最初から何もなかったかのように。



 部屋に飛び散った血も。



 死体も。



 あの強烈に吐き気を催すような血の匂いさえ。



 何もかもがいつも通りのリビングだった。



「そ、そっか、アレは夢か……うん、夢に違いない」


 そうやって無理やり自分を説得させるので手一杯だった。

 時計を見てみる。

 火曜の深夜一時。

 

 とりあえず、親と妹を探すことにした。


 だが、それから一時間かけて家の中をくまなく探しまわっても何も出てこなかった。



 こんな時間になっても親はともかく妹がいないということは明確に先ほどの出来事が事実であることを裏付けていた。



           ‡



 ひどく、疲れた。


 明日になればいつも通りになっているだろう。


 そんな希望的観測を抱いて。


 僕は着替えもせずに自室のベッドに潜り込んで目を瞑る。


 だが、脳裏を過るのはあの光景。


 呼吸が乱れる。


 このまま一晩もこの家で過ごすことに絶望感を覚える。


 時計を見る。ベッドに入ってからまだ二分しか経っていない。


 五分が過ぎたところでもう、限界が来た。


 布団を跳ね除け一階に降り、なるべくリビングを見ないようにしながら家から出た。



           ‡



 そろそろ夏が近づいてきたとはいえ、普段着のままでは少し寒く、上着を取ってこなかったことに軽く後悔を覚える。

 まぁ、こんなの妹を見殺しにしてしまった後悔に比べればなんてことない。

 そう、僕は妹を見殺しにしたんだ。

 死んででもいいから助けるべきだった。

 こんな後悔を背負うぐらいなら。

 当てどなくしばらくぶらぶらと歩いてみる。

 誰か、人に会いたい。

 

 ポケットに携帯が入ったままだったのを思い出して取り出してみる。

 アドレス帳を開いてそこに連なった名前に目を通していく。

 

 ふと、目が留まる。


 神岡七羽かみおかいろは


 中学校時代からの友達で非常に仲が良い。親友。

 周りからは付き合ってるんじゃないかと散々言われるが、実際問題、そういった事実関係はない。

 迷わずコール。

 コールしてから、もう深夜二時前で寝てるんじゃないかということに気が付いたが、すぐに相手が出たので頭の隅に追いやる。


『あら?こんな時間にどうしたのかしら?』

「あぁ、夜遅くにごめん。ちょっと人の声を聞きたくてさ。今日泊まりに行ってもいい?」

『事前に電話入れるなんて…こんなに堂々とした夜這いは初めてだわ。豚箱行っとく?』

「よ、夜這いじゃないよ!?…いや、確かによくよく考えてみれば深夜に女の子の家に行きたいとかどうかしてるよね…あ、でも色々あったから実際問題としては頭がどうかしてるのは認めるけど……通報はしないでくださいマジお願いします!!」

『……豚箱より精神科の方がいいのかしら…?責任能力がないとかなったら後々裁判で面倒だわ』

「裁判前提!?」

『なんたって社長令嬢を夜這いしようとしたんですからね。慰謝料はたっぷり請求するわ!』

「やめて!自己破産しちゃう!!」

『もちろん冗談よ。安心して』

「この間気に入らない教師をセクハラされたとか適当なこと言って慰謝料請求した挙句に自主退職に追い込んだあなたがそれを言いますか」

『あら?こっちが下手に出るとすぐ調子に乗るのね。やっぱり豚箱に……』

「さーっせんしたァァァァァアアアアア!!」

『それで……一体、こんな深夜にどうしたのかしら?いつもより元気ないみたいだけど…』


 さすが、七羽。

 声だけで元気がないことを見抜くとは……。

 なるべくいつも通りに話していたのだが……、付き合いが長いからな~。誤魔化しは効かないみたいだ。


「実は―――」


 そう言って昼間の出来事を話す。

 警察に話しても死体はおろか血痕すら残されていなければ相手にしてくれないだろう。

 友達だって信じてくれるか怪しい。

 でも、七羽こいつなら信じてくれるという自信があった。

 あと、他人に状況を説明することで、頭の中を整理することができた。


『ふむ、なるほどね……。事情は分かったわ。……でも、ごめんなさい。さすがに今からと言うのは無理だわ。事前に言ってくれないと』

「そりゃそうか……。悪かった。ごめん」

『わたしのほうこそ力になれなくて……ごめんなさい』

「おやすみ、七羽」

『おやすみなさい、優陽君』


 電話を切る。

 少し元気が出た。

 やっぱり人と話すと安心するな…。

 アドレス帳をもう一度開く。


 はぁ、やっぱりこいつしかいないのか……。


 都城晴翔みやこのじょうはると


 小学校からの腐れ縁

 親友というか悪友。

 寝ているかもしれないけど、こいつなら気にしなくていい。

 さっそくコール。


『やっぱりロリ小学生が背負うランドセルにリコーダーは外せないよな!!』


 電話を切った。

 なんでこいつはまるで僕が電話をするのを待ち構えていたかのようにワンコールで電話に出てロリトークを始めたんだろう?

 おかしい。

 晴翔がおかしい。

 どうしたんだ、一体。

 昨日まではまだおかしくなかったはずだ。

 いつから晴翔はロリコンになったのだろうか?コイツの好みは年上だったはずだ。小学校二年生の時から。

 人ってのは一日でこんなに変わるものなのか……。

 恐ろしいもんだな…。

 そこで、携帯が着信を告げる。

 晴翔から電話だ。

 とりあえず出てみることにした。


「……もしもし?」

『優陽?さっき電話かけてこなかった?』

「いや、かけたけど……」

『何で切ったんだよ。折角俺が世界の真理を導き出そうとしていたのに』

「頭、蟲でも湧いてんの?」

『酷いこと言うなぁ、友よ。まぁ、そのことは一旦置いておくとして』

「置いといていいのかよ。真理なんだろ?」

『貴様には話したところで理解できないだろうからな』

「……もしかしてお前宗教にでもハマったのか!?」

『あ、いやいや、それはないから安心して』


 ホントかよ…。

 世の中にはロリパワーだけで世界を滅ぼせるような輩もいるらしいし。


『それよか一体どうしたんだ?こんな深夜に』

「実は……まぁ、色々あって。今日、泊めてくれないか?家に一人でいたくないんだ」

『家出か?』

「そういうわけじゃないんだけど……」

『そうか……まぁ、何か事情があるみたいだな。いいぞ、来ても』


 さすが晴翔、頼りになるな。


「惚れちゃうぞ♪」

『キモイ死ね』


 死ねとか今の僕に言うなよ……。


次話は4/25 19時頃に公開する予定です。

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