第2話
僕、三沢優陽は悩んでいた。いや、落ち込んでいたという方がしっくりくるな。
あの何もできなかった無力感。
せめて妹だけでも助かれば……。
だがそんなことを考えても意味はない。
現実は非情だ。
とにかく今は過去のことをグダグダ考えても仕方ない。
これからのことを考えよう。
そう思っても中々過去のことを振り切れないのが人間である。
特に今回のようなこととなると、なおさら。
それにこれからのことを考えるとどうしようもない不安が襲ってきて僕も後を追ってしまいそうだった。
そんな風に考え込んでいたためだろうか。
丘の下の浜辺で僕と同じように海をぼーっと眺めているそれに全然気が付かなかった。
黒衣を身にまとった人影。
そう、公衆電話だ。
色々と考えて脳が疲れていた僕はしばらくそれに見入っていた。
―――なんで電話屋さんが海なんか眺めてるんだ?
基本的に、電話屋さんは人から呼びかけられない限り普通は立ち止まったりしない。
常に歩き続けるのだ。
「故障かな?」
と思ったものの、どうやらそういうわけでもないようだ。
故障した場合はピーっという高い音が連続的に鳴り響くからだ。
疑問に思ったので丘を駆け下り、後ろからゆっくりとそれに近づいてみた。
「もしも~し、電話屋さん?」
呼びかけられた電話屋さんはゆっくりと反転してこちらを向いた。
その胸のふくらみから女性型であることが分かった。
あと身長が結構高い。一六五センチはあるんじゃないかな?僕は小柄で一五五センチくらいしかない。
返事はない。
電話屋さんは喋らないのだ。
呼び止めて。お金を渡して。相手の電話番号を告げ。機械的なコール音が鳴り、相手が電話に出るとコール音が鳴りやみ。電話屋さんの口から相手の声で返答がある。
おそらく口の中にスピーカーでもあるんだろう。
まぁ、顔は見えないからあくまで口周辺から聞こえる、というのが正しい表現だが。
「ちょうどいいや。少し相談に乗ってよ」
一人で考えるのは疲れた。
電話屋さんは小首を傾げている。
電話番号を告げないで話しかけると首を傾げるのか…。初めて知ったぞ…。
そもそも、電話屋さんなんて使われているのを見たことがない。
そう、ケータイである。
十年ほど前から急速に広まりだし、今では誰でも持っている。
故に電話屋さんは完璧にいらない子扱いを受けていた。
むしろ歩き回るから邪魔だという意見も最近増えてきたらしい。
アレだ、路面電車みたいなものだ。道路をノロノロと走るから渋滞が起きやすく、邪魔なのである。まぁ、最近はトラムとか言ってエコな乗り物として見直されているようだが、公衆電話はそうはいかない。
「立って話すのもなんだから座って話さない?」
そういって砂の上に腰を下ろす僕。
電話屋さんが座ってくれるかどうかは分からなかったけれど、僕が腰を下ろすと電話屋さんも隣に座ってくれた。
ふむ……電話屋さんってかなり高性能なんだね。人が言った言葉をきちんと理解して動けるのか。
「僕さ、親がいないんだ」
電話屋さんは話の続きを促すようにコクッと相槌を打つ。
「ちょっと前、っていうかぶっちゃけ五日前なんだけどね、殺されたんだよ」
少し驚いて息を飲む気配がした。
………ホントに機械なのかな?これ。
次話は4/23 19時頃に公開する予定です。