第1話
次話は4/22 19時頃に公開する予定です。
彼の名前は三沢優陽。
海沿いの街に住む高校一年生。
彼は今、絶望の淵に立っていた。
春が終わりを迎え、桜の葉の色が濃い緑に変わり。
夏特有の、湿気を多分に含んだ風が海から適度に吹き付ける丘の上で海をぼーっと見ながら思案に暮れていた。
†
都内某所の研究施設。
そこで一人の男が部下から報告を受けていた。
「実は……例のアレ、試作機NDr―T01―2041号機が…その、内の研究員がミスをして誤って起動してしまい……」
「は?起動しただけなら問題ないだろ?電源切ればいいんだし。……もしかして暴れ出したのか?」
「い、いえっ!その点は大丈夫なのですが……」
「じゃぁ、何なんだよ。はっきり言えよ。俺だって忙しいんだ」
「その……逃げ出してしまい…現在行方が分からなくなっているのです」
「……………………」
男は驚きのあまり口がきけなかった。
「…つ、つまり、町に…?」
「はい。……本当に申し訳ございません」
「なっ…申し訳ないで済む問題じゃないだろ!?」
男は机をバンバンと叩きつけながら激昂した。
「アレはウチにとって今バレだら一番ヤバイものなんだぞ!?それを逃がしたって、おまえ、もし町で!」
その部下が机の音に怯みつつもこう言った。
「た、只今、研究所で総力を挙げて捜索を行っています」
「これだから使えないだよクズが!…で、何人くらいで探してるんだ?」
「まだ、アレの存在は極秘ですので事情を知ってる五十人です」
日本国内を五十人で捜索するとか無理だろ…。そう思いつつも男は言った。
「もういい、下がれ。あとは俺が上に伝えとく。首が飛ぶくらいは覚悟しとけよ。俺だって飛ぶかもしれねぇんだから」
「はい。申し訳ございませんでした。失礼しました」
そう言って部下は出ていった。
「クソッ!!」
そう漏らして男は机を拳で殴りつけた。
「…………………………………………………………………………………………………うぅ…」
手が超痛ぇ…。
†
皆さんは電話なるものをご存知だろうか?
おそらくこの地球上で知らない人は……いるかもしれないが、少なくともここ日本においては知らない人はまずいないだろう。
電話機の歴史は少々ややこしく、一八五四年にフランスのブルサールが理論的な提案をし、一八六〇年にドイツのフィリップ・ライスが実際に製作したものがベルの発明の先駆的なものとされている。
一八七八年に日本製のベル式電話機一号が完成し、それを皮切りに普及し始め、各家庭に一台は固定電話が存在するようになった。
一九〇〇年に、上野・新橋両停車場に公衆電話が初めて設置された。
ちなみに、停車場と言うのは鉄道の駅のことである。
その後、公衆電話は各地に設置されるようになっていった。
しかし、公衆電話を管理する電電公社は土地の維持費が馬鹿にならないとして二〇xx年に自立二足歩行型の公衆電話を開発した。
そう、歩き回るのである。
最初期に製造されたものは機械の脚、機械の腕剥き出しといった感じだったのだが、町の景観が損なわれるなどの苦情が電電公社に寄せられたために、次第に人間と寸分違わぬ姿のものが製造されるようになった。
その人間と寸分違わぬタイプの公衆電話は全部で二〇四〇台製造された。
さらに驚くべきことは、その二〇四〇台の中に一つとして同じ形をしたものがないということだ。
男性、女性、身長、体重等々。
全てバラバラ。
舞台などで黒子が着用するような感じの黒衣を身にまとっているために顔は見ることができないが、顔もそれぞれ異なっているのではないか、というのが有力な説だった。
と言うのも、電電公社はそのことについて公表はしていない。
また、以前幼女型の電話機の黒衣を無理やり脱がそうとした変態がその幼女に半殺しにされたことがあった。
電話機には自己防衛機能が備わっていて、倫理規定に違反するような行為が認められた場合には容赦せずに反撃されるのだ。
故に電話機の顔を見たものはいまだかつて誰もいない。
ところで、土地の維持費とその、人そっくりの公衆電話ではどちらがよりコストが低いか小学生でもわかるようなものである。
そう、土地の維持費の方がわざわざそんな高性能なロボットを作るよりはるかに安いのだ。
では何故こんなロボットを作ったのか?
これにはいくつかの理由があった。
その内の一つは、技術力の高さを強調することである。
電電公社は四年ほど前に不祥事を起こし、社会的信用度が著しく低下していたのである。
実際問題、その公衆電話を開発してからは微々たるものだが、信頼が回復していた。
だが実は、これはただの建前に過ぎない。
電電公社の真の目的、それは―――。