草子の問答
春は曙
「春は出会いの季節だなぁ。」
「はい。」
「ちくしょー。こないだの上玉は逃げられちゃったからムカつくな。」
「あなたが坊主だからでしょ。」
「坊主になりたくてなってるわけじゃねぇよ。」
「近頃花粉がすごいねぇ。」
「はい。」
「俺なんかさぁ、スギ花粉がさぁ、辛くてさ。」
「はい。」
「ねぇ、聞いてる?」
「だって先輩の話つまらないんですもん。
春のテンプレばっか。上辺だけ。」
「世間話もしちゃいけないのかよ。世知辛い。」
「先輩がやってることは型抜きの枠を爪楊枝でただなぞってるだけです。」
「というと?」
「割れるのも怖いから強くは押さない。でもお金払った手前、引くに引けなくなってやる素振りを見せる。」
「おじさんじゃあるめぇし、型抜きなんてやらなぇよ。」
「十分おじさんです。だから何もせず、枠をなぞってるだけ。型破りなこともできない。」
「おじさんじゃない。」
「だんだん白くなってるじゃないですか。生え際。」
「うるせぇ。ただなんとなくはわかった。」
「あなたは面白くない。変な会話するのやめてください。」
「今決めたね。俺はテンプレをなぞり続ける。」
「もう帰りますよ。」
「帰らせない。永遠になぞり続けられるやつはいねえだろ。なぞった先には割れるだろうし、いつかは型も破れるもんだ。だが、俺は一生なぞり続けたい。」
「・・・」
「誰がなんと言おうと、割れない範囲でなぞり続ける。なぞりのプロになるまで。」
「友達いなくなる。後悔しますよ。」
「させねぇよ。」
「春の花ってさ、桜のほかに何あるかな。」
「たんぽぽっすかね。」
「子供のときに春はなんちゃらって読んだよな。」
「春はあけぼの」
「そうそれ。曙今元気かな。」
「人だと思ってるんすか。」
「人だろ?相撲レスラーの。」
「力士でいいでしょ。あけぼのって朝方とかそういう意味じゃなかったっけ。」
「いやいや、相撲もレスラーもしてたよ。曙とボブサップの死闘、興奮しまくったからよく覚えてる。」
「あなた生まれてないでしょ。」
「ばれた。曙、今元気かな。」
「・・・」
「あ、け、ぼ、の 現在っと。あ、死んじゃったんだ。」
夏は熱帯夜
「なぁ花火見に行かない?」
「私いそがしいので。」
「おごってやるよ。だから花火みてさ気持ちよくなろうぜ。」
「発言がキモイです。お疲れ様です。」
「ちょっまてよ。」
「なんですか。誘い方でどんなに顔が良くても減点です。あなたは顔も悪い。」
「さらにいうじゃねぇか。俺はずっと爪楊枝でなぞり続けるって決めたから。この俺がかっこいいだろ。」
「なぞるって何を。」
「型抜きの型だよ。前の話読んでねぇの?」
「?」
「まぁいいか。花火見に行こうぜ。」
「万に一つもありません。」
「下ネタか?面白いじゃねぇか。」
「どこが。」
「万にが。我慢してんのうける。」
「あなたって人は、本当に近寄ってほしくないです。いいですか。あなたって人は、まず面白くない自分を面白いと思ってる。その時点で人として終わりです。」
「それから?」
「人は好かれるために努力をする。たとえ自分を偽ったとしても。偽った自分もまた素の自分だから。」
「偽ったら自分じゃねぇだろ。そんなの楽しくねぇ。」
「恋をしたら!人は!恋する自分を認めるの!」
「それはちげぇな。どんなに好きな相手でも、自分を貫いて、一緒に過ごしてて、あー楽しいな楽だなーって、そう思うのが恋愛だぜ。」
「それは相手が合わせてるだけで、相手は辛いのかもしれない。」
「辛いとかその程度で終わるのが恋。愛したら関係なねぇ。」
「・・・」
「で、なんだ、花火行くのか?」
「私はでっかい花火よりも3匹、4匹のホタルの光を見たい。」
「おぅ。ホタル見に行くか?」
「ス・テ・キな人と!あなたは坊主だし、肌黒いし、ゴキブリみたい。」
「坊主じゃねぇって。ホタルだってよ、光らなきゃゴキブリみてぇだろうがよ。なんでもいいから花火、おっと時間だ。」
「ありがとうございます。」
「こんなとこに金使うなよ。あんたが借りたいっていうならいいが。」
「本当に!!!!好きなシチュで!!!感無量です。はぁはぁ。。…」
「やれやれ、1人でするのもほどほどにな。」
秋は紅とGLAY
私は実に目を疑った。そこにはさっきまでパパ活やレンタル彼女を彷彿とさせる関係性があったのだ。さっきまで。それが一瞬にオタ女子と親父の関係、ひいては親父がお金をもらってる。解散後オタ女子は1人で木陰に行き、1人で致している。眼福極まりない。光栄だ。
奇妙な光景に心動かされ、親父の方をつけてみることにした。いくつもの住宅街を抜けること1時間、山の端が見えるほどの場所に出た。歩いて1時間、底なしの体力だ。
彼はバーの前で止まった。そして階段を下っていく。迷ったが、ここまで来たから入っていこう。心に決めた。
「いらっしゃいませ。」
女性が私に声をかける。一際美しく、久しぶりに若い人と喋ることに気持ちの昂りを覚えた。
私の名前は鹿内刑事。読み方は「しがない でか」だ。つけられたあだ名は、警察関連が多いが、印象に残ってるのは「死神刑事」。
親は当然警察職にはついておらず、刑事ドラマが好きで名前をつけられたそうだ。初めて自分の名前を認識したとき、かっこいいと思えた。
しかし、その後の人生はうまくいかなかった。15年間付き合っていた彼女とも、デカという名前をつける家庭とは縁を結びたくないと、親に言われたそうだ。就活もうまくいかず、結局公務員の勉強と体術を学び、警察職についてしまった。
だから「鹿内 刑事」刑事という肩書きだ。頭痛が痛い。
そんな名前から、現在は「死がない」という願掛けで、わざと危険な場所に行かされる。2年前には陥落した道路に飛び込めと上司から命令があった。やめてほしい。
だから、おとなしく町の交番で安泰な生活を過ごしていたがつまらない。有休で街を歩いたら、奇妙な光景に出会した。ワクワクが止まらない。
何かがおかしい。おかしいところを挙げることができればいいが、脳が動かない。一つだけ、店の名前が「GLAY」なのに店内には「紅」がずっと流れている。それ以外はおかしさに脳が追いつかない。
男は奥でママと会話をしている。耳を澄ます。
「なぁ、今月はあと何がある。」
「クロコップの柔道着を治すやつ、あとみにくいアヒルの子の醜さを目立たせるやつ、とさっきの女4件。」
「やれることはなんでもやるよ。」
「熱心な人ね。」
「バカなこと言うなよ。後輩に面白くないって言われるんだぞ。」
「あなたの愚直さが滲み出てるのよ。」
「やってらんねぇ。」
私は気になったので前の章を読んでみた。すると面白くないことと坊主という容姿だけがわかった。
「なぁ、いつまで俺のこと見てんだよ。」
バレた。
「お前、ここ初めてか?」
「はい。」
「ここのルールを教えてやる。酒は飲んでも飲まれないことだ。」
「え、当たり前じゃ。」
「お前も面白くないっていうのか。」
「面白くないですよ。」
「初対面で言うとはいい度胸だ。この本読んだのか?」
「はい、読みました。あなたの会話から行動まですべて記されてる。」
「そうだ。」
「あなたは何者ですか。」
「お宅みたいな面に立って守る正義とは真逆の立場さ。」
「なぜ私の職業がわかる。」
「本に書いてある。」
「ほんとだ。真逆の立場とはどう言うことですか。」
「お前らがやってることは、人が倫理的に見て正しくあるために仕事をしてることさ。言うなれば好きな女に合わせてホタルを見にいくってこった。だが、俺がやってる仕事は、世界の燻ってる人たちを良くならせるためにある。」
「悪行を働いてるのか。」
「とんでもない。あの女を見ただろ、あれは自分が正しくありたいと言う願いを持った歪な女だ。その願いを叶えた。だから彼女はより良い人生を過ごすことができる。」
「あなたにすがることになっても?」
「すがるのは俺にじゃない。俺とあんたじゃ見てる世界が違う。」
「というと?」
「笑ってコラえないって番組あるだろ。あれで京都の吹奏楽部のブラスバンドがすごいって毎年取り上げられた。そのきっかけをリークしたのがおれ。」
「それがどうした。」
「世界はどうなった。大きいとこじゃ変わらない。がよ、ブラスバンドを目指す若者が増えたんだよ。」
「だからどうした。」
「あの衣装、刺激的だろ。男たちは喜んだ。」
「ふざけるな。」
「お前もわかるだろ、世界の平和を保つために必要なことをしているんだ。」
「・・・」
冬は働いて
「冬は寒いよなぁ」
「はい。」
「にしても釣れないな」
「あなただけですよ、ずっと坊主は。」
「・・ありがとうな。」
「・・・」
「この業界離れるんだろ?ボスから聞いた。」
「まぁ。」
「俺らみたいな一匹の魚は食べ物を探しに場所を変える。」
「一緒のくくりにしないでください。」
「場所を変えたら餌があるとは知らずにな。たまにくる餌に針がついている時もある。だから極力動かずにじっと待つ。無駄な動きが生死に関わるからな。」
「自分は生きたいように生きるだけです。」
「俺だって同じだよ。」
突然、男がやってきた。
「はぁはぁ、俺は、今日からあなたの部下にしてくれ。」
「お役所の番人が突然どうした。」
「バーで話した後、考えた。今まで名前に縛られた生き方をしていたんだ。あなたの話、魅力的だった。」
「一を知って百を知る気になるなよ。」
「そんなこと、やってみなければ十も五十もわからないさ。」
「勝手に言ってろ。」
「今日からあなたの部下になります。だからあなたの名前を教えて下さい。」
「俺か。あぁそうだな。本名はまずいよな。世間からはビッグホースと呼ばれてる。」
「ビッグホース…かっこいい。」
「面白くないですよ。時間です。延滞料金取られますよ大馬さん。」
おじさんになってもカッコよくありたいですね。




