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【桐原要という男】


俺は伸びをしようとした。

…そのとき、視界の右側には見慣れた人影があった。


「よっ、要ちゃん。

もう、アタシとの約束すっぽかすなんてひどいじゃない。あと一分遅れていたら、バッドでお前の頭かち割っていたぜ、まったくぅ」


俺はため息をついた。そのため息に何だよーと腑抜けた顔で人影はヘラヘラと揺れている。


「鍵穴、歪んでんじゃん。鏑木、また鍵穴ピッキングしただろ」


鏑木という影の主はヘラヘラした顔をよりヘラつかせた。


「お前の家、鍵の管理甘すぎ。

本当に桐原財閥のお坊ちゃんが住んでいる家かよ」


「いや、普通に犯罪だから。不法侵入ですよ。マジで」


「ふっ。探偵ってのはな、時に軽犯罪に手を染める事も必要なのだよ…」


アホみたいな面でアホみたいなこと言いやがって。


…―鏑木徹。俺と同じ高架大学一年生。


野球を小学校からやっているらしい。

大学でも野球を続けることから、髪は短髪である。

特に、「夏は髪が群れるから」

という理由で、

前髪は眉毛よりも更に短く切っている。

生え際が妙に目立つセンター分け。


将来鏑木の頭頂部は、

おそらく風通しが良くなっているに違いない、

と俺は踏んでいる。


鏑木は俺が袖に服を通すごとに

「なあなあ、早いとこ金持ちの

インテリ野郎のところに行こうぜ。早くしないとイケメン教授様の金他の奴等に横取りされちまうって」

と俺の家の扉を指さした。


「お―…う」

…――クソ、ああ。またか…。


鏑木に返事を返しながら、

クローゼットから服を取り出そうとした

一瞬の出来事だった。


俺の身体は、大きく右に傾いた後―――

…―――そのまま強烈な頭痛に苛まれた。


「わわっ。どうした桐原?

熱中症か?」


「…グッ…いや…―…

すぐ…治まるから…大丈…ブ。

ァグッ」


…ッッ、やばい。

頭痛が今日は特にひどい。

俺の首筋を、誰かが指でそっと包むような感覚。

その直後、視界がグチャリと歪み、

荒んだノイズ音の破片が、

脳みそに食い込んでいく感触。

――「やっと、君とつながった。」

――呼吸の心拍数、異常なし。

身体のところどころの動き方に、

若干の接続不良が取れるが、さして問題はなし。

――やはり、身長の差異は、

電波の確証性が見られない。

―――総評として、

“実験”の過程を、

世に出す代物としては不完全だが、

着実に、僕は近づいていっている。

…まだまだ成功確率は少なく、

今後、この実験が成功する保証はないが…。

目の前の事象を投げ出すほど、

科学者として堕ちてはいない。


――取り敢えず目の前にいる

この「鏑木徹」という男を、

「俺」らしく処理しなくては。


―――まずは、話を整理しよう。

目の前にいる『鏑木徹』という目の前の男から

“とある授業”に誘われたのは

約1か月前だった。

目の前の男が

とある教授の

講義案内の紙を持ってきたところから

話は始まる。

とある男の名前は『霧原枢』

弱冠25歳の天才犯罪心理学者。

通称、

“Criminal Aspecter”

―僕は、『俺』がこの身体で聞いたこと、見たこと、感じたことは

全部知っている。

―この物語の補足として、

とある女学生二人組の話がある。

学食の講堂で、

その噂とやらの詳細で盛り上がっていたため

詳細も『俺』の身体が聞いていたので知っている。

「霧原先生ってさ、心理学研究科の教授じゃん?

もちろん文章力が激やばっていうのもあるんだけどさ、

内容が結構エグイらしいんよね」

とある女子大生は昂った声で言った。

「マジか!公式からの需要ありがてぇ。

どんな内容なん?」

その友人Bは引き続き話を聞こうとしていた。

「それがさ…」

“殺人現場に関与した人間の末路”なんだってさ。

霧原枢という男が

どこかへ出向く度、なぜかその場所で殺人事件が起きる――。

―――そんな奇妙なジンクスがあるらしい。

――多くの女性は“ジンクス”

などという根拠のない話が好きな傾向にある。

―いや、好きというより、事実である。

…――根拠のない相手の妄言ほど、聞くに堪えない話はないな。

――はぁ、アイツの身体に一度アクセスすると

この身体が捉えた情報も入ってくる。

それが一番の悩みだ・

―――…僕が『俺』の身体で

冷めた目で見ているとは露知らずに、

彼女たちはその後も食堂で

『霧原枢』に関する話題に花を咲かせていた。

―……そういえば彼女たち

外見について、特に盛り上がっていたな…

なんでも『彼』の外見的な特徴としては、

顔の造形構造は、悪くない。

むしろ、今後子孫繫栄による生殖行為を行う際

非常に有利となる情報を

まるで話の当事者たちが

抱かれる直前であるかのように

顔を赤らめながら話していた。

―――女達はその後も、

学食に置かれてあった雑誌の記事を見て

「え!?ギャップやっば!!

まじバカエモいんですけどぉ~」

とか言ってますます好感度が上がっていた。。

―――、うん。女の世界の中心は自分だし、それは昔

『僕』自身がしっかり証明したじゃないか。

「しっかし、5万円とかさぁ。どう考えても怪しいよな。」

―――僕が、あれこれ辻褄合わせのために色々と考えている間

こいつは本当に―――。

「―――ああ」。

僕は『俺』の人格っぽく、一応頷いた。

わざと、「なんだっけ」などと言った。

「俺の話聞いてなかったのかよ。

ったく、ちゃんと聞けよバカ」

などと、余計な罵声も言われそうだからだ。

―――話を迅速に聞く。

それが最優先だ。

「――鏑木、今日行われる講義の内容って覚えている?」

「おう!確か、一日体験授業だよな。

何するとか、いつ終わるかとか全然書いとらんのよ」

「――そうなんだ、もし良かったら、

その紙確認がてらちょっと見せてほしいんだけど。」

「あー…。その紙、俺ん家にあるわ。

あ、そこに掲示板があるからさ、そこで見ようぜ。

俺もそこでその案内みたし。」

「――分かった。ああ、これか。」

『心理学におけるジレンマ的会合

この紙を見たそこのあなた。

今おそらく私の授業を怪しんでこの紙の写真を撮りに来たか、

噂話にたきつけて興味本位で見に来ましたね?』

―――コミカルに書きすぎてるな。

『まあ、いいでしょう。』

―いや、よくはないだろ。

私こと霧原枢は、

主に殺人における心理学、犯罪心理学についての研究を、

日々切実に取り組んでおります。』

「―――いや、切実に取り組んじゃダメでしょ。」

――あ、しまった。遂ノリツッコミしちゃった。

「あ、そこ?

てか、もう15分で始まっちゃうからさ

要ちゃん、あと40秒で読まないと

バッティングコースな。」

「頭かち割られるのは

ちょっと遠慮しとこうかなぁ。」

―――鏑木がバカで助かった。

―鏑木は違和感に気づいてないみたいだ。

――このまま話を続けても大丈夫そうだな。

――僕はその後

案内文を斜め読みをし、

鏑木に、

自身の情報認識の確認も込めて

話を振った。

「日時はあと13分後の

13時45分からで、終わる時間は未定。」

そう、未定とか

マジふざけんなよって感じじゃねぇ?

と鏑木が

合いの手のような不満を吐露していたが

僕は続けて、淡々と文章を読んだ。

「―――授業の詳細は不明。

教室内と『とある場所』で行うのでお楽しみに、

5万円をもらえるのは

たった二人だけ…。」

「ということで、間違いないか?」

「おう!多分大丈夫!」

―――こういうやつの

“大丈夫!”が一番信用ないが、

「了解」とだけ、僕は端的に返答した。

―――物事の確認。

ただそれだけのために僕は聞いただけだったのだが、

―――…目の男は、

やけに神妙な顔つきをしていた。

「…なーんかさ、要ちゃんてなんか理系っぽいよな。」

  

「何ていうか、理屈で話してるって感じ。何で文系選んだん?」

「――別に、何か文系の方が性に合っていたからだけど…」

「え!じゃあ、どっちもいけるってことかよ!

めっちゃ頭いいやん!」

――――うん?

「――いやぁ、好きな分野もあったからで…」

「いやいやぁ、流石やで、ホンマに。

『別に文系の方が性に合っていたから』

とかさぁ。俺も一度でいいから

行ってみたいっすわ!」

ガハハッと豪快に笑いながら、

『僕』達の肩に腕を絡めてきた。

――…げぇえ、こいつうぜぇ。

「…そうかもねぇ?アハハ!」

―――クソが。

――イライラしてきた。

―――…こんなに早くアイツと代わるのは癪だけど、

――…この目の前の脳カラと話すよりかはマシだ。

―…はぁ。瞼をゆっくり閉じて――…

…僕の人格をこの身体に丁寧にしまい込むように―…

……ゆっくりと…海の底に沈むようにすれば…


…―――「んー、あれ。」

…頭痛が治まっている

「お!顔色良くなってるじゃん!桐原。」

鏑木は相変わらず、

こんなクソ暑い日でも声がでかい。

「…おー。

これでインテリ教授みても気分悪くならないよ、

多分。」

と俺は頭に声がこれ以上響かないように

少量の声で言った。

「うし、じゃあ行こうぜ。講義室まで競争な!!」

…こちとらさっきまで頭痛かったんだから

ちょっとは音量落とせよ、ボケッ。

とツッコミたかったが、

「一人で勝手に走っとけよなぁ。」

とだけつぶやいた。

7月26日

セミの鳴き声が飛び交う入道雲が轟く青空が

鮮明に俺の瞳に映し出されている。

…俺はこの何気ない鏑木との会話が、

俺の人生を、俺の記憶を、俺の感情を…

より浸食するきっかけとなる

束の間の安らぎであったことをまだ知らなかった…

―――…これは、俺という存在が

…哀しいノイズの音がする螺旋に吞み込まれ

やがて一つの事件を懐炉するまでの

「螺旋譚」の始まりの一ページである。

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