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Criminal Aspecter ー犯罪心理学者と主観少女ー

序章:螺旋胎動

【桐原要という男】

…―――目覚めた瞬間

俺は、その空虚の中にいた。

枕の触感も、シーツの匂いも、

俺自身が感じているはずなのに、

誰かの記憶の螺旋をなぞっているようだった。

…それらを選んだのは本当に”俺”なのだろうか?

違和感は、それだけじゃない。

俺の中で

誰かが俺を見下ろしているような感覚。

物心ついた時から続いている、何とも言えない不快感。

背筋の奥から、何かに視られているという恐怖。

…身体が、ゾワゾワする。

俺自身が動いているはずなのに、

自分の手が“誰かのもの”のように感じられた。

…そう、まるで“誰かが俺のことを操っている〟みたいだ。

「桐原要」

名前だけ見て俺を『男』と即座に分かった奴は、

今まで一人もいなかった。

だからといって、

それに対して何か反応を起こすわけではない。

…自分が呼ばれている気がしないからだ。

俺は今まで、

ただ声をかけてきたからそいつと知り合いになり、

友達になってと、そいつから言われたからそいつと友達になる。

…――自分みたいな曖昧な存在、

最初から他人に話しかけない方が、きっとみんなうまくいく…。

そう、感じるからだ。

俺は10年前、とある事件で両親を亡くした。

両親は、どちらも製薬会社勤務だった。

…事件の内容を、俺は詳しく覚えていない。

…いや、思い出せないのだ。

なにか大事な部分が。

事件が起こった後、

俺のことを引き取ってくれた

『桐原財閥の桐原夫妻』のことはよく覚えているというのに…

俺に、温かい言葉をたくさんかけてくれた命の恩人たち。

現場から救出されたとき、俺以上に二人は泣いていた。

…でも俺は、

桐原家の人間に対して

心から嬉しさを感じたことはなかった。

「喜びの定義」ですら、

俺の中では曖昧になっていたからだ。

ただ、相手が俺自身に喜んでほしいと思っている。

だから、自分のできる範囲でアハハと笑ってみる。

…そして、相手が俺のことを思って泣いてくれたから

だから、あの日も“泣いてみた”。

…それが俺の感情構造のすべてだった。

…人間の感情なんて、

俺にはただの“処理”にしか思えなかった。

―――…「××××」。

そんな俺でも、

とある人物のことを思い出すたびに

人間らしい感情が芽生えた。

その中に入る言葉は、今でも思い出せないけれど、

なぜか懐かしかった。

…――俺の脳内で時おり響く、俺と似た名前。

…だが、思い出そうとするたび、

視界が歪み、胸が絞めつけられ、胃液が喉を焼いた。

心臓が熱を帯び、

悲しみが身体を満たしていく。

…それなのに、俺はその中に入る言葉を、思い出せない。

多分、俺の本当の父さんと母さんを殺した相手。

俺が憎まないといけないはずの相手。

でも、何故か俺にそいつに復讐したいとか、

殺してやりたいとかいう感情は、

微塵も起きなかった。

それどころか

“早く会いたい”と思っている節もあった。

…―お願いだ、

どうか僕を早くあの人たちの下に連れてって…。

その言葉が、頭の中でふとした瞬間に響く。

あの事件が起きて、桐原夫妻に引き取られたときから、

ずうっと…

…――俺が自分の身体に実感が持てなくなったのも、

多分この時。

あの時、××××は俺を見ていた。

俺を見つめるその瞳…片方の目が異なっていた。

…何色かなんて、覚えちゃいないけど。

でも、俺があいつのことを知ろうとする度、

ある言葉を、俺は思い出す。

“ありがとう、”

桐原夫妻に引き取られてから、

ふとした何気ない瞬間に

俺の頭の中に浮かんでくるもう一つのシグナル…。

俺は

“ありがとう”

とほほ笑むアイツの顔を何となく覚えている。

そして、

アイツは

今でも俺のすぐ近くで俺を見張っている気がする。

俺が桐原夫妻に引き取られてから、ずっと。

そう…あのときのあいつは、ただ俺に微笑んでいるだけだった。

…気味の悪い笑い声と同時に。

アイツは、

俺にゆっくりと俺の脳内に言葉を刻み込むように語り掛けた。

「―ッフフフフフ。

まだ君は『僕』自身にもなったことに気づいていないんだね」

俺が、お前「にもなった」?

…お前、誰だ?

「―だけど、まだ完全に入り切れてないみたいだ。」

続けて男は、

淡々とカルテを見ながらぶつくさと何かを言っている。

「―――うーん。…の効果はまだまだ脳が未熟だからか、

まだ表れないなぁ。」

「早く効果が出ないかなぁ」

…何を言っているんだ?

―――名前を思い出せない、

“アイツ”は。

…―――というか…、

俺はもっと身近にまだ思い出さないといけない

何かが…あった気がする。

「ああ、そうだ。今日は一限があるんだった。」

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