まだ見ぬ世界
光のない場所で目覚める
微かに衣擦れの音がして
木の板が軋んだ音がした
この肌に触れているのは
体を覆っていた肌掛けで
一瞬後にするりと落ちた
身体を起こし立ち上がる
生ぬるくざらついた感触
微かない草の匂いがして
風が運ぶ草の匂いがした
まとわりついているのは
熱を伴った湿った空気で
風が流せど消えはしない
左の手をまっすぐ伸ばす
固い何かが指先を曲げる
掌を当てると平たく温い
撫でると何かが指を刺す
異物が入り自分が流れる
それは棘だと脳が答える
目には何も映らなくても
脳が記憶が世界を形作る
寝台があり木の床があり
剥き出しの木の柱があり
何処かに外への扉がある
棘が出ていた柱は古いか
新築らしい匂いはないか
まとわりつくのは夏の風
月の光は雲に隠されたか
床の軋みに身が強張った
自分は何を恐れてるのか
映らなくとも映る何かの
映してるはずの向こう側
そこに自分は何を見たか
光がないのは雲のせいか
深淵が口を閉じたからか
脳が記憶が形を補完する
自らの知る最もらしい形
それが真実であるのかは
自分だけが分かっていて
誰も彼も分からないまま