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「唐間くん」
放課後、廊下に一人でいると、女性の柳沢先生に声をかけられた。
「あなたさ、寺島くんに、生徒がもっと本を読むようになるための工夫の提案をしたっていうのを耳にしたけど、図書委員に興味があるんじゃない?」
「え? はあ」
何だ?
「実はね、やる気があるのに希望者が多かったりで委員になれなかったコを、前々からもったいないなと思ってて、そういうコたちはクラスの枠関係なく委員になれるようにしたらどうかって考えてるんだけど、どう? やってみる気ない?」
え? マジで?
「はい! やります!」
図書委員になれれば、いろいろ試せる幅が間違いなく広がるからな。
「ごめん、喜ばせちゃったかもしれないけど、まだ決定ではなくて、今の話を職員会議でしたら、悪くはないけれど急ぐことはないし、検討しましょうってなったの。でも、それだと立ち消えになりかねないから、なおも強く訴えたら、実際にそこまでやる気のあるコがいるなら、すぐの実施も考えようってことになったんだ。だから、できたらあなたに直接他の先生方にアピールしてもらいたいんだけど、大丈夫かしら?」
いいだろう。そういうのは嫌いじゃない。むしろ、もっとやる気になったくらいだ。
「わかりました」
オレは母校の中学校の職員室前の廊下で、担任だった深川先生に話をした。
「在校生が、もうすぐ卒業する三年生にプレゼントしたい、自分の好きな本を買ってきます。そして三年生も在校生に贈りたい本を買ってきまして、お互い、相手側が買ってきた本のリストのなかから欲しいものを申し込んでもらいます。同じ本を欲しい人が複数いた場合は抽選して、誰も申し込んだ人がいなかった本は、それ自体か売った現金を施設などに寄付します。事情があって買うのが無理な人は、好きな本を申告だけしてもらって、それをまた別のリストにしてみんなに配れば、自分用にさらに本を買おうと思っている人などの参考になります。ということなんですけど、どうですか?」
「なるほどな。わかった。やれるかどうか、他の先生と相談したり、検討してみるよ」
かなり前向きに考えてくれそうだ。よっしゃ。
「だけど、本当にお前が考えたのか? 当時のお前からは想像できない申し出だが」
先生は好意的な表情で言った。
「へへへ。弟が今、高校で図書委員をやってまして、一緒に考えましたけど、基本的な部分はオレが思いついたんですよ。弟の高校では今話した、ほぼそのままやるって決まったらしくて、広まればいいなって思ってます」
「そうか。成長したなー」
「ハハハ。なんせオレ、今大学生ですからね」
僕は、ひとけのない公園のゴミ箱に、道也兄さんに渡したカタログを捨て、そこにあるトイレに入って、義丹兄さんの高校の女の先生から元の自分の姿に戻った。
兄さんたち、よかったね、ひとまずうまくいって。少しタイプは違うものの、僕だけ父さんと同じく超能力があることを、告白しようかまだ迷ってるけれど、兄さんたちの味方だから、これからも一緒に頑張っていこうね。
そして僕は自宅の唐間家に向けて歩きだした。