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「すみません。図書委員会の委員長の山内さんですよね?」
「あ、はい」
山内さんはきょとんとした表情で答えた。
「突然で変に思われるでしょうが、俺、本が好きで、同じように本好きの人がもっと増えてほしいと思ってるんです。それで、どうしたらいいか、いくつかアイデアを考えて、クラスの図書委員に話したんですけど、相手にされなかったんですよ。なので、これに書いたので、暇なときにでも目を通して、いいところがあったら参考にしていただけないかと思っているんです」
俺は持っていたノートを差しだした。
今までの親父の指令では、これはと思う対策が必ずしも功を奏したわけではなかった。思いついたことはどんなに些細なものでもとりあえずやってみるべしというのが、過去から得た教訓だ。
当然とも言えるが、山内さんは少し困惑した様子で考える感じになった。
「へー。そうなんだ」
ん? なぜか急に愛想が良くなって、ノートを受け取った。そしてペラペラとその中を見た。
「わー、すごい」
そう言うと、ノートを抱きしめるようにした。
「ありがとう。参考にさせてもらうよ。ただ、委員長だからって何でも思い通りにできるわけじゃないから、期待に応えられなかったらごめんね」
「はい。構いません。唐突に勝手なことを頼んでいるわけですから。では、失礼します」
俺は頭を下げて、彼女から離れていった。
「バイバーイ」
後ろから聞こえたその最後の声も優しかったけれど、当てにするべきじゃないだろう。
曲がった角から、少し間を置いて覗いて見ると、彼女は別の二人の女子に、ひどい目に遭ったというような表情や動きをしている。
げっ。俺が渡したノートを、捨てるように放り投げやがった。
途中からブリッコっぽい態度で、信用できなそうだと思ったが、やっぱりか。顔は綺麗な人だし、俺が気があって、本を口実に話しかけてきたとでも思ったんだろう。
まあ、失敗は慣れっこだ。次の策を考えるか。
オレは大学の屋外のベンチで、どうしたらいいか考えていた。
「……駄目だ」
思わず声が出た。しばらくの時間頭を使ったが、いいアイデアは浮かばなかった。帰ってから、友達に指摘されたことを義丹に伝えて、意見を訊くか。頼ってばっかで情けねえけどな。
「落としましたよ」
へ?
突然声をかけられたと思ったら、声の主に冊子みたいのを手渡された。そして学生であろうその男は去っていった。
渡されたそれを開いて見てみると、「貯めたポイントに応じて、お好きな商品と交換できます」などと書かれた、いろんな商品が載ってるカタログのようなものだった。何だ、こりゃ? こんなもん、落ちてたか?
「すみません!」
走って、渡した男を追いかけた。
「これ、オレんじゃないです」
「え? あ、そうですか」
そいつは素直に受け取った。まったく、ちゃんと確かめろよな。
オレは居たほうへ戻りかけた。
「ん?」
待てよ……。