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邂逅の日  作者: 唖鳴蝉
3/3

3.主従契約顛末

 ここまで話しゃあ、もぅ気が付いたんじゃねぇか? お察しのとおり、俺が()っつぁんに持ちかけたなぁ、俺との契約の話だった。……いや、人の弱みに付け込むような真似を――って何だよ。もう「人」じゃなくなってるってのを別にしてもな、うっかりアンデッドなんかになっちまった()っつぁんを、このまま放っておくわけにもいかねぇじゃねぇか。それにな……


『ふむ……お前さんと契約しさえすれば、間に合うように荷を届けられるというのか?』

「確実に――たぁ俺にも請け負えねぇぜ? けどよ、間に合わなかった場合はこっちの不手際と諦めて、契約は解除してやらぁ。それまでは、ま、仮契約って事だな」

『ふむ……その手立てというのを聞かせてもらっても構わんかな?』

「あぁ。知り合いの馬を借りる事ができるんだ。一回こっきりだけどよ」

『馬……で間に合うのかの?』

「間に合うような馬なんだよ」


 俺が当てにしてたなぁ、デュラハン(ハミルカス)の馬だ。やっこさんが成仏する時に、一回だけ馬を貸すって約束をしてくれたのよ。

 何しろお(めえ)、名にし負うデュラハンの馬だかんな。婚礼のある場所までなら、何とか間に合うんじゃねぇかって踏んだわけよ。それもあって、()っつぁんにゃ俺の従者になってもらわなくちゃならねぇわけだ。ハミルカスから借りた馬を、他人に又貸しするような真似はできねぇからな。形だけでも俺の連れって事にしとく必要があったわけよ。


『……こりゃ、お見逸(みそ)れしたのぉ……よもやデュラハンの馬なんぞという代物を、ここで持ち出されるとは思わなんだ』

「んで? どうするよ? ノンビリ構えてる余裕は無ぇんじゃねぇか?」

『ふむ……商人(あきんど)としての勘は、お前さんを信じろと言うておる。ここは話に乗るとしようかの』


 ――てな経緯(いきさつ)で、()っつぁんは俺と仮契約を結んだわけだけどよ……


『ほぉ……死霊術師(ネクロマンサー)と契約すると、()(らん)屍体からスケルトンに変わるわけか?』

「いや……そういう話は聞かなかったが……」


 使い魔契約した屍体をスケルトンに変える事ができる――ってのは知ってたけどよ、まさか仮契約した()(たん)に白骨化するたぁ思わなかったわ。

 まぁ、アンデッドとの契約に関しちゃ、ケースバイケースの部分が大きい――って、師匠たちからも言われてたけどよ。こういう事だたぁ思わなかった。

 それまで()(らん)しかけてた()っつぁんの身体は、すっかり腐肉が落ちて清潔感(あふ)れるスケルトンに変わっちまった。――あ、〝清潔感(あふ)れる〟ってなぁ本人の弁な。ま、そいつはまだいいんだが……


「……朽ちかけてた服や帽子まで元に戻ってんなぁ、どういうこった?」

(わし)に訊かれても困るわぃ。スケルトンになったのは初めてなんじゃからな。こういうものではないのか?』

「いや……俺も()く知らねぇけどよ……服はともかく、眼鏡はどうなってんだ?」


 何がどうなってんのか判んねぇけどよ、スケルトンになった()っつぁんは、()洒落(じゃれ)(ふち)()し帽を(かぶ)ってんなぁまだしも、生前そのままに金縁眼鏡をかけてやがった。……耳朶(みみたぶ)なんか無ぇってのに、一体どこに引っ掛かってんだか……


『さぁのぉ……じゃが、そんな事を考えても(せん)()い事じゃろう』


 ――それもそうだって話になって、()っつぁんが荷を隠したっていう場所まで行って、首尾好く【金庫】から中身を取り出して、俺のマジックバッグ――これもハミルカスから貰ったやつな――に移してから、ハミルカスの愛馬ってやつに来てもらったんだけどよ、


『ほぉ……中々に迫力のあるもんじゃのぉ』

「強そうだし速そうだけどよ……こりゃ、人里近くまで乗り付けるわけにゃいかねぇな」


 何しろお(めえ)、現れたなぁ馬鹿でっかい黒馬でよ。真っ赤な眼をして、(たてがみ)は青白い炎のよう。こんなんが村にやって来た日にゃ、控え目に言っても大騒動が持ち上がらぁ。

 ……あ? スケルトンが怪馬を駆って空を飛んでたって噂? ……多分、そりゃ俺たちの事だな。何しろ、行き先を知ってんなぁ父っつぁん(スケルトン)だけだからよ、どうしたって()っつぁんが前に乗る必要があったわけだ。(はた)()にゃスケルトンが怪馬に乗って飛び廻ってる――としか見えなかっただろうな。


 あぁ、お馬様が俺たち二人を乗っけて楽々と空を駆けてくれたんで、婚礼にゃどうにか間に合ったがよ。……届け先の主人はびっくらこいてやがったな。何しろ旧友がスケルトンに化けて、馬の化け物に乗って訪ねて来たんだからよ。ま、一頻(ひとしき)りの(しゅう)(たん)()はあったけどよ、婚礼衣装ってやつはちゃんと渡す事ができた。居合わせた村の司祭さんが肝の据わった上にものの分かったお人でよ、衣装と俺たちに祝福をかけてくれたからな。娘さんも(だれ)(はばか)る事無く、()っつぁんが届けた衣装を着られたわけだ。……あぁ、俺と()っつぁんも、物陰から式を見させてもらったさ。馬にはちゃんと礼を言って、ハミルカスの(もと)へ帰ってもらったけどな。



 ――ま、そんな経緯(いきさつ)で、()っつぁんは俺と契約したってわけだ。お蔭でこっちも大助かりよ。何しろ()っつぁんは、アンデッドとなってからも生前のスキルをそのまま引き継いでくれてたからな。【金庫】の他に【鑑定】スキルまで持ってたんだから上出来過ぎらぁ。おまけにアンデッドとなった時点で、新しく【統率】なんてスキルまで拾って、白骨屍体をスケルトンとして使役できるようになってたからな。

 ()っつぁんが言うには、生前に商人として人を使っていたからじゃねぇかっていうんだが……それっくらいで【統率】なんてスキルが生えるもんかね? まぁ、俺としちゃあ願ったり叶ったりなんだから、文句を言う筋合いのもんじゃねぇけどよ。


 あ? ()っつぁんを襲った盗賊どもはどうしたかって? 勿論きっちり片付けて、お宝はこっちで戴いたともよ。けど、その話はまた今度な。

今回はこれにて終幕となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 なんとも有能な従者に恵まれましたね。 主人公としては地味に堅実に生きようとするのでしょうが 本人の希望はともかくとして 今後の更なる飛躍を楽しみにしております。
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